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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第四節 「慢心 先立つ思い 力の拠り所」
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~希望は二人~

 空に僅かな赤みを帯びる時間帯。

 勇達を乗せた車は栃木へと辿り着き。

 そのままあっという間にフェノーダラ城が見える場所へと到達していた。


 そこはさすがの政府関係者か。

 彼等が通る為に道を封鎖していた様だ。

 そのお陰で変容区域に至るまでの道程に一般車両は殆ど見受けられず。

 ほぼノンストップで走り続ける事が出来た末の成果だった。

 

 フェノーダラ城が佇む荒野に設営されていた自衛隊施設は既に軒並み消えていて。

 小さな中継施設と思われる物が一つポツンと建っているが、人員は配置されていない様だ。

 ちなみにどこへ行ったかと言えば、本変容区域の外縁部。

 見えない場所に移っただけではあるが、侵入者を防ぐ為ならば仕方の無い処置だろう。

 その代わり城へと続く道は簡易的に馴らされ、車体を大きく揺らす様な振動の素は無くなっていた。


 たった二日間での変わりっぷりに、勇もちゃなも驚きの声を上げてならない。


 そして車が城へと辿り着く前に突如として大きな門が開いていく。

 城壁上には数人の兵士達の姿が。


 恐らく彼等が勇達の乗る車に気付いたのだろう。

 これにはさしもの福留も「ほほぉ」と喉を鳴らして感心を寄せてならない。


 フェノーダラの人間達は思う以上に友好的なのかもしれない。

 警戒もしていればこうも易々と開門などしないだろうから。


 門の前に辿り着くと、勇達が急いで車から降りていく。

 兵士達が迎える中、そのまま速足で城内へと進んでいった……。






◇◇◇






「ふむ……そうか」


 王座という名の自席に座り、フェノーダラ王が溜息を漏らす。

 事情を理解し、顎を手に取って思考を巡らせ始めていた。


 その顔に浮かぶのは―――苦悩の表情。




 王の間へと辿り着いた勇達を迎えたのはフェノーダラ王や側近達。

 部屋の奥には剣聖も立ち、彼等の話に聞き耳を立てる姿が。

 「福留が来た」とでも伝えられていたのだろう、王達の態度は以前の交渉の時と同じで。

 それでも構わずと、福留が勇を通して全ての事情を説明したのだった。


 ……そして今に至る。

 



「―――以上の事から、もしよろしければ魔剣を取り返す為の戦力をお貸し頂ければと」


 福留が深々と頭を下げて懇願の意を見せる。

 自分達の無知が引き起こしてしまった出来事に強い責任を感じているのだろう。

 伝える姿勢はまるで彼等に魔剣を引き渡した勇を庇うかの様で。


 一連の話を聴き終えたフェノーダラ王が後頭部ごと体を背もたれにズシリと預け。

 伝えられた状況に深刻性を感じたのか、その口からは「フゥー」と深い溜息が吐き出される。


「―――剣聖殿、どれくらいの()()があると思われるか」


「そうだな、話から察するに恐らく相手は【ウィガテ族】だろうが……一日か二日、それ以上はやべぇな」


 【ウィガテ族】……それが和泉を殺した魔者達の種族名。

 ダッゾ族とは全く異なる、勇達にとっての未知なる相手だ。

 

 しかし勇にはそれ以上に気掛かりな事が一つある。

 それはフェノーダラ王が放った〝猶予〟の一言。

 勇がそこに疑問を感じない訳もなく。


 フェノーダラ王の言葉を福留へ伝えぬまま、思うがままに足を一歩踏み出していた。


「猶予って、一体何の事なんですか?」


 勇の疑問はフェノーダラ王や剣聖に再び現実を思い知らさせる。

 疑問の内容は彼等『あちら側』にしてみれば知らぬ者など居ない常識とも言える事だったから。


 するとフェノーダラ王が「私が答えよう」と言わんばかりに椅子の台座に頬杖を突き、神妙な面持ちを勇へと向ける。

 その悩みの種ともあろう真実を添えて。


「魔者が魔剣を使いこなすまでのタイムリミットだよ」


「えっ……?」


 その時フェノーダラ王から放たれたのは、またしても不可解な一言。

 それはまるで遠回しに「魔者に魔剣を持たせてはならない」と言っている様にも聞こえてならなくて。


 魔剣を使いこなす為に時間が必要だという事は勇も知る所だ。

 でも彼等が挙げた期間は極端な程に短い。

 しかも相当具体的な「日数」という形で。


「そ、そんな短期間で魔者が魔剣を使いこなすって、そんな事が有り得るんですか!?」


 その事実がにわかに信じ難くて。

 思考を重ねる前にその口が先走る。


 その一言に誰よりも先に反応を見せたのは―――剣聖。




 彼から語られたのは、勇達にとって何よりも衝撃的な事実であった。




「魔剣ってのはなぁ、魔者の為に作られた武器みてぇなもんなんだぁよ」




 剣聖の言葉は言語に関係無く、距離感に関係無く、その場に居る全ての人間の耳に響き渡る。

 それは当然福留も例外ではない。


「「えっ!?」」


 勇もちゃなもその衝撃の事実を前に絶句する。

 福留もその端的な一言を聴き取っただけで十分事態を理解する事が出来た様だ。


「だから魔剣を初めて持った奴でも魔者なら大抵すぐに使い慣れちまう。 そうなりゃちぃと普通の魔剣使いじゃ手も足も出なくならぁ」


 勇はずっと思い込んでいた。

 「魔剣は人間が使う為の武器」なのだと。

 しかしそれは全くの間違いだったのだ。


 人間が使う事で多大な力を授ける魔剣という武器。

 それをただでさえ強力無比な魔者が持つとなれば、その威力は計り知れない。


 いや、実際に恐ろしい存在へと成るのだ。

 その恐ろしさをフェノーダラ王達『あちら側』の人間はずっと味わってきたのだから。




 ここでようやく勇はとある一つの事柄が繋がって見えた。

 そう、その事柄の中心に居た者こそ、ダッゾ王という存在。


 ダッゾ王が遺した「()()魔剣を得られた」という一言は勇の心の中で未だ引っ掛かっていて。

 それはダッゾ王が以前魔剣を所持していたという事に他ならない。

 魔剣を所持していたからフェノーダラ王国にとっての脅威だったのだ。


 そしてきっと、転移によってダッゾ王は魔剣を失ったのだろう。


 ここでまた一つヴェイリの言葉が思い出される。

 「ダッゾの住処はもっと東にある」のだと。


 つまり勇が推測した事の流れはこうだ。

 ダッゾ王は何かしらの理由で魔剣を置いて住処を離れた。

 その拍子に転移が起き、魔剣を持たないまま『こちら側』に現れた。

 結果ダッゾ王は弱体化し、ヴェイリともギリギリの戦いを繰り広げる程度になった。

 最終的に勇にも討ち取れる程に傷付き―――今に至るという訳である。



 

 それらの事実が繋がった時、勇は初めてフェノーダラ王達がダッゾ王を恐れていた本当の理由を理解する。

 そして今、【ウィガテ族】が魔者を得た事実を知った時に見せた表情の理由もまた。


 剣聖の語った真実が無言を誘う。


 だがそんな静寂を破ったのもまた、剣聖の一言だった。


「とはいえ相手は弱小のウィガテだ。 例え魔剣を慣らしたとしてもすぐに使える訳じゃねぇ。 やるなら早い方がいい」


 彼等なりの現実を誰よりも知る剣聖だからこそ、その一言は自信に満ち溢れていて。

 それでいて緊急性をひしひしと感じさせる程に低く重い声色がその場に緊張感をもたらす。


「ではつまり、戦力を借りて早急に叩けば―――」

「しかし我々(フェノーダラ)から出兵をする事は出来ん!」

「そんなっ!?」


 続く勇の反応を前にして、福留が咄嗟に言葉を押し留める。

 聴かずとも十分把握出来る程にわかりやすい反応を見せていたのだから。


「御存じないだろうが、我々が現在城に招き入れている魔剣使いは剣聖殿を除き一人のみ。 その一人も現在行方不明の為、戦力と数える事は出来ないだろう」


「なんと……」


「そして幾ら恩を積んであろうと、、あなた方が行った愚行を正す為に兵を()()に送る事は出来ん!」


 フェノーダラ王が言い放った主張はもっともな話だ。


 彼等が最も嫌がっていた、国家権力が魔剣を手に入れる事。

 この決まり事を福留らが破って手に入れた。

 そしてその結果、魔剣を魔者へ渡してしまった。

 そこに憤りを感じてしまうのは現代の人間の感覚から考えても当然の事だ。


 何より、魔者には通常兵器は通用しない。


 彼等が魔者相手の戦いに馴れている事は確かだ。

 それでも彼等が魔剣無しで戦うには余りにも死のリスクが伴う。

 それこそ自衛隊員が戦うのとなんら変わらないレベルで、である。


 彼等が仲間の命を重んじているのであれば当然の答えと言えるだろう。


 だがフェノーダラ王は決して彼等を切って捨てた訳ではない。

 その顔は冷ややかな表情ではあったが、握られた拳は強く震える程に握り締められていて。


 福留や日本政府に助けてもらった恩があるからこそ、彼にとっても苦渋の選択だったのだろう。


「申し訳ないが、この件に関して我々が出来る事は何も無い」


「―――だそうです」


「……そうですか、わかりました」


 それでも、フェノーダラ王は諦めた訳でもなかった。

 そう、彼は知っているのだ。

 唯一、この状況を切り開く事が出来る者達を。


 誰もが知っている、その()()の事を。




「―――だが、貴方には彼等が居る」




 突如放たれたフェノーダラ王の一声。

 それは穏やかさと力強さが混ざり合わさった様な一言。

 言葉は通じなくとも、心の在り方は通じる。

 その一言を受け取った瞬間、俯かんとしていた福留の顎が鋭く持ち上がった。


 その時彼の目に映ったのは、フェノーダラ王が指し示す姿。

 向けた指の先に居たのは他でもない、勇とちゃなである。


 そう翻訳した勇も思わず自身を指差していて。

 キョトンとした視線を福留へと向ける。


 福留もフェノーダラ王の真意に気付いた様だ。

 ただその顔には僅かに陰りを帯びた、険しい表情が浮かんでいたのだが。


「―――わかりました。 この様な遅い時間に大変申し訳ありませんでした。 ではこれにて失礼いたします」


 そう言い残して踵を返す福留。

 勇とちゃなも続く様に転身し、置いて行かれまいと速足で追い掛ける。

 そうしないと追い付けない程に、福留の歩みは速かったのだ。


 そんな最中も勇が振り返り、フェノーダラ王へと視線を向ける。

 そこには遠巻きであろうとも苦悩がわかる程に、頬杖で額を抱える姿が映り込んでいた。




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