【序章:2】異世界譚
とある小さな村に5人の冒険者たちがいた。
その日、近くの森へ魔獣討伐へ出た5人が戻ることはなかった。
探索を行った結果、森の中で5人の死体が見つかった。
内2人は見るも無残な姿になっていたのだが、残りの3人は少し離れた場所で、妙に綺麗な状態のまま眠る様に倒れていた。
村でも愛されていた5人を手厚く葬ろうと村長が手配しているさなか、5人のリーダーであった"剣士"の男の子と"魔術師"の女の子が突然目を覚ました。
発見したとき、状態こそ綺麗だったが、確かに息をしていなかった。
目を覚ました2人に話を聞いてみるが、どうやら記憶が混乱しているようで、襲われたときのことやそれまでのことを何も覚えていなかった。
しかし、よくよく話を聞けば、記憶を失っているというよりは、別の誰かの記憶が入っているようにも感じられる。その最たる例は2人が名乗った名前だ。
"剣士"の男の子は自分のことを白崎 一だと名乗り、"魔術師"の女の子は黒瀬 零と名乗った。
当然、私たちが知っている2人の名前とは違う名前だ。
2人は最初こそ慣れるのに時間が掛かったものの、直ぐに村の連中と仲良くなり、うまくなじんでいた。
戦闘技術に関しては、2人とも記憶にはないが、体にしみついているらしく、ハジメは剣術を、レイは魔法をすぐに一流レベルに使いこなしてみせた。
そうして、村での生活が落ち着いてきたころだった。
突然、村に魔王軍が攻めてきて、小さな村はあっという間に滅ぼされた。
なんとか生き残った2人の冒険者だったが、ハジメは生き残った村人のために村の復興を手伝うことに、対してレイは魔王への復讐のためにたった1人で旅立つことにした。
それからしばらく経ち、村の復興が進んだ頃、王国から一報が届いた。
魔王の討伐に向かった冒険者が敗北し、見せしめにされたとのことである。
村のために残っていたハジメだったが、その一報を聞き、いてもたってもいられなくなり、ハジメもまた魔王討伐へと向かったのだった。
ハジメは旅の途中、各地で人助けや魔物討伐を行い、名声を集めながら成長していった。
そして、魔王城へとたどり着くころには勇者と呼ばれるようになっていた。
魔王軍の幹部たちとの戦いを仲間にまかせ、勇者は魔王のもとへとたどり着く。
1対1の激戦の末、ついに勇者は魔王を倒し、世界に平和をもたらしたのだった。
その後、勇者は元の村へと戻り平和に暮らしていたとの噂だったが、気付けば勇者は村からも姿を消しており、誰もその行方を知る者はいなかったという。