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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第十三節 「想い遠く 心の信 彼方へ放て」
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~決着~

 抵抗が無くなった途端、茶奈からの力の供給を失った光の槍は間も無く大気へ分解されていく。

 ふわり……光の粒子へと解れた光が雨の様に無数の筋を描いて大地へ還っていった。


 全てが終わった時……大気を揺さぶる事象は全て消え、建造物内を僅かな間の静寂が包む。


「あ……嘘……だろ……ベリュムが……何なんだよ……何なんだよそれ!?」


 ベリュムが消滅した事は、触媒を持つ彼にも判ってしまったのだろう。

 唇を震わせ、目を見開かせ……切り札を失った獅堂は完全に取り乱し、冷静さを失っていた。


「……もうベリュムはありません……勇さんッ!!」

「ありがとう、茶奈……!!」


 勇と茶奈が互いが顔を合わせ頷く。

 それに呼応する様に心輝達もまた頷き……再び鋭い視線を獅堂へ向けた。


 もはや獅堂に手は無い。

 そう悟った勇達は腰を僅かに落とし、各々の武器を構える。

 ただ真っ直ぐに、ただ一人……獅堂だけを見据えて、その身を乗り出した。


 獅堂もまた、空かさず応戦する様に怒号にも足る叫びを上げる。


「くっそおーーー!! おいお前等ッ、アイツらを殺せ!! 皆殺しだぁ!!」


 その声に呼応し、アージとレンネィもまた魔剣に命力を迸らせて飛び出した。


 勇達とレンネィ、アージ……互いの距離が急速に詰められていく。




キキィーンッ!!




 互いの陣営が各々の魔剣を奮った時……広大な屋内にけたたましい音が鳴り響いた。




 途端、勢いよく飛び出した筈のアージのレンネィの足が止まる。


 アージの打ち降ろしを茶奈とジョゾウが。

 レンネィの斬撃を心輝達が。

 それぞれが自身に秘めた命力を踏んだに篭めた魔剣で受け止めていたのだ。




 そしてその間を縫う様に……勇が全力で飛び出し獅堂の下へ駆けていく。




「うおおーーーーーー!!」

「ひいいいッ!?」


 体を駆け巡る命力が翠星剣を、そして自身の青の瞳を輝かせ……暗い空間に二筋の残光を引かせた。




 この一瞬の為に残していた……自身のありったけを惜しむ事無く。




 飛び掛かる勇の勢いに怯んだ獅堂が覚束ない手に握り締めた刀型の魔剣を突き出す。

 しかし勇が間髪入れず水平に薙ぎ払い、魔剣を弾き飛ばした。




バッキャァーーーンッ!!




 たちまち獅堂の持っていた魔剣の刀身が砕け、破片を激しく散らしていく。


 魔剣を打ち払った勇の翠星剣は弧を描く様に光の軌道を描いていた。

 薙ぎ払いの勢いのままに勇の体がぐるりと回転していく。


 瞳に籠る光が閃光を生み、自身の顔を包む様に一筋の軌跡を描いた。




 その瞬間……翠星剣を握り締めた右手の甲が獅堂の頬へと力のままに打ち付けられた。




ガッゴォ……ッ!!




 途端、「ミチミチィ」という筋肉が破れる音と、「メキメキ」という顎の骨が砕ける音がその周囲に鳴り響き、獅堂の頭に強い衝撃が走る。

 歪みに歪んだその顔に、勇の拳がめり込み……人の顔という原形すら残らない程にひしゃげさせて。




 そして衝撃に引きずられた体ごと、ひしゃげた頭が跳ね上がる。


  


 打ち上げられた獅堂の体がきりもみ状に宙を舞い……壁へと激しく衝突した。


 「グシャッ」という音と共にぶつかった獅堂は壁に沿う様にズレ落ちていく。

 その拍子に体が壁から離れ……「ドシャッ」という音を立てて地面へその身を沈ませた。




 「ピクピク」と痙攣し、白目を剥かせ、泡を吹き……獅堂は完全に地に伏したのだった。




 空かさず勇が倒れた獅堂の下へと駆け寄っていく。

 目的は獅堂の近くに転がる二本の棒型魔剣……壁にぶつかった衝撃でその身から離れ落ちた物だ。

 その足に命力を篭め……転がった魔剣を力任せに踏み潰す。

 途端、いずれもが「バキャッ」と弾ける音を掻き鳴らして破砕されていった。


 二つ目が恐らくアージとレンネィを操る【ラパヨチャの笛】だったのだろう……その破砕音が鳴り響いたと共に、アージとレンネィの瞳に力が取り戻されていく。


 そしてその意識が完全に元に戻った時……身震いする様に全身を震わせ、自分達の理解出来ない状況に思わずその目を見開かせた。


「あ……れ? 何が……起きたの?」

「ぐぅ……頭が痛い……これは……まさか操られたか……」


 広場でジョゾウ達と戦った時の記憶へと巻き戻り……状況が飲み込めていない様だ。

 だが自分達に向けて魔剣を構えていた茶奈達を前に、ようやく自分達の行いを理解し始めていく。


 しかしそんな二人の事を気に掛ける前に……勇が剣聖の元へと素早く駆け寄った。


「剣聖さんッ!!」

「ぐ……うう……」


 いつからだろうか……剣聖は茶奈同様に自我を取り戻し、瞳に虚ろいは感じさせない。

 剣聖は突かれて穴の開いた心臓を命力で制御し、傷口を塞ぐ為にその力を集中させていた。


 だが……目は今にも閉じられそうな程に震え、いつ意識が途切れるかも知れぬ危険な状態であった。


「茶奈お願いだッ!! 剣聖さんをッ!!」

「はいっ!!」


 剣聖の下へ駆けてきた茶奈が剣聖の手を掴み自身の命力を彼へと送り始める。

 暖かく、心地の良い光がとめどなく剣聖の体へと流れて行き……途端、剣聖の閉じられそうになっていた目が見開れた。


 流れて来る多大な命力の恩恵を全身で感じながら……その膨大な命力を使い、傷口の応急処置を行う。


「こ……この……まま……たの……む……」

「はいっ、任せてください!!」


 剣聖の顔色が先程と打って変わり、僅かに力を感じさせる血色の帯びた表情へと移り変わっていく。

 彼女に任せれば今はなんとかなる……そう感じた勇は耳に備えたインカムへ指を伸ばした。




ババババ……




 その時、連絡しようとしていた勇や仲間達の耳に聞き慣れた音が入り込む。

 それはヘリコプターのローター音……先程彼等が乗って来たヘリコプターのそれと同じ物。

 瀬玲が空かさず入口へ駆け寄り外を見ると……広場に向けて着陸しようとするヘリコプターの姿が彼女の視界に映り込んだ。


「勇!! 多分福留さん達が来たのよ!!」


 絶妙なタイミングでの彼等の登場に、思わず瀬玲が高らかに喜びを交えた声を上げる。

 それに気付いた勇は剣聖の傍へ座り込むと、その冷え切った太い腕を抱え込んだ。


「皆手伝ってくれ、剣聖さんを広場まで運ぶんだ!!」

「よし!!」


 茶奈が剣聖の手を掴み取る中……その場に居る全員が協力して剣聖の体を広場まで運ぶ。

 彼等が剣聖を抱えながら建造物の入り口から外へと向けて足を踏み出すと、彼等の目にもヘリコプターの姿が遠目に見え始めた。

 その中から幾人かの人影が降り、勇達の方へと向けて駆けて行く。

 そんな者達の背後からゆっくりと歩み寄る二人の人影……福留と御味である。


 担ぎ込まれた剣聖の惨状……それを感じ取った福留が彼等をヘリコプターへと誘う。


 多くの隊員達の協力の下に剣聖と茶奈を乗せ、一台のヘリコプターが轟音を掻き鳴らして大空へと高く舞い上がっていったのだった。




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