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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第七節 「絆と絆 その信念 引けぬ想い」
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~Communication <交流>~

 遂にこの時が訪れた。

 地球人類史上初、別世界の生物【魔者】との初めての交流会の開幕である。


 現代人の代表はもちろん、藤咲勇である。

 現代人でありながら別世界の職である魔剣使いとなり、魔者と戦い続けて約一ヶ月半。

 こうして魔者であるアルライ族との仲を取り持ち、少年ながら代表者としてこの場に立つ。


 彼等の横に並ぶのは田中ちゃな、園部心輝、園部亜月、相沢瀬玲だ。

 ちゃなは言わずもがな、勇と共に魔剣使いとなってその背中を守り続けて来た。

 今日も交流会の中で、仲間達と共にきっとその背中を守ってくれる事だろう。


 対して魔者勢、アルライ族の代表は―――モロビという少年だ。

 歳はおおよそ十六歳と勇達のほぼ同年代、しっかり者で働き屋の真面目な子だそうな。

 そんな彼と勇達は既に面識がある。

 アルライの里に訪れた時にいの一番に出会い、御味と最初に言葉を交わしたのが彼なのだ。


 続いてウノベ、ロトー、パルルカ、ポゥイという少年達。

 彼等もモロビと同年代で、同じくして御味と交流を持った子供達である。

 この五人は良くつるむ事が多く、以前より転移側の区画で住んでいた者達なのだそう。

 なので現在も実家があるのだとか。


 そしてその横に続いて並ぶのがあのカプロ少年。

 消失側の区画代表としてこの場に立つ。

 現在歳は十二歳、でも既にバノの下で働いているという事だ。

 勇と最も関わりがある人物として、今回はちょっとだけ目立つ事を許可されている。


 もちろんあの三人を忘れてはいけない。

 ちゃな達を魅了したモフモフ達である。

 プカ、ニミ、トットイと、名前もそれとなく似合っている。

 ちなみに左から男の子、女の子、男の子ということだ。




 そんな彼等が一同、アルライの村にある広場へと集まり。

 御味が用意した会議テーブルを並べ、対面する様にして椅子へと座る。

 鮮やかなテーブルクロスが既にアルライ少年達の心を惹いてならない様子。


 今回、御味はこの会の進行役だ。

 当然だろう、彼は日本政府の使者であり、若者と言うにはほんの少し歳をとり過ぎている。


「僕はこれでも結構若いと思ってるんだけどなぁ」


 若くいる気持ちも大切だが、取り決め(レギュレーション)は守るべきだろう。


 という訳で早速交流会の開始である。


「それでは皆さん、今回は是非とも互いの文化を知り合い、お互いの良い認識を深め合いましょう!」


 その言葉と共に、勇達側の拍手がその場を賑わせる。

 どうやら拍手という文化はアルライ側にもあるのだろう。

 「ああ~」という声と共に、アルライ少年達もが合わせて手を鳴らし始める。


 するとどうだろう、外野からも同じ様に手を鳴らす音が響き始めていて。


 そう、外野も既に大勢いるのだ。

 アルライの村人の大半がこうして彼等を今見守っているのである。


 もちろんジヨヨとバノも。

 彼等を筆頭に、外野の参加も認められているのだ。

 当然、関心を持った者だけの任意参加で。

 防人であるバノがいるので、皆安心して観る事が出来るのだそうな。


 そんな盛大な盛り上げの中、早速第一の催しが。


「ではまず、互いの事から教え合いましょう。 自己紹介をお願いします。 まずは練習として勇君から続いて。 それが終わったらアルライ側の紹介をお願い致します」


 という事で前述の自己紹介。


 おまけに自分達がどんな存在で、どこに居て、どういう事をしているのかも。

 興味を持てそうな話を出来るだけ簡潔に、それでいて時に面白おかしく。

 折角なので、今ここにが京都の一部であるという事も加味し、宣伝も忘れない。


 そんな話が聞ければ、アルライ側でも話したい事が纏まるもので。


 アルライ少年達による村の紹介を兼ねた自分達の自己紹介が始まる。

 彼等の場合は既に働いているという事もあって、仕事の内容がメインだ。

 干し草を紡いで作る草服工、不要な木を選別して切る剪定士、木彫りの道具を作る工芸士など。

 他にも、洗物士や清掃士など、結構文化的な仕事ばかりで勇達の驚きを誘う。


 ちなみにカプロは金槌を振り回す仕事なのだそうな。

 よくわからないのでその時だけ苦笑が漏れたのは言うまでもない。


 自己紹介が終わった所で、次は互いの文化品の出し合いである。


 今度はアルライ側の先手で事が始まる事に。

 そこはやはり仕事人としてのプライドがあるのだろう、彼等の示す物はやはり別世界独特の物だ。


 草服工のモロビは早速自分の造った新作の服を披露してくれた。

 そうして見せたのは勇達も驚く程に鮮やかな彩りの服。

 まるで虹が編み込まれた様な模様を浮かべた上着である。

 なんでもこの辺りでは元々染料に適した植物が揃っていて、三原色に事欠かないという。

 なのでこんな色鮮やかな服を造る事も容易なのだとか。


 次にウノベとロトーコンビが見せる工芸品は―――なんと木の槍。

 治安維持用に造られた、殺傷力の薄い武器である。

 でも侮る事なかれ、その意匠は心輝が食い付く程に芸術的。

 やたら光沢質で、かつ無駄とも言えるカッコよさを求めた謎のデザイン性が特徴的だ。

 先端が丸くなっている所は治安維持なので仕方ない事だが。

 光沢質なのは、特殊な塗料が命力を流すのにとても適しているからとの事。


 他にも独特な掃除用具や洗濯器具、調理器具なども。

 彼等の長年に渡る文化から生まれた知恵の結晶達である。


 しかしここではカプロ少年達、出せる物がなくてほんの少し寂しそう。

 やはり働いて間もない、あるいは働いていない者なのだから仕方が無いだろう。


 だがそんな子供達は無理に道具を出さなくても構わない。

 彼等はどちらかと言えば賑わされる方なのだから。




 そう、遂に現代人側の出し物の番である。




 これには少年達だけでなく傍聴人達もが興味津々。

 いずれもが楽しみに視線を送る姿が。


 そんなアウェー感の中で最初に立ったのは当然、心輝だ。

 こういう事に真っ先に立たないはずが無いのだから。


 取り出したのは秘蔵のゲーム機軍団。

 ただその反応はと言えば―――


「なんだこれ……」


 そうぼやくのも当然だ。

 小さくて四角い『ナニカ』を渡されただけなのだから。


 でも次の瞬間、彼等は壮大に驚く事となる。


 心輝がそれぞれにスイッチを入れ始めた途端、画面が急に動いたのだ。

 しかも軽快な音まで出し始めて。

 これには若者達、総じてビックリする始末。

 中には思わず手放してしまう者も。


「これがゲーム……人類が造りだせし至高の遊具ッ!! なんとその箱が君達の指示を受けて自由に動いてくれるのだッ!!」


 そうして心輝当人がプレイ画面を堂々と掲げながら見せつけて。

 それと同じ様に動かしてみれば、なんと画面がピコピコと動き始めたではないか。


 これには少年達も驚きのままに操作し始める。

 例え操作方法は知らなくても、押すべきボタンがわかれば模索出来るほど賢いのだから。


 そうなれば少年達、突如として動き、変わりだす画面に驚愕を隠せない。

 ゲームルールを理解した者に至っては、早速プレイし始めるにまで。

 カプロ達も心輝に倣い、ちゃんとプレイ出来ている模様。

 小さな子供でもちゃんと遊べるゲームを用意するなど、心輝はにくい演出をしてくれた様だ。


 惜しむらくは傍聴人達がその文化に触れあえない事だろうか。


 とはいえ、一部の村人が辛抱堪らず近付いて眺めてはいたが。

 もちろんこれは自由なので問題無い、ノットギルティ。


 代表ではない村人も巻き込み始めた所で次弾の登場である。


「コレ大丈夫かな、私らが子供の頃に遊んでた人形と、昔流行ってた服だけど……」


 ちょっと本人、意外と好評だったゲームのともあって自信無さげ。

 そんな瀬玲が出して見せたのは、今でも子供達が手に取って止まない女児用玩具達だ。

 愛くるしいビジュアルと着せ替えを売りにした、ミカちゃん人形。

 まるで魔者に倣ったかのような様相を誇る、デフォルメ動物人形のシルベスタファミリー。

 後は長い流行の軌跡を追うかの様な、デザインの流れを見せた洋服達なども。


 これらを前に、アルライ族の殆どが堪らず感心の唸り声を上げる。


 それも当然か。

 人形とはつまり手程の小さな物。

 それをここまで精巧に、それでいて綺麗に整えられた物など見た事無いからだ。


 ミカちゃん人形はまず、その造形だけで驚かれる。

 目の前の実物よりも大きな頭とまるっとした目、それでいてにこやかな笑み。

 髪の毛も一本一本しっかりと作り込まれており、未だ現代女児の羨望の的である。

 だがアルライの者達にはむしろ恐怖を憶えるデザインだった様で。

 少年達はまだ苦笑いで耐えられるが、子供達はどうにもドン引きだ。

 でもミカちゃんの彼氏であるトニーは、カッコよさ重視の容姿なのか受け入れられていた。

 

 対してシルベスタファミリーはと言えば―――かなりの大好評。


 これは魔者に近いビジュアルともあって、受け入れられるのが早かった。

 子供達の手に乗る程のサイズで、しかも二頭身の愛らしい造り。

 おまけに造形もさることながら、毛並みを再現した素材が功を奏した様で。

 たちまちウン十人といた小さな家族達(シルベスターズ)が、アルライの者達によって容赦無く引き離されていく。

 とはいえその扱いはきちんと丁寧に、最後には全員を引き合わせる事も忘れない。

 子供達はそんな集まった人形達を前にご満悦なご様子。


 瀬玲もどうやらそこまで好評だった事には驚きを隠せない。


 ちなみに洋服は、草服に馴れ親しんできた彼等に対してはちょっと反応薄。

 強いて上げるなら、モロビが工法に関して興味を持った所か。

 やはり衣服を扱う者としては気になる模様。


 なお、これらが全部プレゼントされるとわかった時、アルライ側が歓喜したのは言うまでもない。


 更に近寄る村人達が増える中、催しも最高潮。

 そこで満を辞して出て来たのは、お騒がせあの子の所持品だ。


「とりあえず一杯持ってきたの!!」


 あずーとしては別段愛着のある物を持ってきた訳では無く。

 口で説明するのも面倒臭かったのだろうか、ただただアルライ側にポンポポンと置いていく。

 ただ出されただけの健康器具を前に、彼等はどうにも困惑気味である。


「えっとね、こんな感じで使うものなんだよ!」


 と言いつつ、自分しか持っていない美顔ローラーで自分の顔をコロコロと。

 同じ物を渡されるならともかく、全く違う物を前にしてそんな説明でわかるはずも無い。


 ただそれがもしかしたらアルライ族達にはむしろ好都合だったのかもしれない。


 彼等は考えられる生き物だから。

 ゲームを理解出来る程の知能を持っているからこそ、考えて導き出す事が出来る。


 そう、目の前の道具の最適解を自分達で導き出すのだ。


 いざ手に取り、それが何をする物なのかを考えて。

 自分達ならどう使うかを触って確かめる。

 それはまるでクイズの様に。


 するとどうだろう、次々にアイディアが浮かび上がっていく。


 両手で引き延ばして腕力を鍛えるエキスパンダーはこうだ。

 二人がかりで引き延ばし、上下に振ってバネを「バヨンバヨン」と揺らさせる。

 そこから生まれた感触が妙に新鮮で、興奮のままにエスカレートする一方だ。

 扱う二人は「おお、おお!」と妙に楽しそうである。


 腹筋ローラーは完全に子供達の遊び道具と化している。

 ローラーサイドから伸びる両取っ手は、サイズ的に屈まなくても掴む事が出来るので。

 最終的には地面上でゴロゴロと走らせながら駆ける姿が。

 遊びながら腹筋が鍛えられるという、なかなか面白そうなビジュアルを映し出す。


 そして美顔ローラーはと言えば―――


「あ、これ……んんふ……」


 『こちら側』の動物と感覚神経が同じなのだろうか。

 一人の少年が教えられたままにローラーを顔に走らせた途端、とろんとした顔を見せ始め。

 興奮のままにローラーを顔に走らせ続ける姿が。

 たちまち別の者がそれを奪い取り、同じ様に走らせては似た様な顔を浮かべ。

 次第にその行為はエスカレート。


 なんと最終的に、村人同士でローラーを奪い合う騒動にまで発展する。

 冗談にもならない状況に、勇達もさすがに驚愕だ。


 結局、美顔ローラーは特定危険物扱いされ、バノによって完全粉砕される事に。


 色々と騒動が巻き起こったが、とりあえずそれで一旦の収束へ。

 ただ、興味深く考察出来る道具ばかりだと割と好評。

 あずーの好意の下、残った道具は無事アルライの者達へと渡されるのだった。


 なお、肝心のカプロは心輝が持ってきたゲームにずっと夢中で。

 それ以外に興味を示す余裕はほぼ無かった模様。




 それでもって最後の文化品はと言えば当然―――




「これが御味さんから提供してもらった【野球】というスポーツの道具です」


 勇が御味の代わりに見せたのは、野球のバットとボール、グローブだ。

 苦手なリにも使った事はあるので、それらしくグローブをはめてボールを掴み取る。


「このバットでボールを打ち飛ばして、こんなグローブで飛んだボールを掴み取るっていう遊びなんだ」


 一人での説明というのもあって、野球そのものを見せる事は出来ないが。

 なんとなくでもいいから伝わればいいと、簡単な説明で締めくくる。


 で、そんな話を受けたアルライ少年達はと言えば―――




「あ、それって【ラーター】ですよね。 僕らにもその遊びはありますよ」




 ……どうやら『あちら側』にも野球はあるらしい。

 間も無く傍観者の一人がそれらしい道具持ってやってくる。


 そうして見せたのは、まさにバットとグローブとボール。

 素材や造りこそ若干異なるが、これで野球をしろと言われたら出来てしまいそうなまでの。


 つまり、御味の用意した物は『あちら側』にも既存という事だ。

 これには御味の落胆は計り知れない。


 勇達の最後の切り札とも言える野球道具はこうして無為に消え。

 ちょっとしらけた雰囲気を伴ったまま、交流会第一弾のイベントは終わりを迎えたのだった。




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