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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第十節 「狂騒鳥曲 死と願い 少女が為の青空」
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~次なる戦地はかの空よ~

 勇達が再び集まったのは隣の中継基地用テント。

 打合せなどに使う為に用意されたスペースだ。


 その中には打ち合わせ用の机とパイプ椅子が既に並べられていて。

 早速、勇達が指示されるがままに順々と座り込んでいく。

 ジョゾウ達が座る時に正座となるのはもはやご愛敬か。


「ではまず敵の戦力を知りたい。 その上で展開する装備も変わってくるのでな」


「承知。 敵は拙僧らと同じ【カラクラ族】で頭領の名はロゴウ。 その他七~八人程の僧兵が付き従っているハズ。 ちなみに僧兵と言うても神に従う僧ではなく、主を敬う者として―――」


「余計な情報は必要無い。 要点だけを伝えてくれればそれでいい」


「失礼仕った。 なお総人数に関しては定かでは御座らぬ。 混乱に乗じての出立であったが故な」


 そんなジョゾウ達の雰囲気も、自衛官が絡むとたちどころにして律される事に。

 もっとも、今に限っては真面目な方が良い訳だが。


「その他に出て行った偉い人達と合流する可能性は無いんです?」


「恐らくそれは御座らぬ。 出て行った賢人とロゴウは元々馬が合わぬ故。 加えて出立時期もズレているからこそ。 賢人達は一週間ほど前に、ロゴウはつい三日前に御座る」


「では敵は総数十人以下の小中隊クラスと想定しよう」


 唯一立つ杉浦が主体となり、机一杯に敷かれた紙へ要点を書き込んでいく。

 また補佐の隊員が裏で議事を取り、内容を漏らさずPCへ打ち込んでいて。

 その様子からは緊張感が溢れ、感化された勇やちゃなにも緊張感が。

 ここでようやく戦いのスイッチが入ったらしい。


 となればやはり気になるのは相手の能力で。


「でも元王って事はやっぱり……」


「うむ。 ロゴウは恐らく、魔剣を有しておる。 それもカラクラの至宝というべき魔剣を」


「至宝? つまりそれだけ強力な武器という事か。 だが〝恐らく〟とは?」


「かの魔剣は一族の至宝ゆえ決まった所持者がおらぬ。 しかし先日何者かに奪われてしもうた。 そしてその混乱に乗じロゴウが旅立ったのである。 なればロゴウが持っているのも自然というものよ」


「なるほど。 その魔剣でフェノーダラを落とすつもりだったんだな」


 予想通りの答えに、勇もちゃなもその顔を渋らせる事に。


 どうやら一筋縄ではいかない相手な様だ。

 しかも彼等に有利となる特異性を持った様な。


 でなければ至宝となど呼ばれはしないのだから。




「その魔剣の名は【オウフホジ】。 大木をも瞬時に焼き尽くす獄炎を放ちし大筒である」




 その能力はまさに宝と言えよう。

 それも、空を飛べる【カラクラ族】にとって至極とも言える戦術兵器として。


「大筒……つまり携行砲か!?」


「左様。 拙僧も実射した所を見た訳では御座らぬが、言い伝えにはかつての大国オーダラをその一本のみで焼いたという程の力を有しているという」


 満を持して放たれた正体を前に、勇さえも驚愕を隠せない。

 それも当然だ。

 あのフェノーダラ王達が怖れた古の悪夢、それを体現した魔剣が迫っているというのだから。


 ならば最悪の場合―――栃木市がかつてのオーダラと同じ運命を辿りかねない。


「で、でも昔のオーダラって国は油を撒かれて焼かれたって―――」


「それこそが【オウフホジ】の本領よ。 かの魔剣は油気を撒き放ち、それを軌道として火を放つ。 それ故に消耗する命力も火種分のみと少なく、それでいて増幅されし破壊力は他をも圧倒しよう」


「私の炎弾とどっちが強いのかな」


「しかも恐ろしい所はそれを空から放てる事にあろう。 魔剣そのものも軽く、我等が飛びながらでも持てるという話よ」


「え、空から……」


 しかも空からでも放てるという。

 すなわちそれは無反動兵器だという事で。

 まさしく伝説の通り、空からの油と炎による空爆を可能としているらしい。

 威力に特化したちゃなの砲撃とはそもそもの基準が違う。


 だとすると非常に厄介だ。

 頭上くらいならまだなんとかなるが、大空からとなれば勇達だけでは勝算が無い。

 剣は届かないし、ちゃなの砲撃も下手に飛ばせば街に被害が及びかねないから。

 自衛隊も人単体を空に飛ばす装備となると、直ぐに思い付く物とはいかない。


 だからこそ杉浦達の顔にも陰りが生まれよう。

 有効な装備が考える限り思い付かなくて。

 これで相手が障壁の無い存在ならまだ言う事は無いのだが。


「しかして僧兵の戦闘力に関しては言う程では御座らぬ。 基本は戦棍と空戦軽弓による武装のみを主としており、これも(やじり)にさえ気を付ければ並みの人間でも凌げような」


「という事は空戦戦術を展開してくる可能性が高いか」


「左様。 恐らくは空からの奇襲を主としよう。 すなわち、彼奴等が来るのは厚き曇りの日! 雲に紛れれば人にはわかるまい?」


「なるほどな。 だが生憎ここは中世ではなく現代だ。 そういう話ならば察知する事も出来るだろう。 ただ、空自にも少し協力を仰ぐ必要がありそうだがな」


 とはいえ出来る事が無い訳では無い。

 現代技術をもってすれば雲の上でさえ探知は容易だ。

 それに攻撃は出来なくとも補助ならば出来る事も沢山あるだろう。


 だからこそ杉浦は挫けてはいない。

 いや、この程度で挫けるはずがない。

 多くの国難に従事してきた彼等ならば。


「夜間奇襲の可能性は?」


「それはなかろう。 夜目こそ利けど冬の寒空は我等とて厳しい。 長時間の戦闘を鑑みるならば昼間しか無し」


「ふむ、なら話は大体わかった。 しかし相手が広域破壊兵器を持っているならば戦地も限られる。 出来れば街上空での戦闘は避けて欲しい所だ」


 その自信のままに、今度は大きな地図を取り出しては机に拡げる。

 そうして指を差して見せたのは栃木市の中心で。

 そこからススっと北西に動かせば、すぐにでも緑一帯の地へと辿り着く事に。


 山岳地帯だ。

 まだ低い山々だが、広大だからこそ人も殆ど居ない。

 戦うならうってつけの領域と言えよう。


「だとすればここより北西の山岳部での戦いが望ましい。 引き付けられるか?」


「承知。 とはいえ恐らく拙僧ら穏健派が協力する事を踏まえ、ロゴウ達もその策を見抜いておろう。 然らば厳しい戦いとなるであろうな」


 ただし山の吹き下ろし―――すなわち風が街に降りている。

 街上空での戦闘を避けるとなれば、向かい風の中での戦いを強いられるだろう。

 そうなると自由が利き辛く、不利は否めない。

 おまけに人数も少ないとあれば、勝率は非常に低いと言わざるを得ない。


 その結論を前に杉浦もジョゾウ達も思わずだんまりだ。

 渋い顔を揃って浮かべ、頭を悩ませる姿がそこに。


「ま、待って。 既になんか凄く話が進んでるみたいなんですけど。 何か空で戦う事が前提になってないです?」

 

 ただし、そんな話に付いていけていない者が居た訳だが。

 勇とちゃなである。

 

 それも当然か。

 二人は陸から何かしらの手段を講じて戦うと思い込んでいたもので。

 既に空戦を基礎としている杉浦達と、思考が食い違っていた事にようやく気付いたらしい。


「当たり前だ。 敵が空から降りてこない、降ろせないとなれば空戦しか無いだろう?」


「で、でも俺達は飛べませんよ!?」


「それを何とかする方法を考えるのがこの会議だ。 情報交換だけで済ませるつもりは無い」


 とはいえ杉浦のこの斜め上の前向き発言に、二人とも顔を引きつらせて止まらない。


 どうやら杉浦は二人をも飛ばす気満々の様だ。

 何せ戦況を決める力は二人にしか無いのだから。

 魔者・魔剣に対し対抗出来るのは魔剣使いしか無いからこそ。




 そう、今回の勇達の戦場は恐らく空となるだろう。

 予想だにもしていなかった展開に、勇やちゃなの不安は隠せない。


 だがまだ二人が空で戦う為の手段は未構築のままだ。

 果たして、彼等はどの様にして空の相手に対抗するつもりなのだろうか……。




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