#2
「だってぇ、難易度がチョー高すぎるんだもん、アレ」
電車の中にて。女子高生コンビのもう片方が、甘えるような口調で言った。周りの事など一切気にしていないボリュームで、先程の口の悪い女子が返答した。
「あれほど課金しろって言っただろうが。課金してナンボなんだよ、『ゆうシャン』は!」
ゆうシャンって何だろうか。新しい通信講座だろうか。
「えー、マジで? ちょっと『ゆうシャン』の運営調子のってなぁい? あたし今月ピンチなんですけどぉ」
「今からでも遅くないから。課金しとけって」
「うーん、でもぉ……ねえ、ゆうこ。リセマラとかってぇ、出来ないのぉ? 出来るんならあたし、データ消して新しくキャラ作成するんだけど」
「出来なくは無いけど、リセマラで手に入んの、レア5の強キャラ一体だけだし。それじゃダンジョン攻略難しいぜ?」
「でもぉ、ガチャ引いたって必ずレア5のキャラが出るわけじゃないんでしょ?」
「チュートリアルの時にキャラクター売ってたっしょ? それ買えばいいから。後はテキトーにクエスト達成して、マナ結晶を貯めてそれでガチャ引けば装備も整うし。二千円くらいで、わりと良いガチ軍団できるから」
「ふーん、じゃあ。帰ったらやってみるよ」
――という会話がなされていたわけだか。
はっきり言おう。業界用語が多くて何を言っているのかさっぱり分からん。話を盗み聞きした限りでは、おそらく『ゆうシャン』というのはゲームの一種だという事が伺える。キャラとかダンジョンとかクエストとか、ゲーム的な用語が幾つか会話に盛り込まれていたからだ。
ゲームなら俺でも出来る。
俺でもいじれるという点で見れば、ゲームは非常に良くできている。ただ俺がテレビゲームなんかをするとグラフィックが突然バグったり、操作キャラが唐突にやられたりと、あまり楽しくプレイできた試しがない。友達からは『野生のデバッガー』などと呼ばれていたくらいだ。デバッガーというのは、ゲームのバグや不具合を探し出す人々の事らしい。友人伝から教わった知識なので詳しくは知らん。だが一つ事実を語っておこう。俺は好きでバグを見つけているわけじゃない。
俺はコントローラーを使うゲームが苦手だ。俺の好みはサイコロとルールブックを使用する古典的なテーブルトークRPGであって、電子の方のゲームは、ゲームシステム側からルール無視の嫌がらせを受けるので正直きらいだ。
彼女たちの話していた『ゆうシャン』を、ゲームと仮定しよう。しかし会話中に登場した、俺の知らない用語の数々。これがまるで分からない。
課金? まあ、ゲームは基本的にお金で買わなきゃプレイできない。つまりゲーム会社側はユーザーに料金を課しているわけだ。ゲームの購入に課金という言葉を使うのは些か回りくどい表現な気がしてならないが、そういう、やんごとなき言い回しをするのが最近のトレンドなのかもしれん。
ガチャ? 駄菓子屋の前に置いてあった、カプセルトイの事だろうか。ああいう小物、女子ってホント好きだな。これとゲームに、どんな関連性があるのだろう。
レア5? ガチャガチャのシークレットの事だろうか。俺、ああいうの一度も当たった事ないんだよね。
リセマラ? エロい言葉の隠語だろうか。女子高生の口から放たれると……ちょっと、こう、なんだろう、すっごくドキドキする。
女子高生たちの口から飛び出た数々の用語を、それぞれ俺の知識に照らし合わせながら想像してみたものの……うーむ、一つとて的中している気がしない。
……ま、どうでもいいか。
他人の会話を盗み聞きして生まれた疑問なんぞ、自宅の門をくぐる頃にはきれいさっぱり忘れているだろう。ゲーム自体、近頃は全然やらなくなった事だし、興味を失っても仕方のない事である。大人になるって、こういう事なんだろうな。
そう言えば大学に入ってから、TRPGのセッションを全然していない。タケナカを除く他の友人たちは、違う大学に行ったり就職したりで、とんと顔を会わせなくなってしまった。一人でルールブックを眺めているのも何かと物寂しい。
大学なら、一緒にTRPGをしてくれるサークルがあるかもしれない。今度、タケナカに調べてもらうとしよう。僅かなリア充への兆しに俺は内心で、にやけた。
☆
帰宅してすぐの事である。
「お帰りなさい、お兄様」
声の出どころは、俺が高校時代に通っていた学校の、女生徒用の制服を着込んだ妹である。俺が玄関を開けたと同時に、コイツはスカートの裾を摘まんで優雅に一礼してみせた。
俺の知っている妹は、兄に対して礼儀を弁えた事など一度もない。頭を下げるなんて、もっての他だ。
……ああ、なるほど。
どうやら入る家を間違えたようだ。
──俺が偶然にも玄関戸を開けてしまったお宅では、可愛そうにも我が妹そっくりな名家のお嬢様がスタンバイしていて、その子は大好きなお兄様と間違えて、不法侵入してきた俺に頭を下げてしまったらしい。兄思いの、素敵なお嬢さんじゃないか。
──ならば、この状況は非常に不味い。
頭を上げて、もし大好きなお兄様と思っていた人物が、冴えない顔した赤の他人である事を知ったら、あまりの恥ずかしさにこの子は一生癒えない傷を心に負ってしまう。
これほど悲劇な出来事が、果たしてこの世にあろうか。たぶん、それなりにあると思うが、少なくとも悲劇は起こらない方が断然よい。良心の呵責に耐えきれなくなった俺は踵を返そうとするが、一足早く、お嬢様が顔を上げてしまった。しまった。予想していたとおり、お嬢様の目が驚きのあまり真ん丸になる。
『あ、貴方は誰ですか? い、いやっ。乱暴はお止しになって!』
『お、落ち着いてください、お嬢さん。俺は怪しい者ではございません! 間抜けにも入る家を間違えてしまった、しがない学生でございやす』
『嘘よっ。貴方のような強盗じみた顔の人に、怪しくない人物なんていないわ。さては貴方、お兄様を誘拐した犯人ね。お兄様は何処? わたくしのお兄様を返して!』
『ご、誤解ですってば、お嬢さん!』
ここで俺は正気に戻った。
辺りを見回せば、そこは夕暮れ時の住宅街の一角。見慣れた景色。紛れもない、我が家の玄関ポーチに俺はぼーっと佇んでいた。今日はしょうもない妄想に胸を膨らませ過ぎである。
まあ、アレだ。妄想を挟まないと直視できない現実が悪い。つまり、玄関で非日常的な仕草をしてきた妹がいけないのだ。
俺は回れ右をして、自宅の玄関戸を開ける、どうかお嬢様口調の妹が待っていませんように、そう祈りながら。
さっきの、「お帰りなさい、お兄様」が俺の幻覚および幻聴でありますように。
ところが、どっこい。
「お帰りなさい、お兄様」
そうリピートした女の子は、認めたくないが俺の妹であった。ああ、夢ではなかったか。
「こんな可愛い妹を一度ならず二度も玄関で待たせるなんて、お兄様も意地が悪いですわ」
意地が悪いも何も、待っていて貰う理由がそもそもない。俺は妹がおかしくなる原因をいくつか思考し、その中で一番現実的なものを選び、言葉に出した。
「婆ちゃんの料理でも食ったか?」
「ちっがーう!」
突然、とち狂ったように叫び出した妹。その一秒後には胸を反らし、フフンと鼻を鳴らす。毎度の事ながら落ち着きが感じられない。
「聞いて驚きなさい。私から、あんたにプレゼントがあるのよ。あっ、別に自分から渡したくて、玄関でずーっと待ってたわけじゃないんだからねっ」
しかもキャラクターすら安定してねぇときたもんだ。
いつまでも玄関先で妹と喜劇を繰り広げていては近所迷惑に繋がってしまいかねないので、俺は靴を脱いで框を跨ぎ、そのまま妹の横を素通りした。無視だ無視。触らぬ妹に面倒なし。
しかし向こうから触ってこられちゃ、堪ったもんじゃない。俺は妹に後ろから襟を捕まれた。前進していた俺は慣性に逆らえず、ワイシャツに首を締めつけられる運びとなった。
「ぐえっ」
「ちょっと。無視すんじゃないわよ!」
俺はむせながら、妹の拘束を力ずくで解こうともがく。しかし妹は細い腕で直接、俺の首を締め上げてきた。馬力単位で計算できそうな妹のバカヂカラを、意識が途切れるすんでのところで俺は引き剥がした。背中に子泣き爺のごとくしがみ付いている妹を壁に二、三度ぶつけたが、罪悪感なんて覚えなかった。妹の軽傷と俺の命を天秤にかけて釣り合うわけがない。
俺は咳き込みながら妹と向かい合った。
「ゲホッ、お前もう深夜アニメ観るな。ゲホゲホッ、頭ンなか浸食されて取り返しのつかない域にまで達してるぞ」
「でも、こういう暴力的なキャラって、一周回って受けると思わない?」
「ぜったいに受けない。人様に迷惑をかける前に改めろ」
妹は不機嫌そうに口を尖らせる。
「……へいへい、分かりましたよ」
すると世にも恐ろしいことを口にした。
「クラスの男子だって、もちっと質の良い突っ込みを返してきたんだけどなぁ」
どうやら、すでに人様に迷惑をかけていたらしい。
「お前、今のをクラスメイトにも試したのか」
「うん。でも笑って許してくれたよ?」
「恐怖で顔を引きつらせたんだよ」
殺人未遂の妹を持つ兄と、明日から陰口を叩かれないか心配である。
このような兄妹の漫談を聞き付けたのか、廊下の角から母さんが、菜箸を片手にひょっこり現れた。
「さっきから玄関でなにを騒いでいるの?」
親に向けて放つ言葉ではないので、心の中で愚痴を溢す事にする。うっわ、またやかましいのが増えたぞ。
妹が頬を膨らませる。
「兄ちゃんがあたしの人間性を否定するの」
「ダメじゃない、妹をいじめちゃ!」
「いじめてねぇよ」むしろ殺されかけたわ。
「もう、そんな悪い子には、赤おじさんからプレゼントが届きませんからね」
「は? 赤おじさんからのプレゼント?」
「そ。赤おじさん」
ウィンクする母。聞き覚えのない名前だった。
名前に〝赤〟という漢字の入っている親戚がいたかと記憶を辿ってみるが、そもそも、色を現す字を名前に取り入れた親族が、父方にも母方にも全くいなかった。まるでミステリー小説の作中で用いられる暗号のように、話の全貌が掴めない。理解不能のワードを日常会話に組み込んできた母へ、俺は動揺を隠せなかった。
「な、何の話だよ……」
妹が母に尋ねる。
「ママ。それってサンタさんの事?」
「そうそう、サンタさん。名前が出てこなかったわ。ダメねぇ、年をとると物忘れが酷くなってしょうがないわぁ」
俺の脳はまさに混乱の境地であった。
なぜ、サンタさんが赤おじさんと変換されたのか。これはまあ、説明されれば何となく理解できる。名称より先に外見が思い浮かんだのだろう。
しかし、なぜ今ごろサンタさんが登場するのか、これが分からない。現在の季節は春。暦では五月である。季節外れを通り越して、場違いだ。
俺を見て、母さんはニコニコしている。
「サンタさんから、お兄ちゃんにプレゼントがあるのよ」
相変わらず、考えの読めない人だ。宇宙人だって、もっと積極的に意思疏通を図ってくれると思う。
「兄ちゃんのために、あたしとママとお婆ちゃんが用意したんだから」
妹が通訳してくれた。いや、サンタさん関係ないじゃん。
妹は続ける。
「床に額を当てて駄犬のように感謝するがいいわ!」
「だから、そういうのはいいから」
もう嫌だ。もう付き合ってられん。
俺はキャーキャーと喧しい女二名を廊下に残し、リビングへ向かった。『女が三人寄れば姦しい』という言葉があるが、これは女という字を三つ並べると、うるさいという意味を持つ〝姦〟の字になる事からそう言われるのだ。ただ、うちに限っては、母と妹の二者だけで姦しいが事足りる。
母さんを右に置き、『母さん二号』の妹を左に置き、二人が奏でるステレオトークにまじまじと耳を澄ませていたら、三分後にはこちらがノイローゼになってしまう。あるいは彼女らが発する独特の電波に脳を刺激され、俺自身が『母さん三号』となってしまいかねない。晴れて姦しいが正式なものとなる。
「騒がしいのう。ウチのおなごは」
逃亡先であるリビングの戸を開けると、座布団に腰を下ろしていた婆ちゃんが、俺がいま一番口にしたい言葉を代弁してくれた。
「ただいま、婆ちゃん」
「ああ、おかえり。茶でも淹れようかい?」
「自分で淹れるからいいよ」
俺は馴れた手つきで、婆ちゃんよりも早く急須を掠め取った。
婆ちゃんの淹れるお茶は、どうすればそうなるのか、二日間口内に痺れが残る薬品となるのだ。だから家に来たお客様にお茶を出すのは、決まって婆ちゃん以外の家族の役目になっている。もし婆ちゃんがお客に飲み物を提供したならば、客側は「どっ、毒を盛られた!」と救急車を呼ぼうとする。ついでに警察にも通報する。
俺が急須を掴んだとき、ちゃぶ台の上に、見慣れない長方形の箱が置いてあるのに気がついた。可愛らしい赤色のリボンが巻かれた箱だ。
「婆ちゃん、これって何?」
「アレらから聞いとるだろ」婆ちゃんは廊下の方を顎で示した。「件のプレゼントだよ」
落ち着き払った婆ちゃんは、そこで一口お茶を啜った。これくらいの冷静さが〝アレら〟に僅かでもあればいいのにと俺は思う。婆ちゃんの爪の垢を煎じて飲ませたいものだ。
「ふーん。プレゼント、マジであったんだな。誕生日でもないのに、何で?」
俺は婆ちゃんと対面する場所に座りながら、そう尋ねた。
「遅い入学祝いだな。今のお前に必要なものが入っておる」
何だろう。もしもボックスかな?
だとしたら俺は自身の機械音痴を無かった事にしたい。そんな願望も虚しく、卓上の箱は、人が入るにしてはあまりに小さかった。せいぜい小人の棺桶ほどしかない。
「開けてみていい?」
「ああ、いいとも」
俺はリボンをほどき、桜色の包みを開いた。無色の箱が出てきたので、本当に干からびた小人の死体が入っていたら嫌だなー、などと下らない空想にシナプスを無駄働きさせながら、蓋を開けた。
そこにはプラスチック製の、板状のモノがしまわれていた。俺は梱包されていた物体を慎重に手に取り、爆発物でも触れるようにおっかなびっくり観察した。厚さは五ミリほどで、ズボンのポケットに収まるくらいの大きさをしている。長方形の表面は鏡のようになっており、俺の味気ない平民顔を映し出していた。裏の面は光沢のある白色で、コマーシャルでよく見かける有名な携帯通話会社のロゴが中央に堂々とプリントされていた。
見た事はあれど、欲しいとは微塵も思わなかった電子機器が、今は俺の掌の上に乗っかっている。
「スマホ……か、これ」
「そうとも。さすがに名前は知っているようで安心したわ。最新機種だよ」
右手に持った手帳サイズの電子機器。その黒い画面には、俺の引きつった顔が映っている。自分の顔と睨めっこしていると、母さんと妹がドタドタとリビングに入ってきた。
「ああもう、開封式はみんながいる時にしなきゃダメじゃない!」
妹がぷりぷり怒りながら俺の隣に座った。
「お兄ちゃんも大学生なんだから、こういうのも持たなきゃね」
婆ちゃんの隣へ優雅に座った母さんは、まるで自分がプレゼントを貰ったかのように満面の笑みを浮かべていた。
妹が母に同調する。
「そうそう。あたしなんて中学に上がったのと同時に買って貰ったのに。実の兄がスマホのない学校生活をしていたなんて、ぶっちゃけ信じらんない。もしあたしが兄ちゃんだったら、月イチのペースで死んでたね」
お前の命の意識、軽くない? 本当にいつか殺人を犯してしまわないか心配だ。婆ちゃんの方を見れば、我、関与せずとマイペースにお茶を|味わっていた。
口を閉ざす常識人の婆ちゃんに代わって、常識外れの妹が律儀に解説する。
「通信会社は家族と一緒。あと本体はお婆ちゃんが買ってくれた。どう、嬉しいでしょ。さあ、あたしをあがめたてまつれ」
「話を聞く限り、お前は何もしてないな。まあ、気持ちはありがたいが──」
俺はスマホの脇にあったボタンを思わず押してしまい、とたんに画面上に現在の時刻、存在理由を見出だせない細かなアイコンが幾つか現れた。吸血鬼が大陽光を嫌うように、俺はスマホの光が苦手らしい。デジタル的な明かりを眩しがるように、俺はスマホから顔を背けた。
「こりゃ、無理だな。ギブだ、ギブ。体に良くない光線を放っている」
「諦めんの、早っ」
タケナカみたいな突っ込みを入れる妹の隣で、母さんが「こらっ」と俺を叱った。
「やってもいないのに諦めちゃダメよ。お兄ちゃんもいい加減、食わず嫌いで物事を見定めるのは止めて、触れてから物事を決断しなさい」
珍しく全うな事を発言する母。
そんなお言葉に、「そうは言ってもなあ」と弱気になっていた俺を、ここまで沈黙を決め込んでいた婆ちゃんがじろりと見つめてきた。
そして、たった一言を嫌みのように囁いた。
「月額」
「えっ?」
俺は呪詛めいて発音した婆ちゃんに視線を戻した。
婆ちゃんは淡々と答える。
「本体のローンは、私の口座から毎月支払われるようになっている。使わんと言うのなら、お前に本体代を払ってもらう」
「なっ、そんな勝手な!」
俺は納得できなかった。いらん物を無理やり渡され、しかも受け取らぬのなら金払えときたもんだ。だが、婆ちゃんも嫌がらせ目的でコレを俺に渡したわけではないらしい。婆ちゃんは溜め息を吐きながら湯飲み茶碗をちゃぶ台に置くと、スマホを贈った理由を述べた。
「こうでもせんとお前は絶対にスマホなんて持とうとせんからな。どうせ、『スマホなんて否が応でも使わん』などと考えておったんだろうが」
さすがは俺の婆ちゃんだ。俺の考えている事は、ぼぼお見通しらしい。手厳しい婆ちゃんの言葉に、しかし考えを見通されっぱなしというのも何やかんや悔しいので、俺はそっぽを向いて虚栄を張った。
「べ、べべ、別に思ってないしぃ」
「図星のようじゃな。まあ、これも社会経験じゃ。男らしく社会の流れに従え」
社会経験。他人に言われたくない言葉の一つだ。そんな重たいセリフを身内から発せられ、全身から力が一気に抜けていくのを感じた。
マジか。
……いや、ほんとにマジかよ。
「癪だとは思うが、まあ、許せ」
婆ちゃんは厳しい瞳で、俺をまっすぐ見つめた。
「腹をくくれ、兄ちゃん」
妹は他人事のように、どこか面白がっていた。
「応援してるわよ、お兄ちゃん」
母さんは事の重大さを理解せず、今日もほんわか笑っていた。
かくして俺は家族の女衆の陰謀によって、半ば強制的にスマホを掴まされたのであった。
──これがきっかけで、まさか、あんな事態になろうとは。
この当時の俺は、想像だにしていなかった。