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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第四節 「慢心 先立つ思い 力の拠り所」
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~意思を奮う~

 日本屈指の剣術の達人、和泉陽一郎。

 彼の下へ訪れた福留が提示したのは「魔剣を使って魔者を退治して欲しい」といったもの。

 普通の人間であれば尻込みしそうな要求である。


 だが和泉は嬉々としてそれを受け入れた。

 自身が培ってきた技術と能力を存分に奮う事が出来る絶好の機会だったからだ。


 和泉の同意が取れた所で、福留の核心に関わる話は更に前進していく。 

 

「―――ところで、魔剣に実際触れてみて如何でしたかな?」


「なんとなくでしかありませんが、何かこう独特の〝凄み〟を感じます。 見た目ではわからないものですが、名刀の類を奮った時と同じ様な高揚感を触れただけで感じ取れました」


 再び魔剣の表面を恐る恐るなぞるように触れ、造形を肌で感じ取る。

 湿度をふんだんに含んだ高い外気温にも拘らず、表皮から滲み伝わるのは……冷気。

 それが体温差からなのか、それとも剣そのものが放っているのか、彼にはわからない。

 ただただ、様々な刀剣に触れてきた達人としての経験がそう感じさせてならなかったのだ。


 すると何を思ったのか、おもむろにその手を柄へと伸ばした。


 そのまま魔剣を掴み取ると、重さを感じさせる様にぐらりと傾かせながら刀身を持ち上げる。

 自身の体をもゆっくりと立ち上がらせながら。


 斜に構えた魔剣を両手で掴み、壁へと向けて歩んでいき。

 壁から少し離れた所へ立つと、両手に掴み取った魔剣を正面へと掲げる。


 そして出来た構えはまさしく達人のそれ。


 何一つ迷いの見られない、完成された動きと卓越せし構え。

 剣道などでよく見られる「中段の構え」であるが、その立ち姿でさえ見る者を圧倒せんばかりの気迫を纏う。


「スゥー……」


 息を吸い込む音が微かに漏れる。

 酸素を得た血液が巡り、心を躍らせる。


 この時、和泉は両手に構えた魔剣を前に未だかつてない高揚感に包まれていた。


 普通の刀とは全く異なる、得体の知れない古の飾太刀。

 そこに秘めし力は何もかもが未知数。


 これを振ればどうなってしまうのだろう。

 もし敵が目の前に居れば、どう遭ってしまうのだろう。


 生まれた好奇心が彼の心臓をこれ程と言わんばかりに高鳴らせる。




 そんな彼の目の前には―――人影が居た。




 厳密に言えば、彼()()の目の前に。

 それはいわゆる〝影〟と呼ばれる存在。

 ボクシングの〝シャドー〟しかり、武道の〝幻影〟しかり。

 彼の心が生み出した仮想の敵。


 そして心と好奇心の赴くままに……殺気が迸る。




「いィやァーーーーーーッッッ!!!!!」




 その時、気合いの雄叫びと共に―――魔剣による斬撃で影を真っ二つに両断したのだった。




 すると途端、先にあった道場の壁が「ジジジ」と響き、微弱な振動となって二人へ伝わっていく。

 切っ先には何も触れていないのにも拘らずの出来事に、福留のみならず和泉ですら驚きを隠せない。


「お、おお……」


 福留に至っては堪らず唸りを上げていて。


 対して和泉はと言えば、冷静な立ち振る舞いを見せたまま。

 振り下ろした剣をそっと持ち上げると、何事も無かったかの様に鋭く踵を返し。

 そのまま軽快な足取りで再び福留の前へと戻り座ると、手に持つ魔剣をそっと箱へと戻した。


 たちまちその口から「フゥー……」と胸の奥底に溜まっていた息が溢れ出す。


「それで、如何でした?」


 息を飲む福留。

 一連の行動、結果は彼の想像の域を超えていたからこそ。


 和泉もまたその問いにまんざらではない笑みを零す。


「この剣を持った時、何か体がずしりと地面に引き込まれるような感覚と、今までに無いほどの集中力が沸き出てきました」


「ほほう」


「また、これはこの剣の力でしょうか。 振る時に何かこう、切っ先に引っ張られる様な感覚を受けました。 まるで剣が意思を持っていて、私の腕を導くかの様に。 この剣は一体何なのですか?」


 福留にとっても未知数の塊とも言える魔剣。

 それを説明する事はまだ適わない訳で。

 和泉の核心を突いた質問を前にも、上手い答えが見つからず。

 誤魔化す様に「ハハハ……」と笑いながら首を摩る事しか出来ない。


「言い忘れましたが、今回の依頼は国家プロジェクトに等しい行為となると思います。 もしかしたら半永続的に依頼を出す事すら有り得るかもしれません。 それでも引き受けて頂けますか?」


「ええ、もちろんです。 是非ともこの剣を使いこなしてみたいですしね」


 その目に宿すのは願望か、野心か。

 迷う事無く返された返事に乗るのはそんな感情。


 彼を待つのは国を挙げてのプロジェクト、人知を超えた怪物との戦いと活躍。

 そしてその先にあるのは真の栄光。

 男であれば一度でも得たいと思うものだ。

 彼の様に戦いを求めて止まない者にとってはなおさらである。


 好機を得た黄昏の武人が今こそ奮い立つ。


「では早速、証拠映像を見て頂きましょうかねぇ―――」  


 二人の会合はなお続く。

 この後控えた大事に備えて。


 そう、彼等はこの後すぐにでも事を起こすつもりでいたのだから。




 こうして魔剣を得た剣術の達人、和泉陽一郎。

 彼の剣豪としての力は果たして魔者にどこまで通用するのであろうか……。




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