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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第一節 「全て始まり 地に還れ 命を手に」
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~二人 の 違い~

 どれくらいの時間が経っただろうか。

 揺れが徐々に収まっていく。


 実際の時間で言えば、経ったのは揺れ始めから僅か五分程度だ。

 しかしきっと誰しもがもっと長く感じていた事だろう。


 ただ、周囲の被害は意外にもそれ程ではない。

 商品や陳列棚などは幾つか倒れた落ちたが、大体は無事のままで。

 地震対策が功を奏したのだろうか、人的被害も見る限りは無さそう。

 建物自体も無事で、あれほど軋んでいたのに亀裂一つ見当たらない。

 立ち込めていたはずのモヤも消え、今では先までしっかり見通せるという。


 あれほどの大地震だったのだが、不思議な事もあったものだ。 

 実はそれほどでも無くて、大袈裟に感じただけだったかの様な。


 場を覆い尽くしていた悲鳴は既に聴こえない。

 皆、もう落ち着きを取り戻し始めているのだろう。


「どうやら大した事無かったみたいだなァ」


「俺は遂に来るべき時が来たのかって思ったよ。 東京大震災みたいな?」


 当然この二人も同様にして。

 緊張が解れたお陰か、こう交わす最中にも安堵の笑みが零れる。

 とはいえこれだけの危機に見舞われたのだ、疲弊も隠せない。

 額には冷や汗がじんわりと浮かび、僅かに息も切らしていて。


 それでもと、空かさず二人揃ってテーブルの下から這い出ていく。

 地震がこれで終わりとは限らないからだ。


 〝余震は大地震の前触れ〟これは良く知られた事象柄である。

 もし今のが余震なら、本番が来た時はこの程度では済まされないだろう。

 今度こそ建物が倒壊してしまう可能性だって否めないからこそ。


「皆さん、これが本番とは限りません! 今のうちに協力して建物から出ましょう!!」


 すると、統也が立ち上がった矢先に声を張り上げる。

 訪れるかもしれない本番を危惧したが故に。


 この様に意識もせず率先して行動しようとする。

 これが才能溢れる統也の神髄だ。

 そのお陰で勇も今まで何度助けられた事か。


 だからこそ勇は頼りに思えてならない。

 「統也が居なければきっと俺も足を(すく)ませていただろう」と。


 それに、勇が見込んだだけの事も有ったらしい。

 統也の声に誘われ、たちまち外へと人の流れが生まれていて。

 中には倒れた人に手を差し伸べるなど、与えた影響は期待以上だ。

 気付けば混乱も無いままに避難が進んでいくという。


 なら後はもう個々に任せても平気だろう。

 だからと、二人もそれに合わせて一歩を踏み出した。


 しかしその時、勇がふと気付いて足を止める。

 あの少女が付いてきていない事に。


 振り向いて見れば、まだテーブルの下に蹲ったまま。

 恐らく怖くて動けないのだろう、今なお身体を震わせていて。

 その姿はまるで追い詰められた小動物の様だ。


「君、立てる?」


 そんな少女に勇が優しく声を掛ける。

 でもどうやらダメらしい。

 少女は俯いたまま頭を小さく左右に振っていて。  


「その、足が、た、立てなくて」


 刻んだ声は声域(トーン)がとても高い。

 おまけに啜り泣く音も聴こえて来る。

 相当恐ろしかったのだろう。

 その所為で腰を抜かしてしまったのかもしれない。


 するとそんな時、勇の横から長い腕がスッと伸びてくる。


「立てないのか? ならほら、手に掴まって」


 統也だ。

 勇に続いて少女に気付き、手を差し伸べたのである。

 ―――というより、勇が声を掛けたから気付いた、と言った方が正しいか。


 ただこうして気付いた以上は行動が早い。

 勇が「おや?」と思った時にはもう少女はテーブルから引き出されていて。

 そのまま手馴れたかの様にすんなりと大きな背へ背負い込む。


 どうやら少女の身体は見た目よりもずっと軽かった様だ。

 とても同年代とは思えない程に。

 元々の背も低いからか、二人が親子にさえ見えてならない。


 しかしそんな体裁など少女はもう気にもならないらしい。

 統也の首に腕を回し、震えた身を寄せていて。


「よし、行くぞ勇!」

「ああ!」


 幸い、もう困っている人は見当たらない。

 皆が協力し合った成果だろう。

 お陰で勇達も早々に流れへと乗る事が出来る。


 地震が再び起きる気配はまだ無い。

 だからこそ今の内に。

 そんな意識が二人を足早へと突き動かした。


 未だ続く人々と共に、先に在る安全圏へと脱出する為に。


 先程の揺れが何をもたらしたのかはまだわからない。

 もしかしたら他の建物が倒れてるかもしれない。

 電車が止まったり、ライフラインに支障が出ているかもしれない。

 一向に拭えない不安が二人を包む。


 しかし外に出れば間違いなく命は助かるだろう。

 ただただその一心で、一歩一歩を確実に踏み出していくのだった。




 外で生まれていた喧騒に気付く事も無いままに―――




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