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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第四節 「慢心 先立つ思い 力の拠り所」
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~虚勢に無情~

バババ―――




 巨大なローターを高速回転させた一機のヘリコプターが空の中を突き進む。


 機内には操縦士と三人の自衛隊員、そして剣術の達人であるあの和泉の姿が。


 和泉が手に取るのは【大地の楔】。

 福留から受け取った魔剣を握り締め、来たるべき時を今か今かと待ち望む。

 魔剣もその時を待ちかねるかの様に、窓から差し込む日差しに当てられ、鈍く妖しい光沢を放っていた。


「間もなく作戦地点に到達します。 各員準備願います。 繰り返す、間もなく―――」


 彼等が舞うのは群馬県と長野県の境目付近の山岳部。

 そしてその目的地は、間も無く見えるであろう山間部の森。


 その場所には本来、緑の針葉樹林が広がっているはずだった。

 だが彼等が訪れた時、その変貌ぶりに機内で驚きの声が漏れ出る。


 何故なら緑で覆われていた森が……とある境から突如として青色へと変化していたのだから。


 ただ、それだけなら普通に驚くだけだったかもしれない。

 渋谷があれ程酷い変化を迎えたのだ、色程度ではそれほど衝撃的では無かっただろう。


 そう、色だけでは無かったのだ。


 よく見れば、青い森の()には緑色の森もが覗いていて。

 なんと青の樹が緑の樹の()から生えるといった奇妙な光景が幾多にも見られたのだ。

 それだけでなく、幹の中腹部から突如として生えた物や、中には二つの樹が交差する形で混ざり合った物も。

 中には緑の樹に支えられる形で空中に生えた青の樹まで存在する始末だ。


 もはや何でもありと言える不気味な光景に、冷静でなくてはならない自衛隊員までもが絶句していた。


 操縦士がそんな森の中に着陸出来る程の開けた空間を見つける。

 そこは先行調査の際に見つけた着陸予定地点だ。


 自衛隊員が着地地点に危険が無いかを目視で確認する中、直上へと辿り着いたヘリコプターが徐々に降下を始めていく。


「敵影無しッ!」

「着陸行動に移る。 各自注意せよ!」


 自衛隊員達が警戒を続ける中、とうとうヘリコプターが着陸を果たす。

 すると操縦士が「着陸完了、出撃可」の合図を手信号で送り始め。

 それに気付いた隊員達が一斉に機内から飛び降りる様にして大地を踏みしめていった。


 そして当然、和泉もまた同様にして。


 既にここは変容区域の中心。

 いつ何時魔者の襲撃がきてもおかしく無い場所だ。

 それを予め聞いていたからこそ、和泉が神経を研ぎ澄まして周囲を探り始める。


 そんな和泉の心は緊張感と高揚感に満ち溢れていた。


 敵は魔者。

 己の剣技を遠慮なく振るう事が出来る怪物。

 例え切り刻もうが惨殺しようが、誰もが咎めぬ法の外の相手なのだ。

 故に、彼の心が打ち震える。


 「ようやく私の剣術が剣術らしい役目を果たせる」と。


 元来、剣術とは敵を殺める為に編み出された技法だ。

 戦場で敵兵と相対した時、無事に生き残る為に必要な術。

 己の命を守る為に編み出され、時代を経て殺法として昇華された技術である。


 だが現代社会においてそんなものは必要無くなり、剣術は遊びに成り果てた。


 和泉ほどの達人がそれを嘆かない訳が無い。

 「剣術を奮うなら、剣術らしい相手を得るべき」、そう考えた結果、彼は悩み始めたのだ。


 でも彼はこうして最高の機会を得た。

 【大地の楔】を賜り、力を存分に奮う事を許されたのである。

 「敵を殺す」、たったそれだけの為に。




バササッ!!




 その時突如、目の前の茂みが不自然に揺れた。

 しかしローターが巻き起こす風によって煽られた連続的な動きではない。


 それは明らかに人為的に動かされたものだったのだ。


 それを和泉は見逃さない。

 咄嗟にその場所へ視線を向けると、茂みの中に隠れた何者かに気が付く。


 そそり立つ木々が日光を遮って影を落とすその場所。

 一見すればただ草木が覆うだけのなんて事の無い草むら。


 しかしよく見ればその隙間から瞳が覗き、和泉達を見つめていて。

 その瞳に木漏れ日が当たって瞬きを生み、暗がりの中で輝きを放っている。

 おまけに茂みから異質感たっぷりの突起物が飛び出していたのだ。


 詰まる所、誰から見てもバレバレである。

 それでもまだ見つかっていないとでも思っているのだろう。


「そこに居るのかっ!!」


 だがどんな相手であろうと和泉は容赦するつもりなど全く無かった。

 魔剣の切っ先を茂みに向け、気迫の叫びを惜しまずぶつける。


 すると再び茂みが「バサッ!!」と揺れ動く。

 バレていた事をさすがに気付いたのだろう、瞳も突起も消えていて。

 しかしそれ以上の動きは見られない。

 息を潜めて隠れているのだろうか。


 和泉が小さな草木を踏みつけながらゆっくりと歩み寄っていく。

 いつでも斬れる様にと魔剣を構え、卓越した体捌きで隙を見せずに。

 これが罠とも限らないのだ、伏兵に備えて警戒は怠らない。


 そしてとうとう切っ先が動いた茂みへと触れようとした時―――




 バササッ!!




 突如として茂みから巨大な影が飛び出したのだった。




 危険を察知した和泉が咄嗟に距離を取り、魔剣を己の流派のままに構える。

 そう、その巨大な影は明らかに人間の()()では無かったのだ。


「ファッ、ファファ、ま、まさかこんな所に魔剣使いが来るとはなぁ~!」


 それは全長おおよそ三メートルは有りそうと思える程の超巨体。

 和泉だけでなく、自衛隊員達もが恐れ戦く様を見せる程の。


「ファファ! そうだ驚け! 慄け! ファファ……っとと、オンメら、ちゃんと支えろ!」


 だが妙な仕草を取り始めたと思うと、途端にその上半身がグラグラと揺れ始めたではないか。

 和泉達が呆然とする中で、怪物の影は一人でに妙な慌てっぷりを見せ始めていて。


「のあっ!! も、もういい!! もういいよ!!」


 すると何が起きたのか、巨大な影が見る見るうちに小さく―――

 いや、厳密に言えば……低くなっていった。


 そして遂には二メートル程の高さへと落ち着き。

 そして何を思ったのか、その姿をとうとう日の下へと晒した。


「まさかこんな所に魔剣使いが来るとはな!」


 何故同じ事を言う必要があったのだろうか。


 現れたのは二メートル程の身長を有する大柄な魔者。

 緑色の肌で覆われ、横に広がる程の大太りの腹が特徴的だ。

 腕は腹の大きさに負けない程の長さと太さだが、アンバランスにも足はその半分程度の長さしかない。

 顔はと言えば不規則に歪み、(ひとえ)に言って醜いの一言。

 垂れ下がった耳や顔付きもどこか気の抜けた様な表情で、どうにも締まりを感じない。

 髪もまばらで纏まりが無く、角も生えているがどうにも統一性が無い伸び方だ。


 おまけに言うと、偉そうな言葉遣いとは裏腹に醜い顔が妙な引きつりを見せていた。


 その間にも背後で何かが蠢き、音を立てて去っていく。

 「ンヒィ~!!」などといった悲鳴の様な声を上げながら。


 どうにも間の抜けた魔者の登場に、和泉達の緊張感もどこへいったのやら。

 総じて「ポカン」とした表情を向け、首を傾げずにはいられない。


 妙な小細工をしなくとも、この魔者単体でも十分恐ろしい(なり)をしているのだが。

 余計な行為が場をしらけさせてしまった様だ。


 それでも相手は魔者。

 人間に害を成す可能性を持つ怪物である。

 我に返った自衛隊員達が咄嗟に銃を突き付け始め―――


「よせ、ここは私に任せてもらおう!」


 だがその時、和泉が腕を広げて彼等を制する。

 勇から得た魔者の特性情報も含め、銃が通用しない事は既に熟知済み。

 何より、彼の持つ魔剣こそが唯一通用する武器だと聞いているからこそ、邪魔されたくはなかったのだ。


 「目の前に居る魔者は私が斬る」、そんな意思が彼の背中から滲み出るかのよう。


「皆はこの場から離れて頂きたい」


「わ、わかりました。 健闘をお祈りいたします」


 和泉に言われるがまま、隊員達がヘリコプターへと乗り込んでいく。

 間も無く機体が激しい音と風を掻き鳴らしながら空へと飛び去って行った。


 魔者はそんなヘリコプターの姿をただ「ほあー……」と見上げるばかり。

 目の前に居る和泉に対して襲い掛かる所か敵意の欠片すら向ける事は無く。


―――何なんだコイツは……?―――


 魔者の一連の仕草が余りにも間抜け過ぎて。

 それが逆に和泉の警戒心を強めていく。


 「これは振りで、私を欺こうとしているかもしれない」、そう思ってならなかったのだ。


「い、いいのか仲間に逃げられてしまったぞ? ファファ―――」


「逃げたのではない。 帰したのだ。 貴様を斬るのに余計な邪魔をされたくないのでな!」

 

「おっおぅ……」


 和泉の気迫は並々ならぬ殺気を伴うもの。

 茶番を見せつけられようが、彼の戦意は削がれない。

 それこそが達人の成せる業であり、極意でもあるのだ。


 対して魔者はと言えば、和泉が一人になった途端に胸を張る始末だ。

 一人なら勝てるとでも思ったのだろうか、仲間を呼ぶ気配すら無い。

 いや、きっと呼んでも来ないのだろう、さっき逃げたから。


「ファファ、ま、まさかお前一人で俺を倒そうとでも?」


「無論、そのつもりだ」


「大人しく帰った方が身のためだぞォ!?」


 もはや和泉に聞く耳有らず。

 構えた魔剣の切っ先を鋭く傾け、迸らんばかりの闘志を乗せ。

 和泉一心流が極意の名の下、目前の敵を斬る為に。


 柄を握る拳が、力を帯びる。


 そんな殺意満々の和泉を前に、さすがの魔者も緊張を憶えずにはいられなかった様だ。

 緩んでいた顔が引き締まり、口元がこれ程までと言わんばかりに窄んでいく。

 目も震え、肩も震え、パッと見、脅えている様にすら見受けられるが、それもきっと振りなのだろう。


 緊張が場を支配する中で、和泉がジリジリと間合いを探りつつ距離を詰めていく。

 魔者も気迫に圧され、堪らず後ずさりを見せていて。

 しかしその歩は和泉の方が深く。


 それが魔者の焦りを生んだ。


パキリッ……


 それはなんて事の無い、魔者が小枝を踏み折った音。




 だがその音が鳴った瞬間―――和泉の表情が鬼の形相へと姿を変え。

 飛び掛かるが如く魔者との距離を一気に詰め、一瞬にして魔剣を振り被っていた。




「イィヤアアアーーーーーーー!!」

「ヒ、ヒィイイエエエーーーーー!?」




 和泉の雄叫びが轟く。

 魔者の悲鳴と共に。


 そして遂に和泉がその力を解き放つ。

 魔剣という最高の得物を得た剛速の殺人剣が、魔者という獲物の命を刈り取らん。




キィーーーンッ!!




 静寂の森に、金属のかち合う音がけたたましく鳴り響く。




「なっ!?」


 しかしその時、驚愕の声がたちまち漏れる。

 そんな声を漏らしたのは他でもない―――和泉であった。


 それもそのはず。

 魔剣の斬撃はあろう事か魔者の着込んだ鎧の金属部によって阻まれていたのだから。


「あり……?」


 斬るどころか、鎧すら傷付ける事叶わず。

 強引に押し込んでも、魔者は押されるどころかビクともしない。

 薄い金属プレートの表面を「チリチリ」という音を立てながら右往左往するだけである。

 火花の様な物が僅かに弾けてはいるが、全く何の意味も介していないのだ。


「お、お前そんな程度の力で魔剣使いなのか……フファー!!」


 途端、魔者が嬉しそうな叫びと共に、その大きな両手で力一杯に和泉の体を叩き飛ばした。


 その一撃が普通の人間にとってはどれだけ強烈か、もはや語るに及ばない。

 たちまち和泉の体が高く跳ね上げられ、間も無く大地へ叩き付けられる。


「ウ……グゥ……」


 魔者の一撃と落下の衝撃。

 その二つが和泉の体を著しく傷付け、立ち上がる事さえ困難にさせる。

 手に持っていた魔剣も弾かれた衝撃で手放し、地に伏せた今やどこに行ったかもわかりはしない。


―――何故だ、何故!!―――


「ゲフッ、ゴフッ!」


 内臓にも著しいダメージが及んでいたのだろう、その口から赤黒い体液が吐き出される。

 それはとめどなく溢れ出し、呼吸すら阻害し始めていて。


―――どうしてこうなった!! どうして!!―――


 その間にも魔者が「のしりのしり」とゆっくり歩み寄ってくる。

 その様子が和泉にはハッキリ見えていたから、苦しさと恐怖の混じった表情が思わず浮かび。


―――あの少年は出来ていたのに!!―――


「クッ、カハッ!!」


 震えて力の出ない腕を精一杯動かし、その身を後ずさりさせる。

 だがそんな逃げ方で逃げ切れる訳も無く。


―――私は和泉一心流剣舞術最高師範、和泉陽一郎だぞォーーー!!!―――


 遂に彼の視界を陰りが包む。

 歩み寄った魔者の体が影を生んだのだ。


 ニタァとした笑みが魔者の顔に浮かぶ。

 これまでに無い程、歪んだ顔を更に歪ませて。

 

「ありがとなぁ、ありがとなぁ、俺の為に魔剣持ってきてくれてよぉ……!!」


 そして魔者はその大きな足を持ち上げ、力のままに踏みつけるのみ。

 それと同時に鳴り響く「グシャッ」という音が鳴り響く。


 その音と共に和泉の視界は暗転し―――その闇が晴れる事は二度と無く。




 白く輝く太陽の麓で魔者の影が歓びに打ち震える。

 けたたましく上げられた雄叫びが木々を大いに震わせた。


 それはまるで変容樹林そのものが騒めいているかの様に……。




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