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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第九節 「人が結ぶ世界 白下の誓い 闇に消えぬ」
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~これが世界の進むべき道 密~

 国際会議が熱を帯びたその頃―――

 とある高層ビル上階の高級ラウンジバー。


 そこに、ガラス壁際の小さな相席へと腰を掛ける福留の姿があった。


 国際会議は鷹峰達首脳陣の活躍場だ。

 福留の様な人物の出る幕は無いのだろう。

 だからか、役目を果たした今はとても落ち着いている。

 小さなワイングラスを片手に、注がれた赤ワインをちびりと嗜みながら。

 時にグラスを彩る流跡を眺め、残り香に堪らず鼻を鳴らして。


 その気品漂う姿の如何に様なことか。

 埃塗れな事務所に居るよりも、ずっとお似合いだ。


 すると、そんな福留の背後から一人の人影が。


 現れたのは、とても若い青年だった。

 高級バーに居るのが不思議と思える程に。


 でもその服装から仕草までは、まるで福留同様によく似合っている。

 白いスーツはきっと高級品なのだろう、純白で柔らかな雰囲気さえ感じさせて。

 だからといって着回しも崩れる事無く、よく着慣れているとさえ思えよう。

 靴に至るまで、何処を見ても隙は無い。


 その青年自身はと言えば、セミロングの茶髪ストレートに甘いマスク。

 少し面長めの顔付きは女性受けも良さそうだ。

 化粧もそれなりに仕込んでいるのだろう、シミ一つ無く清潔感に溢れている。


 端的に言えば、美形の類だろう。


 そんな青年が福留の隣を過ぎ、相席の横にて立ち振り返る。

 さらりとしたキメ細やかな髪を自ら靡かせながら。


「お久しぶりです、福留さん。 お元気そうでなによりです」


 そして自慢の顔を福留へと向け、そっと微笑んでいて。

 その様子はまさに懐かしさを表すかの様で、とても穏やかだ。


「おぉ、雄英(ゆうえい)君。 お久しぶりですねぇ」


 福留もその顔を見て、相手が誰だかすぐわかったらしい。

 同様ににこりと笑みを返し、そっと相席へと手を差し伸べる。


 それで雄英と呼ばれた青年も、一礼しては迷わず席へと。

 どうやら二人はここで待ち合わせをしていた様だ。


「最後に会った時はまだ中学生くらいでしたか。 いやはや、懐かしいですねぇ」


「よしてください福留さん。 本当は忘れてらっしゃるんでしょう?」


 その中放たれた一言に、青年が「フフッ」と笑って返す。

 懐かしさと、良く知った風を気取る様にして。


 いや、違う。

 風ではなく、実際に良く知っているのだ。


「いやいや、しっかり覚えていますとも。 お父上に連れられてやってきた君の、子供の面影が残った頃の素顔もねぇ。 本当に懐かしいです。 えぇ、よくこんなに立派になられて」


 互いの面識は、当時〝から〟始まったのではない。

 当時〝まで〟続いていたのだ。


 だからこそ福留も眼を細めさせずには居られない。

 昔を懐かしむ余り、思い出を描くキャンパスを求めて。

 その末に、ガラス越しの白街並みへと視線を逸らしてしまう程に。


「あの時は本当にお世話になりました。 貴方のおかげで今の僕が有る様なものです」


「おやおや。 今の貴方が有るのは、自身が才能に恵まれていたから……そうでしょう? 」


 そんなガラス窓に映る青年の指をふと覗き込めば、幾つも金の指輪が嵌っていて。

 淡く差し込む陽光を受けてチラチラと煌めき、その豪華さを際立たせている。

 相当に羽振りが良い人物なのだろう。


 それが実力で手に入れた物なのならば、間違い無く商才がある。

 少なくとも福留にはそう見えたらしい。


 ただ、この時の向ける表情はあまり浮かないが。


「いえ、これでもまだまだですよ。 一代で富を築き上げた父の偉業には到底及びません。 それに僕はそんな恵まれたとも思っていません。 ()()()()()


「……何をおっしゃりたいのでしょう?」


「はは、福留さんならもうわかってるんじゃないですか?」


 この羽振りの良さは少し異常だ。

 その姿はまるで、昨日今日富を手に入れたばかりの成金な様だったから。

 お金持ちであると誇示する様子はまさに。


 果たしてそれが誰に向けての誇示なのかは福留にもわからない。

 でも、そう思えたキッカケだけは―――もう既に()()()()


「……あの時の君はとても誠実でした。 若かりし頃のお父上に負けないくらいにねぇ。 けれど、今の君からはその気概を感じない。 この数年で何があったのです? 私に会いたいと連絡してきた理由もそこにあるのでは?」


 そう、それは最初に接触してきたのがこの青年の方だったから。

 福留を待ち合わせに呼んだのも、このバーを指定したのも。

 何かを企てているかの様に綿密と。


 まるで、福留がいつもやってのけている事と同様にして。


 しかも青年は今、笑っていた。

 福留自慢の洞察眼を前にして。

 意図的であった事を察知されたにも拘らず。


「そう、それでこそ福留さんですよ! やはり貴方は今も変わらない……! だから僕は憧れたんですよ貴方に! その先見の目があるからこそ!!」


 遂には興奮を露わにし、拳を握り締めては喜びを見せつけるまでに。

 福留が疑惑の視線を向けていようがお構いなしだ。


「えぇ、僕は変わりましたとも。 僕だけの()を得た事でね」


「力、ですって……?」


「福留さんなら()()が何か、すぐわかるんじゃないですか?」


 すると飾られた手がスッと動き、机の横から覗き見える腰へと動いていく。

 そうして指でトントンと叩いて見せたのは、腰に留められた掌大ほどの筒状物。

 細い革製のベルトでしっかりと固定され、奇妙な存在感を放つ茶色い物体だ。


 まるで画材コンテの様に煤けていて。

 しかしそれでいて金属の様に重厚で。

 その中心で宝石の様な小さな珠がキラリと瞬き示す。


 しかもそれが、二本。


 その存在感を、その恐ろしさを福留はよく知っている。

 この数か月間で、幾度として目の当たりにして来たからこそ。


「まさかそれは……!?」


「えぇ、そのまさかですよ。 コレに出会えた時は本当に幸運だと思いました。 お陰で決心が付きましたよ。 あの横暴な父との決別を決められる程にね」


 そう示した手も間も無く机上へと戻り、両手で組んでは肘で立てさせる。

 不敵な笑みへと変えたその顔を支える為に。


「実は僕も色々とやっていたんですよ、貴方が舞台裏で動き回っている間に。 【特事部】、でしたか。 なかなかと活躍されている様で。 それと、藤咲勇君の事にも随分と執心みたいですね」


「ッ!?」


 そして、その口があろう事か秘密をも暴かせる。

 あろう事か、関係者しか知らないはずの極秘情報を。


 この青年は全て知っていたのだ。

 福留の活動も、その正体も、勇の存在さえも。

 それも恐らく、勇達が持つ力さえも例外無く。


「……とまぁ、探りを入れるのはここまでにしておきましょうか。 僕は敵対したくて呼んだ訳ではないですからね。 それに、貴方にはそのままで居て欲しいと願っていますから。 ()()()()()()()()()()()で」


獅堂(しどう)雄英君、君は一体……」


 しかしそんな時、福留の言葉に反応した青年が人差し指を一つ、左右に振る。

 首をも動きに合わせ揺らしながら。


「福留さん、こうなった僕を今はそう呼ばないでください。 敢えて呼ぶなら【空蔵(からくら)】とでもお願いします」


「からくら……ッ!? まさか君は!?」


「ご察しの通り、僕は少し()()と縁がありまして。 まぁなかなか面白い事をやっていますよ。 良かったら訪ねてきてください。 悪い様にはしませんから」


 その姿から、敵意が無いとは言い切れない。

 どこか怪しげで、嘲笑っているかの様にも見えるから。


 ただ当人にその気が無いのは事実なのだろう。

 ここまでの秘密を握っていながら、何か手を打った訳でも無く。

 しかもこうして恩師である福留に全てを曝け出しているのだから。


 もっとも、腰に備えたモノの正体以外は、であるが。


「父は―――あの男は僕を切り捨てました。 だから決めたのですよ、家名を捨てる事をね。 そして僕を切り捨てた事を後悔させる為にこの力を奮います。 ……とまぁ今はその礎を立てている最中ですからね、何でもやるつもりです。 何だったら協力しますよ? 藤咲勇君と田中ちゃなさん、助けが必要でしょう?」


「……えぇ。 もしその時が来ましたら、ご助力を願いたい」


「もちろんです、福留さんのお願いなんて断れませんよ」


 そんな友好的とも言える言葉を残し、青年が立つ。

 福留に上品な礼を示し、別れを告げて。

 そうして去っていく姿もまた優雅に。

 きっと自然とそう出来る様に仕込まれてきたのだろう。


 でも、そう仕込んだであろう当人は振り返りもしなかった。


 ただただ静かに、片手に持ったグラスをゆらりと傾けて。

 器の中でくるりと回るワインを細めた眼でただ眺めるだけで。

 そうして残った染みに何が見えるのかは福留にしかわからない。


「彼を()()()とするには、もう少し見極める時間が必要そうですねぇ……」


 そんな福留は事実に気付いてから終始、浮かない顔付きだった。

 青年が去った今もそう。


 その想いは、青年の歪んだ志に憂いを感じたからか。

 それとも、時代の先に勇と並ぶ青年のビジョンが見えないからか。


 かつての福留の弟子、獅堂(しどう) 雄英(ゆうえい)

 この青年の思惑とは果たして。


 勇、ちゃな、剣聖、レンネィに続く五人目となりうる存在。

 しかしてその全容も目的も、そして力も―――まだ何もかもわかってはいない。




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