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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第八節 「心の色 人の形 力の先」
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~極光幕、そして新たな力の片鱗~

 勇が暗闇の舗装道を一人疾走する。


 しかし道は開けているにも拘らず、実に静かなもので。

 時々一人か二人の兵士に遭遇するだけで、対処はさほど苦労しない。

 むしろどこに行ったのかと疑いたくなる程に薄い防衛網だとすら言えるだろう。


 それは単に敵の戦力が少ないからか、それともそういう策略だからか。


 いずれにしろ勇に出来るのはただ突撃する事のみ。

 臨機応変に対応し、王を叩く―――ただそれだけだ。


 その一心の想いで勇は行く。

 それが最も効率的で、早く事を終わらせる手段なのだから。




 だが勇はこの時気付いてはいなかった。

 敵の戦力がこうも少ない、その真の理由を。


 それが影の立役者の活躍があったからこそだという事を。











「はあッ、はあッ……!」


 それは勇がもう間も無く敵拠点へと到達しようとしていた頃。

 ちゃなは一人、拠点を迂回する様にして道路を走っていた。


 それというのも―――


「追えッ!! 逃がすなあッ!!」


 彼女が今、兵士達に追われていたからである。


 その背後は愚か、左右からも。

 時間を置くごとに一人二人と追撃する人数を増やしていく。


 既にその追手は一〇人以上。

 それも更に増えつつある状況で。 

 包囲して逃さない為に、必ず仕留める為に。


 魔者達は知っているのだ。

 ちゃなの様な遠距離砲撃型魔剣使いが近接戦闘に弱いという事を。

 だからこうして四方から追い詰めれば、容易に仕留める事が出来るのだと。


 それにちゃなはただひたすら走るだけで反撃してこない。

 ならば彼等が追わない道理は無いだろう。


 故に魔者達も必死だ。

 ここで討ち取らなければ後々が怖くなる。

 あれ程の砲撃を放っていた者ならなおさらの事。


 魔剣使い討伐のチャンスを逃がそうと思う程、彼等は緩く生きてはいないのだから。


「なんとしても殺せッ!! 八つ裂きだあ!!」


「人間めぇ!! 魔剣使いめぇ!!」


 その殺意も本物で。

 彼等の人間に対する恨みは今なお健在。

 こうして浴びせる罵倒にもこれ以上に無い鬼気が混じる。


 そんな中で走るちゃなもきっと心が削られる想いだろう。

 命力で鍛えられていても、敵意や殺意を向けられれば心に障るから。


 それでもちゃなは負けない、諦めない。

 ただひたすらに思うがまま走り続けるだけだ。




 そう、()()()()()に。




 では何故、こうして逃げるハメになったのか。

 何故、隠れずにわざわざ道路の真ん中を走っているのだろうか。


 実はこれ全て、ちゃなの思惑通りである。


 彼女は自ら囮となろうとしたのだ。

 王へと真っ直ぐ向かう勇の為に。

 戦いの余力を与える為に。


 自分の足が遅くて弱い事はよく知っている。

 今から追い掛けても、きっと追い付けないだろう。


 だったら、別の形で補助すればいい。

 その想いからこうして囮になる事を思い付いたという訳だ。

 

 ちなみに、囮になるのは実に簡単だ。

 ちょっと炎を出して見せ、道路を走り続ければいい。

 後は魔剣を輝かせて灯ランナーと化せば、敵が勝手に付いてくる。

 誘われているとも知らずに。


 これはもちろんちゃなが独断で決めた事。

 もし勇に相談していれば、きっと反対されただろうから。


 でも、だからこそ今のちゃなのやる気は充分だ。

 自分自身で成し遂げると思いきったからこそ。




 そして頃合いが訪れれば、こうして状況を切り替えるという事も計算づくである。




 たちまち兵士が畑から、草藪から姿を現しては逃げ道を塞ぐ。

 気付けばおおよそ一四人の包囲網がちゃなを囲んでいて。

 それだけでなく、きっと草むらの中にも伏兵がまだ潜んでいるだろう。


「追い詰めたぞ!! 観念するんだなぁ!!」


 如何にもな台詞を吐く辺り、彼等は何も気付いていない。

 自分達がこうしておびき寄せられた事に。


「一斉にかかれェーーーッ!!」




 一挙に仕掛ければ勝てるはずだという〝幻想〟を抱いていた事に。




「ふぅッ!!」


 だがこの時、ちゃなは己の力を信じて―――跳んでいた。

 このあいだ勇がしてみせた事と同様にして。


 あの時はただ真似しようと思ってやっていただけだから出来なかった。

 でも今は違う。


 跳ばなければいけない。

 成し遂げねばならない。


 生きて帰らなければならない。


 その意思と想いが心を突き抜けた時、魔者達は見るだろう。




 空高く舞い上がる少女の姿を。




 月夜に照らされしその姿はまるで天使。

 見に纏う命力の輝きが、神々しささえも纏わせる。


 その様子はもはや魔者達が驚き見上げる程。


 ただし、その魅惑の姿にではない。

 驚愕せんばかりの速度と力強さを実現した跳躍力に、である。


「なんだとぉ……!?」

「バカな、これ程の跳躍力を人間如きがあッ!?」


 それにきっと、この様な事態は想定していなかったのだろう。

 これ程常識離れした存在を相手にするなど考えてもみなかったのだろう。


 跳んだちゃなを頭上にして、兵士達はもはや逃げる事さえ思い付きはしない。

 そんな彼等に向けられるのは当然、ちゃなの魔剣の矛先である。


 ただし砲撃ではなく、自らを巻き込まない攻撃でなければならない。

 ならば周辺だけを()()を焼き尽くせばいいだけだ。


 だからこそ、彼女は既にその事も考慮済みで行動に移していた。




 空の中でくるりとひと回りする為に。




 もちろんただ回っただけではない。

 その手に掴んだ魔剣の先を大きく振り回しながら、である。


 するとどうだろう。

 途端に魔剣の先から光が溢れ、周囲へ向けて瞬きながら流れ落ちていく。


 その様子はまるで光のカーテンヴェール。

 極光幕(オーロラ)の如き煌めきが辺り一面を覆い尽くしたのだ。

 

 その幻想的な様相が魔者達の心さえ惹いてならない。

 こんな物を見た事どころか知りすらしない彼等ならば特に。




 だがその幻想的な光景が、彼等の人生の見納めとなる。




 その瞬間、周囲の全てが一瞬にして―――溶けた。


 魔者も草木も電柱さえも。

 何もかもをも焼き尽くし、焦がし、滅して。

 アスファルトや土さえも瞬時に赤熱化し、灼熱に耐えられぬ物を気化までさせて。

 半径三〇メートル全域が丸ごと、それを成す程の灼熱地獄と化したのだ。

 それ程までの超熱量が容赦なく降り注がれたのである。


 これぞまさに死を呼ぶカーテンヴェール。

 天使が撃ち放ったとは思えない程の無慈悲さだ。




 これを敢えて名付けるならば―――【却熱幕布(ヒートヴェール)


 使用者周辺だけを焼き尽くす、近接戦特化の熱力応用技である。




 そしてその熱は彼女が降り立った頃には全て消えているという都合良さ。


 熱を生み出したのはあくまで命力で。

 それも大気に消えれば、伴っていた加熱現象も一緒に消え去るという訳だ。


 強いて言うなら、余熱がちょっと熱いくらいか。


「ふぅ、想像通りに出来てよかったぁ」


 でもそんな熱さなど気にも留めず、ピョンピョンと飛び跳ねて喜びを示す姿が。

 やはり一か八かの戦術ともあって、成功した事がよほど嬉しかったのだろう。


 それにしても当人、地獄の業火を放ったとは思えない浮かれようである。


 容赦無く敵を焼き尽くす辺り、ちゃなは割と図太い性格なのかもしれない。

 命を重んじる勇と違って。




「居たぞ!! 魔剣使いだ!!」




 しかしそんな最中にも、事情を知らない新たな兵士達が道の向こうから走って来る。

 今しがた到着したばかりの斥候達だろうか。


 どうやらちゃなに休む暇を与えてはくれない様で。


「むー! 全部倒したと思ってたのにー!!」


 でも当人、脅えるどころか地団駄を踏む始末。

 今ので全部焼き尽くすつもりだったらしい。


 今日のちゃなは何故かやたらとやる気一杯だ。


 昨日のミズニーの一件でストレスが相当溜まってていたのだろうか。

 その姿はまるで水を得た魚のよう。

 フラストレーションをぶつけるにはもってこいの場なだけにやりたい放題である。


 ただ、戦いでそんな相手と出会ってしまったが彼等の運の尽き。

 オマケに何も知らず突っ込んで来れば―――




「とことんやるって決めたんですッ!! だから邪魔しないで下さい!!」




 ―――魔剣を向けられる事はもはや必然。


 そんな理不尽な台詞と共に【ドゥルムエーヴェ】を突き付けて。

 おまけに【アメロプテ】まで取り出し構えるまでに。


 だがその時、思い掛けない出来事が起こる。


 ただ〝なんとなく〟そうしてみただけだった。

 それも無意識の内に。 


 【アメロプテ】の枝先を【ドゥルムエーヴェ】の杖上に添えていたのだ。

 X字を描く形で。


 たったそれだけ。

 でもその何気無い行為が予想打にもしない効果を発揮する事となる。


 その瞬間、互いの間で光が弾け。


バチッ、バヂヂッ!!


 弾けた光が蓄電光の如くスパークし。


キンッ、キュゥンッ!!


 金切の如き甲高い鳴音が断続的に鳴り響く。


 これはまるで胎動。

 想像を絶する力が解き放たれる事を待ち望んでいるかの様な。


 それも今までに感じた事も無い、段違いの破壊エネルギーを秘めながらの。


「くぅぅ!!」


 その力を解き放つべきか、ちゃなは一瞬躊躇する。

 それ程までのポテンシャルを感じ取ってしまったから。


 でももう敵はすぐそこまで来ている。

 今引き金を戻せば、やられるのは自分かも知れない。


 ならばいっそ。




 その意思が脳裏に過った時―――その周辺が光に包まれる事となる。




 それは凄まじき光量。

 全てが真白に塗り潰されてしまう程の。


 それは恐るべき波量。

 何もかもを薙ぎ払い尽くす程の。


 力が溢れたその瞬間、光は遂に破壊の奔流と化す。

 なんと魔剣から、一筋の裂光が撃ち放たれたのだ。




キュオオオオッッッ!!!!!

 



 その様相はまるでレーザー砲。

 それも人一人呑み込む程に巨大な、()()()の様な一閃として。


 その圧倒的な破壊の奔流を前に、もはや障害物など意味を成しはしない。


 迫りくる魔者も、草木も家屋も何もかも。

 光に包んだ者すべてを蒸発させて。

 大地を削り、山を拓き、焼き尽くす。


 その破壊光量はもはや底なし。

 遥か先の先まで貫き、何もかもを削り抜いていったのだから。




―――ゥゥゥン……




 その光が進路上の全てを消し尽くした頃、ようやくその放出が終わりを見せ。

 そして輝きが全て失われた跡に残されたのは―――真っ直ぐと刻まれた光線軌跡。


 円筒状の痕がくっきりと残されていたのである。

 それもあろう事か、景色の遥か彼方まで。


「ふぅ……今の何だったんだろう?」


 しかし本人も何が起きたのかわかっていない様で。

 想像もし得ない威力の砲撃を目の当たりにして、思わず首を傾げる姿が。


「まぁいっか」


 でも図太い所はやっぱり相変わらずの模様。

 全く気にも留めず、「ふんふーん」と鼻歌まで披露していて。

 なんだかんだで充分なストレス解消になったのだろう。




ガササッ―――




 とはいえ、まだ全てを倒しきった訳ではないらしい。

 その途端に、付近の茂みから不自然な物音が微かに鳴り響く。


「むっ!?」


 そんな物音を見逃すちゃなではない。

 察した途端に魔剣を突き付けていて。


 その容赦の無い姿は魔者達にどう見えたのだろうか。




「ムリ、ムリムリムリィ!!」




 そうして現れたのはお手上げ状態の兵士。

 唾から舌まで撒き散らさんばかりに、顔を必死で左右に振り続けていて。


 どうやらもう完全に戦意喪失状態。

 それどころか正気を保っているかどうかも怪しいレベルだ。


「ムゥーリムリィームリよームリー」


 そのままとぼけた様な歌を歌いながら踵を返し、茂みの中へと帰っていく。

 ポカンとしたままのちゃなを置いて。


 他の箇所からも物音は聴こえるが、襲い来るどころか離れていくばかり。

 誰も彼も、もうちゃなに襲い掛かる気は無い様で。

 いざ耳を澄ませば―――


「あれは絶対無理」

「すまん同胞、恥でも私は逃げたい」


 という情けない声が微かに聴こえて来る。

 こんな時ほど声が聴こえやすいのは、彼等の抱いた感情がそれだけ強いという事か。


「うーん、まぁいっか。 じゃあ私も勇さんの所に行かなきゃ。 間に合うかなぁ」


 とはいえ、これでちゃなの作戦は完了。

 見事成功したとあって、ウキウキでその場を後にする事に。


 スキップしながら走り去る姿は本当に嬉しそうである。






 ちなみに、ちゃなの去っていく姿を魔者達の方からの視点で語ればこうなる。


――――――――――――


 怪物が大地を蹴り砕きながらようやく去っていく。

 同胞を嬉々として焼き尽くした醜悪な怪物が。

 もう我等では満足出来ないのか、どうやら見逃してくれた様だ。


 でもあの怪物相手ではきっと王も敵いはすまい。

 一瞬で消し炭にされるのがオチだろう。


 あの凶悪な微笑みはきっと忘れない。

 我々の命を幸せの糧とする様な存在は、もう出来れば思い出したくもないが。


――――――――――――


 価値観の違いはあれども。

 彼等からしてみれば、ちゃなは実に悪魔の様な存在に見えたに違いない。




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