~暗走、闇では戦士は止まらない~
幾箇所で火の粉が高く舞い上がり、空を赤く染める。
その様子を見ていたのは勇達や現場の魔者達だけではない。
そこからほんの少し遠い丘林でもまた、その光景を静かに眺める者が。
「……魔剣使いが来たか。 ホホッ」
その様子はと言えば、敵が来たというのにも拘らずどこか嬉し気で。
兵士達が慄いているにも拘らず、堂々と見下ろしている。
口元に細かく鋭い牙を覗かせながら。
「少しは楽しめそうじゃ。 ほれ、お前達も行くが良い。 骸となろうとも彼奴らを見事討ち取ってみせよ」
「え、えっ!?」
その者、自身を囲う者達よりも一回り大きく。
肩肘の張った体は己が強靭さを示すには充分。
そんな者の口が宣うのは、姿形に似付かわしい理不尽な要求。
兵士達もその一言を前には戸惑うばかりだ。
だが。
「どうした? わらわの言う事が聞けぬと?」
「いえ、我等が王の言葉は絶対―――」
「ならば行け。 牙の一つでも突き立てねば【オンズ】の恥と思うてな」
見下ろされる目から眼光が瞬き、兵士達をこれ以上になく脅えさせる。
彼等は恐れているのだ。
己が一族の王を。
人間よりも、魔剣使いよりもずっと。
その実力を深く知るからこそ。
兵士達が足早に丘を駆け下りていく中で、王はなお静かに佇み続ける。
炎の光を受けて輝く、巨大な棒状の得物を突き立てて。
期待と自信のままに、ただほくそ笑むのみ。
一方その頃、丘の麓では―――
勇達の急襲に気付き、舗装道路を駆け降りていく三人の魔者達の姿が。
「王からの指令はまだかッ!?」
「まだだッ!! だが魔剣使いなれば討つ! 我等が麗しき王ならばそう言うハズだッ!!」
王の護衛兵達と打って変わり、彼等の意思は強固だ。
恐らくはそんな雑兵よりもずっと位の高い存在なのだろう。
その証拠に、普通の物とはどこか雰囲気の異なる短剣を携えていて。
他の個体と比べても、一際目立つほどに体格が大きい。
そう、彼等の携える武器こそ―――なんと魔剣なのである。
その造りは簡素的で、強い力こそ持ち合わせてはいない。
かつて勇が持っていた魔剣【エブレ】と同等の一品だ。
しかし魔者が持てばこれ以上に無い武器となる。
何故なら、魔者が命力をナチュラルに扱える存在だから。
いつか剣聖が言った通り、数日持つだけで使いこなす事が出来る様になるのである。
そうなれば、並みの魔剣使いでは太刀打ちはほぼ不可能。
そしてそれを魔者達も知るからこそ。
この三人もまた、自信に溢れた眼で先を見据えるのみ。
「我等【特武隊】の実力を人間に思い知らせてや―――」
だがこの時、その自信はもはや慢心と化す。
その瞬間、先陣を走っていた者の腕が―――刎ねていたのだ。
多量の体液を撒き散らしながら。
「「「えっ?」」」
しかもその一瞬を、三人は理解する事が出来なかった。
斬られた当人ですらも。
「オ……ぐぅおああ!?」
しかしその事実に気付いた途端、斬られた者がもがき苦しむ事に。
腕を失った絶望と、この上ない痛みが襲い掛かったが故に。
苦しみの余り、たちまちその身を大地へ転がさせていく。
まるでピンボールの様に跳ねながら。
「な、何が起こったァ!?」
残った二人ももはや臨戦態勢だ。
互いに背を合わせ、周囲からの攻撃に備えて魔剣を構える。
そんな行為など何の意味も成さないとも知らずに。
気付いた時にはもう手遅れだった。
この時、二人が咄嗟に見上げれば―――
自分達目掛け、暗闇を切り裂く一閃が走光っていたのだから。
キュゥゥゥーーーーーーンッ!!
光が穿つ程の一撃は、大気を擦って鳴音を生む。
風を裂いて生まれた風切り音と混じりながら。
それが命力共鳴音。
それ程までの一撃ともなれば、もはや金属とて物理抵抗になりはしない。
バッキャァーーーーーーンッ!!
そうなれば、たちまち無数の金属片が弾け飛ぶ事となる。
一瞬だった。
たったその一瞬で、魔者達の持つ魔剣が砕け散ったのだ。
それを成した者こそ―――あの勇である。
「ば、バカな、我等が見えなかっただとぉ!?」
「うぐぉ……有り得ん、どうして人間がそこまで動ける!?」
オンズ屈指の戦士である彼等が慄いてしまうのも無理は無い。
【オンズ族】は夜目が効く。
これは彼等にとっての自信の一つであり、アイデンティティでもある。
しかしそれをもこうして簡単に覆されてしまった。
それも、こともあろう事か天敵である人間に。
夜では行動力が落ちてしまう様な相手に。
信じられる訳も無かったのだ。
それ程までに、勇の動きが想像を絶していたのである。
「悪いな、俺は夜だとかもう関係無いからさ。 それよりも……死にたくなければ追って来るなよ? また来たら今度は容赦はしないからな」
でも勇がトドメを刺す様な事はしない。
魔者と触れあったから。
彼等もまた心や命があると知ったから。
出来る事なら彼等にも生きて欲しいから。
だから勇はそのまま駆け抜けられる。
その心があるならば理解出来るだろうから。
自分達の実力では手も足も出ないのだという事を。
「我等を殺さないなどとは、なんなんだあの魔剣使いは……」
「わからん。 それよりもコイツの応急処置をしなければ」
そして魔者達もまた意思があり、仲間意識もあるからこそ。
傷付いた仲間を救うという現実性を選ぶ事が出来る。
ただ、その想いの中には全く別の意思も介在している様だが。
「王はあの魔剣使いを倒せるだろうか……」
「どうだろうな。 だがもしかすればあるいは―――」
そうして見上げるのは丘の上。
彼等が敬うべき王が座する地。
でも彼等がこれ以上言葉を連ねる事は無い。
余計な一言は無用な誤解を生みかねないとわかっているから。
それでも彼等は心にだけ想わずにはいられない。
口で言い連ねたかった本心の一言を。
勇という、類稀なる実力者を目の当たりにしたからこそ。
人の心を縛るのに必要なのは力か、それとも―――




