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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第七節 「絆と絆 その信念 引けぬ想い」
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~Culture <文化>~

 文化品の紹介やプレゼントは早速の好評具合を見せ、外野もろとも興奮の嵐だ。


 もちろん勇達もアルライの工芸品を前に興味津々で。

 心輝に至っては「木の槍カッケェ!! 超絶欲しい!!」と大興奮。

 アルライ少年達もそんな様子を前に、譲渡も辞さないスタンスである。


 なお、そんな物を持ち運べば銃刀法違反にもなりかねないので持ち帰る事は出来ず。

 御味が「機会があった時に」と、後で直接送り届ける事で解決となった。




 そんなこんなで時間もあっという間に過ぎ去り。

 休憩(インターバル)を兼ねた次の催しへ。


 次の催しとはそう―――互いの料理文化のお披露目である。

 

 文化と言えばやはり食。

 食と言えば欠かせない物。

 相手の文化を知るにはもっともわかりやすい材料だと言える。


 既に時刻は午後四時頃。

 まだちょっとだけ夕食には早い時刻だが、きっと作っている間に時は過ぎ去るだろう。

 という訳で早速の行動開始という事に。


 御味が用意した調理器具や食材を早速持ち込み。

 勇やちゃなが揃ってそれらを並べていき。

 心輝と瀬玲が揃えた物を手早く確認していく。


 ちなみにあずーは子供達と楽しそうに遊んでいるので不参加だ。

 別の意味で言えば、役に立たないので放流中である。


 彼等人間側が作るのは―――先ず一つ目として、カレーだ。


 幸い、電気は小型の発電機を用意していて確保済み。

 飯盒(はんごう)では無く、ちゃんと電子ジャーで米を炊く。

 彼等がキャンプの達人では無いからこそ。


 勇が慣れない手付きでじゃがいもの皮を剥き。

 その隣でちゃなが「がんばれー」と念を送り。

 更にその隣では、心輝と瀬玲が素早い包丁捌きで食材を解体していく。


 そんな包丁もアルライ族には充分刺激的だった様で。

 調理の最中も近寄って見に来るなど、デモンストレーションにもなっている。


 なお、包丁はアルライ族にもちゃんとあるらしい。

 さすがにここまでの切れ味は無いそうだが。


 もちろん、料理を始めたのは勇達だけではない。

 アルライ族達もここぞばかりに動き始めていて。


 どうやら折角の催し物という訳で、備蓄をある程度開放してくれるという事に。

 彼等は彼等なりの料理を振る舞ってくれるのだそう。


 ほんの少しだけ不安もあっただろう。

 「ゲテモノみたいな料理が出てきたらどうしようか」と。

 でもきっとその想いはアルライ側も一緒だから。

 そんな想いも共有出来れば充分……そう思わずにはいられない。


 勇達の出す料理は当然カレーだけではない。

 口に合えばと、簡単に仕立てた味噌汁やオーソドックスな焼き魚なども。

 これはカレーという込んだ料理が口に合わなかった時の対抗策とも言える。

 意外と単調な料理の方が好まれる可能性があるという提案があっての事だ。


 他にも心輝と瀬玲が作れる料理ならばと。

 根野菜の煮物や手軽い卵焼き、シャキシャキのサラダもちゃんと忘れない。

 考えつく物をあり合わせで造り、次々と皿に盛っていく。

 その上でちゃなが取り分け、早速傍聴人達に振る舞い始めていた。


 隣ではアルライ少年達が仕込みを手伝い始める様子が。

 勇だけではどうにも間に合わないと感じ、自主的にやってきたのだ。


 さすが代表になるだけあって、非常に行動力旺盛。

 これには勇も頭が下がる思いである。




 こうして出来上がった料理達が続々とアルライ族の手元に渡っていく。

 さすがに全員分は無理という事もあり、ほんの少しづつ、興味がある物だけを。


 その点ではやはりオーソドックスな料理が一番人気か。

 特に焼き魚はアルライ族にとっても馴染み深いもので。

 なんでも里の傍には元々川が流れていたらしく、そこから獲った魚はご褒美にもなるのだとか。

 ただ鮭の様な赤い魚は居ない様で、ビジュアル的な驚きを誘う。


 煮付けなども結構な人気だ。

 元々野菜中心で生きて来たという事で、受け入れられるのも当然か。

 そもそもが甘い物を好む傾向があるという事もわかり、味付けもそれとなく向いていた模様。


 卵焼きはあまり人気が無かった。

 食べた者としては「これなら確かに美味しいかも」と舌鼓を打っていたが。

 それというのも、『あちら側』での卵は割と毒物に近いという認識があるらしく。

 栄養価は高いが、調理方法を間違えると寿命を縮めるというリスクが伴い、手を出し難いのだとか。

 おまけに向こうの卵は野鳥の小ぶりな物ばかりで、わざわざ獲るメリットも無いそうな。


 サラダは生野菜とあって最初の反応は至って普通。

 でもドレッシングのバリエーションを前に、その評価は一片する事となる。

 醤油・ソースから始まり、フレンチや胡麻ドレ、しそ味や玉ねぎペースト、わさびに塩と余りにも豊富過ぎたからこそ。

 最終的にはドレッシング品評会が発足し、その魅惑の味に唸りを上げるまでに。

 バノに粉砕される一歩手前にまで発展するが、相手が液体で消耗品だったのでどうやら踏みとどまっていた。




 そして満を辞して登場したのがカレーライス。

 これにはアルライ族の皆さん、期待と不安で一杯の様子。




 それというのも、米が炊かれた時の香りがどうやら彼等にも好みだった様で。

 それはもう、炊飯器の前へと香りを嗅ぎに行く者達が後を絶たなかった程。

 三個程並べられていたが、その周囲は常に人が囲んでいたのだ。


 そんな魅力的な香りを放つ米に対するは、異様な香りを醸し出すカレー。


 香辛料がふんだんに含まれているお陰か、調理中も多重に織り込まれた香りが漂っていて。

 決して不快ではないのだが、嗅いだ事も無い刺激的とも言える感覚に頭を悩ませる。


 そんな料理が遂に完成し、まさかの二つ合わせでの提供。 

 これには受け取った方も頭を傾げる始末だ。

 

 ただそこは勇達の配慮も欠かさない。

 ちゃんと選んだのは甘口で、刺激は出来る限り弱めだ。

 ちなみに辛いのは別口で作成済み、辛いという事を周知しての任意提供である。


 その中で遂に口へと含む者が。

 だがその途端、彼等の反応が今までに無い程加速する。


 どうやら相当口に合った様だ。


 元々、ここまで込んだ味付けを行う事は彼等の文化には無く。

 カレーの様な多量の味付けが施された料理は誰一人として口にした事がなかったのだそうな。


 だからこそ、最初はとても刺激的。

 でもそれが彼等の好奇心を強く擽っていて。


 おまけに、炊き立ての白米がその食欲を程よく掻き立てる。

 時にはカレーと一緒に、時には白米単体で。

 味わいを変えながら、それぞれの味を細かく堪能していく。


 その様子はもはやテイスティング。

 誰しもがそうせざるを得ないと思える程に味わい深かったのだ。


 なお、辛口カレーも挑戦者が何人かちらほら。

 これはさすがにキツかったらしく、舐めては悶え、それでもまた舐めては悶えを繰り返す姿が。

 相当クセになる味だった模様。


 どうやら渾身のカレーはアルライ族達にもしっかりと受け入れられた様で。

 作った心輝と瀬玲はどこか嬉しそう。

 食材を仕立てた勇やアルライ少年達も満足そうである。




 その辺りでようやく、アルライ側の料理もが提供される事に。




 彼等が提供しようとしたのは、基本的に保存食料で仕立てる簡素な料理だ。

 干し芋や乾燥野菜、干し肉や絞めたばかりの家畜獣の肉など。

 やはり細々と生きて来た者達の料理ともあってとても質素。


 でもそこはやはりアルライ族の皆さん。

 とても順応が早い。


 勇達が用意して余った現代の調味料を使い始めたのだ。

 少しでも勇達の口に合う様にと配慮してくれたのだろう。


 折角だからと現代の調理器具もちょっと使って自分達なりにアレンジング。

 しっかり使えている所は本当に驚きである。


 そうして出来たのは、『あちら側』の料理でありながら現代を意識した創作料理。

 これには勇達も「うおお……」と驚愕を隠せない。


 しかもちゃんと味付けが出来ている。

 失敗も無しに。

 これには驚くのも当然と言えるだろう。


 「実は彼等、俺達より賢いんじゃないか?」……そう思えてしまう程だったのだから。


 出来たのは彼等の伝統料理の一つ……【ボモイ煮】~現代風味~。

 【ボモイ芋】という山芋にも近い食感の芋をメインとした甘煮物だ。


 本来は干したものを使うのが主流だが、今回は採れたてを用意。

 今さっき掘り起こしてきた物を使うという。

 他にもゴボウの様な樹の根、白菜の様な葉野菜の茎、干し肉は細かく刻んだ物を味付け用に。

 等々、合計八種類の食材が織り交ざる事で料理が完成する。


 その味が甘めなのは、彼等が甘い食材を中心に食べて来たからで。

 それはしっかり伝えるべき点として捉えていて、主張もハッキリとしている。

 さすがに交流会とあって、基本はしっかり押さえている様だ。


 勇達の最初の不安も、その料理を前にしてすっかり吹き飛んでいた。

 それだけ現代の料理にも負けない程の出来栄えを見せていたのだから。


 聞くとこの【ボモイ煮】、祝辞があった時に振る舞われる物だそうで。

 だからこその豊富な食材量なのだろう。

 味付けも濃いのは、現代の調味料があったからではないそうだ。


 それというのも、彼等にとっては砂糖も貴重で。

 煮物をするにも日々の備蓄が必要となるのだそう。

 ちなみに砂糖はさとうきびの様な木があるらしく、そこから樹液を採取して加工するとの事。


 勇達が用意していた白砂糖はそんな事情を持つ彼等にとって大きな助けとなったらしく。

 今回は備蓄をそれほど放出しなくても済んで良かったと安心である。




 こうして互いの食文化を交流しあい、味覚を確かめ合う。

 これだけで互いが同じ生物だと理解するには十分だったのかもしれない。




 そのまま日が沈み行く中も、彼等の交流は続く。


 とはいえ、基本的なカリキュラムはもう既に終わりで。

 疲れたり、仕事や家庭の為にと帰る者もちらほら。

 最終的には傍聴人も数人の大人達やバノだけとなり。


 少年達も互いの話を語り、聞くだけの場として成り立っていた。


 その話題と言えば、例えばこうだ。

 魔剣使いならアルライ族達でもよく知る存在な訳で。

 そうなれば勇の武勇伝が語られる事に。


 勇としては、本当なら軽快に敵を倒す話をしたかったものだがそうもいかず。

 とても強い魔者達を相手に四苦八苦しながらも、なんとか凌いで来た事を思い出しながら語る。


 ただそれも魔者達にとってはエキサイティングに聴こえていたらしく。

 そんな戦いに憧れる世代ともあって興奮を隠せない。

 魔剣使いでも苦戦する魔者―――そんなシチュエーションは、倒される側の身としてもどこか嬉しく感じてしまうものだった様だ。


 なお、ザサブ戦の話が相当お気に入りだった模様。


 これは心輝の余計な着色と、瀬玲による都度の突っ込みのお陰とも言えるが。




 という訳で夜も更け。

 周囲が暗くなり始めた所で交流会は終わりを迎える。


 でも彼等の交流自体が終わる訳ではない。

 今日は一日一緒だから。

 ちょっとした触れ合いも兼ねたお泊りが始まるのだ。


 もちろん、アルライ族のルールにはしっかり従った上で。


 〝食事を終えたら歯を磨く〟

 彼等にはこれが明確化したルールとして存在していて。

 勇達も当然、村に泊まる以上は従わなければならない。


 とあっていざ歯磨きしに向かうと、そこでとある光景に目を奪われる事に。

 村人が総出で一斉の歯磨きを行っていたのである。


 ちゃんとした水が流れる洗面用水路がそこにあって。

 そこを囲む様にして人々が立ちながら歯を磨く。

 適した木の枝を歯に擦りつけて。

 それが景色の先までずらっと続いているのだ。


 そんな光景を初めて見れば驚かずにはいられないだろう。


 他にも文化的な所は多々ある。

 例えばそう、明かりだ。


 これはフェノーダラ城にもあった珠の様な照明が使われている。

 でもそこよりもずっと強い光を放っていて、夜であっても景色がしっかり見える。


 更には村中心部の地面を、綺麗に整えられた石床が飾っていて。

 それが道標にもなっていて、足を踏み外す心配もなさそう。


 そんな光景を目にしながら、勇達は自分達の建てたテントへ帰還。

 アルライの夜は早いらしく、遅くても十時には就寝なのだそうな。


 そのテントへは―――勇達だけでなく、カプロや子供達もが付いていく。

 もしかしたら寂しいのかもしれない。

 転移してから今まで、ずっと一人で眠って来たから。


 だからこそ、勇達は彼等を受け入れる。

 別に一緒に寝たって問題無いし、何より寝るまで話せるから。


 子供達は女子達のテントへ。

 カプロは男子達のテントへ。


 それぞれが布団を引き、心地よい空気と感触に包まれながら床へと就く。

 子供達を囲む様にして。


 まるで「何も心配要らない」、そう言って見守るかの様に。




 けれど、ほんの少し会話を交わしただけで皆すぐに意識を落としていく。

 それだけ今日は疲れていたのだろう。




 そんな中、意識をうつろわせた勇の耳に小さな声が。


「勇さん勇さん」


「ん……?」


 この声は隣で寝そべるカプロのもの。

 声に気付いて振り向いて見れば、穏やかに微笑む顔が映り込む。


「今日はすっごい楽しかったッス。 だからボク、もっと色んな人と仲良くなりたいッス」


 そうして語られたのは純粋なカプロの欲。

 勇が最初に抱いていた物と同じの。


 でもそれでいて、とても子供らしい欲。


「そうだなー。 でもいつかこうやって仲良く出来る日が来るさ」


 勇もその欲から生まれて、こうして繋がった奇跡を知っているから。

 そんな些細な願いでも、自信を持って頷く事が出来る。


「そうッスね。 でも、そうなっても勇さん、ボク達……いい友達でいられるッスよね?」


「当たり前だろ。 困ったら頼ってくれよな?」


「わかったッス。 勇さんも……ボクを頼りにしてくださいッスよ」


 そしてこうして友達になれたから。




 二人はこの様に顔を合わせながら、一緒に眠る事が出来るのだ。











 そんな勇達が既に眠りに落ちた頃。


 ジヨヨは一人、妙な薄暗い広間に立っていた。


 そこは村長の家とも違う風景で。

 周囲が岩場に囲まれた、まるで洞窟の中の様相。

 淡い青緑の光が周囲を灯し、微かに岩のゴツゴツとした輪郭を浮かび上がらせている。


 その中央には妙な石碑が。


 外の大広間にも置かれた物に似た形状だが、そのサイズはとても小さく全長二メートル程。

 ただし白く輝く光を発していて、その雰囲気はどこか神々しささえ醸し出す。


「―――時が来たのかもしれん」


 そんな石碑に向けて、村長が一人呟く。

 でもその雰囲気は独り言というよりも、まるで―――


「左様……ウム……その可能性は捨てきれんな」


 ―――何かと対話しているかのよう。


 しかしその()()もすぐに形を潜めていて。


「じゃあの」


 たったその一言を最後にそっと踵を返す。


 ただその様子はどこか浮かなく。

 昼間の興奮などもはや欠片も残っておらず、小さな溜息を漏らしていて。


「【創世の女神】よ……貴女の((うと)いが成さぬ事を今はただ祈ろう。 願わくば、貴方の思い描いた希望が先にこの地へ立たん事を―――」


 そうして放たれたのは祈祷か、それとも懇願か。


 その意味も、そう呟いた事さえ誰も与り知る事は無く。

 ジヨヨは誰も居ないその広間から去っていく。


 そんな中でも―――その石碑はただただ静かに佇み。

 無機質でありながらも優しい光を、絶やす事無く煌々(こうごう)と放ち続けていた……。




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