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死神様  作者: 柴田盟
第1章北へ
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新たなる希望



 もはやここまでだ。


 この青木ヶ原樹海の中に入れば、道に迷い出口を探すことも出来ず、力つきるまでその樹海の中でさまよい続け、死に至ると言われている。


 もう迷うことはない。


 鞄から大量の睡眠薬を入れた瓶を取り、これを樹海の中で服薬すれば、誰からも発見される事もなく、永遠の闇に誘われるだろう。


 それは本望だ。


 私は小説家の夢を見て、小説を書いてネットに投稿して、少なからずの読者に私の小説を読んでもらえていた。


 働きながら小説を描き、読者に書いた小説を読んで貰う。


 これほどの冥利に尽きることはないと私は思っていた。


 私はお金にはならないが小説を書いて読んでくれる人が一人でもいれば幸せだ。


 出来るなら文豪のような小説家になりたいが、それは夢のまた夢だろう。


 でも働きながら書いてネットに投稿して、読んでもらえる幸せな日々を過ごしていたが、どうやら、私の幸せを心から思っていない人間が潜んでいた。


 まさかあいつは私が統合失調症に仕立てて、精神的に追いつめて、私の居場所を徹底的につぶそうとするなんて最悪だ。


 勤め先にも、精神病の人が集う就労の場所でも、その女に関係する人が来て私を蔑ろにして、自殺に追いつめようとした。


 勤め先も、就労先も、そういった女が関係する連中に追いつめられて、自殺に追いつめられそうになったが、私は小説家になりたいと言う夢があったため、そのような自殺には至らなかった。


 そういった女の関係者の連中に気がついたのは、私が一人で小説を描きながら潜む事を決意してからだった。


 じゃあ家族の為に生きようと、小説の夢を諦め私は私で出来る事をがんばり生きようと思った。


 しかし、家族も女の関係者に言いくるめられ洗脳され、お金にたぶらかされて、その私の命と、家族自身の命も犠牲にして、私を死に追いつめようとした。


 それに気がついたのは家族の為だと思って家事をこなしていたら、食べ物に虫を入れたり、私の部屋に進入して、少しずつ物を壊していった。


 私は最初は気のせいかと思っていたが、家族の仕業だと知った時、私は発狂して目覚まし時計を壁にたたきつけた。


 家族を殺そうとも思ったが、それはしたくないと思いとどまり、海に出かけてその思いを大声を上げてはらした。


 だが家族が同じ事を繰り返す事に、私は気がついた。

 こんなバカな人間はいない。

 そして私は気がついた。

 家族は私に殺される事を覚悟していたことに。

 それがあの女が金で家族を洗脳して、家族は了承した事を知った時、目の前が真っ暗に染まり絶望に瀕した。


 調べてみたら、私に多額の生命保険がかけられて、その受取人が家族になっていた。


 あの女は私を社会的に抹殺しようとして、私の居場所を完全に無くそうと本気で思っている。


 私が自棄になり家族を殺せば、重罪になり刑務所に行き、もはや人生は終わったも同然だ。


 その女の事を調べてみたら、もはや警察の力でも手が出せないとある宗教団体の幹部であり、私の命を狙っている。


 だったら報復の為に家族を殺して刑務所に入る事を考えたが、私はそんな事はしたくなかった。

 私は悪い事に手を染めたくなかった。


 昔、私があの女にした事は極刑よりも重罪みたいだ。


 そして私の居場所はもはやどこにも無くなり、気がつけば、睡眠薬を手に樹海の道を踏みしめて歩いていた。


 みんな私が悪いのだろう。


 私があの女の事を追いつめてしまったから。


 受験時代、私は恋に落ち、振られてしまい、その振られた腹いせに私は彼女の事が許せなくなり、その女を追いつめた。


 受験も失敗して、バイトを転々としながら、働き、私は受験で失敗したことをその女のせいにして過ごしていた。


 だが、私は仕事先で嫌がらせをされて、彼女の痛みが分かった。

 その痛みが分かったと同時に、小説家になりたいという夢が出来た。


 小説を描き、バイトをして過ごしていたが、私はバイト先で達の悪いお客に因縁を付けられ続けて、統合失調症になってしまい、病院のベットの上に拘束されてしまった。


 そして数ヶ月後に退院して、また新しいバイトを見つけて、小説を描きながら働く仕事をしていたが、また同じような目にあい、自殺未遂をして気がつけば病院のベットの上だった。


 そこで私は気がついた。

 これはあの女の仕業何じゃないかって。


 考えすぎだと思ったが、どうやらそうだった。

 そして気がついた時にはもう遅かった。


 バイトにも施設にも、どこにもあの女が関係する奴が現れて、その場所にいられなくなり、気がつけば私はどこにも居場所が無くなり、そしてこの樹海を歩いている。


 たった一つの死を求めて。


 まさかあの女があれほどまでに力を上げて、私を社会的にも抹殺しようと考えるなんて思わなかった。


 懺悔しても許されないだろう。


 樹海を歩きながら、彼女の声が聞こえる。


「あなたには居場所がない。あなたには居場所がない。あなたには居場所がない・・・・・・・・・・・」


 頭の中のその事がリフレインする。


 そうもう私には居場所がない。


 もう戻る場所もない。


 あの女はこれが目的で私をはめた。


 反省したところでもう遅い。


 もはや悲しいという気持ちも無く、ただ漫然と樹海をさまよっていた。


 そして幻聴が聞こえてくる。


「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 その言葉は止まる事もなく、まるで壊れたステレオのようにエンドレスに私の頭に響く。


 幻聴だとは分かっている。


 でも私も自我を見失って、そろそろ自我が保てなくなり、この死ねとエンドレスに鳴り響く声が本当にように聞こえてしまうのだろう。


 そう私はもう精神的にも肉体的にも壊れてしまっている。


 苦しい。


 苦しい。


 死にたい。


 死にたい。 


 生きたい。


 死にたい。


 生きたい。


 生きたくない。


 死にたくない。


 もはや自我が取り留めが無くなったところで私は倒れた。


 そして一本の木に寄りかかり、手元にある睡眠薬を目にした。


「そうだよ。本当は死にたくなんかないんだよ。

 幸せに生きたいんだよ。

 誰かの為にでも生きていたいんだよ」


 その目には涙が溢れていた。

 今私が樹海の中で人知れず呟いた事が、私の本音だ。

 いや誰もが私のように追いつめられれば、今私が発した同じ言葉を言うだろう。


 もう居場所がない。


 もう誰もいない。


 小説を書くにも、もう書く気力もない。


 夢も希望もなくなった。


「見苦しいぞ吉永雅人よしながまさと。もう死ぬって決めたんだろ。もう私には居場所なんかないんだよ」


 私は睡眠薬が入った瓶の蓋を開けて、中にある錠剤を見つめて息を飲む。

 死を拒む私が心の奥底に存在している。

 生きたい。死にたくない。と私の心は発している。


 どうやら私の中でどうにかしてでも自殺を回避したい私自身が存在している。


 まだ今まで集めた自殺資金となったバイトで貯めたお金がある。

 後百万は残っているだろう。


 そうだ。せめてこの百万を使って楽しんでから、死のう。


 私は立ち上がり、樹海の外に向かって歩き出したが、出口はどこにも見つからなかった。


 出口はどこだ。


 私は死にたくない。


 疲れ果てた時に私は樹海の奥深くに潜り込んだ事に後悔した。


 そこで私は目的を思い出す。


 私は死ぬ為にここまで来たのだ。


 好都合じゃないか。


 そして再び涙があふれ出て、「どうして私がこんな目に遭わなくてはいけないの?私が何をしたっていうんだよ。ただ幸せに生きたいのに。何なんだよあの女」


 でもそんな事を言ってももう遅い。


 私は木に寄りかかり、その瓶に大量に詰め込んだ睡眠薬を口に含んでミネラルウォーターでそれを流した。


 これで良いんだ。


 死にたくないが仕方がない。


 それを私が望んだのだから。


 もう死ぬのだと分かった時、私に嫌がらせをして自殺に追い込んだ女の連中の顔が浮かび上がる。


 そして奴らは薄気味悪い笑みを浮かべて笑っている。


 奴らは私に向かって『ざまあ見ろ』と。


 そしてあざ笑ったあの女の顔が鮮明に私の頭に浮かび上がった。


「良かったな。お前の思い通りになって。

 良かったじゃないか」


 私はこれから死ぬんだ。

 その現実から免れる事は決して出来ない。


 意識が朦朧としてきたが、連中の、そしてあの女のあざ笑う顔と声が頭の中に木霊した。


 ・・・そして。


 その目を開けると、まどろんだ瞳の前に人がいるのが分かる。


「ここは」


「汝、名をなんと申す?」


「吉永だが。ここはどこだ。天国か?いやどうみたってこんなところが天国なはずがないな」


「吉永、面白い質問だ。ここは天国と思えば天国であり、地獄と思えば地獄だ」


「じゃあ、私は死んでしまったのか?」


「いや死んではいない」


「じゃあ、俺は生きて・・・・」


 まどろんだ目がはっきりとしてきて目の前の人物が露わになってくる。


 倒れた私を見下ろしているのは、黒い外套をかぶり、その顔は幼い少女のような憧憬をしている。

 それに鋭い、大釜のような物を携えている。


 その彼女の見た目を見て思わず、「お前は死神か?」


「ほう、察しが良いな。我は死神のリリン」


「その死神が俺を迎えに来たのか?」


「迎えに行くと言うか、我は汝を導きに来た」


「導くって死語の世界か?」


「汝、そんなに死語の世界に行きたいのか?」


 リリンは大釜を私に振りかざそうと構える。

 私は覚悟を決めて、「ああ、そうだよ」と目を閉じた。


「だが汝は死を試みようとした時に、生きたいと懇願していたが」


 私はリリンの台詞に心の堰が崩れるように「死にたくなんかないよ。本当は幸せに生きたいよ。でも仕方がないんだよ」


「じゃあ、なぜそうしない」


「八方ふさがりでね。人生」


「人間の人生においてそのような状況に陥ることはしばしばあることだ」


「あんたに・・・リリンに何が分かる。あんたは死神何だろ。だったら私を殺せよ。殺してあの世に連れて行ってくれ」


「だが、汝の心は・・・真の心は生きたいと言っている。矛盾していないか」


「だから何度も同じ事を言わせるな。私にはどこにも行くところがないんだ。私を必要とする人間も、必要とされる人間もいない。それにもう私は・・・」


「汝は?」


「もう良い、そのでかい釜で私の事をぶった斬ってくれよ」


 再び目を閉じて覚悟を決めた。


「汝、何か勘違いしているかもしれないが、私は一応神様なのだ。死の神様だがな。

 どんな神でも自ら望む死を与える事は出来ない」


「じゃあ、何で私の前に死神であるリリンが現れた」


「汝はここで死んではいけない人間だからだ」


「何を根拠にそんな事を・・・」


 するとリリンは天に手を掲げて、一冊の辞書のような本が振ってきた。


「汝がネットで書いた小説で少なからずに救われている人はいるみたいでな」


「私が書いた小説」


「ふむ。少なからず汝は良い行いをしている」


「そうなのか?」


 心が喜びに染まった。


 でも、「私にはもう行くところはない。もう小説を書ける状況じゃない」


「そうか。我はお主をどうすることも出来ないが、生きる事は促せる」


「促せるって、この八方ふさがりを何とか出来るのか?」


「話を良く聞け。我は促せると言ったのだ。ここで死ぬか生きるかは汝が決める事」


 この死神に私は期待してしまったのだろう。

 その期待とは裏腹な事を言われて、私は落胆した。


「まあ、そこでぼんやりと過ごしていれば、頭が患って汝は死に至るだろう。ここはもう樹海の深い所だ。普通の人間には出ることは出来ないだろう。特に今の汝のように衰弱しきった体ではな」


「じゃあ、生きたいと思えば、リリンがこの深い森から出してくれるのか?」


「出口まで案内しよう」


 その言葉に私は本能に身を委ねて、食いつくように「じゃあ、案内してくれ」


「その前に我と契約してもらう」


「契約?」


「そう契約。その契約を交わせば、この深い樹海から出してやる。だが、契約を破れば」


「破れば?」


 怖くて息を飲む私。


「汝は死ぬ事よりも、苦しい、地獄の業火がまっておる」


 それを聞いて想像がつく。実際に内容は聞いてないが、その死よりも苦痛な事って、それは恐ろしい事だと。


 私の中で葛藤が始まる。


 生きるのか?死ぬのか?


 生きていても苦しいだけだ。人生八方ふさがりで、どこにも行くところがない。


 じゃあ死んでしまった方が楽だ。

 死んでしまえば、生きる苦痛から逃れられる。


 そう死んでしまえば、苦痛から解放される。


 死んでしまいたい。


 死んで楽になりたい。


 でも。


 でも。


 そしてそのつむった双眸を開き、リリンに目を向け言う。


「分かった契約するから、この樹海から抜け出す方法を教えてくれ」


 するとリリンはその唇の端をつり上げて、にやりと笑って、「ならばついて来い」


 リリンが歩く先を私は瀕死の体を引きずるように動かして、歩きついて行く。


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