~少女の勇気、そしてその力~
自身の死期を感じざるを得なかった。
目の前の大集団が怖くて仕方が無かったから。
しかしそれでも勇は勇気を振り絞り、魔者達の前に立ちはだかる。
「統也もきっと同じ気持ちだったのだろう」、そう胸に思いながら。
「田中さんッ!! 君だけでも逃げるんだッ!!」
その想いからの決死の叫びが怯えたちゃなを誘い、建屋の外へと歩み出させる。
顔を引きつらせ、唇を震わせたままに。
でも彼女もまた魔剣を持っていたから。
その事実が魔者達を更に驚かせる事となる。
「「「おおーッ!? ま、また魔剣使ゥいィイーーー!?」」」
もはや魔者達も気が気でない模様。
何分、彼等も逃げようにも逃げられないので。
なんだかんだで知的生命体だからか、やはり死ぬ事は怖いらしい。
とはいえ、魔者の表情から感情を読むなど勇達に出来る訳も無く。
互いに怯えた顔を向け合い、威嚇し合うのみ。
共に死への恐怖に苛まれながら。
勇の手が震えて止まらない。
先日の様に恐怖が纏って堪らない。
それでも統也が守ってくれた様に。
統也の代わりに、命を張って守ってあげなければ。
その決意が、覚悟が、勇の心を滾らせる。
小さくか弱い一人の生命を救わんが為に。
「逃げろーーーッ!! ちゃなァアアアーーーーーー!!!」
必死の叫びだった。
これが最後を覚悟した男の、想い詰めた末の形だったのだ。
だが―――
「ウウッ!! 勇さんッ!!」
その必死な叫びが、ちゃなの小さな勇気を奮い立たせた。
途端、両手で握り締めた魔剣を突き出し魔者達へ向ける。
剣聖に教えられた魔剣の使い方を、その脳裏に素早く過らせながら。
ちゃなだけの、魔剣【アメロプテ】特有の使用方法を。
するとどうだろう。
たちまち魔剣の先端へと、光の筋が螺旋を描いて集まっていくではないか。
その光は勇が魔剣を使った時など比べ物にならない程に輝かしい。
言うなれば、もやというよりも光そのもの。
そう形容した方が正しいくらいに眩しかったのだ。
そんな光が徐々に集まり、収縮し、形を成す。
そして生まれしは―――彼女だけの光。
魔剣の先端に、直径一メートル程もある巨大な赤光球が出来上がったのである。
それはまるで赤紋入りのガラス球の様だった。
内部に白と赤と黄の力の奔流が絶え間なく駆け巡っていて。
更には抑え付けられたかの様に、球体が細かく脈動を刻む。
それも凄まじい熱が大気を歪ませ、湿気を瞬時に蒸気へ昇華えながら。
その圧倒的存在感を前に、誰しもが驚き慄く。
顔を絶望なまでに歪めきって。
それ程の破壊の奔流が皆の前に顕現していたのだから。
「勇さんっ、避けてくださいッ!!」
遂には収束され、小さくなりながらも刺す様な輝きを放つ。
そんな灼熱たる赤の光球が動きを止めた時―――それは遂に起きた。
―――イメージだ。
自分が強いってぇ思う言葉を想像しろ。
それを口に出して……叫べ―――
剣聖の言葉が脳裏で迸る。
己の胸の中で囁き伝わる。
唯々思うがままに。
その力を、解き放つ為に。
「ぼぉぉぉーーーーーーんッッッ!!!!」
その叫びと共に、赤の光球が魔者達の方へ放たれた。
それはすさまじい速度を伴って。
勇が迫りくるそれを躱そうと、咄嗟に上体を捻りながら横へと跳ね。
たちまち勇の体スレスレを通り過ぎ、抜けていく。
放射熱だけで勇の髪や服を僅かに焦がしながら。
凄まじい速度だった。
瞬きする間すら与えられない程に。
その様な光球が一瞬にして、呆然とする魔者達の下へ飛び込んでいく。
そしてその瞬間、光の白がその場を包み込んで―――
ドッギャオオオーーーーーーーッッッ!!!!!
―――全てを貫かんまでの爆発音が周囲に轟いたのだった。
その時生まれた爆発は、その場の何もかもを飲み込んだ。
爆炎と灼熱と黒煙で、辺り一帯全てを覆い尽くしながら。
魔者も、建物も、アスファルトも、何もかもをも焼き尽くして。
爆心地の肉壁を形成していた魔者達は、瞬時にして消し炭と化した。
それだけではなく、爆炎が勢いのままに後続をも巻き込み溶かし。
周囲で隠れていた者さえ煽りを喰らい、焼き払われて。
偶然逃れた者も余熱で引火し、悶え苦しみ炎に喰われていくという。
更には飛び火が建物をも焼き焦がし、一帯を煤で真っ黒に染め上げて。
地面のアスファルトが爆発で丸ごと抉られ、土面さえも露わに。
余りの業炎故に、無数の火の粉が黒煙と共に空へと舞い上がっていく。
大気さえも焼き尽くさんばかりに。
まるで地獄絵図である。
少なくとも魔者達にとっては。
勇達の方にこそ爆炎は届かなかったが、爆風と放射熱だけは凄まじく。
地面に転がる勇や尻餅を突いたちゃなをこれでもかと言う程に煽り続けていて。
「すご……」
「はわわ……」
二人もこの威力を前にただただ唖然とするばかりだった。
余りにも想像を絶する破壊力だったが故に。
剣聖はちゃなの命力を確認した時、明らかに何かを感じ取っていた。
それはきっと魔剣使いとして計り知れない潜在能力を秘めていたからこそ。
彼女の類稀なる才能を見抜いたからなのだろう。
華奢な体でも、命力の才能は群を抜く。
まるで勇と正反対だ。
ちゃながどうしてそんな力を持っているのだろうか。
それがどうにも不思議に思ってならない勇なのだった。




