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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第八節 「心の色 人の形 力の先」
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~急行、先に待つ敵の名は~

 東京南部、羽根田空港。

 首都・東京の玄関口であり、国際便をも担う日本屈指の空港の一つだ。

 その規模は世界にも誇れる程に壮大で、店舗やインフラもしっかり充実。

 他県・他国への足掛かりはもちろんの事、空港自慢の店舗へと買い物だけに訪れる客も多い。


 そんな空港に、勇とちゃなが遂に降り立った。


 正規ルートで訪れた勇達を、待ち構えていた案内人が最短ルートで導いて。

 関係者だけが通れる道を抜ければ―――


 そこにはあの福留の待つ姿が。


 到着早々に福留が踵を返し、二人に挨拶を交わしつつ歩み始める。

 やはり相当時間を押している様だ。


「申し訳ありません。 諸事情で迎えを寄越す余裕が無かったもので」


「いえ、こんな場合は電車で来る方が速いですよね? ならむしろ俺達がこの道を覚えた方がいいかもしれないですし」


 狭い通路の中を、三人が揃って足早に抜けていく。

 その最中に交わす話も、どこか歩みに伴う様に早口で。

 

「ええ。 もし今後にも急を要する事があった場合、またこうして来る事をお願いするかもしれません。 余裕がある時に移動のシミュレーションをして頂けると、こちらとしても助かります」


「わかりました。 オススメの乗り継ぎ表とかあったら、後で良いので教えてください」


 でも電話と違い、直接の会話ならばとても聴き取りやすい。

 命力のお陰で頭にすんなりと入って来てくれる。


 そのお陰で、緊張感や使命感までをも共有する事が出来た様だ。

 勇やちゃなの続く言葉や姿勢は素直に、それでいて力強く。 


 いつまでも福留に頼る訳にはいかないから。

 こんな移動程度なら、自分達だけでも出来る様に。


 それにエウリィにも間接的に教えられた。 

 学ぶ事、受け入れる事、その大事さを。

 そして人の想いに応える事の大切さを。


 そうして生まれた前向きな気持ちが、勇達に前進する事を選ばせたのだ。

 こうもハッキリと、意思と要望を言い張れる程の前進を。


 そんな勇達を背にした福留も微笑みを零さずには居られない。


「……これから向かうのは四国、徳島です。 以前お話した例の魔者達が突如停戦協定を破棄。 現在は膠着状態ですが予断を許さない状況です」


「えっ!?」


 しかしそんな微笑みも、現実を語る事で間も無く掻き消える。

 堂々としていた勇達ですら、明らかになった事実を前には驚きを隠せない。


 交渉が成立して、平和的に済んだと思っていたのに。

 それがまさかこうして瓦解していたなどとは思いもしなかっただろう。


 しかもそれは予想外にも―――


「事が起きたのは一昨日からです。 当初彼等は家屋や食料の提供を要求しており、それに応えたつもりだったのですが……要求はエスカレート、遂には〝街を一つ寄越せ〟とまで言ってきたのです」


「街をなんて考えれば無理ですよね……」


「当然です。 しかしその現代常識も彼等には通用しなかった様ですね。 その後、彼等は斥候を派兵、自衛隊の包囲網を突破して近隣の農村へ進出し始めています。 こうなればもう本隊の進軍も時間の問題でしょう。 それが先日からの今に至る状況です」


「俺達が遊んでる間にそんな事が……」


 勇達がミズニーランドで遊び惚けている間に、事態が深刻化していたというのだ。

 何も知らずに遊んでいたとわかれば衝撃を受けないはずも無い。


 でも福留達日本政府にしてみれば、ミズニーランド交流も大事な案件の一つ。

 だから勇達には勇達の役目を。

 例え状況が緊迫しようとも、容易に呼ぶ事は出来ないのだ。


「そういえばレンネィさんはどうしたんです? あの人なら―――」


「不運な事に、レンネィさんは今週頭から海外に出張していまして……いわゆる文化研修というやつです。 その空いた穴を狙う様に動かれたのには参りましたよ」


 おまけにレンネィも動けないとなれば自衛隊が踏ん張るしかなく。

 それでも状況が収集付かなくなり、急遽勇達を呼ぶ事になったのだという。


「今から滑走路に直接出て飛行機に乗り込みます。 遅れないで下さい」


 そんな話が終わりきる前に通路の末端へと到達、一枚の扉が進路を塞ぐ。

 福留がその扉を引き開けば、空かさず外の光が滲む様に射し込んできて。


 そして見えたのは―――僅かに赤み掛かった空だった。


 時刻は夕刻前。

 もう間も無く夜が訪れる時間帯である。


「さぁこちらへ」


 更に勇達の目の前には見た事のある小型ジェット機が。

 どうやらザサブの時に利用した物と同じ機体の様だ。


 二回目ともなれば乗り込む足取りも軽く。

 福留に誘われるままにシートへ座り込めば―――間も無く機体が動き出す。


 このまま出発する事も既に予定済みだったのだろう。

 一時も待つ事無く、機体はそのまま滑走路へ。


 こうして小型ジェット機はそのまま空へと向けて飛び立ったのだった。






「さて、落ち着いた所で話の続きといきましょうか」


 航行が安定し始めた頃合いで福留がようやくいつもの口調を取り戻す。


 飛行機に乗ってしまえば後は着くのを待つだけで。

 こうなれば話し方が緩やかにもなろう。


 話題そのものが緩いとはとても言い難いが。


「今回勇君達にお願いしたいのは魔者達の鎮圧、または討伐です。 もう察してると思いますが、戦いになれば夜戦になるでしょう。 そうなれば無事に戦いが終われたとしても、帰りは早朝近くになるかもしれません。 なので明日の始業式は欠席して貰う事になりそうです」


「まぁ始業式なら大丈夫ですよ。 授業がそれ程ある訳じゃないし」


「ちょっと残念ですけど仕方ないですよね」


 わかっていた事とはいえ、ちゃなは少し残念そう。

 学生生活がようやく軌道に乗ってきて楽しくなってきた頃なだけに。


「申し訳ありませんねぇ、我々が不甲斐ないばかりに」


「いやいや、俺達しか居ないんだからしょうがないですよ」


 でも友達に会えないのはたった一日だけだ。

 今回の問題を解決して帰れば、明後日にはまた会えるのだから。


「まぁ既に心輝君達には連絡してあるので勇君達も安心出来るでしょう」


「それだけはごめんなさい、正直言うと不安ですねー」


「そ、そうですか……」


 ただし、その会う奴等が信頼出来ても安心出来るとは限らない。

 勇にとって、心輝の「任せとけ!!」という台詞ほど恐ろしいものは無く。

 そうとなれば、唯一の救いである瀬玲の立ち回りに一縷の望みを賭けるしかない訳で。


 遠い目を彼方へ向ける勇を前に、福留も顔をしかめずにはいられない。

 

「その四国の魔者ってどんなのなんでしょうか?」


 そんな緩い空気を読んでか読まずか。

 黄昏る勇の横からちゃなが催促する様に声を上げる。


「彼等は自らを【オンズ族】と名乗っています。 以前戦ったザサブと似て、集団行動に特化した種族の様です。 姿は簡単に言えば―――アリクイとハリネズミを合わせた様な姿ですね」


 すると福留は懐からそっと一枚のタブレットを取り出して。

 そうして画面を開いて見せられれば、そこには例の魔者の画像が。


 それはまさにアリクイとハリネズミの掛け合わさった様な姿。


 体の節々は割と太目だが頭部が少し小さめで、鼻が垂れる様にして細長く伸びていて。

 もちろんアリクイっぽく、画像で見る限りは舌もやたらと長い様だ。

 映っている者も腰ほどまで伸びているのがハッキリと見える。


 胴回りは白と黒の柔らかそうな体毛で織り成していて、それだけで見れば可愛い部類だ。

 でも革鎧を着込んでいる辺りはザサブと共通点が多い。

 やはり戦闘に特化した種族だという事なのだろう。


 更にその背面にはハリネズミの針毛が如き太い頭髪が長く下がっていて。

 画像の中にはその針毛が逆立っている姿もハッキリ映り込んでいる。

 これもまた有効手段として使える様にしているに違いない。


 今まで魔者はいずれも身体的特徴を備えた種族ばかりだった。

 しかし今回の【オンズ族】は今まで以上に際立っていると言えよう。

 腕力や統制力といった後天的能力ではなく、体毛という先天的な武器を有する種族として。


 実は、生物的特徴として存在する武器というものは結構厄介だ。

 自然界においても、その手の武器が幾度となく多くの命を奪ってきた実績があるのだから。

 クラゲやカサゴといった生物の毒も然り、食虫植物の誘虫フェロモン然り。

 もちろんハリネズミなどの防衛用針毛もその一つ。


 彼等は意思ではなく本能でその武器を使う事が出来る。

 人間の様に考える必要も無く。

 その反応速度は恐らく、武器を奮う事の比ではないだろう。


 そのポテンシャルを秘めている相手が今回の相手。

 これには勇達も緊張せずにはいられない。


 しかも【オンズ族】には更にもう一つの身体的特徴が備わっている。


「彼等は夜目が効く様です。 つまり、夜戦に向いているという事です。 それにも拘らず夜で戦う事になってしまった件については深くお詫びしたい……」


 そう、彼等は夜目が効く―――すなわち夜行性。


 例え知的生命体であろうとも、全てが人間と同じ身体的特徴を有しているとは限らない。

 彼等はきっと進化の段階で日の光を浴びなくても平気な種族となったのだろう。


 今回は勇達にとって不利ばかりだ。

 身体的特徴は元より、相手の得意なフィールドでの戦いとなる。

 完全なる敵地(アウェー)とも言える状況がどれだけ苦戦を強いるかはもはや計り知れない。




 だが、勇達にも切り札が無い訳ではない。




 だから勇もちゃなもその話を前に恐れる事も無く。

 与えられた情報を元に、冷静ながら有効手段を模索する事が出来る。


 今回ほどの大規模戦闘は実に久しぶりだ。

 故に考える時間も、成長する時間も今日までに十分に取れた。

 そして経験が彼等に思考する余地も与えてくれたから。


 この戦いにおける勝機は間違い無く存在するだろう。




 相手がどんな者達であろうとも、勇達はもう―――臆したりはしない。




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