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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第八節 「心の色 人の形 力の先」
223/426

~高速闊歩、これが玄人の遊び方~

 勇達が最初に向かったのは西の【ウエスタンパーク】。

 近代米国西部を彷彿とさせる雰囲気を纏ったエリアである。


 南の【サウスファンタジー】と比べたら人気が無い?

 いや、決してそんな事は無い。

 いざ訪れてみれば、先程の流れにも負けない程の人達がひしめいていたのだから。


 実はこのエリア、アトラクションの規模で言えばパーク内で一番広い。

 何せ敷地内に川があって船があって水流ジェットコースターがあって。

 ミズニーランドの中で最も激しいエリアとさえ言われているのだ。


 そんなエキサイティングなアトラクションを求める人も多く。

 または莉那の様に行き慣れた者はこうして真っ先にここを選ぶのだという。


 これこそまさに玄人が導き出した最善の答え。

 莉那の言う事もまんざらではなかったという事だ。




 という訳で、そんな莉那の導きの下に早速辿り着いたのは―――


「あっ! 【アクアフォールマウンテン】だ!!」


 そう、このパーク内でも最高と言われる程の激しさを誇るこのアトラクション。

 最初は緩やかに川を進む乗り物だが、徐々に激しさを増し、最終的にはジェットコースターの如く暴れ回る。

 そして最後には川の中に急転直下で飛び込み、水しぶきを上げてゴールへ向かうという。

 まさに遊園地ならではのライディングアトラクションと言えるだろう。


 その恐怖は初めてだと失神してしまう人も居る程で。

 乗っているだけでも物凄く疲れるのだとか。

 でも最初に挑めば体力も申し分無く、充分に満足出来るという訳だ。


「そうよ。 あれを一番に乗るのはもはや常識ね。 一般層は【サウスファンタジー】に流れているから比較的すぐに乗れるわ。 そうね、今の時間だと十五分待つか待たないか。 ま、プレミアムパスがあれば待ちは無いんだけど」


「そこまで読み通りなんだ……」


 そうしてチケットを見せびらかす莉那はどこか誇らしげ。

 きっと玄人でも自慢したくなる逸品なのだろう。


 とはいえ彼女だけがプレミアムパスとやらを持っていても仕方ないが。

 チケットが有効なのは当然、所持者のみなのだから。


 しかしその莉那はと言えば、何も文句一つ言わずに勇達と一緒に並んでいて。

 これは彼女の隠れた優しさなのだろうか。




 列に並べば後は速いもので。

 入り組んだ格子の合間で人は動き続け、あれよあれよという間にもう当初の半分ほどに。

 これくらい早く動くとなれば、ちゃなもエウリィも退屈しなさそう。

 どんどんと近づく乗り場を前に、二人ともワクワクが止まらない。


 並ぶ時間は一つの談笑タイムでもある。

 となれば始まるのは女子同士の楽しいお話で。

 これから乗る乗り物の事について語り合う姿が。


 もちろんそんな談笑は二人だけとは限らない。

 そんな二人の後ろで勇と莉那も静かに会話を交わしていて。


「にしても莉那ちゃん凄いね。 こんな穴場知ってるなんてさ」


「これくらい普通。 情報なんて調べなくても通っていれば気付く事だし」


 相変わらずのノリの悪さに、勇の困惑はますます深まるばかりである。


 果たしてこれは謙遜か、それとも本当にそう思っているのか。

 少しでも恥じらいがあれば可愛いものなのだが。

 愛想が皆無な子供の扱いはこれ以上に無く難しい。


「へ、へぇ~……一体どれくらいミズニーランドに来た事あるの?」


「今日で二十七回目。 初めては四才の時だったってお爺ちゃんから聞いた」


「にっ、にじゅうなな……」


 だがどうやらネタだけは事欠かない様だ。

 想像を越えた回答を前に、今度は驚愕を通り越して戦慄さえ憶えてならない。


 二十七……その数おおよそ歳の二倍くらい。

 この回数を重ねるには相当の財力・根気・そして愛が無ければ叶わないだろう。


 確かに、一つ目だけは福留の孫ともあって容易にクリアは出来る。

 でも残り二つはそう簡単には済まされない。


 その数に到達するには、一年で約二~三回ほど通い続ける必要があるという事。

 しかし問題はその数ではないのだ。


 ミズニーランドのアトラクションは殆どが変化の無い据え置きで。

 普通は一度か二度行けば、楽しさは半減してしまう。

 飽きてしまうのだ。


 それでも諦めずにただひたすら通い続ける。

 知らない事は無いと言い切れる程に。

 それを可能とする程の根気。


 そして変わらぬ世界を常に求め。

 人の流れすら読み尽くして。

 全てをも知り尽くしたいと心から願う愛。


 この不愛想な少女にはそれ程の根気と愛があるのだ。

 その二十七という数を達成出来る程に強い意思が。


「す、凄いなぁ……」


「歳が重なれば回数も増えていくからどうってことない。 楽しいから来るの。 私にとってのミズニーは第二の家だから」


 その愛を是非ともこの会話にも分けて欲しい。

 ほんのちょっとでもいいから。


 そう願わずには居られない勇なのであった。




 ……ともあれ、こうして勇達は難なく一つ目のアトラクションに搭乗。




 ものの一〇分程度の搭乗時間であるが、やはり相当激しかった様だ。

 最初は澄ましていたエウリィが徐々に顔を強張らせていて。

 最後は取っ手を握り潰さんばかりに握り締めながらフリーフォール体験。


 最終的には青い目をこれでもかという程にかっぴらいて硬直する姿が。


 それ程の大興奮のまま、乗り物はとうとう降車場へ。


「ま、まさかここまでは、激しいものだったとは……」


 エウリィはもう既に息切れのヨレヨレだ。

 勇や係員の力を借りてようやく乗り物から降りるも、足はもうガクガク。

 歩くのもやっとな状態で、勇とちゃなに引かれながらなんとかその場を後にする。


「私も初めてで驚いたけど、でも面白かったなぁ」


「あそこでいきなり展開変わるのはビックリだったよな!」


 ただ、皆相応に楽しめた模様。

 勇もちゃなもエウリィも、離れた後はもう談笑していて。

 降りた後でもその興奮はまだまだ冷めやらない。


 使い捨てカッパを脱ぎ捨てて、建屋の外に出ればもう次への意欲で一杯だ。


「次に行くわ。 ついてきて」


「よし、莉那ちゃんに付いて行こう。 エウリィさん歩ける?」


「は、はいっ」


 相変わらずのマイペースで先に行く莉那に勇達が続く。

 未だ足の震えが止まらないエウリィを支えながら。




 莉那の案内は的確で、その後もほとんど待つ事は無かった。


 勢いのままにエリア内を歩き回り、アトラクションを一つ一つこなしていく。

 ただ少し急かす様に速く、勇達も追い付くのがやっとであったが。


 でもそのお陰で、パーク一広大と呼ばれる【ウエスタンパーク】は無事踏破完了。

 まさか初めて来たのにこうも速く回れるとは、誰しも思っては見なかっただろう。


 その後は早めの昼食を挟んでから、ちゃな待望の【サウスファンタジー】へと向かう事に。


 とはいえ莉那のスケジュールは実に余裕無し(タイト)で。

 昼食の時間は僅か一〇分、休むどころか食事を味わう暇すら与えてくれない。

 しかも再び歩き詰めともあり、ちゃなの足腰がもう心配だ。


「ちょ、ちょっと急ぎ過ぎじゃないかい?」


「こうしないと次が間に合わない。 走ってもいいくらい」


 それでも莉那は引く事無く、細い足腰を誰よりも素早く刻んでいく。

 その姿はまるでエリートオフィスレディ。

 移動時間をひたすら削らんばかりに歩く姿は、ヒールを履いていれば様になりそうな程だ。




 だが、それでも予想外の展開というものはあるもので。




 途端、ちゃなの軌道が極端にズレ始め。

 勇やエウリィが目で追う中、とうとう莉那の行く道筋から外れていく。


 とうとう限界が訪れたか。


 ……と思いきや、どうやら違う様だ。

 彼女の行く先にはなんと、またしてもミズニーキャラクターが。


 大好きなキャラクターが見つかれば、ちゃなが止まれる訳も無い。

 遂には真っ先に走り始め、大手を振って喜ぶ姿を見せつける。


「キャー!! 【マック】ぅーーー!!」


 最終的にはまたしてもペタペタと膝下走りで駆け寄り、そのまま抱き着くまでに。

 それほど【マック】というキャラクターが大好きなのだろう。


 その【マック】とは、大型犬ゴールデンレトリーバーをモチーフとしたキャラクターで。

 白くてふかふかとした毛並みに丸めで愛らしい顔付きと、それでいてお茶目でドジな所がチャーミングポイントだ。

 全裸である事はこの際置いておくとして、二頭身に近いフォルムが子供の人気を高く得ている。

 出演作数も全キャラ中上位にランクインする程で、知名度も相当だと言えよう。


 そんなキャラクターに出くわせばこうして興奮するのも無理は無く。

 こうもなると、ちゃなを置いて先に行く訳にはいかない。

 勇もエウリィも立ち止まり、再びちゃなを見守っていて。


 ただ、今回はさっきとほんの少しだけ様子が違う。


「ちゃな様が羨ましい。 私もああして戯れてみたい……」


 勇の隣には、両手を組んで羨望の眼差しを向けるエウリィの姿が。


 事情がわかってからはすっかり安心した様で。

 ちゃなに話を聞いて共感したのか、もうミズニーキャラクターの虜だ。


 しかしそれでも少し抵抗は残っているのだろう。

 それは先程敵意を向けたが故の罪悪感か、それともちゃなに譲りたいと思う気持ちか。

 一歩を踏み出す事は無く、遠目で眺めるばかり。


 でもそんな遠慮など本来は不要。

 何て言ったって、それが自由と夢の国ミズニーランドなのだから。


「何も気にする事は無いから行ってきなよ。 ここは皆が楽しく遊ぶ場所だからさ」


「は、はいっ!!」


 そして今がどういう時かを勇も良く知っているから。

 エウリィの背中を「ポンッ」と後押ししてそっと送り出す。 


 その勇の気持ちが嬉しかったのだろう。

 エウリィは後押しして貰った勢いのままに駆け出していて。

 尻込みから沈んでいた瞼を大きく開かせ、嬉しそうに【マック】へと近寄っていく。


 もしかしたら【マック】はそんなエウリィに最初から気付いていたのかもしれない。

 駆け寄ってくる彼女を、大きく腕を広げながら迎えてくれて。

 そのふわふわとした体毛の中へと吸い込む様に飛び込ませる。


 そうして気付けば、ちゃなとエウリィが二人で【マック】を抱き込んでいて。


 その幸せそうな姿に、勇も思わずにっこりだ。

 もう笑顔を零さずには居られない程に微笑ましかったのだから。


「時間無いんだけど」


「まぁいいじゃん? こういう時くらいはさ」


 莉那もどうやら気付いていたみたいで。

 憎まれ口を叩きながらもしっかり待ってくれていた様だ。


 だからそんな言葉は勇が一人で受け止める。

 なんだかそうしてあげたい、そういう気分になれたから。

 ちゃな達と莉那、双方の為に。




 そんな訳でほんの少し遅れてしまったけれど。

 お目当ての一人とも言えるキャラクターに出会えて幸せは最高潮だ。


 それに、今回の事でちゃなとエウリィはずっと親密になれたみたいで。




 その後一緒に先行しては、屋台で買ったチュロスバナナ味を揃って堪能する姿がそこにあった。




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