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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第十三節 「想い遠く 心の信 彼方へ放て」
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~交錯する戦士達の想い~

 

 早朝5時過ぎ……まだ朝とも夜とも言えぬこの時間帯において、2機のヘリコプターが東北方面へと空高く舞い進んでいた。

 カラクラの里のある東北、秋田県……そこのとある山脈の岩肌に切り立つ様に聳える里こそが彼等の目的地。

 早朝6時過ぎ……東北、秋田県。

 そこのとある山脈の岩肌に切り立つ様に聳える里こそが彼等……カラクラ族の住む地。


「……来るか……」


 里にある大きな岩の上で座禅を組む様に座りながらポツリと呟くジョゾウ。

 未だ暗闇が多くを支配する時間において、わずかな明かりが静かな山を照らす。

時折聞こえる鳥の囀りが、嵐の前の静けさを現す様だった。


 細い目が開くと、その体をゆっくりと持ち上げその体を立たせる。

 その先に見据える太陽の差し日が彼の眼や体を照らし始めた。


「ジョゾウ殿……主殿がお呼びぞ」


 そんな彼の背後から現れたのはボウジ……彼の部下であり、勇達とも共に戦った者の一人。


「ウム……すぐに参る。 伝え願いたし」

「御意」


 すると、何を思ったのかボウジは周囲を見回し人影を探る。

 誰も居ない事を悟ると……再び声を上げた。


「……ジョゾウ、良いのか?」

「ウヌ?」


 その声色は今までとは違う、柔らかい雰囲気を持った声。

 それに気付きジョゾウは喉を唸らせるが……振り向く事無く朝日に目を向けたまま。


「勇殿と戦う事と成っても?」

「……運命(さだめ)ならばいざ仕方なかろう……」

「運命か……そこに縛られ過ぎれば足を取られるぞ」

「……分かっておる」


 そう交わした言葉を最後に、ボウジは静かにその場を立ち去って行った。


「勇殿……相まみえる事を許し給う……願わくば……」


 空を見上げジョゾウは再び呟く。

 その瞳に映るのは闘志か……それとも悲哀か……。




―――




 朝日が見え始めた時間帯……2機のヘリコプターが薄暗い空の中を突き進む。

 そこはカラクラの里が遠く肉眼で確認出来る林上。

 目的地であろう場所へと辿り着くと、途端2機のヘリコプターは進む事を止めてホバリングを始める。

 彼等の直下に見えるのは林に囲まれた平地。


 途端ヘリコプターの扉が開き、そこから3つの影が平地へと向けて飛び降りていった。


 音も無く着地する3つの影……剣聖、レンネィ、アージである。


 勇達の姿はまだヘリコプターの中にあり、飛び出すタイミングを伺っていた。


「田中さん、大丈夫……怖くないよ」

「で、でも……やっぱり怖いです……」


 高所からの飛び降りに尻込みするちゃなに勇は笑顔を浮かべそっとその左手を差し出し彼女を誘う。

 空を飛べる彼女がフリーダイブを恐れるというのは不思議なものであるが、それだけ自分で飛ぶか否かというのが重要なのかもしれない。

 下には彼等が降りてくるのを見上げ待つ3人の姿が映る。


 そんな中差し出される勇の手。

 その先に延びる彼の顔は以前と変わらない綺麗な様相を映す。


 唯一異なるのは……朝日を浴びて淡く輝く左の瞳。

 青く澄んだ瞳に僅かな橙の光が混ざり、蒼  玉(サファイア)とも紫 水 晶(アメジスト)ともとれる瞬きを魅せる。

 そして純白の光と同化した時……僅かな虹色を煌めかせ、ちゃなの心を惑わせた。




 彼は今までの彼なのだろうか……そう錯覚させる程に、幻想的な光景が彼女の視界一杯に広がっていた。




「田中さん、早くしないと……さあ手を掴んで」

「あ……は、はい……!」


 ちゃながが自身の手を恐る恐る差し出された手へ伸ばす。

 すると突然……彼女の伸びた腕を勇の差し出した手が掴み取った。


 慌てる間も無く……掴まれた腕は体ごと引き込まれ、その体は宙へ―――


「ひゃあぁあぁあぁあ!!」


 自由落下していく二人の体。

 途端、勇の腕が彼女の体を包む様に掬い上げ……空中で抱きかかえる。

 そしてちゃなを抱えたまま勇が地上へと静かに降り立った。


「あらあら、お二人共仲がいいわね~妬けちゃうわ~」

「おせぇぞ何してたんだお前等……」

「はは……すいません」


 照れる勇であったが……そんな彼の顔を、抱きかかえられたままのちゃなが「てしてし」と右手ではたく。

 彼女のその顔は頬を赤く染めながらも膨らましており、怒っている様な、恥ずかしがっている様な複雑な表情を見せていた。


「いたた、ごめんごめん……今降ろすよ」


 堪らず勇がちゃなの足が地面に着く様にそっと降ろすと、彼女はそそくさと勇から離れてから振り向く。

 振り向いた彼女の顔はほんのり涙目。

 勇はそんな彼女を見て初めて、よほど怖かったのだろうと悟らせた。


「勇さん!! 飛ぶなら飛ぶって言ってください……!!」




―――飛ぶ為にその場でタイミング図ってたんだけど……―――




 理不尽なちゃなの言い分に苦笑いしながら勇が宥める。

 そんな二人の様子を他の者達が見ながら三者三葉の表情を浮かべていた。


 その時、勇の耳に掛かったインカムから声が聞こえてくる。


「勇君、何か問題でもありましたか?」


 それはヘリコプター内に残る福留からの声。

 勇は咄嗟にインカムのスイッチを押して返事を返す。


「いえ、ちょっとした事で……何も問題はありません」

「そうですか……では、我々は一旦近くの待機地点に戻ります……皆さん、どうかよろしくお願いいたします」

「分かりました、これから行動を開始します」


 インカムのスイッチを離すと……勇は他の4人へ顔を向け頷く。

 他の4人もそれに同調するかの様に個々の反応を示し応えた。


 彼等が歩み始めた先……それはカラクラの里。

 かつて共に戦ったジョゾウ達の故郷だ。




―――ジョゾウさん……貴方とは出来れば戦いたくない

             ……どうか俺達の前に現れないでくれ―――




 それはジョゾウと同じ思い……その事に気付く筈も無く、勇達とジョゾウ達はお互いを迎え撃つ為に歩を進めていた。




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