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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第二節 「知る心 少女の翼 指し示す道筋は」
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~家路に就き、悪態つき~

 二人はその後、壁の魔剣使いの下へと赴いていた。

 片腕だけでもと、無事だった部位を弓の魔剣と共に持ち帰る事にしたのだ。

 絶命しているであろう魔剣使いへ、勇がそれとなく両手を合わせて供養に祈る。

 宗教等は違うから意味は無いかもしれないが、せめてもの気持ちだったのだろう。

 ちゃなもそんな勇の真似をして、二人揃って死者へと祈りを捧げたのだった。




 身体もだけど、服装もボロボロだ。

 破れとかよりも、ダッゾ王から浴びせられた血で真っ赤で。

 だから一先ず無人のアパレル店に入って着替える事にした。

 もちろん盗む訳にはいかないので、父親から預かったお金をそっと置いて。

 お金に関しては後で返せばいいからと、ちょっと奮発したのは内緒である。




 水筒に残った飲み物を飲み干すと、二人は水筒の蓋を閉めて鞄へと仕舞い込む。

 するとふと父親の事を思い出し、ちょっと早いけれど連絡する事に。

 戻る事を伝えると、父親は喜んで「すぐに車に戻る」と声を上げていたものだ。

 その時気が付けば日は暮れ始め、辺りが夕焼けの朱を映し始めていて。

 そんな光を受けながら、二人は並んで無人の道を歩き続けていった。




 再び警察に警戒しつつ規制区域を脱出する。

 行きの時よりも身軽になっていたおかげか、すんなりと抜け出る事が出来た。

 とはいえ出て来た場所は入った場所から随分と離れていたけれど。

 駐車場に辿り着くと、満を持しての勇達の登場に跳ねて喜ぶ父親の姿が。

 そんな二人を待っていたのはコンビニのおにぎりとキンキンに冷えた緑茶で。

 疲れた二人にはきっとこれ以上無い御馳走だったに違いない。




 荷物を後ろの席へ置き、勇とちゃなが一緒に後部座席へ座る。

 気付けば、夕日に照らされながらお互いの頭を当てながら眠っていて。

 程よい温もりが疲れた二人をとても優しく包んでいたから。

 父親はただ静かに車を走らせ続けていた。

 まるで二人の無事を称えるかの様に微笑みを浮かべながら。




 ふと車がバックする感覚に気付き、勇が目を覚ます。




 辺りは暗かったが、そこが自分の家だという事にはすぐ気が付くものだ。

 家に着いたとちゃなの肩を揺らすと、眠たそうに彼女が目を覚ます。

 けど当人は歩けそうにもないので、仕方ないと背負って降りる事に。

 とはいえ少し足に力が入らなくて崩れそうになって。

 そこで父親からの助けを貰い、なんとか家へと運び込めた。




 家に帰ると母親が喜んで出迎えてくれて。

 眠たそうなちゃなを微笑ましい顔で眺めながら、こうも零したものだ。

 〝本当は娘が欲しかったのよ〟なんて。

 そういった事実を今知って、勇はどこか複雑な気持ちにならざるを得なかった様だ。




 ちゃなを二階の布団に寝かせ、勇は一足早めの夕食へ。

 跡目を引きつつも、食卓に並べられた夕飯を前にしたら我慢は出来なかった。

 空腹を満たす為にと、一心不乱に口へと運んだ。

 剣聖は既に事を済ませた後なので、もはや勇の食欲を止める者は居ない。

 もちろんちゃなの分はしっかり分けてあるので安心していい。

 とはいえ何故か自身の物より大きなハンバーグに目を引かれた訳だが。




 ここまでは長い様で、あっという間の出来事だった。






◇◇◇






 そしてその日の夜。


 勇が自室の中央であぐらをかいて座る。

 相変わらずベッドに寝転がったままな剣聖の前で。


 今日起きた出来事を全て話す為に。


「―――という訳なんですよ」


「なるほどなぁ~随分と派手にやってきたじゃねぇか」


「成り行きですけどね。 あ、これ親には内緒でお願いします。 それと二人の魔剣は外のバックパックの側に置いておきましたから」


「おう、気が利くじゃねぇか。 持ち帰ってくれてありがとうな」


 しかしその内容はと言えば、あの剣聖が溜息を吐く程に酷いものだった訳で。

 やはり剣聖としても今回の一連の出来事は不本意だった様だ。

 こんな素直な礼もまるで詫びの様に聞こえてならない。


「まっ、あの野郎も結局死んじまったんだし、結果的に王を倒せたんだからいいじゃねぇかよぉ」


 とはいえ、剣聖の図太さは10tトラック激突(異界送り失敗)後でも健在だ。

 結果が結果なだけに、遺憾の意は溜息と共に掻き消えたらしい。

 なんだかんだで勇の証言を素直に信じてくれる所はありがたいけれども。


「そうですけど……なんだかやっぱりヴェイリは許せないですよ。 多分もう忘れないかな」


 でも勇は随分と根に持っている様だ。

 当人が死んだ今でもなお。

 よほど頭に来ていたのだろう。


 とはいえそれも当然だが。

 何せ危うく殺されかけたと言っても過言では無いのだから。


 誰も聞いていない中で、ヴェイリへの文句が更にぐちぐち続く。

 余りのしつこさに、剣聖も顔を引きつらせて止まらない。

 遂には堪らず大あくびを上げていた訳だが、勇は気付いていない模様。


「しっかし、ダッゾ王をやっちまうたぁ俺の予想を超えたなぁっはっは。 おめぇは弱い癖にやる事はいちいち大げさなんだよぉ、弱い癖に」


「一言多くないです???」


 そんな愚痴を止める為の切り返しのつもりだったのだろうけども。


 果たして褒めているのか、けなしているのか。

 文句は止まっても、今度は別の理由で顔がしかめられる事に。

 やはり才能無い発言もなんだかんだで尾を引いているらしい。


 しかしそんな時ふと、ダッゾ王が消えて居なくなった事を思い出す。

 雑兵はそんな事が無かったのに、だ。

 ついでに言えば帰り際も襲撃が無かった。

 幾人かは逃れていてもおかしくなかったのだが。


 ヴェイリが言った通り、王が倒れた事で遠くへと逃げてしまったのだろうか。


「剣聖さん、魔者って死ぬと消えるんですか?」


「あぁん? んなわきゃねぇだろぉよ。 死んだら腐って大地に還る、それが普通だろうが」


「そうですよね。 じゃあなんで消えたんだろう」


「知らねぇよぉ~、世界がこうなっちまった事となんか関係あるんじゃねぇかぁ~!?」


 けれどどうやら消えた理由は剣聖も知らない様で。

 となると言う通り世界が【転移】した影響と考えるのが妥当か。

 そうも考えると、お互いが知らない事もまだまだ多そうだ。




 そんな訳で話題も尽きたので、リビングに戻ろうと勇が立ち上がる。

 すると剣聖が「ちょっと待て」と呼び止めて。


「ちゃなの事なんだが、あいつすげえだろ」


 これみよがしにとちゃなの話題を振って来る。

 やはり剣聖も彼女の凄みに気付いていたらしい。


「すご過ぎですよ。 あれ一体何なんですか」


「まぁたまーにあんなのがいるんだよ、魔剣の天才って奴がよぉ」


 何せ昼間の火球の威力はとてつもなかった。

 敵の大集団だけでなく、周囲の建物をも焼く程の圧倒的な火力で。

 加えて飛ばされんばかりの爆風や火の粉を撒き散らす程だったから。


 きっとあの力はちゃなが持つポテンシャルそのものなのだろう。

 剣聖はただそれに一つ仕込みを入れただけで。


 たったそれだけで戦局を覆す能力と化す。

 まさしく天才のモノとも言うべき力だ。


 勇とは天と地ほどの差があると言える程の。


 もしあの火球をダッゾ王に撃ち放てば、きっとそれだけで事が済んだかもしれない。

 幾らなんでもあれだけの威力の攻撃を受ければまず耐えきれないだろうから。

 もっとも、あんな物を建物内で放てば自分達もどうにかなってしまいそうだけど。


「ちょっと【アメロプテ】取ってくれよ」


 そう才能に嫉妬している最中、突然な要求が舞い込む事に。

 なのでパパっと渡してみると、何やらくまなく眺め始めていて。


 直後、厳つい顔が更に渋くなっていく。

 

「かぁーっ!! やっぱかぁ、こいつじゃもうダメだな」


「え、それどういう事です?」


 すると今度は剣聖が「ヒョイ」っと魔剣を投げ渡して。

 勇が言われるがまま掲げて眺め見てみたのだが。


 間近に見て初めて気付く事となる。

 魔剣に起きていた著しい変化に。




 なんと左右二本の枝先が「ドロリ」と溶解していたのだ。

 宝石をも巻き込み、形をも崩して。




 仕舞った時には気付かなかった。

 そんな変化が訪れていたなんて思わなかったから。


「あ、これ溶けてる!?」


「おうよ、既にこいつの使用限界命力を超えて使ったってこったぁ」


「そこまでの威力だったのか、あの弾は……」


 故に驚かざるを得ない。

 まさか魔剣の力すら凌駕していたなどとは思ってもみなくて。


 恐らく【アメロプテ】は勇の【エブレ】同様、入門用の魔剣なのだろう。

 だから剣聖は初めて魔剣を持つちゃなでも使用出来ると踏んで渡した。

 しかしてこの結果である。


 つまり、ちゃなは入門用武器では補えない程の力を有しているという事らしい。


「このまま最大出力で使い続けりゃ【アメロプテ】はすぐにでもぶっ壊れちまうだろうなぁ。 まぁしょうがねぇんだがよ、このタイプの魔剣は今はこれしか持ってねぇ」


「あ~じゃあ大事に使わないとですね」


「おう。 俺らの世界ならまだ見繕えるツテは有るんだが、世界が違うとなりゃそうもいかねぇからなぁ」


 けれど今は替えが無い。

 少なくとも剣聖の持ち合わせの中には。

 となれば大事に使わないと直ぐにでも魔剣を失ってしまいそう。


 全部の魔剣が同じ性質を持っているならまだ救いは有ったのだけれど。

 

「にしてもタイプかぁ、色んな種類の魔剣があるもんなんだな」


 勇の短剣型魔剣しかり、ちゃなの杖型しかり。

 ヴェイリの弓型魔剣や壁の魔剣使いの腕甲型魔剣しかり。

 考えても見たら多種多様で、いずれも使い方が全く異なる。

 もしかしたら全く異なる魔剣も存在するかもしれない。

 そうも考えが浮かぶと、魔剣の奥深さにも興味を惹かれてならない。


 もっとも、その全てを魔()と呼ぶのは相変わらず紛らわしい所ではあるが。


「他のタイプの魔剣とかはダメなんですか?」


 ふと思いついた事を勇が口にするも、剣聖の答えは芳しい。

 俯き考えながらも首を横に振り、再び大きな息が漏れ出ていて。


「ちゃなはどう見たって近接戦闘には向いてねぇしなぁ。 やるとなりゃ、想像がしやすい杖での支援くらいが丁度いいんだぁよ」


「そうなのか……」


「おう。 なんでも向き不向きってのがあらぁな」




 剣聖曰く、こういう事だそうな。


 人の性格や体格で攻撃のスタンスも変わる。

 勇がサッカーではなく剣道に向いていたのと同様に、魔剣にも相性があって。

 剣聖がその末で選んだのが【アメロプテ】の様な、火球を撃ち出せる魔剣だという。

 もちろん、ちゃながあれ程大きな火球を撃ち出せたのは当人の力のおかげだ。

 けど火球を形成する手助けは魔剣が行っているのだとか。

 

 つまり、いわゆる遠距離砲撃用の魔剣(まほうのつえ)である。


 これは体力が無い人間でも扱い易く、魔剣自体も軽い物が多いそうな。

 殺傷性能を必要としないので、斬る殴る打つ為の構造が一切不要だからだ。


 しかしその分、普通の魔剣よりも命力の消耗が激しい。

 【アメロプテ】級であっても、並みの魔剣使いでは扱いきれないらしい。

 大体、掌サイズの火球を二、三発撃つだけで命力が尽きるそうだ。


 だがちゃなは別格だというのだ。

 それだけ常人と比べて遥かに高い命力を持っているという。

 

 こういった理由から得意とする魔剣は杖型に定まったという訳だ。

 勇に【エブレ】を渡したのも、体付きより得意なタイプを読み取ったからなのかもしれない。


 なお、勇にはこの遠距離タイプは使えないとも教えてくれた。

 当然、命力の絶対値が少な過ぎるからである。




 その才能は未だ底知れず。

 剣聖にそこまで言わせるちゃなという存在に、勇はどこか嫉妬を隠せなかった。




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