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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第九節 「人が結ぶ世界 白下の誓い 闇に消えぬ」
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~雲は流れ、時は流れ 中~

 冬が訪れた。

 例年よりもずっと早い寒い季節が。


 青々しかった街路樹も、もう既に葉を失い肌を晒していて。

 枝から離れた枯れ葉が道路の脇で山を作る。

 乾燥し、干からびた夏旺盛(おうせい)の残滓として。


 そんな道路を歩く人々も、既に深く着込んだ姿を見せている。

 それというのも今日この日、いち早い寒気が日本を覆っていたから。

 まさに冬の訪れを報せんばかりに。


 今年の冬はどうやら、予想以上に厳しいらしい。


『今年は寒波が例年に比べて早く訪れており、北海道では先日より今年初めての降雪が観測されました。 この寒波は数日居座ると見られ、一部関東に降雪の可能性も。 北日本では豪雪になる恐れもあります』


 夕方の今、リビングに集まった藤咲家の前でテレビが光る。

 ニュースキャスターがテレビ越しに、今冬の厳しさを伝えているる真っ最中だ。

 そんな事実を今初めて伝えられた方はと言えば、もう驚くばかりで。

 通りで寒かったなどと、腕を摩りながら話を交える姿が。


「はぁ~もう雪降ってるのかぁ。今年は東京も積もるかなぁ」


「十一月始まったばかりなのにいやねぇ。 電車止まると困っちゃうわぁ」


 画面に映った真白の降雪景色を前に、困惑の顔が浮かぶ。

 あくまでも北海道での様子なのだが、対岸の火事という訳でもなく。

 関東では雪に困らされる事も多いからか、藤咲家にとっては良い印象は無い様子。


 交通の便もそうだが、何よりも防寒対策で。


「じゃあそろそろコタツ出した方がいいんじゃない?」


「そうだな。 明日土曜だし、昼間辺りに押し入れから出しておくか」


 寒くなればエアコンなどで家を暖めるのもいいかもしれない。

 しかしそんな冬の暖房機器は揃って電気代をおもいっきり喰う。

 裕福とは言えない暮らしを送ってきた藤咲家には贅沢な話だ。


 だからこそコタツが役に立つというもの。


 いや、やはり冬と言ったらやはりコタツだろう。

 温度制御もし易く、電気代も軽い。

 おまけに家族の団欒もし易くなるという付加効果持ちなのだから。


 故に藤咲家でも冬場になるとコタツが登場する。

 何を隠そう居間のソファーの前に置かれたテーブル、実はコタツ換装式テーブルで。

 寒くなると決まってコタツ布団と加熱器を装着するという。


「明日と言わず、今日にでも出した方がいいんじゃない? 今日も朝凄い寒かったし」


「今からか? うーん、明日じゃダメかなぁ?」


 ただし、その設置と片付けで非常に面倒となるのが玉に傷なのだが。


 勇の父親がやけに渋って動かない。

 食後だから動きたくないのだろう。

 大黒柱とはとても思えない体たらくである。


「皆寒いんだし、出した方がいいと思うけど」


「なら勇がやってくれよ。 得意の命力でパパーンと」


「便利魔法みたいに言わないで?」


 いや、酷い体たらくなのは藤咲家全員か。

 誰しも面倒臭がって動こうとはしない。

 どうやら冬の寒さがやる気まで凍り付かせてしまったらしい。


 しかしそんな時、ふとちゃなが椅子からガタリと立ち上がる。

 それも「あっ!」と、目と口をぱくりと開かせて。


「ん? どうしたの田中さん?」


「今、いい事思いつきました」


 そのままトテトテと速足で二階へ。

 その間も無く、ペタペタとスリッパを鳴らしながら再びその姿が居間に。


 しかもその手に魔剣【ドゥルムエーヴェ】を掴んで。


「「ええっ!?」」


「ちょ、田中さん!? 寒いからって家燃やしたりしないよね!?」


「フフッ、しませんよぉ」


 居間に持ってくるとその大きさがより目立つ。

 いざ立てて見れば、扉枠の高さにも匹敵する程なだけに。

 そんな()()を宣言無く持って来られようならば怖がるのも当然だ。

 勇の様にその破壊力を良く知った者なら特に。


 とはいえ、ちゃながそんな事をする訳も無く。

 ゆっくりと目を瞑り、集中させる姿がそこに。


 するとどうだろう。

 突如として淡い光がふわりと、ちゃなを中心として広がっていくではないか。

 チラチラと煌めく光粒を纏った空気と共に。


 その空気に触れた途端、勇達の顔に驚きの表情が浮かぶ。


 暖かいのだ。

 しかも春の陽気の様な心地良さまで乗せていて。

 思わず微笑みが零れてしまうくらいに穏やかで。


「わぁ、あったかぁい」


「こりゃたまげたなぁ……」


 これは徳島のオンズ戦で見せた【却熱幕布(ヒートヴェール)】の応用。

 その上昇温度を極限にまで抑え、人肌並みにしたものだ。


 ただこれは言うほど簡単な事ではない。

 〝熱する〟という自然効果は〝燃やす〟よりもずっと制御が難しいからこそ。

 媒体を介して燃焼という化学変化を起こすのでは無く、大気摩擦で熱だけを生む。

 少し制御を間違えれば家そのものが溶けかねない、恐ろしい高等技術なのだ。


 でもちゃなは今、それを普通にこなしている。

 引き続きソファーに座ってテレビを見続けられるくらいに。


 この一ヶ月半、確かに戦いは無かっただろう。

 それでも彼等は成長を続けていた。

 こうして高等技術を使いこなしてしまう程に。

 教えてくれる人が居ないからこそ手探りで地道に。


 その成果が今生きていると言えよう。

 これには一緒に学んできた勇もが内心驚きを隠せない。


 この力の名は【常温膜域(ヒートフィールド)】。

 攻撃の為では無く、身を守る為に得た力である。


「これすごいわねぇ。 これならコタツもエアコンも要らないし電気代も掛からないし!」


「冬の間ずっとやって貰うつもりかよ……」


「フフフッ、頑張ってみます!」


 ちゃなには尋常ではない命力があるから無理では無いだろう。

 練習にもなるし、丁度良いのかもしれない。


 しかしこれで良いのか藤咲家よ。

 居候者を暖房器具扱いするのはいささか失礼では無かろうか。




 ……という話し合いもあって、さすがに常時という事は無しとなった。

 暇と余裕が出来た時に、という形で折り合いをつける事に。

 電気代を浮かせるという役割から、ちゃな自身はノリノリだったみたいだけれども。


 やはり女の子に無理をさせるのは良くない、となった末の結論である。




 命力を使えるからと言って特別扱いしてはならない。

 一般生活においては、基本的に無いものとして扱うべきだろう。

 彼等が()()普通の人間として扱われている限りは。

 それが今の時代における公平の在り方というものだ。


 特別扱いする事で浮かれれば、いつか力に囚われてしまいかねない。

 力を行使する事に慣れ過ぎてしまえば、人というものはいつか堕落する。

 そうならない為にも、普通のままで生きていかなければ。


 でも今はそれでいい。

 それだけで、今の勇達は充分に満足して生きていけるのだから。




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