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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第七節 「絆と絆 その信念 引けぬ想い」
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~Confluence <合流>~

 防衛省庁舎での出来事から二日後、七月末日。

 西へと向けて走る新幹線の中に、勇とちゃなの姿があった。


「戦い以外で関東から出た事が無いので楽しみです!」


 ちゃなが窓から興味深そうに景色を眺め、「はわぁ」と喜びを露わにする。

 きっと新幹線に乗るのも初めてなのだろう、内装にも時折目を向けていて。

 平日ともあって客もまばらなので、そんな姿を見る人も居ないから悪目立ちはしないだろう。


 しっかりと駅で買った駅弁もホルダーに下げ、旅行気分は最高潮だ。


 とはいえ、こうして新幹線に乗ったのはもちろん旅行の為ではない。

 二日前に福留から預かった案件、その目的を成し遂げる為である。




 その行先は―――京都。




 関西県の一つで、日本の歴史などでも有名なあの京都だ。

 中学や高校の修学旅行などでお馴染み、今なお歴史的建造物が幾多にも残る土地で。

 それと同時に街としても大きく発展し、関西の大型県の一つとして名を馳せている。


 では何故そんな所に向かう必要があったのか。


 なんと、実は京都にも転移が確認されていたのである。

 しかも福島に続く、二件目の隠れ里として。


 加えて、今回は前回の様な山中ではなく。

 人里を僅かに交えた丘の中なのだとか。


 そのお陰で、隠れ里の存在が発覚したあと比較的すぐに見つかり。

 こうして福留から勇に伝えられる事になったのだ。

 「二人で京都の隠れ里の調査を行って欲しい」、と。


 隠れ里がもし本当にグゥの言った通りの存在ならば、きっと同じ様に話が通じる魔者が居るはず。

 遥か昔に争いから逃げ隠れた者達の末裔ならば、戦いになる可能性は低いだろう。


 そうすれば、グゥの様にまた仲良くなれるかもしれない。

 そうすれば、村野大臣が言っていた証拠や根拠が得られるかもしれない。

 魔者が単に危険な存在では無く、友好も結べる知的生命体であるのだという証明が出来るかもしれない。


 だから勇は即座に引き受けたのだ。

 グゥという存在が夢幻ではなく、友好な人物であったと証明したかったから。

 そして、もう二度とあんな失敗はしたくないから。




 その想いが今、京都への足取りに力強さを与えた。

 遊びに行くのではなく、話しに行く為の心の強さを。




「京都のゆるキャラかわいいみたいです。 会いに行きたいなぁ」


 ……とはいえ、もちろんそんな想いは勇だけで。

 ちゃなはと言えば、もはや完全なる旅行気分(マイペース)だ。

 旅行自体が初めてなのだから仕方の無い事ではあるが。


「まぁ何日か滞在して歩き回ってもいいかもね。 お金はあるし、新幹線代は経費だから旅費も浮くし」


 そんな愉快そうな様子を見せるちゃなに、勇もまんざらではない様で。

 気付けば二人で旅行スポットを探したり、名産品をチョイスし始めたり。

 これから成すべき事も一時忘れ、楽しい事へと目を向ける。


 きっとこういった経験が戦いや話し合いへの意欲へと換わるだろう。

 まだ二人は子供で、こんな楽しみも必要な年頃だから。


 今はまだ楽しむ事を、許されてもいい。






◇◇◇






 勇とちゃなの乗った新幹線がようやく京都駅へと辿り着き。

 二人が揃って車外へと躍り出る。


 やはり新幹線が停車する駅ともあり、構内は広々としていて綺麗な様相だ。

 見慣れた新宿駅のフロアよりもずっと。

 そう思える程に新鮮味に溢れていたのだから。


 そんな新鮮味に包まれる中、二人はそのまま駅の外へと歩き行く。


 本来なら名品店街などに寄っていきたい所だが、辿り着いた以上はそうもいかない。

 観光の前にやらなければならない事がこれから待っているのだから。


 そう、まずは隠れ里へと行く事。


 そこに住んでいるであろう魔者達と会い、話を付ける必要がある。

 なまじ人里に絡んでいるからこそ、出来うる限りの早い対応が求められているのだ。


 魔者問題を解決する事こそが福留の本懐。

 例え相手が友好的であろうとなかろうと、白黒は付けなければならないのである。


 その為、勇達は既に武装可能状態。

 戦闘になる事を見越して、魔剣やその他装備の準備は万端だ。


 勇はボストンバッグの中に衣服だけでなく【エブレ】と戦闘服を忍ばせ。

 おまけに背中には【ドゥルムエーヴェ】を仕舞った改造ギターケースを背負っている。

 これは勇が父親と協力して一日で造り上げた運搬用の専用ケースだ。

 さすがにか細い女の子がそれを持っているのは不自然ともあって、勇が運ぶ手筈となっている。


 ちゃなはもちろん、相変わらずの服装のままだ。

 ちなみに着衣番号は「3」……何故番号がふってあるのかは彼女のみぞ知る。

 背負うのも愛用のウサギリュックで、中には化粧品などの小物の他、【アメロプテ】も格納済み。

 滞在も加味して、着替えを入れた肩掛けバッグも忘れない。


 余談ではあるが、ザサブ戦で使われた保護具(ガードギア)はもう既に返却済みだ。

 意外と動き難かったという勇の酷評があったので、標準装備より外される事になったからである。


 そんな荷物に塗れた二人がようやく京都駅ビル構内から日の下へと姿を晒す。

 すると図ったかの様に早速の呼び声が。


「二人共、こっちです」


 二人が出たのは一階フロアから出たロータリー正面。

 そこで一人の男が笑顔で手を振っていた。


「えっと、貴方が()()さんですか?」


「ええそうです。 福留先生の代わりにと、今回案内をさせて頂く事になりました御味(おみ)と言います」


 そう、勇はこの男の事を知っている。

 いや、具体的に言えば聞かされていた、と言えば正しいか。


 彼の名は御味(おみ) 泰介(たいすけ)

 今回来れない福留の代わりに来てもらった人物である。

 もちろん福留本人の息の掛かった人物で、現在の特事部、西日本担当長なのだとか。


 しかしその肩書きにしてはかなり若い。

 歳は見た目も合わせて若く、まだ二十九歳。

 背もそれなりに高く、整ったショートヘアと細い顔を有し、

 その姿は爽やかな美男子と言っても過言ではない。

 しかし決して容姿でおごる事も無く、物腰の低い態度は福留を彷彿とさせる程。

 明らかな年下である勇達にも、初対面ではこの様に丁寧だ。

 まさにスーツが似合う好青年を地で行く存在と言えるだろう。


 そして今三人が立つ場所は彼等の合流予定場所。

 行きの新幹線のスケジュールも含め、全て福留の予定通りである。


「あ、早速ですが車に乗って頂けますか? 詳しい話は中で」


 そんな自己紹介が終わったのも束の間、御味の片手が道路へと差し向けられる。

 さすがに公の場で極秘情報をやり取りする訳にもいかないので。


 このとき御味が示した先に佇んでいたのは、黒の大型バン。

 政府関係者が使うと言えばほんの少し怪しめだが、この際デザインは仕方の無い事か。

 とはいえ【ドゥルムエーヴェ】を置いても余裕な大きさなのだ、勇達にとってはむしろ好都合である。




 こうして、勇達を乗せた御味の車が京都の発展した街並みの中へと走り去る。

 期待と不安の渦巻く京都北部へと向けて。

 

 遂に始まった隠れ里懐柔作戦。

 果たしてこの地に流れるのは涙か、血か、それとも―――




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