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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第三節 「未知の園 交わる願い 少年の道」
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~王も兵士も皆家族~

 勇達『こちら側』と剣聖達『あちら側』。

 二つの世界は言語も文化も理さえも全く異なっている。

 言葉が通じるというのも、勇達だけがずっと勘違いしてたという事に他ならない。

 勇達が体験してきたのは奇しくも魔剣使いと魔者という存在だけが織り成す限定的な世界だったからこそ、気付く事が出来なかったのである。


 もちろんまだわからない事は多いままだ。

 世界が違う者同士の会話を成り立たせる事が出来る命力という力。

 これを元来認知していたはずの『あちら側』の人間もがこの特性を知らなかった。

 剣聖の様な卓越した魔剣使いでも、である。


 勇も剣聖もその不可解な謎には気付いていた。

 それが世界が混ざった事と何か関係しているのではないか、と。


 そこに今起きている事件の真相の秘密が隠されている、そんな気にさせてならなかったのだ。






 言語の相互不理解という問題が解決し、ようやく話が進もうとしていた時。

 フェノーダラ王は剣聖にではなく、あろう事か勇へと視線を向けていた。


 そう、言語の事実が発覚したからこそ、勇の持つ秘密もまた露わとなったからだ。


「時に、そうなると君は魔剣使いという事になるが。 それは間違いないかな?」


「えっ、あ、はいっ!」


 解れていたはずの緊張が再び勇の体に纏わりつき。

 たちまち直立した体が先程の石の様な硬さを取り戻していく。


「名前はなんというのかね?」


「えっと、ぼ、僕は藤咲勇と申します。 彼女が田中ちゃなさんといいます。 この人が僕の父親で藤咲徹と言います」


 放つ言葉は実に単調で。

 まるで書いた文字を見たままに読んだ様な棒読みである。

 どうやら彼の口を動かす筋肉も緊張でまともに動かない様だ。

 

「そうか。 魔剣は剣聖殿から頂いたのかね?」

「は、はいっ!!」


 例え気軽にしろと言われても、相手が王様では話は別だ。

 勇の感覚からしてみれば、不敬を働けば打ち首拷問、果ては極刑島流し。

 一体どんな中世ファンタジー(時代劇)だと揶揄されそうな想像ではあるが、知らなければ大概そうも思えてしまうもので。


 余りにも強張り過ぎて、両脚に充てた手まで震える始末だ。


「フフッ、君は相変わらずだな。 何を緊張する必要がある? 私はフェノーダラだぞ!?」


「こいつらぁフェノーダラって言ったって通じねぇよぉ。 生まれた世界が違うんだぜ?」


「ああ、そうであった。 こうも流暢に会話が成り立つとどうにも忘れて堪らんなぁ~」


 そんな一言と共に嬉々として高らかな笑いを上げるフェノーダラ王。

 その柔らかな物腰は勇だけでなく、ちゃなや勇の父親ですら唖然としてしまう程に自由そのもので。

 こんな姿が彼の素顔なのだと理解させるには時間も掛からなかった。


「余計な敬語は不要だよ、フジサキユウ。 この口ぶりは癖みたいなものだから気にしないで欲しい。 それと私は王ではあるが長ではない。 フェノーダラを守る者達の代表に過ぎないのだよ」


「そ、そうなのですか」


「この城と城壁は元来より魔者から壁内の国民を守る為の要であり、我々はそれを監視し防衛する国防連隊に過ぎん。 皆、家族の様なものだよ」




 つまり彼等は、魔者専門の自警団の様な存在だという事である。

 王とは言うが、彼等の王は言わば自警団長。

 指揮や統率を行う皆の代表者という訳だ。

 

 警察では無く自警団。

 それは役職では無く、自分達の志で人々の暮らしを守る者達という事。


 警察や軍隊という言葉が伝わらなかったのは、勇達と彼等とで警備の概念が異なっていたからだ。

 彼等にとっては自警団という存在が無ければ生きていけないという程に厳しい世の中なのだから。




「それならお言葉に甘えて……俺は剣聖さんに魔剣エブレをもらいました。 田中さんもアメロプテをもらった魔剣使いです」


 敬語も必要無く、緊張もたちまち掻き消えて。

 縛る物が無くなった勇の言葉は先程までと違って実に軽快だった。

 まるで自由を得た鳥、水を得た魚の様に。


 フェノーダラ王もまんざらでもなく、「それでいい」と言わんばかりの頷きを見せていた。


 名前を挙げられた事で、ちゃなも勇に続く様に会釈を向けて敬意を示す。

 彼女の場合は元々口数が少ないからこそ語る事は無かったが。


「まぁ色々あったが、コイツァなんだかんだで()を倒しちまったんだぜ、ウッヒッヒ!」


「ほぉ!! まさかこの少年が!?」


「おうよ! 実際に見てはいねぇが、あの独特の命力の波が消えたのは間違いねぇよぉ」


 そんな一言は勇を呆然とさせるには充分な程に意外で。


 剣聖は最初から知っていたのだ。

 ダッゾ王が倒れた事を。


 勇はダッゾ王を倒したという証拠は何一つ持ち帰ってはいない。

 それでも剣聖は何の疑いも無く、勇達が成した事を信じていた。


 何故ならヴェイリや壁の魔剣使いが持っていた魔剣を持ち帰った事が彼にとってはこれ以上に無い証拠となったからだ。


 魔剣使いが魔剣を手放すという事。

 それはすなわち自分の命を手放すという意味に他ならない。

 にも拘らずこうして持ち帰れば、おのずと気付く事になるのだ。


 そしてそれを勇が生きて帰って成した。

 つまり、勇という存在そのものが証となって証明したのである。


「才能はねぇがやる事はしっかりやりやがる。 きっと斬っては千切り、斬っては千切りとだなぁ」


「け、剣聖さん!? いや、俺はそこまで大した事してないですよ!? とどめを刺しただけで―――」


 途端に始まる剣聖の全身を使って踊る様な大袈裟な演技に、赤面した勇が堪らず制しようと慌てて飛び跳ねる。

 しかし剣聖はそれも愉快でしょうがなかったのか、腕を掴んだ勇ごと振り回さんばかりに暴れ踊っていて……




 剣聖は当初、怖気付いた末に仇の懇願までした勇に呆れとも言える感情を見せていた。

 それも今となっては成長を喜ぶ様に踊り、おちょくり回す程だ。

 剣聖は勇がこうして短期間でここまで心を強くさせた事が余程嬉しかったのだろう。

 曲がりなりにもダッゾ王という強敵を制し、こうして生きている。

 例えそれを口に出さなくとも、楽しそうな笑顔を見ればそれは明白だったから。


 勇もちゃなも勇の父親も、三人ともきっとその事には気付いていないだろう。


 だが剣聖をよく知るフェノーダラ王だけは、そう感じずにはいられない。

 これ程までに楽しそうにする剣聖を、彼は見た事が無かったから。




 気付けば王もまた、そんな彼等の騒ぎに乗じた大きな笑顔を浮かべていた……。




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