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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第九節 「人が結ぶ世界 白下の誓い 闇に消えぬ」
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~これが世界の進むべき道 逢~

 アメリカの外交官ミシェルとの対話は、勇の心に僅かな変化をもたらした。

 世界という舞台を示された事で。


 故に、勇は想う。

 自分が出来る事ならば成そうと。

 まだ見ぬ同志との出会いにも期待を寄せて。


 いつか世界に、以前の様な静けさを取り戻させる為に。 






 本懐の話も終わりを告げて。

 これで勇との用件は終了だ。


 でもどうやらミシェルはまだまだ話し足りないらしい。

 すると、ここぞと言わんばかりに愛希へと視線を向ける事に。


失礼(エイムソリィ)しま(フォゼ)した(ルゥデネス)挨拶を(アィプロシッド)せずに(ウィザ)話を(カンヴァセィション)して(ウィザゥト)しまって(グリティン)


「ハ、ハァ~イ!!」


 そして相変わらずの流暢な英語が向けられれば、愛希はもうタジタジだ。

 そこには首を引かせて苦笑いで誤魔化そうとする姿が。


「愛希さん、ミシェルさんはこう言っているのですよ。 ~~~と」

 

「あぁ~! いや、私オマケなんで。 気にしなくていいですよー!」


 しかしここはやはり福留の出番か。

 空かさず翻訳のフォローを入れ、きちんと対話を成り立たせる。

 愛希もこれにはホッと胸を撫で下ろさずにはいられない。


「愛希さん、ミシェルさんが折角だからお友達になりませんか、と言っています」


「オットモ……えぇ、私英語わかんないんですケド!?」


「なぁに、これから勉強すれば良いのです。 大丈夫、誰でもすぐに上達出来るものですからねぇ」


 そんな撫で下ろしていた胸も、空かさず跳び上がる事となったが。

 ミシェルの言い出した事が本気なのか冗談なのかはさておき。




コンコン……




 するとその時、入口から戸を叩く音が聴こえて来る。


 事務所には勇達以外居なかったはずだ。

 だからか、それを知る勇も愛希も思わず首を傾げていて。


 でも福留もミシェルはと言えば、どうやら訪れた者が誰だかわかったらしい。

 音を耳にするや否や、共に「おっ」と視線を向けてはニッコリとした笑みを浮かべる。


「入って構いませんよ。 今丁度話が終わった所ですから」


 扉は重厚に見えても、声をしっかり通す様で。

 その一言が聴こえたのか、間も無くノブがガチャリと回って扉が開かれていく。


 そうして姿を現したのは、老年に差し掛かったくらいの男性だった。


 オールバックの髪は白髪交じりで、福留とも相違ないくらいの年頃か。

 その顔に相応のシワが帯びている辺り、手入れはしていても防げないのだろう。

 中肉中背―――と言うには少し太り気味で、纏ったスーツも相応に太く膨らんでいる。

 背丈もそこまで高くはなく、勇と同じくらいと言った所だ。


 パッと見ただけなら福留同様にどこにでもいそうなお爺さん風なのだが。

 けれどそんな素顔を見た時、勇も愛希も妙に視線を外せなくなる。


 なんだか、どこかで見た事がある様な気がしてならなくて。


「おお、これはどうもミシェルさん。 今日は都合を付けて頂いて、ありがとうございます」


「お久しぶりです、〝鷹峰総理〟。 相変わらずお忙しい様で」


 だがその間も無く、衝撃の事実が明かされる事となる。

 これまた予想外の、ミシェルの流暢な日本語による挨拶と共に。


「そう、り……?」


 勇も愛希も、その事実を前にただただ絶句するばかりだ。

 目の前の人物が誰なのかわかったからこそ、逆に理解が追い付かなくて。


 そう、今現れた男性こそ日本国代表とも言える人物。

 鷹峰総理大臣、その人なのである。


 見た事の無い訳が無かったのだ。

 何せテレビでインターネットで日々政治欄を賑わせているその人なのだから。

 顔写真まで常々アップで貼られていれば、嫌でも覚えるものだろう。


「え、嘘、本物ォ???」


「えぇ、もちろん」


「え、ええー!?」


 それは当然、政治に興味が無い者であろうと分け隔て無く。

 ならば勇はおろか、全く縁の無い愛希でさえ知っていても不思議ではない。


 という訳でこの驚き様である。

 ミシェルの時に引き続き、またしても開いた口が塞がらない。


 二人とも今日は何かと顔芸の機会が多過ぎて、今にも顎が外れてしまいそうだ。


「もしかしてお二人が噂の勇君とちゃなさんですか。 いやぁ、会いたかったよ。 よく来てくれました!」


 しかもそんな二人を見つけた途端、歩み寄って来たでは無いか。

 あろう事か福留もミシェルをも差し置いて。

 よほど魔剣使いの二人に御執心なのだろう。


 とはいえ、ほんの少し勘違いしている様だが。


「君達の活躍は動画で拝見させて頂きましたよぉ! ドーン、ババーン、ドカァンと! いやぁあれは凄かったぁ~!」

「総理、ちょっと……」


 遂には緊張に固まる二人の前で、興奮のままに身振り手振りを示しだす。

 愛希をちゃなだと勘違いしたままに。


 だが、そこで福留も不味いと思ったのだろう。

 空かさず間に入り、コソコソと耳打ちをしていて。

 そこでようやく、事の重大さに気付いた様だ。


 どうやら危うく、総理大臣自らが盛大にしくじる所だったらしい。


 こうして二人で身を屈めて話し合う所は、勇にデジャヴさえ感じさせる。

 きっと鷹峰も勇にも負けないくらいのうっかり屋さんなのだろう。


「いやぁ勘違いして申し訳ない! いささか興奮していましてね。 勇君と、友達の愛希さん、初めまして。 皆の総理大臣をやらさせて頂いております、鷹峰です。 ええ、あのテレビなどでお騒がせしている鷹峰当人です」


「「ハ、ハジメマシテ」」


 おまけにユニークある紹介で柔らかな姿勢まで見せていて。

 街頭演説などでなら笑いも呼びそうなのだが。


 残念ながら勇達にはもう通用しない様子。

 もう緊張に完全と呑まれ、口ずさむ言葉もガチガチだ。


 変な噂こそ色々とあれど、相手は自国の代表者。

 有名な総理大臣を目前としてしまえば、さすがに緊張しない訳が無い。


「でも申し訳ない、時間的にあまり話せそうに無いから少しだけで。 勇君、ちゃなさんと一緒にこれからもよろしくお願いいたしますね」


「は、はいっ!」


 しかし、鷹峰はそんな事にも何一つ動じる事無く。

 勇の手をそっと掬い上げ、両手で包む様にして掴む。

 その両手は力こそ殆ど感じなかったが、温もりだけはじんわりと伝わってきて。

 たったそれだけで、鷹峰という人間性もが伝わって来るかのよう。


 総理大臣としてではなく、鷹峰当人としての温もりが。


 そう、それは福留とも遜色の無い暖かみ。

 人を優しさで包んでくれる様な、普通の人には無い緩やかな雰囲気だ。

 これが仕事上やテレビでは決して見せる事の無い、本来の彼の在り方なのだろう。


「それと愛希さん。 お二人の事をどうか影で支えてあげてくださいね」


 そんな人物の手が、今度は愛希の手を包む。

 勇にした事と同じ様に優しく。


 するとなんだか不思議と、心までが温かくなるかのよう。

 政治家の事なんて全く眼中にさえ無かったのに、妙に嬉しくて。

 そして鷹峰の優しい笑顔が、今まで耳に付いた悪評の記憶まで掻き消していく。


 それだけの暖かみが、彼には確かにあったのだ。


「さてミシェルさん、福留さん、懇親会場へ向かいましょうか」


「拝承しました。 お車の方へ案内致します」


「ありがとう」


「では勇君、愛希さん、二人とも帰りはお気をつけて。 我々はもう行きますので」


 でも残念ながらここで時間切れ。

 やはり政治家となれば休む時間もあまり無いのだろう。

 むしろ日曜の今日でこれなのだから、休みがある事さえ疑わしい。


 まるでそう暗に示しているかの如く、福留達が応接室から去っていく。

 後に残された勇達としては、ただただ唖然と見送る事しか出来なかったが。


「信じらんない……総理と握手しちゃった」


「俺もちょっと初めてでドキドキしてる」


 とはいえ二人ともすぐには動け無さそう。

 共に握手を交わした手を見つめ、ボケーっとしていて。

 それだけ感動が大きかった様だ。


 鷹峰には、テレビとは違う存在感があった。

 それも偉そうだと思っていた印象を根底から覆す程に暖かな。

 ミシェルもとても包容力があった。

 国を強く想う気持ちとフレンドリーな応対が親しみさえ感じさせて。


 この二人との出会いは間違い無く、勇と愛希にとっては大きかったに違いない。

 自分達もこの国の為に何かをしたいと思えてしまう程に。


 その気持ちの整理も付け、勇が椅子から立ち上がる。

 愛希へとそっと手を差し伸べながら。


「……帰ろっか」


「うん」


 そんな今の二人には不思議と、妙な一体感が。

 きっと共に同じ事を感じていたからだろう。


 手を引く勇も、引かれる愛希も、そのお陰かとても身体が軽かった。






 帰りの電車の中、二人が吊革に掴まり時を待つ。

 もう外はすっかり暗くて、車内はもう遊び帰りの人々で一杯だったから。


 ……と言っても、勇達も似た様なものだが。


 愛希の片手には高級ブランド店【ル・シャルル】のロゴ入り袋が掴まれていて。

 しっかりと有言実行を果たした後の様だ。


 けれどその二人の交わす話題はと言えば―――


「今日起きた事は絶対忘れないと思うわ」


「俺もかなぁ」


「なんか勇さんに付いていけば、まだまだ驚く事に体験出来そうな気がする」


 やはり先程の事だ。


 特に愛希にはよほど印象的だったのだろう。

 ブランド品なんかよりもずっと好奇心を注いでいて。


 その果てに生まれた一言に、勇が堪らず「ギョ」っとする。


「は、はは……でもさすがにこれっきりだよ」


 今日みたいな日が何度も来られたら、心がとても持たなさそう。

 冗談なのはわかっていても、こればかりは苦言を呈さずには居られない。


 愛希が据わった目で睨みを利かせようが、こればかりは退けないらしい。


 といっても愛希もそこまで図々しくは無い。

 不機嫌そうな顔も、その間も無くに笑顔へと変わる。

 ほんのりいじらしい小悪魔みたいな笑顔だけれども。


「わかってますよー。 もう我儘言うつもり無いしー。 貰う物はしっかりと貰ったもんねー」


「愛希ちゃん、頼むよ? 今日みたいな事がまたあったら、間違いなく福留さんに怒られちゃうからさ?」


「はいはい! アタシに任せなさいって! にししっ!」


 そんな顔を見せつけられて信用しろというのも難しい話なのだが。


 でも愛希が信用出来るかどうかと言われたら、きっと出来るだろう。

 ちゃなを想う心も本物だし、勇達にもしっかり馴染んでいる。

 その上で彼女なりの誠実さも見て来たし、真面目な所だって知っている。

 ただイマドキの女子というだけで、本質はとても優しくて頼り甲斐があるのだと。


 だから勇も愛希のノリに合わせて、敢えて鼻で笑って見せる。

 まるで「わかってるよ」と息を合わせんばかりに。


 そのまま話題も途切れ、愛希がそっとスマートフォンを覗く。

 そんな彼女が覗いていたのは、ニュースの政治欄。

 チラリと覗けば、先程出逢った二人の写真などすぐ見つかるもので。


―――でも、お陰で政治にもちょっと興味沸いたかなぁ―――


 想いを寄せた少年にその背も託し、記事をさらりと読み巡る。

 そうして喉を唸らせては微笑む少女の姿がそこにあった。




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