~最強と伝説、その力の差とは~
「あれが勇殿の為の魔剣なのか……!?」
マヴォ達が堪らず視線を勇に奪われる。
ヘリコプターが再び空の彼方へ飛び行く中で。
それ程までに凄まじかったのだ。
威力も、秘める力も何もかも。
離れていてもすぐわかるくらいに強い力だったから。
「だ、だがあの様な得体の知れぬ魔剣など、我等がサヴィディア様の【クァファルシェ】と比べれば所詮――」
「何ッ!? あれが【クァファルシェ】だとおッ!?」
「そ、そうだ! あの伝説の魔剣、【古代三十種】が一振りだあっ!」
「それであの実力という訳か……!!」
しかしどうやらサヴィディアの持つ魔剣も相応に強力な物だったらしい。
【古代三十種】と言えば、あの【大地の楔】と同じシリーズなのだから。
古より伝わる強力な魔剣の一つで、普通の魔剣よりもずっと強いという。
だからあれだけ強かったのだ。
おまけにそれを扱える肉体もあるからこそ。
その二つが重なればマヴォが敗れるのも不思議ではない。
「あの、マヴォさんっ! 勇は勝てるんですか!?」
「わからん! おまけにあの新しい魔剣がどれだけ強いか想像もつかんっ!」
「「「いいー!?」」」
「だが、そんな事は関係無いッ!!」
しかし例え武器の差であろうと、負けた事には変わりない。
それに勇に託した今はもう信じる他無いから。
途端、マヴォがその腰をドシリと落とし、胡坐をかく。
更には腕を組み、グッと顎をしゃくらせていて。
「なれば一蓮托生、俺は勇殿を信じるッ!! あの輝きが勝利を導いてくれると祈ってな!」
「であれば我等はサヴィディア様を信じるッ!!」
するとたちまち周囲の雑兵達もが真似する様に地べたへと。
いずれも全て先の殴り合いに参加していた者達だ。
もしかしたら妙な友情の様な物に目覚めたのかもしれない。
ともあれ今から巻き起こる再戦へ釘付けとなるのは必然か。
一切目を離せない戦いと成り得るからこそ。
最強の魔剣 対 伝説の魔剣。
果たしてその行く末とは。
【翠星剣】から伝わってくる。
その力強さが、今までに無い高揚感が。
〝思う存分に奮え〟という意志までもが。
そしてこんな力なんて感じた事も無かった。
今までの魔剣からはここまで力を与えられた事は無かったから。
あの【大地の楔】の恩恵でさえ、今を前にすれば些細と感じさせてならない。
今なら何だって出来そう、そう思わせるくらいに。
故に勇は何となしに一歩を踏み出していて。
その一歩だけで大地が割れ、亀裂が走り込む。
圧倒的な力が挙動一つ一つにさえそれだけの衝撃力をもたらしたのだ。
「行くぞ、ナイーヴァ王ッ!!」
「こぉいッ!! 人間の魔剣使ぁい!!」
そうして勢いのままに踏み出した時――全てはもう目の前だった。
なんとサヴィディアの額に、勇の膝が打ち当てられていたのだ。
たった一瞬で、見定める事さえ出来ぬままに。
「がッ……!?」
しかしサヴィディアはその最中でも目標を見失わない。
空かさず魔剣を奮い、直上の勇を狙い撃つ。
空中に居る以上、自由には動けないと踏んで。
だが、その認識は甘かった。
なんと勇は全て防いでいたのだ。
乱れ打たれる槍撃をいとも容易く。
それだけ速く、それだけ見切れている。
極限の命力がそれ程までの反応速度をもたらしたのだ。
しかもそれだけではない。
その中の一突を捉え、捕まえていて。
更には引き込み、サヴィディアごと持ち上げるという。
剣を持つ拳で再び頭部を殴り付けながらに。
「ぐがあッ!?」
その直後には青肩を蹴り、雷光の如く離れていて。
余りの威力に、サヴィディアの長身がまるでボールの如く大地を跳ねる事に。
おかげで先程まで綺麗だった光沢肌が泥まみれだ。
「凄い、これが【翠星剣】の力なのか……ッ!!」
圧倒的である。
周囲が動揺の声を漏らす程に。
「ぐ、ぐう、これが誓いの剣の威力……! 想像以上だ――だがッ!!」
その中でサヴィディアが立ち上がる。
幾ら泥にまみれようが構う事も無く。
再び槍を構え、闘志を見せつけていて。
ただ、それと同時に冷静さも取り戻す。
これだけ打ちのめされてもなお諦める事無く。
きっと今までも強敵と戦ってきたのだろう。
その上で苦戦しても凌ぎ、勝ち残って来た。
ならば今回もまた同様に凌ぎきって見せる、と。
その気概が命力を安定させ、集中力を生む。
先よりもずっと鋭く、何者をも逃さない為に。
だがそんなサヴィディアの目前に、もう勇は居た。
それも煌々とした魔剣を振り翳しながら。
ギャギャァァァーーーンッ!!!
直後、凄まじい衝撃音が鳴り響く。
勇の斬撃が槍柄と打ち当たった事によって。
しかも成し遂げたのは回転斬撃三連。
レンネィの斬撃にも勝るとも劣らない連撃で。
その余りの強さに、サヴィディアの身体が大きく仰け反る事に。
「だがしかぁしッ!!!」
ただ勇のいる位置はまさに懐そのもの。
ならばと自慢の竜巻連撃が空を裂く。
故に、まさしく空を裂いていた。
そう、誰も居ない周囲を。
「なん、だとッ!?」
当の勇はもう既に離れていたのだ。
あろう事か、仰け反ったサヴィディア本人の目の前で。
その魔剣に太陽の如き輝きを灯らせながら。
「おおおおーーーーーーッッッ!!!!!」
「くぅおおおーーーーーーッッッ!!!??」
【翠星剣】版、【天光杭】である。
しかしてその輝きはもはや【大地の楔】のそれを遥かに凌駕する。
まさしく太陽そのもの、視界一杯を埋め尽くさんばかりの巨大さだ。
その力が今、大地を穿つ。
グゴゴゴゴッッ!!!
余りの威力に、大地が砕け散る。
打ち上げられた岩が、土が、消し飛びながら。
眩しいまでの光をも周囲へと弾き飛ばす中で。
そしてその一瞬で周囲の者達が目を見張らせる。
例え眩しかろうと見えてしまったその瞬間を。
結果はなんと――相打ち。
【天光杭】は外れるもサヴィディアの右下半身表皮を削って。
躱しながらの反撃一突が勇の腹脇を抉っていたという。
どちらも致命的とは言えないが、相応に深い傷だ。
「うああッ!?」
「ぐぅぅッ!!」
かつ、どちらも受けた威力が凄まじかったからこそ弾かれて。
二人とも大地へ再び転がる事に。
勇もまだ圧倒的な力を扱いきれていないのだろう。
それで技を放った時の隙を突かれてしまった。
サヴィディアの経験の為せる業と言えよう。
これで負った傷は同等。
例え勇が強力とはいえ、サヴィディアも負けてはいない。
力が劣る分を経験で補えるからこそ。
ならもしかしたら、まだ勇が負けてしまう可能性も棄てきれない。
この時、勇は自らそんな答えを導き出していた。
身を持ち上げるその最中で、歯を噛み締めながら。
〝これじゃあ最強の魔剣を造ってくれたカプロに申し訳が立たない〟と。
そんな悔しさが地面を握らせていて。
立ち上がろうとしながらも、掴み取った土を握り潰す。
〝なら抵抗出来ないくらいにもっと強い力で倒せれば〟と思いながら。
「――ッ!?」
しかしこの時、勇は思い出す。
抵抗出来ないくらいの力――その片鱗を。
いつか目の当たりにしたあの力を。
あの美しかったと思わせる程に印象的だった光景を。
そして今だから思う。
〝あの剣聖が成した力だって、今なら引き出せるのではないか〟と。
叶う算段なんか無い。
でも、成さねばこのままでは負けてしまうかもしれない。
そんな事だけは絶対に許されないから。
〝なら、圧倒的な力でねじ伏せればいい〟
その意志のお陰で今、勇は吹っ切れる事が出来ていた。
今思い描いた力を躊躇せずに奮ってみせると。
例えどんなに卑怯なのだとしても。
例え決闘に相応しくない攻撃なのだとしても。
皆が生き残る為にも、もう手段は選んでいられないのだから。




