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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第十節 「狂騒鳥曲 死と願い 少女が為の青空」
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~空への切符は人と魔者のこらぼれいしょん~

 今度の戦場は恐らく空。

 人類史としても類を見ない戦いの予感に、勇もちゃなも戦々恐々だ。


 しかし人単体を空に飛ばすなどそう容易い事ではない。

 何せ現代技術でも空高く自由に飛ばせた事は一度として無いからだ。


 航空機で運ぶ事は出来ても、鳥の様に舞い上がる事はまだ叶わない。

 仮に運んでも、空を飛ぶならせいぜい滑空膜服(ウィングスーツ)といった所か。

 でもそんな服を着て戦おうにも、きっとロクな戦いになりはしないだろう。


「戦闘機での輸送は物理的に不可能。 ヘリでの搬送・戦闘は炎弾の格好の的となるので現実的ではない」


「そういうもんなんです?」


「ああ。 小回りが利くと言っても限度があるからな。 鳥の如く柔軟に動けはせん。 おまけに大きいので、撃ってくれと言っている様なものだ」


 相手は単体で飛べる鳥型魔者だ。

 その俊敏性、機動性、反応速度やサイズなど、とても機械の比にはならない。

 おまけに相応の武器を持っているならヘリコプター側も対処のしようがないという。

 出来る事があるとすれば攪乱か、後方支援くらいだろう。

 ただ易々と討たれる可能性があると考えると、容易に人を連れて行く訳にはいかない。


「そこで拙僧らに妙案が御座る」


 するとそんな相談の折、ジョゾウがその大きな翼を杉浦へと伸ばす。

 どこか得意げに、ニヤリと小さな嘴を歪ませながら。


「敵は鳥、されど我等も鳥よ。 ならば我等が勇殿達を空に上げる、というのは如何であろうか」


 そう、こちらにも鳥型の魔者は居る。

 それも七人、自らを精鋭と名乗る戦士達が。


「出来るのか?」


「恐らくは出来ような。 拙僧らは里を守る衛士であるが故、鍛錬は怠っておらぬ。 人程の重さであれば大体二人分の力で【翼揚(イカラ)】―――舞い上がる事は出来よう。 滑空となれば一人でも恐らくは。 であるならこうはどうか」


 伸ばした翼でペンを催促しては杉浦から受け取って。

 それを器用に扱い、紙にスラスラと何かを書き込んでいく。


 そうして見せたのは、一・三・三の群で三角を描いた陣形だった。


「とはいえ如何な我等とてその状態で戦うのはいささか難が有り。 故に勇殿・ちゃな殿への割り当てを三人とし、一人拙僧が筆頭として【立頭二翼(タラバタシ)】の陣を敷く手が良かろう」


 続いてキュキュッという音と共に描かれたのは、紐らしき線に繋がれた勇達。

 その姿はまさに鳥のブランコに座って飛ぶ人間の様で。


「こうであれば空に舞い上がった後も戦えような。 並走滑空の訓練は既に履修済み、なれば我等に隙は御座らぬ」


 描き上げたジョゾウとしてはどこか自信ありげだ。

 仲間達と共に腕を腰に当て、自慢の鳩胸を張り上げる姿は実に壮観である。




「―――却下だ」




 ただしその間も無く、自慢の鳩胸はしおしおと萎んでしまう事となるが。


 そう答えたのは当然、杉浦。

 もちろん冗談でも何でもない、当人は至って真面目だ。


「確かにこれでならば空に行く事は出来るだろう。 だがこれでは藤咲氏と田中氏の戦う余地が無い。 足場が無ければ二人は戦えんからな」


「そ、そうであった……」


 それもそのはず。

 二人を飛ばす事に注視するあまり、戦いの事は全く考慮されていなかったから。

 鳥型であるが為の常識もあって理解が及ばなかった様だ。


 とはいえ、この作戦全てがダメだという訳ではないらしい。


「そこで一手を加えてはどうかと思う」


 すると杉浦がもう一本のペンを取り出し、ジョゾウの描き絵に追筆していく。

 おまけに拡大図の様に、三人組側を詳細に描き上げていて。

 そうして出来上がったのは、三人が担ぐ何かしらの物体。


 (やぐら)である。

 それも神輿の様に担げそうな感じの。


「藤咲氏と田中氏それぞれを乗せた櫓を各三人二組で運んでもらう。 そうすれば足も付き、四方八方自由に立ち回れるはずだ」


 つまり櫓ごと空に飛び、二人の足場とする訳で。

 これなら座って飛ぶよりはずっと戦い易いはず。


 ただ、これだけだと他にも色々問題がある訳だが。


「しかしそうは言うが、これ程の物を浮かせるのは我等とて至難の業よ。 それにこれでは拙僧らが自由に立ち回れぬ。 それでは勇殿の機動力を損なわせる事となろう」


 ジョゾウは恐らく、空中での勇の足場にもなるつもりだったのだろう。

 そんな足場さえあれば、例え空だとしても勇の戦う余地があるから。

 おまけに【鋭感覚】もあれば踏み外す事は早々無い。


 でも櫓を担げば機動力が落ち、分散も出来なくなる。

 基礎台座があっても飛び移る先が無くなるのだ。

 ジョゾウはそれを懸念しているらしい。


 だがそれも杉浦の想定内に変わりは無いが。


「その点は承知している。 そこで我々の装備の出番という訳だ。 これを見て欲しい」


 そうジョゾウ達が唸る中、自衛隊員から一枚のタブレットが差し出される。

 そっと机の上に置かれたその画面に映していたのは、とある機械だった。


 四つの脚が四方均等に伸び、その先に回転翼(ローター)らしき物が。

 胴体は薄く広く、それでいて比較対象の人間と比べて同様程に大きい。

 となればこれが何なのか、わかる人はもう思い付いたのではないだろうか。


「これは物資搬送・偵察を目的に製造された高性能浮遊型(フローター)ドローンだ。 それなりに大きく、搬送力も高い。 スペック上は雲の上でも航行可能としている。 これならば櫓を牽引して空まで運ぶ手伝いが出来るだろう」


 そう、現代技術の誇る無人飛行機、ドローンである。


 しかも市販されている様な玩具とは訳が違う。

 軍隊用の最新技術が組み込まれた、作戦導入に耐えうる性能を誇っている代物だ。

 お陰でサイズこそ並々ならないが、今回は逆にそれが長点となる。


「後は空で切り離し、藤咲氏の足場代わりに使う事が出来る。 また囮や盾にもなるだろう。 おまけに無人機だからな、幾ら落とされても我々は痛くも痒くもない。 コイツを出来るだけ多く調達し、共に空へと飛ばす。 航行継続時間こそ短いが、その点は入れ替えで何とかしよう」


「「「おお!」」」


「櫓の重量も心配する必要は無い。 現代人の技術を舐めないで頂こうか、フフフ」


 そんな事もあって杉浦の顔に思わず不敵な笑みが浮かぶ。

 装備の性能に余程の自信があるらしい。


 しかし確かに、これならば機動性を維持したまま勇達も戦いの幅を広げる事が出来る。

 まさに現代装備と魔者のコラボレーションが生み出した画期的な作戦と言えよう。


 考えればこうも浮かぶものだ。

 きっと先人もこうして新しい事に挑戦して技術を磨き上げてきたのだろう。

 ならば人が空を飛ぶ事も夢ではないかもしれない。

 その可能性の一歩をジョゾウ達が後押ししてくれたのだから。


 もっとも、人類だけの力でも出来ない事では無さそうだけども。


「じゃあそのドローンだけで空を飛ぶ事も出来るんじゃないです?」


 勇もそう思ったらしい。

 牽引出来る程の出力を誇っているなら、人くらいは運べそうだと。

 ならジョゾウ達の代わりにドローンで飛べば、彼等がそのまま戦力になるかも。


 そうすればもっと勝率は上がるかもしれないと。


 しかしこれは結局素人考えでしかない。

 機械の何たるかを知らないからこその。


「そうだな。 その辺りの細かいやり方はこれから実践を踏まえてもう少し詰めて行きたい所だ。 だが戦闘時となれば話は別だろう」


「何故です?」


「先程のヘリの話同様なのだが、機械を過信し過ぎるのは良くない。 足場としては使えても、咄嗟の行動には難がある。 遠隔操作になるからな、機動性は無いと思ってくれていい」


「そうか……じゃあ基本はやっぱりジョゾウさん達に乗るしかないんだな」


 最新鋭のドローンであろうと、やはり人が遠くから動かすとなれば動作は単調となる。

 映す映像に遅延(ラグ)もあれば、操縦者の反応速度もあってリアルタイム動作とはいかないから。

 これが遠隔操作技術の抱く最大の難点の一つと言えよう。


 機械は生物には未だ敵わない。

 この関係を覆すにはもう少し時代の進歩が必要そうだ。


 とはいえ道は見えた。

 空戦を行う為に必要な準備もこれなら出来る。

 そうわかったからこそ、勇達にはもう憂いは無い。


 後はその作戦が遂行出来るか実証するだけだ。


「よし、では早速物資と装備の調達に入る。 二人はジョゾウ氏達と共に空を飛べるかどうかの実証と訓練を頼む」

 

「「りょ、了解!」」


「フフ、気張らなくていい。 君達は軍人ではないからな。 だから私もある程度は気楽にやらせてもらうとしよう」


「「は、はいっ!」」


 ロゴウ達がいつやってくるかはまだわからない。

 今日来なくとも、明日にはやって来るかもしれない。

 だからこそ勇達は課せられた役割を果たす為に急いで走り回る。

 少しでも準備を整え、未曽有の被害を避けて勝利を収める為に。




 こうして勇達の戦いに向けた準備が本格化した。

 栃木市を、関東を守る為の戦いへと向けて一心に。


 この様な事態になっている事を人々は知らないし、知る事は無いだろう。

 そんな人々を戦乱に巻き込む訳にはいかない。


 それ故の重い覚悟と決意を以て―――勇達は挑む。 




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