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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第二節 「知る心 少女の翼 指し示す道筋は」
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~心に宿る闇、恐怖の記憶~

 統也は、あの時の試合が一番「自分が楽しかったと思った時間」だと教えてくれた。

 そう打ち明けてくれた時、もちろん俺も同じだって答えたけどな。


 統也にとって、それまで楽しいと思った事は何一つ無かったそうだ。


 本気で打ち込もうものならあっという間に周りを追い抜いてしまう。

 そして追い抜かれた者はいずれも自信を喪失して去っていくのだという。

 それが続いて、アイツは努力する事を辞めた。


 本当は、打ち込みたかった。

 本当なら、皆と一緒に楽しみたかった。


 そして遂に見つけた。

 共に競える相手を。

 喜びを分かち合えるだろう友を。


 こんなに嬉しい事は無い……彼はそう心から思っていた。




 そう、教えてくれたんだ。






――――――

――――

――




 統也の笑顔が突然闇に消えた。


 無音の闇が続き、何も無い空間がじっと周囲を包む。


 ふわりと浮く様な感覚が体を包み込んでいた。


 すると、その体の周囲にとてもとても低く鈍い奇妙な音が微かに聞こえ始めてきて。


 ずぐぐぐぐ……


 ねっとりとした質感を持つ音が断続的に感覚を通して響いてきた。


 声が出ない。


 手足も動かない。


 ずぐぐぐぐ……


 音は次第に大きくなるばかり。


 視線だけが動かせる。


 ずぐぐぐぐ……


 思わず体を見下ろす様に視線を向けた。


 すると、水平線の彼方で何かがゆらゆらと揺れていたんだ。


 周囲は暗闇なのにハッキリと目立つ黒いもやの様な物が。


 ずぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ


 鈍い音が更に大きくなり、それに相まってそのもやも徐々に大きさを増していく。


 まるで留まる事を知らない様に、どんどんと増していく。


 そのもやを追う様に、視界だけが揺れ動いていた。


 ず……ぐぐ……おーん……おーん……。


 鈍く低い、粘り気のある音はまるで怨念を吐き出しているかの様だ。


 そんな不気味な声へと変わり果てていく。


 もやは果てしない先に見えるかの様だがそれでも視界一杯に広がる程に大きい。


 そしてそれは大きさを更に増し、遂には真上を覆う様に広がり始めていた。


 おおおおお……おお……おおおー……。


 うめき声の様にも聞こえる。


 ニゲロ


 ニゲロ


 統也の声が聞こえる。




 逃げろ!!




 その声が聞こえた途端、真上を覆うもやからとても巨大な眼が見開き……視線が合わさった。


 (まばた)きが出来ない。


 ずずずず………おーん…ぐぐ……ぼおお……。


 鈍い音が聴覚一杯に広がり始める。


 すると突然、巨大な眼が徐々に徐々に、こちらへ向かって近づいてきた。


 来るな……


 やめろ……


 よく見ると、その眼には隙間無く文字の様な奇妙な紋様が浮き出ていて。


 そんな不気味な眼が視界一杯に広がる。


 まるで自分を押し潰さんと言わんばかりに、何百倍も大きい目玉が迫り来る。




 止まらない。




 逃げられない。






――― タ ス     ケ テ ―――






――― ああぁぁーーーーーーッッッ!!!!!―――






――

――――

――――――




「かはっ!?」


 声とも思えぬ息を吐きだし、勇が目を覚ます。


 しきりに視線を周囲にやるが、どこを見ても自分の部屋に寸分変わりはなく。

 しいて言うなら日も登りきらぬ程の早朝で。


 気付くと体が小刻みに震えていた。

 寒い訳でも、痺れている訳でもない。


 それは恐怖による震えだ。


 先日の体験が悪夢となったのだろうか。

 しかしハッキリと悪夢の光景は思い出せ、その恐怖が脳裏に焼き付いて離れない。


 ふと気分紛れに時計を見れば、思った以上に早い時刻が刻まれていて。


―――まだ四時半か、なんだかもう眠れる気がしない―――


 既に眠気も晴れ、眠りたいという欲すらも残ってはいない。

 悪夢が何もかもをも取り払ってしまった様だ。


 夢の中で出来なかった分、瞬きをしきりに繰り返し。

 震えが落ち着くまではと、布団の中でじっとし続けていた。




 それからおおよそ五分程だろうか。

 次第に体の震えが止まり始め。

 荒げていた呼吸もようやく落ち着きを見せる。


 ふと布団の外を眺めれば、まだ眠ったままの父親の姿が。

 勇の立てる物音や声にも何一つ反応を示さないままだ。

 先日は色んな準備や〝象の掃除〟と奔走していたから、きっと疲れているのだろう。


 そんな父親を起こさぬ様にと。

 勇はゆっくりとベッドから起き上がり、そのまま部屋を後にしたのだった。




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