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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第九節 「人が結ぶ世界 白下の誓い 闇に消えぬ」
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~そして戦士達は理解する 引~

 下山してからの事は早かった。

 予め勇から連絡を受けていたお陰で、福留達の受け入れ方も手早かったものだ。

 辿り着いた途端からちゃなとマヴォをヘリコプターへと誘い、あっという間に朱空の彼方へ。

 

 後に残された勇とアージは、そんな光景をただ静かに見上げていて。


「しかし驚いたな。 交信板(スマホ)に加え、まさか空飛ぶ箱まで存在するとは……」


「皆で手を取り合えばこうやって色んな物が生まれるんですよ。 俺達の世界はそうやって発展し続けたんです。 まぁだからと言って俺自身が何かしたって訳じゃないですけど」


「だが、いずれはその礎の一人となるのだろう? 素晴らしい世界だと思う。 まさに我等が目指す形だと言えよう。 こう突然現れると戸惑いも隠せんがな」


 とはいえ、言う程の驚きは無かった様だ。

 勇達との邂逅で相応に肝が据わったのだろう。


「我等の世界には次代に向けた発展を考える様な者は居ない。 生きる為の互助こそすれど、な。 今のままで在り続ける事で精一杯なのだ」


「うん、知ってます。 だから俺達はその考えに少しでも一石投じられればなって思ってますよ。 戦うより、憎み合うよりずっと生産的だから」


 それに、こう語れる勇という存在が心配を払拭してくれたから。

 だからマヴォを未知なる空へ送り出す事も許せた。


 彼等なら安心して弟を預けられるのだと。


 故に今はこうして己の内を曝け出し合える。

 世界への憂いと、新しい時代への渇望を。

 自分達がまさしく次代への象徴であると気付く事も無く。


「―――さて、俺達はそろそろ休みましょうか。 福留さんにはこの民宿で一泊する様に言われてるし。 俺ももうさすがに疲れちゃいましたよ」


「うむ。 何から何まで世話になる」


 今は一先ず、戦いで疲れた体を癒そう。

 語り合うのは疲れを取り除いた後でも出来るから。


 もちろん、その癒しの場も既に用意済みである。


 どうやら福留が予め手筈を整えていてくれていたらしい。

 少女の親である民宿の主にはもう説明は済んでいるそう。

 もちろん、情報漏洩に対する説明と―――その保障も。

 客の誘致が出来ないその代わりとして。


 それに民宿の主も乗り気だったそうな。

 居なくなった娘を連れ戻してくれた礼もあるから。


 だから民宿は今、二人の貸切の様なものだ。

 そんな事実が疲れた心をも浮かれさせずにはいられない。


 この様な施設に入った事の無いアージはもちろん、貸切の意味を知る勇も。




 こうして民宿に泊まる事となった二人を、盛大な歓迎が迎えてくれた。


 寝泊りする場は当然のこと。

 食べきれない程に大量の料理と、身体を癒す温泉と。

 おまけに民宿ならではのマッサージ機無料使用権までもが付いていて。


 至れり尽くせりの待遇に、あのアージが幾度唸った事か。

 なおマッサージ機に揺られた時の顔は想像にお任せするとしよう。


 現代を体感するにはきっとこれだけで充分だった。

 一通り事を終えた今ではもう随分と落ち着ききっていて。

 畳座の宴会場で胡坐をかいて語り合う二人の姿がここに。


 どちらも浴衣も羽織っていて、なかなか様になっている。

 北海道の施設らしく暖房も効いているから、それでも充分に暖かい。

 おまけにアージ自身も深い体毛に覆われているからとても心地良くて。


 そのおかげか、またぐらには少女がもたれて眠る姿が。


 もう相当に懐いたのだろう。

 先程までは少女の話でもちきりで。

 両親も交え、随分と話し込んだものだ。


 アージ達の旅の目的なども含めての話を。




 アージ達がこの地に訪れたのは、山にあるはずだった隠れ里へと赴く為。

 その為に大陸からはるばる海を越えてきたのだそうな。


 その目的は―――魔剣の破壊。


 アージら【白の兄弟】は元々、それを目的として動いていて。

 とある事情から隠れ里を知り、内々に各地へ訪れては不要な魔剣を処理していたという。

 もちろん里の者達の同意の上で。


 というのも、不要な争いをしないのが彼等の流儀なのだそう。

 だから時には人間を助ける事もあったという。

 ただし魔剣使いに限っては例外だが。


 なんでも『あちら側』の魔剣使いはほぼほぼ好戦的なのだとか。

 加えて魔剣を差し出そうとする者など居るはずも無く。

 だから自然と、勇達と出会った時の様に問答無用となったらしい。


 その目的に至った理由や、隠れ里を知ったキッカケは教えてくれなかった。

 でもそれで充分なのだろう。

 アージとマヴォという存在の人間性―――いや、知性を知るには。




 ただそれだけで、二人が現代に馴染むには充分過ぎるくらい優しいとわかるから。




「おいおい、こんな所で寝るな。 風邪をひくじゃあないか」


「はは、余程心地いいんでしょうね。 では私達はそろそろこれで失礼するとしますよ」


 そんな話が落ち着きを取り戻した所で、少女の両親が座を立つ。

 アージからそっと、眠ったままの少女を受け取って。


「その子はきっと大物になるだろう。 俺達を見ても泣き喚きさえしなかったからな」


「はは、親としても将来が楽しみですよ」


 アージの言う通り、少女は今の今まで泣く事は無かった。

 見掛けたのは精々、初めて出会った時くらいか。

 それ以降はすっかり彼等に懐き、ドゥーラを前にしても動じなかったという。


 当人も何が起きていたかは理解していないだろう。

 でも感情的な場面が多かったにも拘らず動揺しなかった。

 それは心が強いという何よりもの証拠だ。


 だからこそアージは期待せずにはいられない。

 この様な強い子が魔者と人間との懸け橋となってくれるであろう次代に。


 そんな感慨を乗せ、彼等の去った後を見つめ続ける姿がそこにあった。


『お疲れ様です、勇君。 件のマヴォさんですが、先ほど本部医療棟へ搬入しました。 精密検査はこれからですが、見た感じどうやら命に別条は無いとの事です』


「え、もうですか? そうなんですね、良かったぁ」


 一方の勇はと言えば現在、福留と電話中。


 福留達はもう既に東京だ。

 行きと同じ最短ルートだったからか、なかなかの速さで。

 ゆっくりしていた勇にはあっという間と感じた事だろう。


 マヴォを担当してくれているのは、当時グゥを診てくれていた医者だそうな。

 だからある程度魔者には詳しいので安心だ。

 勇もこうして安堵を零さずには居られない。


「そう言えば、福留さんはドゥーラさんに会いませんでしたか? 先に下山したハズなんですけど」


『いえ、どうやらこちらには来なかった様です。 本性がバレたから気が引けたのでしょうか?』


 とはいえ全てに安心しきった訳でも無いが。

 ドゥーラという危険人物はなお野放し状態で行方知らずなままだから。

 このまま放っておけば、いずれまた別の惨事を起こしかねないだろう。


『いずれにせよ早々に手を打つつもりです。 今は捜索しつつ様子見ですね。 無駄に刺激するのは良くないですから』


「すいません、よろしくお願いします」


 ただ姿をくらました以上、勇にはもう何も出来ない。

 この先は福留の様な捜査網を扱える者の役目だ。

 グゥの時もそれを痛感したからこそ、もう無理を言うつもりも無いらしい。


「そう言えば田中さんは?」


『ちゃなさんはお疲れの様で、医療棟で一泊させる事にしました。 勇君が帰ってくるまで待ってるそうです』


「じゃあ早く帰らないとなぁ」


『えぇ、えぇ。 明日朝八時に迎えを寄越しますので、それまでに出立の準備を整えておいてくださいねぇ。 ではゆっくりと。 おやすみなさい』


「はい、ありがとうございました。 おやすみなさい福留さん」


 ちゃなももう心配する事は無いだろう。

 だから憂いはもう無い。

 後は安心して夜を明かすだけだ。


 ただし、詳細を待ち望む隣の巨体に限り、話は別な訳だが。


「アージさん、マヴォさんは今のトコ無事だそうです。 容体も落ち着いてるって」


「おお、それは良かった。 後はマヴォがあっちで大暴れしない事を祈るばかりだな」


「あ、そういえばマヴォさんは事情知らないんでしたね……」


「最悪の場合、俺がその交信板(スマホ)から怒声を浴びせれば良いだろう。 ……で、出来るのだよな?」


「えぇもちろん。 その時はお願いします、暴れられたらさすがにマズいんで」


 やはり弟の事が気になる様子。

 容体もだが、現地で迷惑を掛けていないのかと。

 おまけにまだスマートフォンが信用出来ない様で、どうにも戦々恐々だ。

 出来れば使いたくない、そんな気持ちがひしひしと伝わってくる程に。

 呪われるかも、とでも思っているのだろうか。


「さて、久方振りに屋根のある場所で眠るとするか。 では俺はここで失礼する」


「えぇ、おやすみなさい、アージさん」


 その様な事態にならない事を祈り、今は信じて己を休めよう。

 明日もまだまだ、別の意味で落ち着けなさそうだから。


 そんな想いを内に秘め、勇とアージがそれぞれの部屋へと帰る。

 共に笑顔と挨拶を交わし合って。




 そして疲れと喜びが彼等を深い眠りへと誘おう。

 来たるべき明日、新たなる門出を迎えんが為に。


 今はただ、静かに。




 しかし以後、彼等は気付く事も無かった。

 【白の兄弟】がいつ、どこで転移してきたかなど。


 つい()()()に海上で()()()()()()()であるなど、気付きもしなかったのだ。




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