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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第八節 「心の色 人の形 力の先」
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~謀略、空駆ける二人~

 追手を全て払い退けたちゃなが一人、勇達の居るであろう拠点へと向けて進み行く。


「はぁ、はぁ……だめ、もう走れない……」


 ―――が、どうやら丘の斜面は相応にきつかった様だ。

 たちまちペタリと地べたへ座り込み、肩を激しく揺らし始めていて。

 今までずっと走りっぱなしともあって、もう体力が続きそうにない。


「勇さん、大丈夫ですよね……」 


 そんな息継ぐ中で見上げるのは、光がちらつく景色の先。

 勇達の気配を感じ取り、心配そうな眼を向ける。


 あともう少し走れれば辿り着けるのに。

 でも今は健闘を祈る事しか出来ない。

 そんな不甲斐なさを抱きながら。




 だから今はただ、静かに願うのみ。

 信じる勇が無事に帰ってくる事を。











キュインッ!! ギャリリッ!!


 ちゃなが見えていたのは勇達の戦いの残滓。

 絶え間無く襲い来る兵士と刃を交わし、命力光を弾き飛ばしていたのだ。


 魔者の兵士達も油断ならない存在で。

 四人が見せる連続攻撃は相手に反撃の隙を与えさせない。


 というのも、勇の行動領域の一部がオンズ王によって阻まれているから。


 迂闊に飛び上がれば再び横薙ぎが繰り出されかねない。

 現に今も、勇の隙を伺って佇んでいて。


「くうッ!?」


 兵士達もそれを十分承知しているのだろう。

 頭上を警戒する事も無く、地上戦に特化した動きを繰り出してくる。

 水平範囲上の逃げ道を塞ぐ様な立ち回りで。


 横に躱せばその横から。

 背後に回れば更にその背後から。

 繰り出す攻撃は常に勇の死角を狙って突いてくる。


 質では無く数による猛攻。

 もはや勇は躱していなすだけで精一杯だ。


 これは完全なる近接魔剣使い対策の戦術。

 それも熟練魔剣使いを想定した様な高度の。


―――予測以上だッ!! こいつらの動きはッ!!―――


 勇でこれなのだ。

 もしレンネィが代わりにこの場へと訪れていた場合、その結果は予想も付かない。

 例え熟練魔剣使いであろうとも、一人でこの状況を打破する事は困難を極めるだろう。


「ホレ、どうした? 早く諦めたらどうなのかぇ? わらわは飽きっぽいのじゃ」


 その上控えているのは最も油断出来ない相手。

 例えこの兵士達を突破出来ても、本番の余力を残すのは難しい。


 このままだとジリ貧、負ける結果は明らかだ。




 ならば、ここはもう勝負に出るしかない。




―――だったら、もっと速く動けばいいだけだ!! 王が捉えられない程に!!―――


 確かに敵は速い。

 それも数を利用して隙を潰してくる。


 なら、その合間を狙えばいい。

 勇ならそれが出来るから。


 【大地の楔】を得た今ならば。


「くぅおおッ!!」


 そう覚悟を決めた時、勇の体が打ち震える。

 身体に命力の光を走らせながら。


 そしてその力が高まりきった時、それは起きた。




キュウンッ!!




 勇が空高く跳び上がっていたのだ。

 木々を突き抜けて、一筋の閃光を刻みながら。


 その高さは周辺地域が丸ごと見渡せる程に高く。

 それも一瞬にして到達する程に速く。

 

 まるで剣聖と共に舞い上がった時の様に。

 あの時程ではなくとも、そう追体験出来そうなまでの空へと。


 もはやこれは人間が成せる領域を遥かに超えている。

 これぞまさに超人の所業。

 筋骨強度や物理現象を無視したとも言える超常的跳躍を、勇は果たしたのである。


 では何故こんな事が出来たのだろうか。

 実はそれもまた【大地の楔】が持つ特殊能力に起因する。




 その特殊能力こそが―――【骨格強化】。




 例え【感覚鋭化】で相手の動きが見えたとしても、体の動きが追従出来ねば意味が無い。

 「わかっていても動けない」というありがちな事が起きうるのだ。


 そんな時の意識の伝達こそ、命力がラグ無く行ってくれるだろう。

 命力機動の様に、考えただけで動く事さえ可能なのだから。


 でも、その操る筋肉や骨格が並みでは、追従しようとも反応速度に対応しきれない。


 脆いのだ。

 人間の筋肉も骨も、その反応に追従しようとすれば―――即座に千切れる事となる。

 それが生物の限界だからこそ。


 しかし【大地の楔】にはそれさえも強制的に強化してくれる。

 骨格はおろか、筋肉や血管、血圧までをも。

 命力で強化するよりもずっと強靭に。


 こうする事で【感覚鋭化】による反応速度にも耐えうる肉体を得る事が出来る。

 意思に完全に従いきれる程の強靭無比な肉体を。


 また超加速による急激な血圧低下なども防げる。

 戦闘機が急加速した場合などに起きる血流越迫現象をも。




 そう―――つまり今の勇は事実上、戦闘機の航行速度並みの素早さで動けるのだ。




 だからこうして一瞬にして空へと飛び上がる事も充分に可能としたのである。


「よし、一旦距離を取るか。 仕切り直しだ」


 とはいえ、跳び上がったのはあくまでも一時撤退の為。

 囲まれた状態で戦い続けるよりも、こうして退いた方が良い時もあるから。


 すなわち戦術的撤退である。


「まずは一対一に持ち込まなけりゃ―――」 


 勝敗にこだわるよりも、生きる事を選ぶ。

 それが戦いにおいて最も重要だからこそ。

 戦い続けて得た心得がこう出来る冷静さを与えてくれた様で。




 だが、逃げ切れたかどうかという話はまた別だ。




「―――ッ!?」


 その時、勇はその目を疑う。

 まさかの事態が迫っていた事に。




「アハハハッ!! やはりそうきたか魔剣使ぁいッ!!」




 なんと、オンズ王が飛び上がって来たのである。

 勇の跳躍にも負けない速度を伴って。


 考えても見れば不思議では無かったのだ。

 勇の回避速度を捉え、超重量の棍棒を豪速で振り回していた。

 その類稀なき身体能力は人間のそれを遥かに超えている。


 魔剣の肉体強化など必要無いまでに。


 これがあの極太の足腰の正体。

 ならばこうして跳び上がる事も不可能ではない。


()()()、だとッ!?」


 更にその一言が勇の焦りをこれ以上に無く引き出す事となる。


 まるで勇がこうして跳び上がる事を知っていたかの様な言い草。

 加えてこう追う事も予定調和であるかの様な。




 いや、予定調和だったのだろう。


 勇が跳び上がる事も、追撃する事もまた。




 余りにもタイミングが合い過ぎていたのだ。

 勇の上昇速度が緩む時と、オンズ王が迫るタイミングが。

 その瞬間を狙ったかの様に。


「ハッハアッ!!」


 そうもなれば、オンズ王が攻撃してこない訳も無い。

 その瞬間、金棍棒の柄先が真っ直ぐ勇へと突き出される。


「うおおッ!?」


 でも勇に回避する術は無い。

 空中に舞っている以上、軌道修正を行う手段は無いのだから。


 出来るとすれば、防御のみ。




ギャゴンッ!!




 そしてその棍棒が打ち当てられた時、勇の体が再び空高く打ち上げられる事となる。


「がはッ!?」


 その衝撃は凄まじく、防御してもなお体全体に響き渡る程。

 加えて打ち上げによる空気抵抗で体が押し潰されそうだ。


 耐えられる体を有していても、不意となれば話は別で。

 それだけの一撃をもたらされれば苦悶さえもたらすだろう。


 対してオンズ王はと言えば、そのまま降下へ。

 さすがに空を飛ぶには至らないのだろう、間も無く森へと消えていく。




 しかし、それが終わりと誰が言っただろうか。




 なんとまたしてもオンズ王が跳び上がって来るではないか。

 それも勇が落下してくる位置を狙ったかの様にして。


「アッハハハ!!! 空へ上がった以上、次に地を突けるのは戦う意思を失くした時だけじゃァーーーッ!!」


 そう、これも彼女の思惑通り。

 勇が落下してくる地点も予測済み。


 後はただ、力の限りに跳び上がっては打ち上げるのみ。


「なんだとおッ!?」


 これには勇も驚愕を隠せない。

 まさか跳躍する事が相手の思うつぼだったなどとは思いもしなかっただろう。




 全て誘導されていたのだ。

 兵士達の動きも、オンズ王の挙動も全て、この時の為に。 




 だからこそ、空で戦いが始まった時、兵士達は既に剣を降ろしていた。

 もう自分達は役目を果たしたとわかっていたから。


「こうなればもはやあの人間も王の玩具よ」


「そうだな。 誰もこの空中戦こそがあの方の本領とは思うまい」


 後はただ見上げてほくそ笑むのみ。

 信じる王が再び魔剣使いを屠る事を望んで。


 ただ一人を除いては。


「これで良かったのだろうか……」


 そう零したのは吐息にも近い囁きで。

 仲間達も戦いに夢中で気付いてはいない。

 でもその一言こそが彼の本心だったからこそ。


 その者が見上げた先は決して王では無く―――




 ―――果敢にも耐える一人の人間へと向けられていたのである。




 誰にも悟られぬ、淡い期待を胸に秘めながら。




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