涙はもう出ないと思ったのに
わたくし社畜見習いと申しますが、いよいよ"見習い"が取れてきそうな兆しが見えてきました。
それはそうと、そろそろSCPの話も書きたいですね。まぁ今回はまだロボトミーですが。
ロボトミーの実況動画とか見ているとお試し要因で消費される職員の物語が浮かんでは消えていきます。
一番で安全な場所ってどこなんでしょうね。そんなあなたにポーキュバス。
『おはようございます。アキラ君』
「おはようございます。」
今日で入社してから5年がたつ。
ここまでいろいろ見てきた。仲間の死にも慣れた。後輩が化け物になったり、先輩が化け物に喰われたり。氷漬けになった仲間を助けるために雪女みたいなやつとチャンバラしたこともあったな......ホントにいろいろあった。
『アキラ君は今日で5年ですよね。入ってきたころと比べるととても大人っぽくなりましたね。これプレゼントです。これからも安全に仕事していきましょう。』
なんだこれ爆弾じゃないだろうな。
「ありがとうございます。」
俺は変わった。みんなそう言うし俺自身もそう思ってる。なんか覇気がなくなったというか、感情の起伏が少なくなったような感じだ。学生の頃も2日くらい徹夜すればこんな感じになってたけど、今の俺はデフォでこれなんだ。
まぁ同期はもう片手で数えるくらいしか残ってないし毎日誰か死ぬようなところに居たらみんなこうなるよな。
―――さて仕事だ。
俺の担当は花だ。でかい花。それ以外に言いようがない。
棘に触ると気分がよくなる。こんな凄惨な会社の中で唯一落ち着ける場所が世話をしてる化け物の収容室っていうね。管理人曰く前任の担当者は頭が爆発して死んだらしい。きっと俺もそうして死ぬんだろうけど、怖くはないさ。この会社に居たら死ぬのが怖いとかそんな気持ちはどこかに行ってしまう。
......俺が変わったのってこの花のせい?まぁそれは問題じゃないよね。
俺は見てしまったんだ。なんで見てしまったのか。なんで5年前のルーレットの時に[削除済]先輩を追いかけてしまったのか。あの時にあんなの見なかったらこの会社や管理人に対する不信感がここまで大きくなることもなかったろうに。
変わったのは俺だけじゃない、まぁ当たり前だけどそうじゃなくて、管理人が最近おかしいんだ。今に始まったことじゃないけどここ1年は特におかしい。なんか痩せたしクマもできてた。あんなのに命を預けるとか正直不安でしかないけど、まぁどうせ俺は遅くてもあと半年程度で死ぬんだろうし気にしても仕方ないか。
何があと半年かって?頭が爆発するまでだよ。
休憩所に行くと新人の子が何人か話している。みんな笑顔だ。俺からはもう出ないような笑顔。
『あ、お疲れ様です!』
「ん?おつかれさま。今日はどこの部屋を見てきたの。」
『エビがいる自動販売機の部屋でした。なんか生きているみたいで気味悪かったです。』
ウェルチアースか。クリスさんが死んだところ。・・・クリスさんはきっと死んでる。誰に聞いたわけでもないけど分かるよ。嫌でも分かる。あの時先輩が焦ってたのも今なら分かる。なのに俺はあんなに浮かれて......。
「そうか。あの部屋に入るときは作業に気を付けてね。...って他の人からもう何回か聞いてるよね。」
『はい!』
「いい返事だ。元気がいいと長生きするよ。5年くらいはね。」
『それ長生きっていうんですか。』
「そうらしいよ。」
今朝管理人からプレゼントと一緒にもらった手紙によれば入社してから5年は長生きらしい。まぁ確かにこの施設では10年以上生き残ってたら歴戦の勇者みたいな立ち位置になるしな。
『アキラ君、ジェームズがパニックを起こしました。鎮圧をお願いします。』
「分かりました。」
また殺すことになるのかな。殴って正気に戻るくらいなら最初からパニックになんてならないだろうしな。何より俺が今持ってるのがそもそも大剣だからこっちの攻撃が当たれば大体死ぬ。こいつで何人の同期を屠ってきたかなんて考えたくもないね。
......正直鎮圧になんか行きたくない。大剣持った俺が鎮圧に向かうってもう最終手段みたいなものじゃん。仲間をまた殺しに行くなんて嫌なんだけど、管理人からの鎮圧指示だと体は動く。きっと俺だけじゃないはずだ。みんな鎮圧指示を受けたら勝手に進む体をどうにか止めようとして表情が強張るはず。
そういえばね、管理人からのプレゼントは包帯の目隠しだったよ。しかもこの包帯さ、目に巻くとわかるんだけどしっかり向こう見えてるんだよね。ホント傑作。中学生でもここまでやらないって。でも俺は今包帯で目を覆っている。こんなの着ける気なんてさらさら無かったけど管理人からの指示だからね。自分の意志じゃ着けることも外すこともできない。
『ジェームズはその二つ先の部屋に居ます。』
嫌だなぁ。意識が遠くなるような感じさえする。ここまでくるともう誰かに操られてるんじゃないのか。
―――ドスッ
扉を開けると何かがぶつかった。いや、何かがぶつかってきた。これは―――サマンサ?俺にしがみついてるし生きてるよな。
「サム、どいてくれ。てか、痛い。」
サマンサを突き放すと俺の足にナイフが刺さっていた。まったく。いつぞやのアリアを思い出すね。
『アキラ君、サマンサは今混乱して他人に危害を与える状態にあるようです。このままでは危険です、先に鎮圧してください。ジェームズのところには今別のエージェントも向かっています。』
は?今こいつなんて言った?
―――ザッ...
サムを鎮圧?俺が?サム死ぬぞ。
いや、もう死んでる。まただ、管理人からの指示だと俺自身の意志に関係なく体が動く。きっとみんなこんな気持ちで鎮圧やってるんだ。仕事も。俺だけじゃない。
きっと5年前のあの時の先輩も......。
ジェームズのいる部屋の扉を開けると、虚ろな目をしたカイさんが俺と同じ大剣を構えてこっちへ来た。管理人が言ってたのはカイさんのことだったのか。
『アキラ君、カイも今混乱しています。その後ろにいるデイヴも混乱していますね。なぜこんなことに。でも今の彼らは動きが鈍くふらついています。鎮圧してください。』
嫌だ。カイさんを殺すなんて嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ。デイヴ先輩だって俺は散々世話になったんだ。死んでほしくないし、ましてや俺がこの手で殺めるなんて...。
―――いつもそうだ。今回もいつもと同じだった。いくら嫌でも殺してしまう。散々慕っていた先輩も管理人の指示ならあっけなく殺してしまう。なんでこんなことになったんだ。どこで間違えた、誰のせいだ?この騒ぎはジェームズのせいか。そして俺に指示してる管理人のせいか。
「ジェームズ。よくもやってくれたな。殺してやる。」
『あはは...はは...へへへへ......』
―――ザッ
『アキラ君、お疲れ様でした。少し休んでください。』
次はお前だ。ケイト。
『アキラ君?大丈夫ですか?足を怪我しているのだから報告よりも先に医務室へ行ってください。』
殺す。ケイトさえいなければ俺はサムもカイさんも...同期の連中やアリアだって......殺さずに済んだんだ。
『アキラ君?止まってください聞こえていますか?』
後1分後にはお前の首は体とおさらばしてるだろうよ。今のうちに好きなだけわめいてるといい。お前の死体はあの赤ん坊の化け物の餌に再利用だ。ほかのみんなのようにな。
でも耳障りだ。無線なんて捨ててしまえ。
『アキラ君......君まで...残念です。ごめんなさい。』
え?無線は捨てたはずなのになんでまだ管理人の声が聞こえるんだ?まさか幻聴か?まぁ俺はヤク中だし幻聴くらい出ても不思議じゃないか。
『アキラ君、私はもう少し君と向き合うべきでした。......その目隠し似合っていますよ。』
「!?」
いや、これは幻聴じゃない――――
―――アキラ君、さようなら。
振り返ると管理人が俺に銃を向けて立っていた。泣いていた。初めて見た。
何度も名前を呼ばれたからか管理人が泣いているのを認識することができた――――――
『―――はい、パニックを起こしたエージェントが収容違反を起こし近くに居た事務員を殺害。鎮圧に向かったエージェントも同様にパニックを起こし、今回の騒動で6人が死亡しました。―――はい、最後は私が。』
『アキラ君が世話をしていた生物の後任は私が受け持ちましょうかね....。
......冗談ですよ...。』
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管理人 ケイト(28)
性別:男
性格:慎重,心配性
趣味:ボードゲーム.読書
職員への理解:家族同然であり駒。仲良くなるが必要に応じて消費する。
アキラが担当をしていたアブノーマリティ
・ポーキュバス
蛇に似た長い緑色の体を持つ植物のような姿をしたアブノーマリティ。
尾のところに棘がありそれに触れるとハイになる。脱走時の攻撃でパニック状態になった職員は狂ったように笑いだし、頭が爆発して死ぬ。
アキラの回想に出てきた雪女
・氷の女王
肌が冷たく凍り付いた女性の外見をした人型アブノーマリティ。
作業結果が良くないと作業した職員にマーキングをし、その職員が再び収容室に入ると氷漬けにされて収容室に閉じ込められる。助けるにはほかの職員がその部屋に行き氷の女王と剣で決闘をして勝利する必要がある。負けたら氷漬けの職員も助けに行った職員も死ぬ。




