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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第八節 「心の色 人の形 力の先」
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~暗走、闇では戦士は止まらない~

 幾箇所で火の粉が高く舞い上がり、空を赤く染める。

 その様子を見ていたのは勇達や現場の魔者達だけではない。


 そこからほんの少し遠い丘林でもまた、その光景を静かに眺める者が。


「……魔剣使いが来たか。 ホホッ」


 その様子はと言えば、敵が来たというのにも拘らずどこか嬉し気で。

 兵士達が慄いているにも拘らず、堂々と見下ろしている。


 口元に細かく鋭い牙を覗かせながら。


「少しは楽しめそうじゃ。 ほれ、お前達も行くが良い。 骸となろうとも彼奴らを見事討ち取ってみせよ」


「え、えっ!?」


 その者、自身を囲う者達よりも一回り大きく。

 肩肘の張った体は己が強靭さを示すには充分。


 そんな者の口が宣うのは、姿形に似付かわしい理不尽な要求。

 兵士達もその一言を前には戸惑うばかりだ。


 だが。


「どうした? わらわの言う事が聞けぬと?」


「いえ、我等が王の言葉は絶対―――」


「ならば行け。 牙の一つでも突き立てねば【オンズ】の恥と思うてな」


 見下ろされる目から眼光が瞬き、兵士達をこれ以上になく脅えさせる。


 彼等は恐れているのだ。

 己が一族の王を。

 人間よりも、魔剣使いよりもずっと。


 その実力を深く知るからこそ。


 兵士達が足早に丘を駆け下りていく中で、王はなお静かに佇み続ける。

 炎の光を受けて輝く、巨大な棒状の得物を突き立てて。


 期待と自信のままに、ただほくそ笑むのみ。

 

 










 一方その頃、丘の麓では―――


 勇達の急襲に気付き、舗装道路を駆け降りていく三人の魔者達の姿が。


「王からの指令はまだかッ!?」


「まだだッ!! だが魔剣使いなれば討つ! 我等が麗しき王ならばそう言うハズだッ!!」


 王の護衛兵達と打って変わり、彼等の意思は強固だ。

 恐らくはそんな雑兵よりもずっと位の高い存在なのだろう。


 その証拠に、普通の物とはどこか雰囲気の異なる短剣を携えていて。

 他の個体と比べても、一際目立つほどに体格が大きい。


 そう、彼等の携える武器こそ―――なんと魔剣なのである。


 その造りは簡素的で、強い力こそ持ち合わせてはいない。

 かつて勇が持っていた魔剣【エブレ】と同等の一品だ。


 しかし魔者が持てばこれ以上に無い武器となる。

 何故なら、魔者が命力をナチュラルに扱える存在だから。

 いつか剣聖が言った通り、数日持つだけで使いこなす事が出来る様になるのである。


 そうなれば、並みの魔剣使いでは太刀打ちはほぼ不可能。


 そしてそれを魔者達も知るからこそ。

 この三人もまた、自信に溢れた眼で先を見据えるのみ。


「我等【特武隊】の実力を人間に思い知らせてや―――」




 だがこの時、その自信はもはや慢心と化す。




 その瞬間、先陣を走っていた者の腕が―――刎ねていたのだ。

 多量の体液を撒き散らしながら。


「「「えっ?」」」


 しかもその一瞬を、三人は理解する事が出来なかった。

 ()()()()当人ですらも。


「オ……ぐぅおああ!?」


 しかしその事実に気付いた途端、斬られた者がもがき苦しむ事に。

 腕を失った絶望と、この上ない痛みが襲い掛かったが故に。


 苦しみの余り、たちまちその身を大地へ転がさせていく。

 まるでピンボールの様に跳ねながら。


「な、何が起こったァ!?」


 残った二人ももはや臨戦態勢だ。

 互いに背を合わせ、周囲からの攻撃に備えて魔剣を構える。


 そんな行為など何の意味も成さないとも知らずに。


 気付いた時にはもう手遅れだった。

 この時、二人が咄嗟に見上げれば―――

 



 自分達目掛け、暗闇を切り裂く一閃が走光(はし)っていたのだから。




キュゥゥゥーーーーーーンッ!!


 光が穿つ程の一撃は、大気を擦って鳴音を生む。

 風を裂いて生まれた風切り音と混じりながら。

 それが命力共鳴音。


 それ程までの一撃ともなれば、もはや金属とて物理抵抗になりはしない。


バッキャァーーーーーーンッ!!


 そうなれば、たちまち無数の金属片が弾け飛ぶ事となる。


 一瞬だった。

 たったその一瞬で、魔者達の持つ魔剣が砕け散ったのだ。


 それを成した者こそ―――あの勇である。


「ば、バカな、我等が見えなかっただとぉ!?」


「うぐぉ……有り得ん、どうして人間がそこまで動ける!?」


 オンズ屈指の戦士である彼等が慄いてしまうのも無理は無い。


 【オンズ族】は夜目が効く。

 これは彼等にとっての自信の一つであり、アイデンティティでもある。


 しかしそれをもこうして簡単に覆されてしまった。

 それも、こともあろう事か天敵である人間に。

 夜では行動力が落ちてしまう様な相手に。


 信じられる訳も無かったのだ。

 それ程までに、勇の動きが想像を絶していたのである。


「悪いな、俺は夜だとかもう()()()()からさ。 それよりも……死にたくなければ追って来るなよ? また来たら今度は容赦はしないからな」


 でも勇がトドメを刺す様な事はしない。


 魔者と触れあったから。

 彼等もまた心や命があると知ったから。

 出来る事なら彼等にも生きて欲しいから。


 だから勇はそのまま駆け抜けられる。


 その心があるならば理解出来るだろうから。

 自分達の実力では手も足も出ないのだという事を。


「我等を殺さないなどとは、なんなんだあの魔剣使いは……」


「わからん。 それよりもコイツの応急処置をしなければ」


 そして魔者達もまた意思があり、仲間意識もあるからこそ。

 傷付いた仲間を救うという現実性を選ぶ事が出来る。


 ただ、その想いの中には全く別の意思も介在している様だが。


「王はあの魔剣使いを倒せるだろうか……」


「どうだろうな。 だがもしかすればあるいは―――」


 そうして見上げるのは丘の上。

 彼等が敬うべき王が座する地。


 でも彼等がこれ以上言葉を連ねる事は無い。

 余計な一言は無用な誤解を生みかねないとわかっているから。


 それでも彼等は心にだけ想わずにはいられない。

 口で言い連ねたかった本心の一言を。


 勇という、()()()()実力者を目の当たりにしたからこそ。




 人の心を縛るのに必要なのは力か、それとも―――




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