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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第九節 「人が結ぶ世界 白下の誓い 闇に消えぬ」
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~白が燃ゆる山 格~

 微風が去る。

 粉雪が舞う。

 太木細木が連立つその中を。


 そんな風情溢れた緩やかな傾斜上で、二人の戦士が相まみえる。

 共に戦意を迸らせ、その手に掴む魔剣へ火を灯して。


 もはやどちらも退く気は無い。

 背を見せれば、その瞬間には戦いが終わるだろう。


 一触即発。

 そう察せる程の空気が二人だけの場をピリリと包む。

 故に、安易と懐に飛び込む様な真似はしない。

 共に隙を狙って回り込もうと、見合いながら傾斜をゆっくり上がり続けるだけで。


 しかしアージはそれでも隙を見せはしない。

 勇の動きに合わせて斧の傾きをも変えていて。

 だからか、勇の戦術視線(ビジョン)には有効な手立てがどうにも見つからない。

 どこから攻めても返り討ちの姿しか想像出来ないのだ。


 故に勇の焦りが如実に顔へと浮き出る。

 これ程までの相手と戦って勝った事など一度も無いからこそ。


 そう、勇はこの焦りの理由を知っているのだ。

 格上と称される相手と対峙した時に湧くこの感覚を。


 それはかつて剣道を嗜んでいた時、師範との試合時に体験したものと同じだったから。


 勇は師範に勝った事が今一度とて無かった。

 どの様に飛び込んでも躱され、反撃の一本を取られてしまう。

 いくら対策を講じても全て無為とさせられて。

 すると自然と感じる様になったという。

 相手がどの様に思って自身へと向き合っているのか、と。


 そうして生まれた洞察力のお陰で今の勇があるのは確かだろう。

 でもその感覚がこの時だけは邪魔をする。

〝下手に攻撃を仕掛ければ、間違い無く負ける〟

 そんな感覚をもたらしていた事によって。


 そしてその洞察力は当然、アージにも備わっている。


「思った以上に出来る様だな。 並みの相手ならもう既に事は終わっていただろう」


「くっ……!!」


「だが踏み込めないという事はすなわち、地力がまだ伴っていないという事ッ!! ならば俺の方が、強いッ!!」


 その及び腰がアージに報せたのだ。

 勇には格上とも言える相手との戦闘経験が乏しいという事を。

 ならば全てにおいて秀でた者が飛び出るのは道理。


 その巨体がここぞとばかりに空へと跳ねる。


 速い。

 雪などお構いなしの勢いだ。

 これは明らかに雪原での戦いにも手慣れている。


「カァァァーーーーーーッ!!!」


 そうして見せる重量感はまさに一撃必殺。

 それ程までに力強く、両手斧が空を突かんばかりに掲げられていて。

 ここからの斬撃を受ければ、如何に魔剣【大地の楔】と言えど無事では済まされない。

 最悪の場合、魔剣ごと叩き潰されて一貫の終わりだ。


 ただ、速くはあったが速過ぎるという訳ではない。

 勇ならば充分に躱せる速度だ。


 故に勇が跳ね退ける。

 雪に脚を取られながらも辛うじて。


 確かに、刃物ならば斬撃軌道から逸れるだけと回避は容易だろう。

 加えて勇の反応速度と動体視力ならば、雪の不利点(デメリット)さえも跳ね退けられよう。




 ―――そのはずだったのだが。

 



「甘いわァァァーーーーーーッ!!!」


 手練れであるという事はすなわち、そんな動きさえも予測済みだという事だ。

 ならば強烈な叩き落としさえも只の牽制となり替わる。


 打ち上がる雪。

 遮られる視界。

 その隙間から、たちまち光が迸る。


 そして勇は垣間見る事となる。

 そんな白粉塵を切り裂き迫る巨大な一閃を。


 なんと先程の叩き落としから一転、刃を切り返して勇を追っていたのである。


 その勢いは強引にして豪速。

 勇の飛び跳ねる勢いにさえ追い付ける程に。


 しかもその一撃、先の攻撃にも違わぬ程に強烈な光を放っていて。

 

 その直後、そんな二人の間に激しい火花が飛び散る事に。

 勇が魔剣で防いだ事によって。


「うあああッッ!!?」


 威力は地面で受け止めるよりはずっと乏しい。

 だからこそ勇も魔剣も無事だ。

 でも弾かれた勢いは凄まじく、細木をもへし折って景色の先へと飛ばす程という。


 たちまち雪面で勇の身体が転がり滑り、傾斜に沿って流れていく。

 魔剣で突き刺して止める事は叶うが、焦りだけは雪玉の様に転がり増すばかりで。


「クソおッ!! 動き辛いッ!!」


 アージは自由に動けているが、勇には逆に制約が多い。

 戦い慣れない雪上と、身を包む防寒具。

 この二つが邪魔をしてストレスさえ呼び込む事に。


「どうやら雪原での戦いにも慣れていないらしいな。 だが俺は容赦せん。 目的の為には手段など選んでおれんのだからな」


 しかしそうであろうともアージは止まらない。

 再び力を溜めつつ、ゆっくりと坂を下りてきていて。


 先程よりの威力の正体はやはり命力なのだろう。

 見る限り、原理は勇の【天光杭(フラッシュパイル)】と同等。

 あの技よりもより力を限定収束させ、目前の敵だけを砕く事を目的としている。

 洗練された技術とストイックなまでの意志があるから為せる業だ。


 つまり、紛れも無く強敵である。


 強敵という意味ではオンズ王も相当だった。

 でもどちらかと言えば力押し一辺倒で、洗練された技術というものは無くて。

 だから勇でも付け入る隙はあったし、対処も出来た。


 けれど、アージは今までの相手とは全く違う。

 言うなれば、この者の奮う力は暴力で無く武術。

 動き一つ一つが戦いの為に突き詰められている。


 それに己の力に驕る事無く、戦いにまるで余念が無い。

 必ず敵を倒すという強い意志が垣間見える程に。


 故に、弱点は皆無。

 更に勇の抱く不利(ハンデ)が互いの力量差を広げるかのよう。


「くそおッ!! こうなったらあッ!!」


「ほう……?」


 ただ、戦いへの志を強く抱いているのは勇だって同じだ。

 不利を取り除く為ならどんな事も厭わないという意志だってある。


 その意志が今、防寒着を破り脱ぎさせていた。

 力に任せて強引に引き千切って。


 防寒着も靴ももう必要ない。

 これだけ激しく動けるなら寒さには耐えられるから。

 そんな目先の苦痛よりも自由に動ける様にする方が、今はずっと大事なのだと。


 たちまち戦闘服が露わとなり、靴下を纏った素足が雪を踏む。

 お陰でずっと感覚的に動けそうだ。

 今まで抑圧されてきたからか、開放感でむしろもっと速く動けそうとさえ思えていて。


「これからが本番だッ!!」


「フッ、そうこなくてはなッ!!」


 そんな足が遂に大地を蹴る。

 先程までに見せない速度を以て。

 それも互いに負けじと。




 雪、弾け舞う戦場で二人の戦士の咆哮が轟く。

 その激しさは一向にして強くなるばかりだ。




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