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死神様  作者: 柴田盟
第1章北へ
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頼れる靖子

 早速靖子さんは奉仕ストアーを検索してどうやら見つかったそうだ。


 私とリリンはその後に付いていく。

 

 奉仕ストアーに到着して、中身を物色してみると色々と安い品が目白押しだ。


「そうだ。お昼は手軽にそうめんなんてどうですか?」


「靖子さんに任せますよ」


 それにしても本当に安い店だ。


 トマトが三十円一個三十円くらいの値段で売られている。


 靖子さんはトマトを三つ取り「お野菜もちゃんととっておかないとですね」


 本当に靖子さんには至れり尽くせりで恐れ入ってしまう。


 早速公園を探してすぐに見つかり、靖子さんは鞄からバーナーを取り出して、公園の水を中くらいの釜に入れてバーナーで沸騰させる。

 そうめんは一食百円程度の料金で男の私がちょっと大食いなことを考えてくれて少し多めに作ってゆでている。


「すまんのう靖子」


「良いのよリリンちゃん。だって私たちはソウルメイトでしょ」


「それもそうじゃな」


 靖子さんはソウルメイトと言う単語を知っているんだろうか?

 ソウルメイトとはリリンから話を聞くと家族のような間柄だ。

 その意味を知っているのかどうか靖子さんに聞こうと思ったが、そんな勇気私にはなかった。


「さあ、できあがったよ」


 鉄編みのお玉ですくって好くざま水にさらす。

 すると艶やかなそうめんの出来上がりだ。


「待っていてね。今支度するから」


「私は手伝いますよ」


「助かります」


「何をすれば」


「じゃあこのコップに付けツユに水を半分に薄めてきてください」


「分かりました」


 百円ショップに売っていそうなコンパクト三つ収納できるプラスティックのコップに言われたとおりツユを水道の水半分に薄めて靖子さんとリリンの元へと行った。


「ありがとうございます」


 そういって先ほど買ったトマト三つをプラスティックの包丁で切って私たちにもてなしてくれた。


 鉄編みに盛ったそうめんを薄いプラスティックのお皿に載せて「さあいただきましょう」


 早速そうめんをすくって食べてみる。


 それは格別なおいしさだった。


「おいしいぞ。靖子」


 そういってもらえると冥利に尽きます。


「靖子よ。よかったら雅人のお嫁になってくれないか?」


「エエエエエ!」


 驚く靖子さん。


「リリン、バカな事を言っちゃいけないよ」


「バカは言っておらんよ。我はいつだって本気じゃ」


「もう。冗談は顔だけにしてくださいよ」


 と言ってなぜか顔を真っ赤にさせて私の頬を殴り付ける靖子さん。


「痛いです」


「そんな冗談を言うからですよ」


 照れながら私に言う靖子さん。


 でも私の気持ちは靖子さんに向いている。


 靖子さんかなりの美人さんだし、器量良くて本当に頼もしい存在だ。


「リリン、連中から何かあったか?」


「いや今のところ何もないな」


「そうか」


 ほっと胸をなで下ろす私であった。

 靖子さんに何かあったら私は本当に嫌だ。


 私の許されざる罪。


 自分の胸に聞かされて何度も自害を考えたが、そういう訳にはいかない。


 私には仲間がいる。それに私の小説を楽しみにしてくれる読者が。

 だが奴らは私を許しはしない。


『あなたには居場所はない』


 またあの幻聴が聞こえてきた。


 私に居場所が無くても仲間だったらいる。


 食事も済んで後かたづけをする私達。


 使ったお皿を水道の水で綺麗にして、ゴミはゴミ箱に入れて、これからどうしたものかと言ったところだ。


「街の公園に到着したことだし、今日はここでテントを張って一夜を過ごしましょう。

 それまで私と雅人さんはそれぞれ仕事にでもしましょうか」


「それは良いな。二人の魂を感じられて我の力は以前よりも増した感じだぞ」


「ならばリリン。私達の魂をたっぷりと堪能して、今度奴らが襲ってきたときに、対策でも練ってくれるかな?」


「それは自信がないがお主達の魂の放出次第じゃな」


 私とリリンと靖子さんはベンチに座った。


 私はノートにペンで小説を描き、靖子さんはスマホのアプリで絵を描いている。


 リリンは私と靖子さんの間に入り、魂を堪能している。


 風が心地よく吹き、きらめく太陽の下で創作活動はすごく乙な物だ。


 小説は行き詰まる時が辛いところだが、それも乗り越えてここまで書いてこれた。

 それはリリンのおかげであり、靖子さんのおかげである。


 それよりも賞の発表はまもなく明後日だ。


 考えただけですごく鼓動が激しく高鳴り、息も詰まる程その日が迫っている事に私は心臓が破裂しそうな程興奮している。


 私はペンを止めて「いよいよ明後日ですね」と靖子さんに言う。


「らしくも動揺しているみたいですね」


「らしくもって、そんな事を言われたのは初めてですよ」


「まあ、どうなるかは分からないけれども、私は自信があります。雅人さんの小説を際だたせる挿し絵も描けた事だし」


「ハハッ、靖子さんって本当に頼りがいのある人ですね」


 すると靖子さんはリリンを挟んで僕の目と鼻の先まで迫ってきて、ドキッとしてしまう。


「責任取って貰いますから?」


「はあ?何その意味深発言は?」


「さてとにかく絵を仕上げなきゃね。

 昨日の夜に雅人さんのノート見させて貰いましたけれども、私の描く意欲を増大する感じでしたよ」


「そうなんですか?」


「私は冗談は言うけれども嘘は言いません」


 私の目を真摯に見つめて言う靖子さん。


 そんな時にリリンが私たちの魂を堪能して眠っている最中に「どうしたのじゃ。お主等」


「何でもないよ」


 と靖子さん。


「そうそう何でもない」


 そういってそれぞれ作業に移り、リリンは相変わらずに私たちの魂を堪能している様子だ。


 時間を早く感じさせるのは何かに没頭している時だと私に一つの名言が生まれた。


 私と靖子さんはそれぞれ没頭して時間はあっと言う間に過ぎ去って、夕方になった。


「じゃあ、ぼちぼちお夕飯にしますか?」


 靖子さんは言う。


「そうだね」


 私は軽く延びをする。


「また靖子が作ってくれるのか?」


 瞳をきらきらと輝かせて言うリリン。


「うん任せて、今日も腕によりをかけて作って上げちゃう」


「今日もテントで野宿ですか?」


「そうですけれども、宿代が浮かんで良いでしょ」


 確かにそうだな。

 今は夏場だしテントの中で過ごせるけれども、冬になったらどうしよう?

 そんな先のことを考えても仕方がないな。


 靖子さんが一人で奉仕ストアーに行っている間に私とリリンは鍋にお水を入れて沸騰させられる事を命じられた。


 沸騰した時に丁度靖子さんは買い物を済ませて帰ってきた。


「今日は何を作るんですか?」


「今日はうどんが安かったので。冷やしうどんでもどうかなって。

 見てください、うどんが五玉で百十円ですよ。それにお汁も安くてお野菜も安く買えました。


 いつも払って貰って悪いと思った私は、「いくらですか?私も半分は出しますよ」と言ったら、私の唇に手を添えて、ウインクした。


「大丈夫ですよ。お金の事ならまだ少しは余裕はあるますから」


「本当にいつもすみません」


「良いんですよ。私はこうして旅ができて、いつか前人未踏な事にふれてみたかったんですから」


 前人未踏って靖子さんも変わり者だと思ってしまう。

 私といることで命の危険にもさらされているのに、本当にこの人は変わっているって言うか命知らずなのかな?


 でもそのおかげで私もリリンも助かっている。


 靖子さんは沸騰した水にうどんを入れてかき混ぜている。


「うどんをゆでている間にお野菜を切ってください」


 トマトとキャベツを渡されて、私はトマトを四等分にしてキャベツを千切りにした。


「上手ですね雅人さんは野菜を切るのが」


「こんな事、誰でもできますよ」


 そこでリリンが「我も手伝うぞ」


「じゃあリリンちゃんにはお汁をお水で薄めて器に入れてきて貰おうかしら」


 靖子さんは計量カップのコップを取り出して、リリンに丁寧に薄め方を教えていた。


 何か変かもしれないけれども、私達は家族って感じがした。


 食事も出来上がり、私たちはそろって、「いただきます」と言って食べることになった。


 うどんをすすってみるとこれまたおいしい。

 お野菜もドレッシングがかかっていておいしい。


「靖子が旅に加わり本当にこっちは大助かりだよ」


 リリンが言う。


「本当だね」


「もう、そんなことないですよ。でもそう思われて私も嬉しいです」


 その時であった何か妙な気配を感じる。


「リリン」


 私がそういうとリリンも同じように感じて場の空気が険悪な感じになった。


「どうしたんですかいったい」


 靖子さんが不思議そうな顔で言う。


「どうやら私達は常に連中に狙われている」


 私は靖子さんに向き直り、「靖子さん悪いことは言わない。私たちと共についていくのは危険だから・・・」旅はやめないかと言おうとした時に、靖子さんは私の唇に人差し指を添えて、「何度同じ事を言わせるんですか?そんな覚悟ならありますよ。それにこの旅に同行して楽しいし」と靖子さんは言う。


 もう止めても無駄だ。

 いざとなったらリリンもいる事だし、とにかく旅は靖子さんも同行して貰おう。

 私たちはリリン曰くソウルメイトだ。


 私たちは通信手段が合っても無くても遠くから見張られている。

 そんなに私が憎いか奴は。

 あれからもう二十年の時が経っている。


 アケミの事を考えると、幻聴に襲われる。


『あなたには居場所がない。あなたには居場所がない』と繰り返し。そんな幻聴を繰り返し聞いていると死にたくなるような気もしてくる。


 本当に頭が痛い。

 すると私の後ろから靖子さんがそっと抱きしめてきた。さらに正面からリリンが抱きしめてきた。

 リリンはともかく、靖子さんに抱きしめられると心臓が飛び跳ねそうな程の鼓動が跳ね上がった。


「靖子さん?」


 すると靖子さんは私からとっさに離れて「ごめんなさい、何か雅人さんが元気がないように感じたから」

 もしかしたら靖子さんもリリンと同じように私の魂を見ることができるんじゃないかと思った。


「靖子よ、雅人の事をどう思っておる?」


 突拍子もないことを言うリリンに「リリン」と失礼な事を言うなと言うような口調で一喝した。


「エエエッ、そんな事を聞かれるなんて」


 困っている靖子さん。


 だから私は靖子さんに「靖子さん。気にしないでください」と言っておいた。


「まあ、ほおっておけない弟と言う感じですね」


 うわー何か傷つく。


「なるほどほおっておけない弟と言うことか?」


 リリンが勝手に納得している。


「納得するの?」


「ふむ、我も同じ考えだ。雅人はほおっておけない男じゃ。だから靖子よそこの所をよろしく頼むぞ」


「分かっているよリリンちゃん」


 私ってそんなに頼りないかな。


 でも私は自殺しかけて助けて貰ったのはリリンのおかげなんだよな。

 頼りないと思われるのは仕方がないかもしれない。


 テントの中で今日もリリンと靖子さんは同じ寝袋に入り、私はトレーナー二枚重ねて被って眠った。


 今は気配は感じられないが、連中がどこかで私たちの事を狙っている。


 おちおち眠っていられないのかもしれないけれども、仕方がない、気を張りつめて、眠ることにしよう。

 頼りないなんて言われてショックだったけれども、それを撤回するチャンスかもしれない。






 何事もなく朝はやってきた。

 相変わらずに連中の気配は感じられずに、快眠するほど眠れた。


 靖子さんとリリンの方を見ると、二人は眠っている。

 外に出てみると、学生やらスーツ姿のサラリーマン達が駅に挙って向かっている。

 テントで生活している私たちをちらちらと珍しそうに見ていた。


 ため息がこぼれ落ちる。


「どうしたんですか雅人さん。ため息なんてもらしちゃって」


 靖子さんは起きていたみたいだ。


「いや何でも」


 靖子さんも外を見る。


「私たちみたいな人たちを破天荒と言うんですかね」


「まあしょうがないでしょう」


「私は雅人さんの事が好きですよ」


 今、彼女靖子さんはとんでもない事を言った。

 寝ぼけているんじゃないかと思ったがそうじゃない。


 とんでもないことをさらりと私に言った靖子さんは私をじっと見つめている。

 ちなみにリリンは靖子さんに包まれるように気持ちよさそうに眠っている。


 靖子さんの視線が私を射ぬいている。

 心臓が破裂しそうな程どきどきとなる鼓動。


「じょ、冗談は顔だけにしてくださいよ」


「冗談じゃありませんよ。私はいつだって本気ですよ」


「分かったから、それで僕にどうしろって言うんですか?」


「今のままで良いんですよ。雅人さん今時の人には珍しく純粋な人です。だからいつまでも私とリリンちゃんと三人の関係でいたいです」


「分かりました」


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