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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第二節 「知る心 少女の翼 指し示す道筋は」
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~お前には、才能が無い~

『続いて、土地変容事件の続報です―――』


 勇達がリビングで朝食を摂っている最中の事。


 男性キャスターの真面目な声が部屋一杯に響く。

 勇達が見ているのは当然ニュース番組だ。


 しかしいつも見ている様な番組とは違う。

 先日の事件に関する情報を発信し続ける特集番組である。


 先日からこの話題は留まる事を知らず。

 今の今までずっと同じ様なニュースが放送され続けていた。


 そんな番組が放送され続けるのは大抵、大型災害や大事件があった時くらいだ。

 つまりはそれ程までに事態が深刻だという事なのだろう。


『現在多くの被害が発生していると思われる東京中央部の指定地域に対し、一時的な避難勧告が発令されています』


「あ、やっぱり避難出てるんだ。 でも渋谷、目黒(めくろ)周辺だけか。 やっぱそこまで広くないんだな」


 画面には東京都の変容した地域、及び避難区域に指定された地域が映し出されていて。

 その領域は比較的広域ではあったが、東京中心部全体という訳ではなさそうだ。

 渋谷はどちらかと言うと端寄り、変容区域中心は渋谷よりも南側に位置しているらしい。


 そんな区域の表示を、ちゃなもまた静かに見つめ続けていて。


「結構な地域が範囲じゃないのこれ? 都市機能大丈夫かしら」


 懸念が母親の独り言を誘う。

 珍しく動揺しているのだろうか、周りにも聴こえる様な大きな声で。

 

 確かにこうなると交通機能などに支障は出てくるだろう。

 よく見ると警察や消防等の対応が困難になっているともテロップで表示されている。


『非公式の情報ですが、元渋谷付近に出現したと思われる謎の生物への自衛隊の攻撃が開始されるとの情報もあります』


「あら~こんな非公式な情報出していいのかしら」


「いいんじゃない? 自衛隊があいつらを片付ければすぐ元通りだろうし」


 謎の生物というのは恐らく魔者の事だろう。


 例えそうだとしても、軍隊が動けばきっと何の問題も無い。

 幾らなんでも銃弾を受けて死なない生物など居るはずもないから。

 そんな考えが勇達にあるからこそ、こうしてゆとりを持つ事が出来るのだ。


 だがそれを覆さんとばかりに野太い声が響く。


「そぉ簡単に行くもんかねぇ」


 咄嗟に勇達がその元へと目を向ければ、剣聖の体がもそりと動いていて。

 天井に付きそうな程の大きな体を「よっこらせ」と起こさせる姿が。


 起きた顔がすっきりしている辺りはよく眠れたのだろうか。

 首を左右に振る軽いストレッチが鈍い音を「ゴキゴキ」と響かせる。


「『ジエイタイ』ってぇ奴は、【マケン】でも、持ってんのかよぉ?」


「それはさすがに持ってないと思いますけど」


 その話の最中でも、勇の母親が剣聖へとコーヒーカップを差し出していて。

 ホットコーヒーが淹れられたカップを摘まみ取り、口の中へと流し込む。


 そしてそのまま「ブファー」と深く息を吐き出すと―――




「じゃあ無理だぁな」




 その一言を添え、半目に開いた眼を「ギロリ」と勇へ向ける。


 おまけに手元の机に置かれていた朝食を皿ごと持ち上げ。

 指を使って流し込む様に口に放り込んでいくという。


「わお豪快っ」


 その喰いっぷりは性格を表すかの如く。

 もっとも、その図体に朝食の量が見合っていない訳だが。


コトリ―――


 間も無く机へと皿とカップが置かれて。

 向けた瞳が更に怪しさを増す。


 勇も妙な迫力を前に、ただただ気圧されるばかりだ。


「魔者って奴ぁ、【マケン】か【メイリョク】を使った攻撃以外じゃあ傷をつける事すら叶わねぇ。 これぁそういう仕組みになってンだ」


「え……」


「それ以外でなぁ傷つけようとしても、奴等の体にゃあ壁みたいなのがあってなぁ。 どんな攻撃をしようがそいつが防いじまうのさ」


 魔者という存在はいわば人間の天敵。

 それはつまり人間の力だけでは倒す事は愚か、傷一つ付ける事も叶わないからだという。

 しかし魔者は人間を軽々と殺す事が出来る。

 不可逆の節理が魔者の存在を天敵にまで押し上げたのだ。


 だが対抗出来ない訳ではない。


 剣聖が言う【マケン】―――【魔剣】こそが魔者に対抗出来る武器だという。

 先日勇が倒せたのも、貰った【エブレ】が魔剣だからだそうだ。


 そして勇がまた一つの聞き慣れないキーワードに疑問を持つのは必然な訳で。


「その、【メイリョク】って何なんですか?」


「あぁん? まぁた教えてってかぁ!?」


 勇の懲りない質問で、またしても剣聖の面倒そうな態度が露わに。

 とはいえ状況が状況なだけに、答えざるを得ない様だけれども。


「ったく、しゃあねぇなぁ。 【メイリョク】ってのは命の力ってことだ。 魔剣はその力で強化されてんだぁよ。 珠が付いて光ってんだろうが。 それが【命力】だ」


 そんな話を前に、勇はふと腰に下げていた魔剣を取り出す。

 すると珠の淡い輝きがすぐ目に留まって。


 最初は陽の光で輝いていたと思っていた。

 中の波打つような光も気のせいかと思う程に淡かったから。

 でも改めて見てみれば、その光は無味な照明に反して蠢き続けていて。

 まるで光そのものが生きているかの様にすら見えてならない。


 もしかしたらこの輝きが剣聖の言う【命力】という力なのだろうか。


「命力ってなぁてめぇが自前で持ってるもんだが、魔剣を使う事でその力を鍛えて、魔剣はその力を吸って力に変えてるんだぁよ」


「ど、どうやって……?」


「あ~もぉ~どうだっていいだろうがよぉ~そこまで知ったって何の意味もねぇだろうがよぉ!!」


 しかし肝心な所でいつもの癇癪である。

 この先はどうやら聞けそうに無さそうだ。


 だがこの話により、勇は常に帯刀する事の意味をなんとなく理解する事が出来た。


 剣聖が常に帯刀する事を勧めた理由―――

 それは魔剣を帯刀し続ければ、その期間が長ければ長いほど命力を鍛えられるからだ。

 命力が強くなれば、更に魔剣は切れ味を増すのだろう。

 結果強くなる事が出来るのだと。


「まっ、おめぇみたいに才能の無い奴が勝れるとしたら、本当に死ぬ気で魔剣を振り続けるしかないんだけどなぁ」


 そんな思考を浮かべて間際の発言が、勇を現実へと引き摺り出す。

 するとたちまち「ムッ」とした表情が浮かび上がる事に。

 それどころか今度は勇が剣聖に向けて鋭い視線をぶつけていて。


「才能が無いって、そんなのどうやってわかるんですかね」


 どうやら「才能が無い」と言われた事が癪に障った様だ。

 半ば怒り(半ギレ)気味の強い口調の声が堪らず吐き出される。


 対して剣聖はと言えば―――「ニタニタ」と意地悪い笑みを浮かべている訳だが。


「んなの最初に体付き調べた時からに決まってるじゃねぇか。 俺ぁ調べたい奴触るだけで大体のそいつのポテンシャルがわかんだぁよぉ」


「あ……」


 先日魔剣を渡す前に触診していたのは命力を調べる為でもあったらしい。

 そう考えると、最初に剣を振ってみた時の反応も辻褄が合う。


―――よぉし、まあそんなところだろぉよ―――


 魔者を倒した時には見えていた光も、最初は全く見えなかった。

 つまり、見えない程に小さな光だったのだろう。

 それが詰まる所、才能の判断基準の一つだったという訳だ。


「俺、魔剣使いの才能無いのかぁ……」


「だからってへこたれてんじゃあねぇったく」


 どんな人間でも、こういうトコ位は才能に恵まれたいと思うもので。

 しかして残念な事実を前に、ただただ落胆して肩を落とす勇なのであった。




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