旅は満ちずれ、世は情け
私とリリンは電車に乗って、私は大学ノートブックにシャープペンシルで物語を綴る。
「お主はどこへ行っても小説を書けるのじゃな、その構想はどこで思い付くのじゃ」
「私は昔から映画とか漫画とか手当たり次第に見たり読んだりしたからね」
「それが雅人の小説を書く原動力となっておるのじゃな」
「それだけじゃないよ。こうしてリリンがいるからこそ僕は小説を書く事が出来るんだよ」
「なるほど、言葉を返すようだかお主が小説を魂を込めて書いて居るときは我が力がみなぎってくるのじゃぞ。やはりお主と我はソウルメイトじゃ」
「ソウルメイトと言えば靖子さんに悪いことをしたね」
リリンは思い付くように言う「そうじゃ靖子がおったか」
「靖子さんがどうかしたの?」
「靖子を呼び出すのじゃ」
「呼び出すってスマホもないし彼女は店を休業して旅に出ているんだよ。通信手段がないし、彼女が今どこにいるのかも分からないし、彼女を巻き込む訳にはいかないでしょ」
「雅人よ。生きるのに意味がなくては生きるのも嫌に成ることをお主は知っているはずじゃ」
「それは確かに」
「だったら雅人よ靖子も同じ気持ちだ。靖子も魂を燃やし尽くす事でしか生きる意味をみいだせない存在じゃ。靖子はお主と出会うことで、魂を共有することができたソウルメイトじゃ」
「でも通信手段を無くした私達に彼女を探すことが出来るの?」
「彼女とはまた会える」
「何を根拠にそんなことが言えるの?」
「我には分かる。靖子は通信手段がなくても向こうからやって来る」
本当に根拠は無いのだかリリンがそう言いきると本当にそうなるんじゃないかと本気で思ってしまう。
とにかく今は私は大学ノートとシャープペンシルで小説を書き綴る。
きっとこのノートに書いた小説が誰かの胸に届くと信じて。
思えば私が小説を書いたのはこういった手書きから始まった。
あの時は一人でも良いから、応募した選考委員の目に止まるだけでも良いと言った感じで書き綴っていたんだっけ。
全ての夢を無くして新しい夢が見つかって。
そうだ。本来小説家はこのように文章を書くのが当たり前だ。
そう文章を書き綴っているとリリンが「そうやって靖子を引き付けるのじゃ」と意味の分からないことを私の小説を書いているときの魂を感じながら言った。
とにかく靖子さんがどこにいるのか分からない今は北に向かいながら小説を書き綴る。
でもリリンの言う通り必ずどこかで出会えると信じている。
大学ノートにシャープペンシルで小説を書くのも悪くはない。
私達はアケミ達に負けるわけにはいかない。
そう思えるのはリリンのおかげだ。
私は生きていなければいけない人間なのだ。
改めて思うのだが魂を燃やし尽くすように書く小説は本当に気持ちが良いと思える。
私の思いを伝えたい。それが私が小説を書く意欲へと繋ぎ、さらにリリンがいることでさらに魂が向上する。
小説を書くことは私が私でいられる最高の時間だ。
アイディアが浮かばず自棄を起こしたくなる時も会ったがリリンが側にいてくれてそうならずには済む。
そうだ。こうして手書きで小説を書くことこそが本来の小説家なのじゃないか。
情報の時代の現代で手書きの小説は時代遅れかもしれない、でも手書きで書く小説はその情報が漏れたりはしない。
奪われたスマホに書いた小説とは同じ物は書けないがこうして私は小説を書いている。パソコンで書いた小説を越えるような小説が書けそうだ。
書く手が止まらない。
そして私は小説を書き、リリンがその魂を感じて電車は北へ。
そして列車の最終駅宇都宮に到着した。
町並みはやや都会で餃子が盛んな町みたいだ。
「お腹すいたねリリン」
「そうじゃのう」
「あのスーパーマーケットでなにか安売りしていないか見てこよう」
そう私達はお金が少なくなっている。
アケミらの連中は私の資金までは取らなかった。
それはそれで良いとして、スーパーマーケットに向かう。
中に入ると中年のおばさんやおじさんなんかがちらほらといた。
まだお昼だし安売りは早いのではと思ったが、半日前に作られた餃子が安売りはしていた。すかさず二つ手に取り野菜の盛り付けも安かったので手に取りかごに入れていく。
後は残りの主食のご飯だか、運かよく調度二つ半額で残っていた。
早速レジに向かい買う。
全部で六百円位ですんた。
早速公園に行き、運が悪く雨が降ってきた。
とりあえず公園のベンチに屋根がついているところまで足を運びそこで昼食にすることにする。
「とりあえずは問題は無いようじゃな」
リリンははしを取りサラダにドレッシングをかけて食している。
食事は野菜から食べるとリリンに教えている。
私もサラダにドレッシングをかけて食する。
そしておかずの餃子に手を付ける。
「雅人よもう少しゆっくり食べたらどうじゃ」
「そんなに私は食べるのは早いかな?」
「ふむ。もっとこう作ってくれたものの事を思いながら食べるのじゃ」
リリンは見本としてはしでトマトを取り口に運びゆっくりと咀嚼して飲み込んだ。
「このようにしてよく味わい食べるのじゃ」
と見本を見せてくれた。
私も同じようにトマトをはしで掴みゆっくりと口に運びゆっくりと咀嚼する。
そうしていると本当に農家が作ってくれたものとしみじみ思い、美味しく感じられた。
「美味しいよリリン」
「ふむ」
ニッコリと笑って見せた。
何かリリンと出会ってネガティブだった私はいなくなったかのようにさえ思えてくる。
リリンは私のソウルメイトで家族の契りを結んだ仲だ。
でもこのままでは行けないだろう。
小説は書けても、お金が持たない。
どこかで私を雇ってくれる所は無いだろうか?
でも雇って貰えても奴らの牙か私に向いてくるだろう。
どこかでリリンと共に連中に見つからないように潜みながら過ごせる所は無いだろうか?
「リリンいっそのことどこかで過ごさないか?」
「どこにそこへ行くと言うのじゃ」
「私達で探すんだよ」
「なるほど、お主と身を潜めて暮らすのか?悪くないな」
「通信手段が無いところがいいな。連中の手の届かない場所が良いな」
「ふむ。雅人よ。それは名案じゃ」
「とりあえず鈍行列車に乗って探そう」
その時であったリリンが気分悪そうな顔をしてお腹を押さえていた。
心配になった私は「リリン大丈夫?」
「雅人よ靖子に危機が迫っている」
「どうして分かるの?」
「靖子とはソウルメイトじゃ。それに靖子のスマホとやらにはお主の書いた小説のデータがあったじゃろう」
「でも彼女の居場所は僕たちには分からないよ」
「それは我が感覚を研ぎ澄ませながら探す」
「そんなことが出来るの?」
「雅人よ我の手を繋げ」
言われた通り繋いだ。
「行くぞ」
この時リリンが言葉にしなくても解った。リリンはソウルメイトの靖子さんの元へと瞬間移動をしたことに。
リリンが輝き私はあまりの眩しさにその瞳を閉じる。
「着いたぞ」
恐る恐るその目を開けると駅のプラットホームだった。
「ここは」
駅名を見ると、名古屋駅だと解った。
リリンの方を見ると疲労困憊って感じだ。
「リリン大丈夫か?」
「大丈夫じゃ」
と言っているがリリンは無理をしているのがまるわかりだ。
「リリン無理するな」
立つのがやっとと言う感じで私はそんなリリンを背負った。
「我なら大丈夫じゃ」
そう言いながら私の背後に乗った。
それよりも肝心の靖子さんはどこにいるのだろう?辺りを見渡しながらプラットホームを見渡すと電車を一つ挟んで隣のホームにいた。
「靖子さん」
と大声で叫んだが、その瞬間に靖子さんを遮断するように列車が入った。
「ちょっと靖子さん」
私はリリンを背負い隣のホームにへと階段を上がって行った。
「靖子さん」
このまま列車に乗って行ってしまったら、せっかくリリンが力を使い果たしたのが水の泡になってしまう。
隣のホームに行くと列車は行ってしまい「それはないでしょ」と私はつい愚痴ってしまった。
大きな溜め息をついた瞬間だった。
「雅人さんですよね」
靖子さんの声がして顔を上げると紛れもない靖子さんだった。
靖子さんは大きなリュックにジーパンに黒いカッターシャツを着ていた。それにつばの着いた少年が被るような青い帽子を着ていた。
「雅人さんどうしたの?こんなところで?」
出会えて本当に良かったと安堵の吐息をはいた。
するとリリンがどうしたのか?急に元気になり、「靖子よ会えて本当に良かった」
立ち話もなんだから駅を出て、都会的な名古屋の町並みを見て思わず「凄い場所だな」と感心した。
とりあえず私達は駅前のファミレスに入って話し合う事に。
私は靖子さんに事情を伝えた。
「・・・そんなことが」
「巻き込んでしまって申し訳ない」
深く頭を下げた。
「そんな謝らないで下さいよ」
気のせいだろうか?靖子さんは凄く嬉しそうだ。続けて靖子さんは、
「私達はまるでロールプレイングゲーム見たいで楽しい」
その瞳をキラキラと輝かせながら言った。
「あんた命狙われているのだぞ」
「それが?」
大きな溜め息をついてしまう。
「もうちょっとは危機感を持った方がいいよ、あんたは」
「私の絵を描く原動力はハラハラするほどのスリルでもあるかもしれない」
この人は本当はバカなのか?
でも世の中には色々な人達がいる。
靖子さんのように危機感を糧に絵を描く人もいるのだから。
「何か、私、ワクワクしてきたよ」
嬉しそうに言う靖子さん。
そこでリリンが「靖子よ。いい魂をしておるな」さっきまでへとへとだったのにもう元気になっている。
きっと靖子さんの魂をじかに感じて、そのエネルギーを蓄えたのかもしれない。
そんなリリンを見ると浮気された気持ちにさらされてしまい何か嫌だ。
「どうしたのですか雅人さん」
怪訝そうに私に言う靖子さん。
「雅人は嫉妬しておるのじゃ」
リリンにそう言われて「そんなんじゃないよ」大声で否定した。
まさか私の気持ちを魂を感じて見るなんて何か嫌らしい感じがして、リリンのそう言う所が嫌いだ。
そこで咳払いを一つして「とにかく本題に入ろう」
「そうじゃのう」
「雅人さんの小説のデータと私が書いたイラストはここにあります」
靖子さんはスマホを私とリリンに見せる。
「では雅人よ。お主が書いた小説と靖子が描いた挿し絵をこの場でネットとやらに賞に応募したらどうじゃ?」
「そうだね。靖子さん、頼めるかな?」
「構いませんよ」
靖子さんはスマホを操作して賞に送ってもらった。
その間僅か五分であり「送りましたよ」
「ありがとう靖子さん」
「お礼が言いたいのは私の方ですよ。こんなスリル満点の事に私を巻き込んだのだから」
嬉しそうに言う靖子さん。この人はいかれているのかもしれない。
そこでリリンが「靖子よ、もしよければ我らと共に旅に出ないか」
「いいんですか?私が同行して?」
瞳をキラキラと輝かせながら言った。
「ちょっと待ってよ靖子さんを巻き込むわけにはいかないよ」
「じゃが本人は行きたがっておるぞ」
リリンは言う。
「靖子さん、考え直した方が良い。私達は本当に危険な人物に命を狙われているんだ。命と言うか私達の大切な物を奪い、死に至らしめる連中だ」
「別に私は構わないわよ」
今どき珍しい長い髪を二つの三つ編みした髪をかきあげなから靖子さんは言う。
「決まりじゃな雅人よ」
リリンは言う。
「どうなっても知らないからね」
念をおして言っておく。
「波乱よドーンと来いですよ」
プルンと大きな胸を叩いて言う。
頼もしいが、本当に大丈夫なのか?
「それと私達はどこへ向かう?」
私が言うとリリンが「北か西へ向かうかじゃな」
そこで私が「靖子さんはどうして西へ向かったのですか」
「いな別に何にも考えずに漠然とかな」
「北か西、どちらに向かう?」
私が言うと二人は『どちらでも良い』と言った感じて顔を見合わせていた。
リリンが「このような時は神の導きに委ねよう」
「委ねるってどうやって?」
リリンがポケットから十円玉をとりだして「この十円玉で表が出たら北へ裏が出たら西へ向かうと言うのはどうじゃ?」
「それいいねリリンちゃん」
「雅人は異論はないな」
黙って頷く。
そしてリリンは十円玉を親指ではじき十円玉は回転しながら飛び、そして落ちてリリンの手元に戻る。
リリンが握り締めた十円手をおもむろに手のひらから開く。
どちらでも良いと思っていたが何故か緊張が走りリリンの手のひらを見つめる。
そして十円玉は表を示していた。
「北か、これから暑くなるから調度良いかもね」
と靖子さんが言う。
すると靖子さんは私の目をじっと見つめ、手を差し伸べて「これからよろしくね雅人さん」と握手を求めてきた。
「あっはい」
何故か私は照れてしまい、とりあえず私も手を差し伸べて握手を交わした。
彼女の顔を見ると改めて思ったがかなりの美人さんだ。




