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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第二節 「知る心 少女の翼 指し示す道筋は」
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~知らぬ間の、力の成長~

 結局、剣聖は勇の家へと戻る事となった。

 さすがに事故を起こして怪我も負ってそのまま、という訳にもいかないので。


 そんな訳で現在は運ばれて勇のベッドの上に。

 居合わせた人達に搬送を協力してもらったお陰である。


 ちなみに、事故を起こした運転手は一先ず帰ってもらった。

 幸いにも素直な人だったので、連絡先交換だけして。

 現状、警察も救急隊も呼べない状態だからだ。


 とはいえ、今は警察に頼らなくて正解だったのかもしれない。




 それは剣聖が、恐らくこの国の人間ではないのだろうから。




 そもそもこの世界の人間であるかどうかも疑わしい。

 〝そんなファンタジーな出来事が〟と馬鹿に出来ない状況だからこそ。


 なら今は事情を知る勇達だけで何とかした方がずっといいだろう。

 それに剣聖の事だ、いざ警察と鉢合わせしたら大暴れしかねないので。


「剣聖さん、荷物また外に置いときましたから」


「おぉ、あんがとさん」


「アレ一体何が入ってるんですかぁ……台車二台使ってやっと運べるレベルでしたよ?」


 今もそう思えるくらいには元気そう。

 あれだけの事故を起こしたにも拘らず。


 もっとも、その足はと言えば痛々しい限りだが。

 勇の父親による素人処置の様相が助長してなおの事。


「はぁ~、しっかしなんだってまぁあんなもんが飛んでくるんだぁよぉ」


 そんな剣聖から突風の如き溜息が吐き出される。

 どうやらトラックとの衝突が随分なトラウマとなったらしい。

 何せあれだけ意気揚々と飛び出した挙句にこのザマなのだから。

 面子に拘ってそうなこの男なので、きっと内心は赤面モノに違いない。


 陰鬱な空気を撒き散らす剣聖を前に、勇も何だか居た堪れない。

 更には背後でその雰囲気を助長する相手も居るので。


 そう、ちゃなである。

 何故か彼女、現在は勇の部屋の片隅に座り込んでいて。

 まるで今の暗い雰囲気にじんわり馴染むかの様だ。

 このまま影の一部になってしまいそうなくらいに。


「田中さん、何でそこに?」


「だ誰か看てた方が、良いと、思って……」


「そ、そう」


 その理由は何となくわかるのだけど。

 にしてもなんで部屋の片隅なのか。

 これには〝椅子にでも座ればいいのに〟などと思わずには居られない。


 ともあれ、そんなちゃなは一先ずそっとしておいて。


「……あんなのに突っ込まれたら普通死んでますよ。 生きてる剣聖さんが凄いんです」


 唸りを上げる剣聖に励ましの一言をそっと添える。

 なんだかんだでやっぱり痛々しいし、勇としては陰鬱なのも嫌なので。


 しかし『凄い』という言葉がたちまち剣聖を調子付かせる事に。

 たちまち勇へ「ニカッ」としたいじらしい笑みをヌイッと向けさせていて。


「お? そうだろう、そうだろうよぉ。 俺ぁあの程度じゃあ死ぬわきゃねぇからなぁっはっは!! んぉ、あでででっ!!」


 で、その途端のこれである。

 これでは余裕なのか強がりなのか。


「調子に乗らないでくださいよ。 体のどこを痛めてるのかわからないんですから」


 さすがの勇もこれには呆れを隠せない。

 そこから生まれた辛辣な返しが、剣聖の顔にしかめっ面を呼び込む。

 言い返さない辺りはきっと図星だからに違いない。


 そんな剣聖の変わり替わる顔を前に、勇の背後からクスクスとした笑い声が。

 どうやら顔芸がちゃなにはツボだったらしい。

 お陰で陰鬱な空気はどうにか払拭出来た様だ。


「あ~~くっそぉ、もう()()以上も骨折なんてしてねぇからこんな痛みなんて忘れてたぜぇ」


 ただ、それだけで事は済まなかった。

 ポロっと漏れた衝撃的な一言が勇やちゃなを驚かせた事によって。


「ひゃ、百年って!? 剣聖さん歳いくつなんですか!?」


「あぁん? え~っと確か、大体三百二十歳くらいだったかなぁ」


「は、はぁ!? 三百二十って、本当にそれ……剣聖さん人間なんですか!?」


 それは嘘か(まこと)か。

 桁違いの年齢ゆえに、聞き流す事さえ叶わない。


 とはいえ、やはりこうして口だけだと眉唾モノで。

 途端、勇が疑念のままに据わり目を向ける。


「んなぁの俺が特別だからに決まってらぁな。 ツテテ……命力を極めりゃ寿命伸ばすくらいどうとでもならぁ」


「にしたって、そんなに生きて何をしようとしてるんですか」


「魔剣を極める事に決まってるだろうが。 魔剣使いったぁそれが最終目標みたいなモンなんだからよぉ」


「魔剣を極める……? うーん、そういうもんなのかな」


 おまけに言うと、長生きする目標もイマイチ具体的じゃなくてわからない。

 〝魔剣を極める〟とは一体どういう事なのか、と。

 余りにもざっくり過ぎて実感さえ湧きはしないという。

 勇はまだ魔剣初心者だから理解出来ないのも無理は無いけれど。


 とはいえ興味が無い訳でもない。


 勇自身、そんな目標を持つ事の強さは良く知っている。

 ただ竹刀を思い通り操る為に一心不乱と振り続けた当人だからこそ。


 故にこんな想いが駆け巡る。

 〝いっそ剣聖さんの言う様な目標を立てた方が良いのかもしれないな〟と。


 寿命云々はともかくとして。


 大体、勇はそこまで長寿な人種や知的生命体など聞いた事など無い。

 知っているとしても精々空想上の生物くらいだろう。

 詰まる所の、ファンタジー作品によく出てくるエルフなどといった種族だ。

 しかしそれも生物的特徴であって、鍛錬で寿命を延ばした訳では無い。


 となると、魔剣を極めるというのは身体を鍛える事にあるのだろうか。


 だとすれば剣聖が今生きている事も辻褄が(なんとなく)合う。

 一〇tトラックに正面衝突されれば、普通なら漏れなく昇天(異世界転生)確定だろうから。

 その様な都市伝説すら軽く跳ね退ける剣聖の強さはもはや人外の領域だ。

 まるで異世界(?)から来れば帰る事の出来ないフラグが立つと言わんばかりの。


 そう、剣聖は別の世界から来たのかもしれないのだ。

 魔剣や魔者といった、現代には無い特徴を持ったファンタジーな世界から。

 それもあの大地震をきっかけにして。


 そうとしか思えなかった。

 それが当事者としては一番しっくりきて、納得出来るからこそ。

 

「しっかし参ったな、あいつらだけでやれるもんかちっと心配なんだよなぁ」


 ただ、こうして言葉も気持ちも通じる事だけは説明が付かないが。


 途端に剣聖が天井を見上げて虚無に語り掛け始めていて。

 またしても唸る様な溜息が零れる。


 浮かない顔を見せる辺り、冗談では無さそうだ。


「そもそもなんで剣聖さんはあそこに居たんですか? もしかしてあの魔者を退治する為に?」


「まあそんなこったな。 だがあいつらだけじゃあ荷が重いってんでまぁ俺も出張ったんだが……かぁーっ、情けねぇなぁほんとによぉ」


 遂には恥ずかしさの余りにその手で頭を抱えていて。

 大きな口を項垂れるがままにパックリと開いて悔しがる。


 その情けない有様を勇の隣でも包み隠す事無く見せてくれる。

 こういった弱音を見せる潔さも剣聖らしさの一つなのだろう。


 するとそんな時、顔を覆っていた手が突然「ガバリ」と持ち上がって。

 「おっ!」と何かを閃いた様な顔を覗かせる。




「んん~、そうだおめぇ、ちょっくらそいつらに俺がこうなってるってぇ事伝えに行ってくんねぇか?」




 そして放たれた一言は余りにも唐突で。


「え、俺がですかあ!?」


 突然の話が勇を堪らず驚かせる。

 思わず声が裏返ってしまう程に。


 そんな反応を見せるのも無理は無い。

 伝えに行くという事はつまり、再びあの死地へ戻るという事に他ならないのだから。


 死と血の匂いが漂う、魔の潜みし地獄へと。


 勇もさすがに戸惑うがまま、顔をしかめた困り顔を見せていて。

 しかし、そんな事を言う剣聖からは不安の欠片も見受けられない。


「おめぇならもう雑魚くらい多少はどうにでもなるだろぉよ?」


「そ、そういうものかな」


 こうも言われれば勇の戸惑いは深まるばかりだ。


 何せ、そんな事を言われても勇には当然そんな実感など無い訳で。

 戦闘能力が上がったかどうかなど実際に戦ってみなければわかるはずも無い。

 体力が上がっている事は間違いないのだが。


 不安が募る。




 だが剣聖の見立てが世辞では無く真実ならば、もしかしたら。




 そんな期待もが勇の中に膨らんでいく。

 不安にも負けないくらいに大きく。

 たった一日魔剣を持ち続けただけでこう言われたならば、と。


 だからこそ拳を強く握り締める。

 今までと変わり映えの無いこの拳が、今はどれだけ強くなっているのだろうかと。


 試したいと思わずには、いられなかったのだ。

 別世界の超人が示した自信の根拠を確かめる為にも。




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