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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第九節 「人が結ぶ世界 白下の誓い 闇に消えぬ」
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~白が燃ゆる山 閃~

「さらばだ、若き魔剣使いよ」


「ここまで、なのか……」


 アージの怒涛の攻めがとうとう勇を追い詰める。

 最後の一撃の為にと、自慢の両手斧を振り上げて。


 勇に防ぐ為の手立てはもう残されていない。

 魔剣も手を離れ、身体は傷付き動けなくて。


 今はただ巨体を見上げる事しか、もう。




 だがこの時、二人の間に異変が訪れる。




ジジジ……


 微かな異音が聴こえたのだ。

 それも鼻を突く異臭と共に。


 ―――何かが焦げた臭いだ。


 この様な雪原で?

 真冬の最中で?

 そんな疑問が二人の脳裏にふと過る。


 でも異変は、考える時間など与えてはくれなかった。


ジジジジッ!!


 異音が更に激しくなり始めていたのだ。

 それも徐々に、ごく僅か一秒程しか掛からぬその間に。


 そんな一瞬の間でアージだけが気付く。

 異変の要因に。


 異変が、自分自身にこそ起きていたという事実に。


「うおおおおッッ!!?」


 故にアージは飛び退いていた。

 斧を振り下ろす事すら無く、全力で。


 そして垣間見るだろう。

 異変をもたらした正体を。

 その直後に起きた、常軌を逸する瞬間を。




 なんと、幹が一瞬にして溶け弾けていたのである。

 勇の後ろに立っていた太木の幹半身が跡形も無く。




 焼かれるのでもなく、切れる訳でもなく、溶ける。

 この意味の恐ろしさがわかるだろうか。


 放射されたのが尋常ではない熱量だという事だ。

 しかも瞬時に、音も無く―――そして限定的に。


 そう、限定的なのだ。

 溶けたのは幹の一部と、刻まれた軌道上にある物のみ。

 後は蒸気を発するだけで多少焦げた程度か、あるいは無事か。

 軌道上にあった雪は放射熱だけで解けて蒸発、今では地表すら露わになっている。


 それはまるで、収束された超熱線(ビーム)に貫かれたが如く。


「な、何なのだこれはッ!? 一体何が起きたあッ!?」


 加えて、アージの背中に異変の跡がくっきり残っている。

 皮鎧を貫いて、爛れて黒く染まった焼け跡が。

 丸穴を象った先で奥の体毛までをも焼いていたのだ。


 だからこそ気付けた。

 異常なまでの熱を感じた事で。


 即座に退避していなければ風穴が空いていただろう。

 それどころか、幹の様に跡形も無く溶かされていたかもしれない。

 その事実を目の当たりにし、戦慄さえ憶えて止まらない。


 これ程の攻撃をかつて見た事が無いからこそ。


「まさかこれはッ!?」


 そうして見上げた時、アージは知る事となる。

 これ程までの異常な攻撃を体現した者の正体を。


 取るに足らないと見て放置していた者を。




 魔剣を構え立つ、ちゃなの雄姿が今その先に。 




 景色先で、ちゃなが魔剣を真っ直ぐと向けていたのだ。

 それも柄先を木の幹へと押し当てて支えとしながら。


 そして再び瞬かせよう。

 赤々とした輝きを。


 その凄まじいまでの閃烈と共に。




―――キィィィーーーーーーンッ!!!




 この時、大気を裂く程の音が響き渡る。

 先の物とはまた違う、それでいて更に異常感を増させた鳴音が。


「う、おおおおッ!!?」


 ならばアージは逃げる他無い。

 その異常極まりない〝砲撃〟を前にして。


 何故なら、人腕程の太さの光筋が空中にずっと浮かび上がっていたのだから。

 発射元から遥か先にまで続く程にハッキリと。

 それも、当たっていないのにも拘らず熱さえ感じさせて。


 しかもそれが今度は―――追って来る。

 逃げずにいられる訳が無いだろう。


 追跡速度は確かに遅い。

 だがその威力は尋常ではない。

 一度軌跡を描けば、その先にある全ての木々が溶断されて倒れていく。


 なればたちまち、静かだった雑木林に倒木の激音が絶えず響く事に。


「バ、バカな!? あれ程の攻撃が何故出来るのだッ!!?」


 だからと言ってアージがちゃなの下へ向かうのは困難を極める。

 登りに勢いを取られる傾斜上に居るという悪条件があるからこそ。

 その最中で狙い撃ちされれば、間違い無く命は無い。


 恐らく、一瞬で真っ二つだろう。


 故に回避するしか無いのだ。

 決定的な反撃手段が見つからない今は。


「勇さんッ!! 今の内に体勢を整えてくださいッ!!」


 でもそのお陰で、勇の立ち上がれる時間が稼げた。

 おまけに熱線が雪を溶かしてくれる。

 勇が振り向けば、あんなに白かった地表が今では土色で真っ黒だ。


 よく見れば、手放した【大地の楔】も景色の先に。


 なら、ちゃなが作ってくれたこの機会を逃す訳にはいかない。

 そんな使命感が再び勇の身体を動かさせる。

 おまけに、予熱のお陰で冷えていた身体も必要以上に温まったから。


 心は昂りで震えたまま。

 息を整え落ち着かせれば、命力はまだ発揮出来るだろう。


 だから勇はまだ、戦える。


「ありがとう田中さん……よし、まだ動けるッ!!」

 

 【命力機動】を駆使して立ち上がり、即座に魔剣を取りに戻って。

 後はちゃなが切り拓いてくれた道を走り、アージを追うだけ。

 泥まみれだが、雪上で戦うよりは何倍もマシだ。


「田中さん! そのまま相手を翻弄してくれッ!! 俺が合わせるからッ!!」


「わ、わかりましたッ!! んうーーー!!」


 とはいえ照射時間も思うほど長くは無いかもしれない。

 見てわかる程に力強く杖を支えていたから。

 幹を支えにしないとならない程に反動が凄まじいのだろう。

 どうやら【複合熱榴弾(コンポジットカノン)】よりもずっと負担が大きいらしい。


 それがわかったからこそ勇も急ぐ。

 この力と合わせて、早くアージを倒さなければならないのだと。


 それしかもう、この戦いを終わらせる手段は無いと悟ったが故に。






 ―――そんな勇達の激戦が繰り広げられるより少し前の事。


 山の麓、民宿傍の広場。

 そこに佇むヘリコプター内で、浮かない表情を見せる福留の姿が。

 

「勇君達は今頃何をしているのでしょうねぇ。 ふぅ、こういう時に新装備が間に合わなかったのは手痛い所です」


 山を眺めつつ、溜息が零れる。

 思わず独り言を零してしまう程に悩ましくて。


 こうして送り出すのはいつもの事だが、連絡が無いのはやはり不安で。

 だからと言って戦闘中にスマートフォンで悠長に話している暇なんて無い。

 その為の新装備を開発中なのだが、今回の実装にはどうやら間に合わなかった様だ。


 お金はあっても時間が無い、といった所か。

 

「無線での会話でよろしいのでは?」


「いえいえ、極秘活動ですからねぇ。 秘匿する為の専用回線が必要なのです。 なので折角だからと新機軸の通信網を構築する事になったのですが、開発部が意外と苦戦しているようでして」


 そんな愚痴にも足る一言にヘリコプター操縦士が返すも、表情は変わらぬまま。

 こうして聞いてくれるだけでも当人としては助かるみたいだが。

 でもそのお陰か、待ちながらもゆるりと話し込む事が出来ていて。


 だからこそ気付けなかったのだろう。

 一人の少女がこっそりと、山へ向かっていた事に。




「くまちゃんまっててね、あぶないよっておしえてあげるから」




 少女が戦場となるであろう山へ赴く。

 その先で何が待ち受けているかも知らぬまま。


 いや、それとも何も知らないのは勇達の方なのか。


 果たして少女の真意とは。

 それはまだ彼女だけにしかわかりはしない。




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