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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第十三節 「想い遠く 心の信 彼方へ放て」
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~無情の光、想い遠く~

 順調に走り続けた勇達のアルファーダは栃木へと入り、一般道へと降りていた。

 その道を誘導する様に警察が道を作り彼らの補助を行う。

 栃木県警はフェノーダラの件もあり、以前から勇達の事を認識している。

 それに相まって福留の指示があったのだろう……勇達の進むべき道を素早く構築し、その道を開いていた。


「これならいけるか!?」

「間に合ってくれ……頼む……!!」


 残り5分……そこでようやくフェノーダラまで直線の道へと到達する。

 後はただ突っ切るのみ。


「よし、勇飛ばすぞ!!」


 一気にアクセルを踏み込み高速道路と何ら変わらないスピードで駆け抜ける。

 いつものコンビニを通り越え、とうとうフロントガラスにフェノーダラ城の姿が小さく映り込んだ。


「見えた!!」

「あと2分!!」


 いつもの通行止めの道を越え、道がオフロードへと切り替わる。

 エンジンが轟音を鳴らして高回転し、猛スピードで走っていく。

 徐々にフェノーダラ城が近づき、その全貌を完全に捉えた。


「いけえええ!!」




 だが、次の瞬間……アルファーダの前輪がバーストし、激しく車体が揺れた。




ガガガガッ!!




「うおお!?」

「うおあーーーッ!? 勇ぅーーー行けえーーーーーー!!」


 それを聞いた途端勇は座席を吹き飛ばしながら飛び上がる。

 間も無く地面に着地すると、力の限り大地を踏み付け駆け抜けていった。


 その後方でアルファーダがバランスを崩し横転し、跳ねる様に転がっていく。

 父親が座席を屈む様に頭を押さえた瞬間、エアバッグが展開されてその体を包む。

 だが、弾けて飛んだ天板から覗かせた大地がエアバッグを引っ掛け……破裂音を高く鳴り響かせた。


 父親の安否は不明……その様子を跡目に見ていた勇に動揺が走る。


 だが彼は言った……「行け」と。


 「きっと大丈夫だ」……そう言い聞かせ、勇は止まる事無く大地を蹴り続けた。


 すると手に持ったスマートフォンが振動し、先程の獅堂の電話番号が再び表示される。

 それに気付いた勇は駆けながらもすぐさま手に取り耳へと充てた。


『おやおや……どうやら間に合いそうも無いね……』

「もう着いた!だからもう辞めるんだ!!」

『勇君……嘘はダメだよ……ちゃんと城に触れるくらいに近くに行かなきゃ……さあカウントダウンを始めよう』

「や、やめろ……!!」


 無情にも電話先から告げられるカウントダウン。


『5……4……』


 止まらない。

 そして間に合わない。


「やめろおーーーーーーーーーッ!!」


 その高らかな叫びも虚しく……最後の刻を刻む。




『2……1……はい、ゲームオーバー』




 その言葉を最後に、通話は途切れた。




 すると不意に勇の視界に一人の人影が映る。

 遠くの城壁の上から勇をいつもの様に迎え、手を振るエウリィの姿であった。


「勇様~!!」


 その姿を見た勇はその足を動かしたまま……彼女を見つめ……そして叫んだ。


「逃げろ……逃げろエウリィ……逃げろおーーーーーー!!」


 勇の「逃げろ」という声と共に大きく手を振り上げられた腕は、エウリィには迎えに対する応えに見えていた。

 エウリィはその応えに喜びを見せ、いつもよりも大きく手を振り返す。




 そんな彼女の頭上に……太陽とは違う大きな光が瞬いた。




 それに気付いたエウリィがふと空を見上げる。

 赤く滲む空に輝く白い光……それは彼女の心を誘う。




「まぁ……綺麗……」




 その瞬間……城を大きな白の光が覆い隠し、その場を無音が包み込んだ。




 強く輝く光がフェノーダラ城を焼きながら飲み込んでいく。

 そして城壁に立っていたエウリィもまた……勇へ振り向きながら……光の中へと消えていった……。






「エウリィイイーーーーーーーーーーーッッッ!!!」






 その途端、光の余波が勇をも包み……その体を大きく吹き飛ばす。




 大きな衝撃が、大きな光が、彼の体を、彼の目を……焼いた。




 大きな、とても大きな光だった。




 城の全てを覆い、光の柱となったそれは……無慈悲の光として……その全てを焼き尽くしたのだった。




 その後に残ったのは……焼けて溶けぬ岩の城壁のみ……中に居た者も、物も全てが……焼けて消えた。


 光が徐々に小さくなり大気に消え……周囲が再び赤い空の光に照らされ始める。

 全てが元の色へと戻った時……ただ静かに、風の音が虚しく響き渡っていた。


 風が大地を煽り、乾いた土を巻き上げる。


 勇はそんな荒野に一人、仰向けに倒れていた。

 光を受けて焼けた目が見開き、口が開けっ放しとなったまま動かない。

 息はしているが……その顔はまるで死んだ様な蒼白な顔付きであった。


「ゆ、勇……」


 その傍へ勇の父親がヨロヨロとふらつきながら近づいていく。

 辛うじて大事は無かったのだろう……僅かに出血が見られる程度だった。


 その時、勇の体がピクリと動く。


「ア……アア……」

「ゆ、勇!?」


 すると突然震え始め、彼の開いた口から震えた呻き声が上がる。


「アァ……アアアアアアアッ!!」


 そして見開いた目を掻き毟るかの様に……その両手でガリガリと顔を引っかき始めた。


「や、やめろ!! やめろお!!」


 父親が体で圧し掛かり、顔を掻き毟る勇の手を力一杯に抑え制止させる。


「アアアッ!! アア……アアアアアァァ!!?」


 勇の目からは涙が溢れ、苦しみを物語る……彼は目が痛くて苦しんでいるのではない……その瞬間を見届けてしまった目が憎かったのだ。


 潰してしまいたいと思う程に。




 エウリィが光に包まれた瞬間、感覚鋭化によって彼は全てが見えていた。


 光に包まれて消える直前……彼女はそっと勇に振り向き目を合わせた。

 振り向き様の青い左目が彼の目と合った瞬間……彼女の体がドロリと溶けて蒸発していく瞬間を彼は見えてしまっていたのだ。




「アアアアアアアアアアアアーーー―――!!!」




 勇の叫びが夕日を前に木霊する。

 勇達を迎える様に遅れてやってくる福留達。

 しかしそんな彼等を前になおその声は止むことなく……。


 その苦しみが……その悲しみが……全ての負の感情がその叫び声に包まれ空の彼方へ消えていった……。




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