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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第七節 「絆と絆 その信念 引けぬ想い」
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~Friends <友人達>~

 日本政府とアルライ族との対話が成立し、京都での隠れ里騒動は一旦の収束へ。

 来たるべき二日後の大イベントに備え、勇達は無事に村を後にした。


 それからというものの、ほんの少しだけ勇とちゃなにはご褒美が与えられる事に。


 そう、楽しみにしていた京都旅行だ。


 アルライ族との会合も昼過ぎに終わり、京都中心部へ戻って来たのはおおよそ昼間の三時頃。

 まだまだ回れる時間はあるという御味の提案で、その足のまま観光へ。

 この日に限り御味のエスコート付きでの観光地巡りと相成ったのである。


 勇達も準備万端であったのは言わずもがな。

 こうして残りの半日は、風情と感慨と食欲に塗れた楽しい一時として過ごされる事となったのだった。






 なお、その翌日も勇とちゃなは京都旅行の続きへ。


 この日は言わばインターバル。

 翌日の一大イベントで準備を必要としない二人に許された自由時間という訳だ。

 なお、御味はそのイベントの準備で忙しいので来れず。

 二人だけでの楽しい時間を満喫していた。












 そして更に翌日、交流会当日。


 遂にこの時が訪れた。


 時刻はおおよそ朝十時頃。

 京都駅前にて、勇とちゃなと御味が誰かを待つ様子が。

 しきりに周囲をキョロキョロと見回し、流れていく人混みに意識を向けていて。


 ―――するとそんな時、勇の視界にとある人物の姿が映り込む。


「お、来た来た! おーい!!」


 見つけた途端、両手を一杯に振り上げて存在をアピールし。

 それに気付いた人物が一目散に勇達の下へと駆け寄っていく。


「オッス勇!! 来てやったぜぇー!!」


 着いて早々、嬉しそうに声を張り上げたのは―――あの心輝。


 もちろん来たのは彼だけではない。

 当然、瀬玲やあずーも一緒である。


「皆、頼み聞いてくれてありがとな」


「ううん! 勇君のお願いなら何でも聞いちゃうー!!」


「まぁ乗るのは構わないんだけどね。 ただなんか最近の私達、損な役回りばかりで凄い心配なんだけど」


「はは……でも来てくれて本当に助かったよ。 断られたどうしようかなって」


 やはり事情が事情なだけに、強引に呼ぶ訳にもいかず。


 何せ相手は魔者で、人間にとっては襲われても抵抗出来ない相手だ。

 そんな者達が居る所へ抵抗する術も無いまま遊びに行くと言われれば―――


「そりゃ、最初はちょっと勘弁してよって思ったけどさ」


 瀬玲の言う通り、普通は抵抗あるもので。


 でもそんな物はこの幼馴染二人に挟まれてしまえばたちまち消え失せるだろう。

 強引アンド豪快の心輝と能天気アンド勇君LOVEのあずー、二人の勢いを前にすれば抵抗など無意味だ。


 という事でこうしてめでたく、三人揃って京都までやって来たという訳である。


 もちろん移動費は経費なので、各々の懐事情に問題は無く。

 それどころか、ちゃんとした給料や()()も出ている。

 高校生な彼等にはちょっとした良い小遣い稼ぎのイベントとも言えるだろう。


 なお、その手当とは―――三人が持ち寄った物にこそ秘密が秘められている。


「魔者の子供と遊ぶんでしょ? 何用意したらいいかわからなくて、とりあえずミカちゃん人形とかシルベスタファミリーとか持ってきたけど……なんかお父さんが子供の頃の玩具まだとっといたみたいでさ。 あと服かな。 着なくなった物をちょっと持って来てみたよ。 どれもそのままあげても構わないしさ」


 そう語る瀬玲の荷物は三人の中で一番と言えるほど大きい。

 一週間旅行用のキャリーバッグ持参での登場である。

 恐らくその中に言った物を詰められるだけ詰めて来たのだろう。


―――まぁいきなりだし仕方ないよな。

    でも服は意外といいチョイスかもしれない……さすがセリだな―――


 瀬玲の安牌と言える準備品に勇も一安心だ。

 なんだかんだ言っても、一番の期待所に恥じない準備なのだと。

 

「見ろ、俺のコレクションを!! ジョイステージシリィーズッ!! 据え置きも欠かさないぜ!! ワンダーアクトシリィーズ!! どいつもこいつも起動確認済み、ばっちり楽しめる事請け合いだッ!! ソフトもバッチリ!! 朝まで夢中で遊び尽くせるスーパーコンボだぜぇ!!」


 日本が誇るサブカルチャーに秀でていると言えばやはり心輝だ。

 そんな彼が張り切って用意したのはゲーム機のオンパレード。

 旧式から新型に至るまで取り揃え、ソフトも充実。

 あの剣聖に渡した機種までしっかり完全網羅である。


―――お前は何しに行くんだ。

    そもそもテレビも無いし電気通ってないから据え置きは無理だろ―――


 ただし考え無しの所はやはり心輝らしいと言える。

 勇の心の中のツッコミが冴える程に。


「お兄の真似してこれ持ってきたよほら!! 腕力鍛えるヤツと腹筋鍛えるヤツー!! あとね、美顔ローラーとか持ってきたの!! お母さんの使わなくなったヤツ!!」


 一方であずーが用意した物はと言えば。

 エキスパンダーと腹筋ローラー、それとちょっとお高めの美顔ローラー。

 もちろんそれだけでは済むはずも無く、鞄を開ければ出るわ出るわ時代を風靡した健康器具達が。

 どれも母親が使わなくなった物なのだろうか、詰められた様はどうにも哀愁が漂っている。


―――遊ぶものですらないだろ……

    子供の知恵でそこから面白いアイディアが出るといいな、ほんと―――


 勇としてはただただ呆れるばかりであるが。


「えっと……私にはスマホしかないから……」


 そして訊いてもいないちゃながボソリと一言。

 流れ的にはわからなくもないが、今はそんな寂しい事を言う時では無い。


―――そんな事言わないで、君は笑顔があればそれでいい。

                スマホは要らない、多分―――


 勇が堪らず心の中で励ましてしまう程にいたたまれないので。


「色々と盛大に持ってきましたね~。 まぁ一応私もお古の野球道具を持ってきましたよ」


「へぇ~御味さん野球やるんですね」


「えぇ、昔から大好きなんです。 ずっと阪神パンサーズのファンなので!」


 しかしそこで御味の安定の締めが皆の驚きを呼ぶ。


 こういう所で常識人の手腕が輝くものだ。

 その他準備もしっかりやれている所は、やはり出来る人間の部類という事なのだろう。




 今回の交流会は言わば「互いの文化理解の為の交流」を目的としている。

 つまり、現代の文化とアルライの文化を交換しあい、相互理解を進めていくというもの。


 なので三人にこうして文化的な物を持ち寄ってもらったという訳だ。


 何せ勇はこんな文化的とも言える道具をそれほど有していないので。

 こんな時こそ、時代を謳歌し続けて流行に敏感な心輝達が役立つのである。 




 こうしてようやく一同が揃い立ち。

 持ち寄った物を見せ合いながら、用意した車へと乗り込んでいく。


 向かうは交流会会場を構えるアルライの里。

 でもその前にちょっと腹ごしらえ。


 勇達はそのままどこにでもある様な定食屋チェーン店へ。

 早めの昼食 兼 一旦の休憩を挟むのだった。






◇◇◇


 




「おなか一杯で満足ですっ」


 勇達がちゃなに丸い目を向ける中、彼等を乗せた車が道を行く。

 このままアルライの里へと直行だ。


 こうして車内に乗れば必然的に極秘情報も口に出し放題となる。

 ともなれば、抑圧されてきた彼等が話題に上げるのは当然―――


「改めて伝えておくと、今回の交流会はアルライの里での一泊を挟む催しになります。 もう準備は済んでいると思いますが、何か足りないと思う物があったら言ってください。 すぐ用意しますので」


 早速口を開いたのはやはり御味。

 彼にとっては今回の対応も仕事の一環で。

 遊び半分の勇達とは違い、ちゃんとやる事はやるのだ。


「ただ泊まれる家屋が今は無いらしいので、テントでの一泊となると思います。 テントはすみませんが皆さんで立ててください。 説明書通りにやれば出来ると思いますので」


 もちろんテントもこの時の為に用意された新品。

 きちんと男女に分けられる様にと二つ用意済みである。


「水回りとかは大丈夫なのかな?」


「一応ミネラルウォーターは一式用意しますので、飲料・調理水に関しては心配要りませんよ。 トイレに関しては……あちらさんとちょっと相談してください」


 ただやはり文化が違えば衛生管理も異なる訳で。

 その辺りがデリケートな女子には少し不安が残る様だ。


「キャンプみたいだー!! たっのしみー!!」


 約一名を除いては。


 とはいえ不安を抱いていたままでは何も始まらない。

 あずーの言う通りキャンプのつもりで挑んだ方がずっと気楽だろう。

 最悪の場合は携帯用……という選択肢もあるので。


「それと夕食は皆さんで簡単に料理を仕立てて貰えると助かります。 食材や器具は我々で用意しますので。 誰か料理とか出来ますか?」


「じゃあ私が何か作ってみます」


「お、じゃあ俺も手伝うぜ」


 そこで手を挙げたのはやはり瀬玲。

 おまけに心輝もノリノリで、やはり二人は幼馴染といった所か。


 というのもこの二人、実はそれなりに料理が出来る。

 何でも、昔二人で一緒に料理する事にハマっていた時期が有ったのだそうな。

 その腕はあずーが絶賛する程という事もあり、出来には期待が持てそうである。


「後で料理の方向性とか村の人達と話し合って決めようか。 苦手なものとかもあるかもしれないからそれを考慮しないといけないね」


「となるとやっぱネギとかはダメなのかな? そういう所も考えないといけないのは大変だなぁ」


 勇の言う通り、料理を作るならば相手の事を考慮するのも大事だ。


 人間が食する食材の中には、動物にとっての毒とも言える物が多く存在する。

 例えば今挙がったネギだが、これは犬猫にとっては猛毒で。

 少しでも食した場合、茎内に含まれる成分が血液を犯し、最悪の場合死に至るまでに。

 他にもチョコレートやカカオ製品も似た様な理由で危険となっている。


 魔者が同じ様に危険食材が無いとも限らない。

 そもそも体の構造が違うのだ、アレルギー体質なども若干異なるかもしれない。


 ある程度はグゥの食べた食事データを参照し、安全であるものを選出する事も可能であるが。


 ちなみにグゥに食べれない物は無かったそうな。

 そもそもネギは含まなかったが、それ以外の葉野菜や根野菜、肉、魚、芋、米などはほぼ網羅済み。

 〝美味しく頂いた〟という確実な結果が残っているので、その範囲であればきっと大丈夫だろう。


「確かタヌキみたいって言ってたよね? 何が好きなんだろ、お肉?」


「お肉……」


 そんな最中、静かだったちゃなが肉というキーワードにかぶりつく。

 たちまち光悦そうな笑みを浮かべ、何かを妄想し始めた模様。


 先程の定食屋での暴挙を知る勇達としては驚愕するばかりだが。


「な、なぁ、田中ちゃんってフードファイターなのかよ? 肉丼特盛と京風うどん喰ってまだこれって……」


「いや、ただ食べる事に凄い執着があるってだけ……だと思う」


 そんな隣では勇と心輝がヒソヒソと。


 あの大喰らいっぷりは未だ謎で、ちゃなの持つ神秘の一つと言える。

 その片鱗を初めて目の当たりにすれば、こう戸惑うのも無理は無い。


「タヌキは雑食なので基本は人間と同じだよ。 アルライ族が同じかどうかはわからないけどね」


 しかしそんな意識の外では御味が淡々と話を続けていて。

 気付けば和気藹々とした空気が車中を包んで溢れんばかり。


 これだけ個性的なメンバーが揃えば、やはりこうなるのは必然だったのかもしれない。


 とはいえ、そんな旅路もいずれは終わる。

 気付けば景色の先にはアルライの里への入り口に続く林が見えていて。


 その景色を前に、誰しもが期待を抱かずにはいられない。




 人間と魔者。

 本来戦う運命だったであろう存在同士がわかり合う道を選び。

 今、こうして芽生えた絆を繋ごうとしている。


 その先に生まれる物が何かはわからない。

 でもきっとそんな事は勇達にはどうでもいいのだ。


 今はただ、楽しむために想いを交わしに行くのだから。




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