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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第九節 「人が結ぶ世界 白下の誓い 闇に消えぬ」
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~陰艶たるその者と共に 治~

 北海道、稚内へと向かう為には幾つか地点を経由しなければならない。

 茨城(いばらぎ)空港へと降り立ち、飛行機に乗り換えて北海道、新千歳(しんちとし)空港へ。

 そこからまたヘリコプターに乗っていくという、なかなか落ち着けない道程だ。

 とはいえ旅行と違って待ち時間が一切無いからこそ、到着も自然と早くなるもので。

 昼過ぎには目的地へと到着の予定なのだと福留は言う。


 その甲斐あって、現在勇達は現地へと向かうヘリコプターの中。

 飛行機内で防寒具にも着替え終え、準備は既に万端だ。


 ただしドゥーラ一人を除いてだが。


 何故か彼女は防寒着の着用を拒み、今も出会った時のまま。

 寒さも知識になるからと言って聞かなくて。


 でもそう言う割には、何かに興味を示した様にはとても見えなかった。


 空を飛んでいても景色を眺める訳でも無く。

 現代機械に好奇心を寄せた訳でも無く。

 ただただずっと退屈そうに、服布切れを指で巻き回し続けていただけ。


 今もそうだ。

 勇達が心配そうな顔を向けても、一向に気が付く節も無く。

 勇が話し掛けようとも相槌を打つだけで会話は続かなくて。

 虚ろな目を浮かべて俯いたまま、ただボーっとしている様にしか見えない。


 会話に興味が無いのか、それとも知識を得るという事自体が嘘なのか。

 何を考えているかも全くわからないだけに、もうお手上げである。


 勇もそんなドゥーラを前にして「何だか扱いにくい人だなぁ」と思うばかりだ。


「あ、あの……」


 するとそんな中、ちゃなの声が機内に囁かれる。

 ローターの音で掻き消されてしまうくらいに小さく。


 けれど命力が乗っているお陰か、皆にはちゃんと聴こえた様だ。

 それはもちろんドゥーラにも。


「ドゥーラさんは……どうして魔剣使いなんてやってるんですか?」


 きっとちゃなの事だから、だんまりなのを見かねたのだろう。

 だから自分からもアプローチしてみようと思って。

 振ったものこそ唐突過ぎる話題だけれども。

 

 でもそんな勇達の顔に諦めが浮かぶ。

 〝きっと無駄だろう〟と。

 似た様な話題を振った時も反応する事は無かったから。




「私が魔剣使いで、ある理由……そうね、それは知識を広げる、事にあるわ」




 だが意外にも、ドゥーラが食い付いていた。


 それもこの一言だけでは終わらない。

 まるで水を得た魚の様に、細めていた目を僅かに開いてはまた口を動かしていて。


「私は、知るべきで知らない、無二の知識が欲しい。 その知識を求めて、旅をする為に、魔剣使いである事は丁度いい、フフ」


 自語りが好きな性分なのだろうか。

 確かに、彼女の様な〝根暗〟と括られる人種にはよく見られる傾向だが。


 ただ、どうやらドゥーラは勇達が知る様な〝根暗(パッシブ)〟とは少し違うらしい。

 雰囲気で騙されがちだが、目的ありきで積極的な所は行動派(アクティブ)と言えよう。

 これなら勇達に同行を願ったのも頷けるというものだ。


 とはいえ勇もちゃなも驚くばかりで。

 魔剣使いと言えば戦いに明け暮れるものだと思い込んでいたから。

 ドゥーラの様な自由な魔剣使いが居るとは夢にも思わなかったのだろう。


 知識を求めて旅をする。

 それを現代風に例えるなら〝冒険者〟と言った所か。

 なら今までの魔剣使いよりもずっと、現代人に馴染みやすい存在なのかもしれない。


「特に私は、人や魔者の体を、治す事が、好き」


「体を、治す!? そんな手段があるんですか!?」


「えぇ。 命力の高い、者にしか、使えないけれど」


 しかも驚くべき事はなお続く。

 なんとドゥーラは治療の技術を持ち得ていると言う。

 自分では無く、他人を命力で以って治す手段を。


 そんな技術が本当に存在するのならば恐るべき事だ。

 もし怪我を即時に治す事が出来るのなら、戦いの効率だって大きく変わる。

 仮に負傷しようともすぐに治し、即座の戦線復帰が可能となるのだから。


 残念ながら剣聖から教えて貰った自然治癒はその領域には至らない。

 命力に覚醒した勇でも、傷一つ治すのにまだ二~三日は掛かるくらいで。


 でもその技術があれば、生活への即復帰も容易になり得る。

 日常生活のある勇達にとっては喉から手が出る程に欲しくなる技術だと言えよう。


 そしてどうやら、ドゥーラはその技術を教授する事も吝かではないらしい。


「やり方は、簡単。 命力を使って、傷付いた部分を、修復するだけ。 例えば裂傷は、そう、傷を溶着するの」


 そう語るや否や、自身の左腕肘窩(ちゅうか)に右手人差し指を圧し充てていて。

 何を思ったのか、その指を勢いよく手首へと向けて「ビッ!」と走らせる。


 するとなんと、突如としてその軌跡から大量の血が「ブワワッ」と噴き出したではないか。


「「うわあッ!?」」


 突然の出来事に、勇達はただただ戸惑うばかりだ。

 何の前触れも前説も無く、いきなり自傷行為に走ったのだから。


 しかも相当の出血量という。

 恐らく、頸動脈をも切ったのだろう。

 これでは戦いに行く前に出血多量で死にかねない。


 しかし、ドゥーラはそれでも冷静なままだった。


 全く表情を崩しもしない。

 まるで痛みも苦しみも感じていないと言わんばかりに。


 それどころか、また再び傷痕に指を充てていて。


「この様に、治すのよ……」


 その時の指は、輝いていた。

 魔剣に灯すものと同じくらいに収束して。


 そんな指がまた左腕を走った時、それは起きる。


 なんと傷口が瞬時にして塞がったのである。

 まさに裂け目を溶かしてくっつけたかの様にして。

 その見た目はまさしく〝昔に刃物で傷付けた跡〟の様になっている。


 後は血糊さえ拭き取れば、もう先程の白い肌が再びお目見えだ。


「す、凄いッ!?」


「フフ。 でもこれは、とてもとても、命力を消耗する、わ。 力に自信無き者は、やってはダメ」


 見た目ではわからないが、恐らく内部も修復されている。

 内出血の様子も無いし、普通に手も動いているから。


 身を以ての実践に、勇達はもはや感服の一言だ。

 あの福留でさえ、声を唸らせずには居られない。

 その代わり、狭い床が血糊で浸るというハプニングにも見舞われる事になったが。


 とはいえ得られた物は大きい。

 その手段のコツを教えられれば、ちゃなももう真似する様に指を動かしていて。

 実際に自傷する事は無いが、イメージだけはもう掴めているのだろう。

 もしかしたらすぐにでも実践してしまいそうなくらいにのめり込んでいる様だ。


「ありがとうドゥーラさん。 貴女はいい人だったんですね、俺、何だか誤解してたみたいだ」


「そう、言われると、嬉しいわ」


 こうなればもう勇も感動を隠せない。

 治癒術の事もそうだが、「人や魔者を治す」という事が真実なのだとわかった気がして。


 でなければこうして自らを使って実践などしやしないだろう。

 そう出来ただけで、勇にはドゥーラが献身的に見えていたのだ。


 だからこの人は信じられる。

 そう思える様になるには時間はあまり掛からなかった。




 『あちら側』の荒んだ世界の中にもドゥーラの様な人間が居る。

 人間も魔者も分け隔てなく救いの手を差し伸べてくれる人が。

 その事実を知った勇の喜びは計り知れない。

 世の中には何も悪い事だらけではないのだと気付けたから。


 だからこそ想わずには居られない。


 〝今日はこれだけで、来た甲斐があった〟のだと。




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