表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第八節 「心の色 人の形 力の先」
238/426

~本質、これが魔者の倫理~

「ヌシはバカか?」


 勇とオンズ王との間で始まった対話。

 それは儚くも、この一言でその様相をガラリと変える事となる。


 勇が押し出した理想の提案はたった数言で瓦解して。

 魔者の本質を剥き出しにした、反一方的な〝主張〟が始まったのである。


「何ッ!?」


「確かにヌシらは言うた。 我等が満足出来るよう最大の努力をしよう、とな。 それを知らぬヌシではあるまい?」


「……ああ!」


「そう、ヌシらはそれを叶えた。 幾つもの家を寄越し、水と食料を貢ぎ、切らした事は無かったのぅ」


 そう、日本政府は【オンズ族】との停戦協定を結ぶ為に支援を約束した。

 見知らぬ土地に転送された彼等を、日本政府はおもてなしで応えようとしたのだ。


 でもそれが果たして、魔者にとって本当に救いだと考えただろうか?

 人間という天敵の与えた物が救いだと思えただろうか?




「だが、人間共はやはり浅はかだと思い知らされたよ」




 答えは否。

 それは結局、日本政府の―――いや、現代人の考えた自己満足的供与に過ぎない。


「我々がこの様な森に生きる野蛮な生物だとでも思うたか? わらわがこの様な未開の土地で満足する器だとでも思うたか!? 我々は魔者ぞ!! 史上至高の究極生物である魔者ぞ!! 愚弄するのも大概にせよ!!」


「なっ―――」


「住む家を寄越せと言えば、いざ寄越したのはあの様なみすぼらしい掘立(ほったて)小屋よ。 それも狭苦しく、雑兵共を退けても満足出来るはずも無いッ!!」


 途端、王がその身を退けつつ左腕で後ろを示してみれば。

 その先には日本政府が建てたプレハブ小屋達が。


 でもその姿は見るも無残に崩れ落ち、もはや住む事など叶わない状態で。


「ほんの少し突けばああもなる。 実に不愉快だッ!! ―――食料こそなかなかの物じゃったが、あの様な小屋の中で喰らう事の如何に惨めな事か……ッ!!」


 オンズ王は兵士達と比べ、格段に背丈が高い。

 それなのにも拘らず、人間が使うサイズの家を与えられても難儀するのは当然だ。

 加えて魔剣を有する程の強さを持つならば、こう簡単に壊れてしまう事も有り得る訳で。


「そんな時、わらわは見たのじゃ。 丘の先へと目を凝らしてみれば……あるではないか、人間どもが造った無数の〝城〟が。 わらわが掘立小屋で暮らしているのにも拘らず!! 何故ムシケラの如き人間どもがわらわを差し置いて城に住むかあ!!」


 その怒りがたちまち金棍棒の柄を大地へと突かせ。

 途端「ドズンッ」という鈍い音が周囲を貫き、勇だけでなく兵士をも動揺させる。


 オンズ王の言う〝城〟とは詰まる所のビルやマンションの事だろう。


 でも彼女は知らないのだ。

 その建物が望む様な城ではないという事を。

 むしろずっと、彼女達に与えられた小屋に近い概念を持つ建物だという事を。


「それは誤解だオンズ王ッ!! あの建物は城なんかじゃあない!! 人と人が協力しあって文化を育てる為の作業場なんだ!! 皆が協力出来たから、あんな建物が一杯造れたんだ!! それが現代なんだよ!!」


「ほぉ~……」


 ビルもマンションも、人がたくさん集まる為に建てられた物だ。

 仲間同士が集い、新たな文化や生活圏を構築していく為に。

 その様な物を造り続け、協力し合って人は発展し続けて来た。


 だから今の世界があって、今の日本がある。


 そしてそれは【オンズ族】だって出来ないはずがない。

 同じ様に考えて、同じ様に話を交わせるから。


 その文化の発展の仕方を知れば、彼等だって出来るはずなのだ。

 自分達の城たるビルを建てる事だって。

 人と協力し合う事だって。


 だが―――




「ならばその人間どもを追い出してわらわが住めばよい。 あの街に住む奴らをこの小屋に住まわし、我等を街に住まわせればよい。 ただそれだけじゃ」




 そんな理屈など、オンズ王には通用しない。

 人間を見下した眼でしか見れない彼女には。


 この考えは決して彼女だけのものではない。

 魔者という存在が持つ共通認識なのだ。

 かつて遭遇してきたダッゾ、ウィガテ、ザサブも。

 きっと他の魔者達も同様に。


 彼等が持つ人間への恨みと憎しみは蔑む事で醸成されてきた。

 殺し、殺される事で積み重ねて来た。


 そうして出来た価値観こそが彼等の常識。




 戦いを是とする魔者にとっての〝倫理〟なのである。




 例外なのは隠れ里の魔者達だけ。

 世俗から離れて生きて来た世捨て人達だけだ。


 そんな彼等と出会ったから話し合える。

 そう思うなど、根本から既に間違っている。


 そう、前者と後者では根本が違うのである。

 〝魔者〟という名では括れない別カテゴリ的存在であると言い切れる程に。


「なんだとッ―――」


「人間など幾らでも沸いてくる。 一〇〇匹死のうが潰れようが構うまい? 我等の礎となるならば本望であろう? それがヌシらに要求した我等の望みなのだから」


「ッ!?」


 その事実に気付いた時、勇は遂に知る事となる。

 今目の前に居る者が、人間とも遥かなる隔たりを持った異常な生命体であるという事を。




「敬え。 讃えよ人間。 わらわはオンズ王ッ!! ヌシらの命を幾百万と捧げ、尽くし尽くすが良い!! さすれば慈悲を与えよう!!! 使い潰すという最高の慈悲をなあッッ!!!!」




 世界には、決して相容れる事も出来ない、対話すら叶わない存在が居るのだという現実を。




 興奮が、昂りが、オンズ王の両腕を開かせる。

 激しく大きく一杯に。


 なればたちまち周囲の兵士が、そしてオンズ王そのものが。

 その身に命力を灯し、敵意を剥き出しとする。


 今の咆哮たる叫びこそが彼女の狼煙だったのだ。

 この場に居る者すべての闘志を滾らせる為の。


 囲んだ相手、天敵である人間の魔剣使いに対しての。


「わかり合うつもりはないんだな……?」


「当然だ人間如きがッ!! だからバカだと言うたのだあ!! その様に下等なヌシらが我等魔者を御せるなどと思うなよッ!!」

 

「……ならもう、容赦はしないッ!!」


「それはわらわの台詞じゃあッ!!」


 そしてその叫びが場を貫いた瞬間、囲っていた兵士達が一斉に勇へと飛び掛かる。

 それも一瞬の迷いも無く、ほぼ同時に。


「「ウォォーーーッ!!」」


 突き出せしは魔剣の刃。

 それも今までの雑兵とは比べ物にもならない突速度の。


 これぞまさに命力の扱いを熟知した者たる一撃。




 だが勇がその一撃を見切れない訳では無い。




 勇には全て見えていたのだ。

 例え背後だろうと、死角だろうとも。

 

 筋肉が軋む音が、大地を蹴る音が。

 空気を裂く感触が、呼吸の流れが。

 彼等の動きと行く先を全て余す事なく教えてくれる。


 【感覚鋭化】がある限り、この程度では勇を捉える事さえ叶わない。




 だから勇はその時、跳ねていた。

 兵士達の目にも止まらぬ速さで。




ギャリリンッ!!


 その途端に勇の居た場所からけたたましい鳴音が鳴り響く。

 兵士達の剣が重なる様に擦れ合っていたのだ。


「なんだとぉ!?」


 当然その切っ先には何も残されていない。


 刺突対象は既に頭上。

 四人揃って見上げれば、そこには既に魔剣を振り降ろさんとする勇の姿が。




―――ゴゥンッ!!!




 しかしその姿も間も無く、彼等の視界から消える事となる。

 暴音轟く一薙ぎによって。


 その時彼等の視界を過ったのは―――金棍棒。


 そう、オンズ王による横薙ぎ一閃だ。

 飛び上がった勇を狙い、容赦無い一撃を見舞っていたのである。


「うおおッ!?」


 その一振りは勇の予想を遥かに上回る豪速。

 しかも超重量の伴った一撃はもはや何者をも遮る事は叶わない。


ガッキャァーーーンッッッ!!!


 途端、武器同士が打ち合い、けたたましい鳴音が周囲へ飛び散っていく。


 それでも勇は辛うじて防いでいたのだ。

 魔剣を盾に、僅かに受け流す様にして。


 ただ与えられた衝撃は凄まじく、彼の身を遠くまで打ち飛ばす程。

 それも宙でグルグルと回ってしまうまでの勢いを伴って。


ザザーッ!!


 そんな勢いの中であろうとも四肢を突いて大地を滑る。

 余りの威力だったが故に、もはや滑るというより抉るに近いが。


「ぐぅ……ッ!! こいつッ!?」


 なんとか着地を果たすも、勇は動揺を隠せない。


 今の勇の一連の動きはほぼ一瞬の事だ。

 それにも拘らず、見切る所か攻撃を遮ってさえみせた。

 しかも【感覚鋭化】の隙まで突いて。


 そう出来る程までに速く動けるのは精々剣聖くらいだろう。

 そう思い込んでいたからこそ、直ぐには信じられなかったのだ。


 目の前の相手が、まさかそれだけの強敵であったなどとは。


「ホホ、人間らしい無様な姿よ。 やはりヌシらは四つん這いが相応しい。 今まで屠ってきた魔剣使い共もそうやって這いつくばって潰れていったのを思い出すのぉ~」


「何ッ!?」


 再び兵士達が駆け回る中、王がのしのしとゆっくり勇へと歩み寄っていく。

 挑発的にも己の細い顎を掻き毟りながら。


「―――七匹だ。 今までに七匹の魔剣使いを潰してやった。 どいつもこいつも情けない声を上げて、泣き叫んで許しを請うててのぉ。 極悦じゃったぞぉ!! そんな中で一つ一つ四肢を踏み潰してやったのは!!」


「きっさまあッ!!」


「最後には立つ事も這う事も出来ず、糞尿撒き散らしながら勝手に死ぬ!! これのどこが笑わずいられようか!! やはりヌシらは程良き遊び道具じゃ!! わらわに愉しみを与えてくれる最高の玩具じゃあ!! アッハハハハッ!!!」


ズズンッ!!


 果てには興奮が再びの棍突を大地へ誘い込む。

 一度ならず、二度も三度も。


 まるで勇を威嚇せんばかりに。


「そしてヌシもそうなるッ!! 魔剣が如何に強くとも、人間が扱えば所詮ただの棒きれに過ぎんわぁ!! 潰してやろう、その手足を!! 八匹目はヌシで決まりじゃあ!!」

 

「そうはさせるかよッ!! 貴様をこれ以上進ませる訳にはいかないッ!!」


 だからこそ勇は猛る。

 そこまでして煽りに煽ってきた相手に怒りをぶつける為に。


 今の勇はそれ程までに憤っているのだ。

 命を命とも思わぬ卑劣者に。

 自身の願う未来を根底から踏み躙られたからこそ。




 そして始まるのは強者同士の戦い。


 その行く末は果たして―――




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ