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転生勇者のなれの果て  作者: 鍵屋
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【序章:1】序章

 それは、あっという間の出来事だった。


 私たちはいつものように5人パーティーで森を歩いていた。

 そこに現れたのは一人の赤い瞳をした少年。

 こんな森を一人で歩いているなど珍しいと感じた私たちは、その少年に話しかけてしまった。


 最初に話しかけたのは、"盗賊"の男の子だった。

 彼はパーティーの中でも普段からお調子者で、よく先走って失敗はするものの、その明るさと元気はパーティーのムードメーカーとして、いつも場を和ませてくれていた。


 そんな彼がまた先走って話しかけた瞬間、いつものことだと思ってあとに続こうとした私たちの前で、その男の子の首は胴体から静かに落ちていった。


 状況がうまくつかめず空気が凍った中、真っ先に動いたのは、"騎士"の男の子だった。

 彼はパーティーの最年長で、いつも落ち着いてまわりを良く見てくれていた。

 そんな仲間想いの彼だったからこそ、"盗賊"の死をいち早く理解し、怒りを爆発させ、一人で突っ込んでいってしまったのだ。


 そして、"騎士"も自慢の鎧を砕かれて、腹を貫かれ、私たちの目の前で一瞬にして物言わぬ体とされてしまった。


 その瞬間に動いたのはパーティーのリーダーでもある、"剣士"の男の子だった。

 正義感が強く熱血な性格だが、いざという時には、的確な状況判断で皆をピンチから救ってくれる頼りになる存在である。

 そんな彼はこの状況で、いち早く逃げることを選択したようだった。


 彼がこちらを振り向き何かを叫びながら全力で走りだすのを見ると、"魔術師"の女の子は隣で、未だに理解が追いついていない私の手を取り、"剣士"と共に後方へ向かって走りだした。


 ――どれほど走っただろう。

 誰も追ってこないことを確かめると、息も絶え絶えに私たち三人はその場に崩れた。


 しかし、そうしているのも束の間、どういうことか警戒していた後ろではなく、私たちの逃げていた先の方向からゆっくりと赤い瞳が近づいてきた。


 "剣士"は悪態をつきながら立ち上がると、武器を構え、少年へと立ち向かった。

 初太刀はかわされ反撃を受けるも、辛うじて身をかわし致命傷をさける。


 先の二人の様に一瞬でやられるということはなかったものの、その一撃には圧倒的な実力差が見えていた。

 そのままでは一方的にやられることはあきらかだったので、"僧侶"でもある私は彼に向って回復で援護しようと詠唱を開始する。


 その瞬間、赤い瞳がこちらをまっすぐに睨み笑みを浮かべるのを私は見た。

 詠唱中は移動もなにもできず完全に無防備になってしまう。

 いつもならば、こういう時に守ってくれる"騎士"ももういない。

 そんな隙だらけな私に向かって赤い瞳が動きだしていた。


 "剣士"の彼もそれに気づき庇おうとするも、先の一撃が思いのほか深く入っており、体が追いついていない。

 咄嗟に、詠唱を中断して逃げなくてはと私も思ったのだが、それもすでに遅く、赤い瞳は目の前へと迫っていた。


 振り下ろされる剣に身構えて思わず目を瞑ってしまったが、その剣が私に届くことはなかった。

 恐る恐る目を開けるとそこには赤い液体をまき散らしながら、私と赤い瞳の間に立ちふさがる"魔術師"が立っていた。


 彼女は無愛想で、口は悪いが、その裏では人一倍に努力家で、誰よりも優しくて美しい女の子だった。


 そんな彼女が目の前で崩れていくのを見ながら、その奥で怒りをあらわにし、怪我も忘れ、とびかかる"剣士"をみた。


 このままでは、終わってしまう。

 何もできないまま、一瞬で全てが無くなってしまう。


 何をしてももう無駄なのかもしれない。

 それでも、何かしなければならない。


 そう思った私の頭に浮かんだのは、禁術とされている、太古の蘇生魔法だった。


 術式自体は非常に簡単なのだが、発動には術者の魂をささげる必要がある。


 その上、蘇生される側の人間には、元の人間の魂が帰ってくるとは限らない。

 つまり、蘇ったとしても完全に別人となってしまう可能性がある。


 必死になって戦っていた"剣士"も、既にボロボロにされて弄ばれていた。

 彼ももう命を失っているのかもしれない。


 そうであれば、もはや迷う時間もおしい。

 私程度の魂一つで可能かはわからないが、できるのならばここにいる2人に最後の可能性を…




 ――その後、森からは5人の死体が発見され、村へ回収された。


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