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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第十節 「狂騒鳥曲 死と願い 少女が為の青空」
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~来たるは期待の新装備~

 フェノーダラに滞在して二日目の夕方。


 夕食を終えて早々、皆で揃って座談会が開かれる。

 というのも夜間の飛行訓練は落下の恐れもあって危険だから。

 ならばと大人しく言葉を交わそうという事になった訳だ。


 とはいえ、昼間の運動で皆やはりクタクタで。

 ちゃなに至っては頭をフラフラと、もう今にも意識を落としてしまいそう。

 体力が以前より上がっていても、まだまだひ弱な事には変わりないから。


「―――という訳であり、一先ずの滑空戦闘に関しては大体の感触が掴めたと言っても過言では無かろう。 後は実戦形式で試さねばわからぬ事よ」


 しかしそんな中であろうともジョゾウは張り切っている。

 筆頭を冠するのも伊達ではなく、気力体力は他の皆より充実しているらしい。

 ……適度にサボっていたので言うほど消耗していない、という理由もあるが。


 ただ、言っている事自体は間違い無い。


 実際、ここまでの訓練でほぼほぼ基礎的な動作は習熟出来た。

 後残すは実機―――櫓とドローンを使っての模擬戦闘くらいだろう。

 勇がどれだけ自由に動けるかは実践してみなければわかりようもないから。


 幸い、部品は既に揃っている。

 現在別テントにて突貫組立作業が行われている真っ最中だ。


 ドローンに関してはまずは一〇機。

 間に合えば後二〇機は配備される予定だという。

 同時展開は出来ないが、予備機として充分な数と言えよう。


 櫓は本当に突貫品で、言わば材料の端材をかき集めたような感じ。

 棒やら板やらと、大きさ・形の整っていない物ばかりで。

 でもいずれもカーボンファイバー製と、特に軽量で丈夫な素材だ。

 おまけにそれらを縛る紐もチタン合金ワイヤーと希少金属をふんだんに使用している。

 炎に弱いという欠点もあるが、どちらにしろ一撃貰えばアウトなので逆に問題とはならない。


「杉浦殿よりもう間も無く完成するとの連絡も頂いた。 それが出来次第、一度飛んでみたいと思うておる。 真に休めるのはそれからよ」


 これらが完成したらすぐにでも担いで飛んでみたい。

 ジョゾウからはそんな意欲が垣間見える。

 まるで機器が完成するまで寝る事を許さないと言わんばかりに。


 そんな熱気振り撒く横では、勇とボウジのこそこそと語り合う姿が。


「やけに張り切ってるなぁ」


「ジョゾウは昔から新しい事に目が無い故な。 其が為に拙僧も若き時から幾度となく困らされたものよ」


「うーん、似た奴を知っているからその気持ちわからなくもない」


 しかもジョゾウの話を聞かされると、あのお騒がせ男(心輝)の事が脳裏に過るもので。

 遂には揃ってしみじみと項垂れ、声を唸らせて止まらない。

 どちらもそれだけ彼等の言動に悩まされ続けて来たという事か。


 でもそんな二人などジョゾウが気にする訳でも無く。

 盛り上がる話題は未だ残された問題にも波及する事に。


「特に、そろそろちゃな殿の攻撃手段もどうにかせねばならぬ。 何か妙案は御座らぬか?」


「うぅ~ん、弾丸(複合熱榴弾(コンポジットカノン))とか熱線(超高熱線砲(ヒートライン))みたいなのが反動無しで撃てたらなぁ」


 そう、ちゃなの攻撃の立ち回りである。

 飛行側の課題が解決してきた所で、ようやく勇達に課題が移って来たのだ。


 勇の戦い方は当然の事ながら、ちゃなの攻撃手段もまだ定まってはいない。

 一日二日考えただけではまだ良い案が浮かぶには至っていない様で。

 おまけに今は眠気も有るから頭も回らず、皆が揃って唸りを上げる事に。


「そういえば田中さん、前からやたら殺傷力に拘ってたけど。 何か思う所でもあるの?」


「えぇ~だってぇ倒せなくて襲い掛かってきたら嫌じゃないですかぁ~」


「田中さんって結構堅実なんだな」


 なのでその語り草もまるで酔っているかの様にろれつが回っていない。

 そもそもちゃなは飛行テストに関係無いので寝てもいいはずなのだけれども。

 多分これも健気なちゃなだからこその頑張りの形なのだろう。


 なおちゃなの見立ては間違いではない。

 彼女の弱点は近接戦闘にあり、攻撃性能が著しく下がる。

 【却熱幕布(ヒートヴェール)】や命力格闘という対処法もあるが、咄嗟には動けないので。


 だからこそ心構えは常に一撃必殺。

 それが叶えば誰も近寄れないし、安心出来るというものだ。

 もっとも、アージの様な強者と遭遇した場合はその限りとはいかないが。


「でも多分、今回はあんまり足場が安定していないから大きな攻撃は出来ないと思う。 それこそ長野(ウィガテ戦)で見せた、燃やすくらいの炎弾でいいんじゃないかな。 回避とかはジョゾウさん達がやってくれるし」


「そうれすねぇ~なら小さな炎の弾でも……(zzz」


 それに今回は移動を全てジョゾウ達に託す事となる。

 つまり、機動力のある砲台となる訳で。

 となれば一撃必殺に拘らなくてもいい。

 基本的には離れて戦い続けられるからこそ。


 そんな答えが出たお陰か、たちまちちゃなの意識が吹き飛ぶ事に。

 白目を剥いて意識を失っているので、その顔はとても見れたものではない。

 意志だけは残っている様で、まだ体は起こし続けてはいるけども。


「ちょっと田中さんを寝かしてきますね」


「あいわかった。 しばし休憩としようか」


 そう寝入ってしまったちゃなをそっと抱え、勇がテントの外へ。


 するとたちまち他の精鋭達もが揃ってバサバサと倒れ込む事に。

 やはり皆疲労の限界だったのだろう。

 気絶する所もこう揃ってとは、なんという統率感だろうか。


 一人残されたジョゾウとしてはとても複雑そうである。


「拙僧は長であるからして、最後まで倒れる訳にはいかぬ」


 こう言い訳するも、周囲を見渡せば誰も聴く者は居ない。

 それを察したのか、間も無く最後の一羽もポテリと地に伏す姿があったという。






 ちゃなを寝かし、勇が個室テントから這い出て来る。

 入念に布団と寝袋で覆ったので風邪を引く心配は多分無いだろう。

 もちろん理性を働かせて変な事はしていない。


「まだ二〇時くらいか。 俺はもう少し頑張れるかな」

 

 というより如何わしい思考が湧かなかったらしい。

 意識がもう戦いに向いているからだろう。

 だとすれば出来る事を求めてしまうのが勇という人間な訳で。

 寒い外であろうと構わず屈伸し、白い息を吐く中で準備運動を始める。


 フェノーダラ城付近は言わば隔離地、無関係者の目が一切存在しない。

 おまけに夜なので、多少は何があっても気付かれない。

 だから思いっきり体を動かすには丁度いい場所だと言えよう。


 勇ももうそのつもりの様で。

 魔剣をも取り出し、遂には手軽く振り回してみせる。

 光をハッキリと灯らせてる所は随分な気の入れ込み様だ。


 そうして暗闇に残光を引かせる姿はまるで踊っているかのよう。

 時に鋭く、時に緩やかな軌跡を描き、月明りに抗い舞っては瞬いて。

 これが本当の演舞で衣装もあるならば、きっと映える事だろう。


 でもその本質を知っている者なら、きっとそんな飾りなど無くても充分わかる。

 その輝きが、奮う人の強い想いを描いているという事などは。


 勇がそんな風に剣を振り回していた時の事。

 二台の車が遠くからライトを輝かせながら近づいてくる。

 先頭の一台は見慣れた白ボディと金の装飾を象るセダン車で。

 後に続く一台は大型のトレーラー車といった所か。


「もう夜だというのに精が出ますねぇ」


「あ、福留さん!」


 そう、福留だ。

 現作戦の事で相談してそれっきりだったのだが。

 二日目にしてようやく本人の到着である。


 剣舞を見せていた勇の近くへと車を止め、早速その姿を見せる。

 そうして見せた微笑みは相変わらず、ついつい笑みで返してしまう程に柔らかい。


「それを言うなら福留さんも夜分遅くじゃないですか。 忙しいのは相変わらずですね」


「ははは、本当はもっと早く訪れたかったのですがね。 あ、今の剣舞、実に素晴らしかったと思います。 邪魔してしまい申し訳ない」


 とはいえどうやらそう悠長に話している暇も無さそうだ。

 早速勇を車内へ誘う様に手を振っていて。

 勇も「なんだろう?」と思いつつも素早く助手席へと乗り込んでいく。


「すみません、この後も少し用がありましてね。 なので手短に説明をと」


「はい、なんでしょう?」


「ようやく新装備が形になったので、今回の作戦に運用して頂こうと思いましてねぇ」


「えっ!?」


 そう言うや否や、福留がすぐさま後部座席へと手を伸ばし。

 手に取った小さなジュラルミンケースをそっと勇へと差し出す。

 そのまま勇がパカリと開いて見れば―――


 その中には、小さな機器が三つ。


 手で包んでしまえる程にとても小さい。

 三角を描く様に象られており、その形に合わせてボタンが幾つか。

 ランプらしい微細なスロットも見える辺り、何かしらの精密機械と言った所か。


「こんな時の為に開発していた最新鋭の小型耳掛け通信機(インカム)です。 ようやく完成の目途が立ったので、早速試験運用も兼ねてこうして持って来たのです」


 いざ手に取ってみると、とても軽い。

 まるでプラスチックの塊を持っている様なそんな感じだ。

 でも指で強く摘まんでも変形する気配が無い程に頑丈で。

 福留がこう自慢げに話すのもわかるくらいによく出来ている。


 強いて言うなら少しデザインに難ありか。

 まだ金属部剥き出しの未被覆(ノンカバリング)状態なもので。


「これには重要な機密作戦にも従事出来るよう、最新の完全独立通信方式を採用しています。 これにより、無線などと違ってりアルタイム通話が遠慮無く出来る様になったという訳ですね」


「へぇ~……」


「おまけに基本通信は中継を必要とせず、インカム同士でやり取りが可能です。 また専用中継機があれば遠く離れていても殆どラグ無く会話が出来ますので、今回の様な作戦にはピッタリでしょう」


 しかしその性能は福留の折り紙付きという。

 北海道での作戦時に欲しくなったのもわかる逸品だ。


 今回は空での作戦がメイン。

 風の吹き荒れる中では実声が届くとは限らない。

 けれどこのインカムさえあればその心配も無いだろう。

 どれだけ離れていようとも、傍で喋っているのと同様に会話出来るのだから。


「―――とはいえ、申し訳ない事にこのインカムはまだ試作段階一号でして。 まだまだ課題も多く、一部機能にまだ不備があります。 受信同調器(アドトランサー)の小型化が間に合わず、今はまだ中継器を利用した通信しか出来ません。 通話性能自体は申し分ないのですがね」


 とはいえ機械も閃いたからとすぐに出来上がるものではない。

 最新の回線規格構築ともなると仕組みも一からと、上手く行かない事が多いのだろう。

 なら今日この日まで掛かってしまったのも仕方ない事だ。

 むしろこうして形に仕上げただけマシだと言える。


「ですので、出来れば無事に持ち帰って頂きたい。 今回の戦いでなら申し分ない運用データが取れそうですから」


「うーん、そう言われるとなんかスパイ映画の主人公みたいだなぁ……気を付けてみます」


「ちなみに中継器は後ろのトレーラーに搭載しています。 ドローン中継器にもなりますので、作戦決行時は杉浦三佐らが搭乗し、お二人とこれで通信を行いつつサポートする事になるでしょう」


 おまけにドローン用の準備も兼ね、対策は万端。

 後はこれらの機器が役立つかどうかが肝となる。


 となれば実践は早速、明日からとなりそうだ。


「ところで勇君、ご両親や心輝君達への連絡は済みましたか?」


「は、はい。 とりあえず学校は一週間休むって事にしておいてと伝えてます」


 何せ敵には平日も休日も無いのだから。

 少しも休んでいる暇なんて無い。

 学校に行く時間なんて今は。


 しかしその備えはもう済んでいる。

 ちゃな側も愛希を通して連絡済みだ。


 後はこの一週間の内にロゴウが来てくれる事を祈るばかりか。

 いや、実際は永遠に来ないで欲しい所だが。




 こうして新装備を託し、福留が一人帰っていく。

 彼には彼の戦いがあるからこそ。


 その去り行く姿を、勇はただただ静かに見つめ続けていた。

 福留の好意に応えたいと、心に思うままに。




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