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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第六節 「人と獣 明と暗が 合間むる世にて」
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~それでも彼は乗り越える~

 もしもこれから繰り出す三連撃を勇に防ぎきる事が出来れば。

 その時は潔く引き下がる―――と、レンネィはこう宣言した。

 勇もその宣言を前に、不毛な戦いを終わらせようという強い意気込みを見せつける。


 だがそう宣言した以上、レンネィは本気だ。


 確かめたい事もたしかにあるのだろう。

 ただそれ以上に彼女もまた自分の魔剣使いとしての在り方に誇りを持っているから。

 自分の価値観こそが正しいと思っているから。


 今までに培ってきた全てを賭けて、その力を勇へとぶつけるつもりなのである。


「受け止めてみせよ!! 我が【死の踊り】、その極致を!! 己が生を以って!!」


「来いッ!!」


 その時、レンネィの魔剣が強い光を解き放つ。


 まるでその姿は光の剣。

 今まで勇が見て来たそれとは全く異なる、凄まじい命力の輝きだ。

 その力強い輝きは薄暗い空間すら引き裂き、周囲を明るく照らす程に強い。

 

 それ程までの力をレンネィが篭めているという事なのである。


 相手が魔剣使いの達人で。

 持つ魔剣もまた特異な物で。

 見せる力も異様なまでに強力。


 それだけの力を防ぎきれる確証など勇には無い。

 ちっぽけな命力じゃ耐え切れないかもしれない。

 初心者用魔剣である【エブレ】では持たないかもしれない。

 そんな不安さえ脳裏に過る。


 それでも覚悟だけは誰よりも強く強靭。


 あの時ただ逃げるだけだった彼とはもう違う。

 確実に見えた可能性を掴み取る為に、勇はもう逃げない。


 いつかの後悔を繰り返さない、その為に。




「行くぞ【シャラルワール】!! 我が意思に応え、敵を微塵に切り裂かんッ!!」


「今だけでもいいッ!! 【エブレ】ッ!! 俺に全てを貸せえッ!!」




 互いの力が極限に達し、光が、風が、森の中を縦横無尽に駆け巡る。

 二人の力のぶつかり合いが気流さえも生み出していたのだ。


 しかしそれはあくまでレンネィの力が強いからこそ。 

 その気流の流れは勇にとっての向かい風。

 レンネィが加速する為の助けにしかなりはしない。


 そして遂に、その気流が彼女の背中すらを押し出した。




 突如としてレンネィがその身を宙へと舞わせたのである。




 その勢いは今までよりもずっと鋭く。

 その速さは先程よりもずっと俊敏に。


 これぞまさに―――超速。


 しかもそれがまたしても刃を纏う竜巻となってその威力を格段に増させ。

 加えて不規則な回転運動によってその斬撃軌道を読む事さえ困難とさせる。


 敵を死に至らしめる死の踊りは、それ程までに激しく、それ程までに鋭敏。

 無数の魔者の首を搔き切ってきた、彼女の力そのものなのである。




―――これがッ!! レンネィさんのッ!?―――




 その時勇が垣間見たのは―――閃光の弧を描く三連瞬撃。


 しかも先程の二連撃とは違う、全く軌道の異なる三つの刃。

 それも当然、三つ同時に。

 その全容は勇の予測反応でさえも完全に捉えきる事は出来ない。


 そして何より、勇の反応速度すら凌駕している。


 例え認識しようとも、体が付いていけないのだ。

 それはレンネィの斬撃が余りにも速いが故に。


 相手は一般人でもなければ雑兵でもない。

 命力を駆使して身体能力を極限にまで強化した魔剣使いの猛者である。

 そんな彼女を前には例え異様な能力(鋭感覚)を持つ勇でも全て対処する事は出来ない。

 物理的に動く体だけはまだその領域には至れていないからだ。




 だからといって防ぎきれない訳では無い。




 確かに超速度の三連撃には間違いなかっただろう。

 だが軌道を変えた事で、ほんの僅かではあったが速度に衰えが生じていたのだ。

 先程の二連撃の間隔よりも誤差程度で遅れが出ていたのである。


 それを勇は見逃さなかった。


 誤差があるという事。

 それはすなわち時間差、斬撃の順序が生まれるという事。




 つまり、防ぐ順番を選べば対処は可能。


 


―――見えた!! その軌道がッ!!!―――




 そう確信した時、勇の視界に軌道が映り込む。

 それはレンネィの斬撃軌道の事ではない。


 勇が刻むべき最短の防御軌道である。


 今、勇は自分が繰り出そうとしている行動すら予想反応で導きだしていたのだ。


 極限の緊張が、覚悟が、意思が、その答えを遂に導き出す。

 たった一瞬、刹那の間に。


「うおおおおおッッッ!!!」


 後はただ、その導き出された答えに従うのみ。

 その先にこそ自身が望んだカタチがあるという事を信じて。

 淡くとも強い意思の光を纏った【エブレ】が宙に軌道を描き込む。

 寸分の狂いも無く、迷いも躊躇いも無く。




 その時刻み込まれたのは、勇を囲う光の鋭角軌道。


 三点のみの防御に集中させた極限の防御―――冠するならば【極点閃(ガードライン)




 インパクトの瞬間を弾く為だけに魔剣をかざし。

 回転撃を敢えて受け流す事で予測軌道を狂わせない。

 斬撃が加わる一瞬のタイミングだけを狙った三点防御(ピンポイントガード)である。


 これを成し得るのは鋭感覚を持つ勇だからこそ。

 きっとレンネィすら実践するのは不可能だ。


 もし少しでもズレれば、容赦無く魔剣を持つ腕を裂くだろう。

 もし少しでも遅れれば、容赦無く勇を真っ二つにするだろう。


 その恐怖を押し返して成さねばならないのだから。


 でも勇は導き出された予測軌道を描ききった。

 心に潜む恐怖を払い除けたから。


 その結果は―――もはや言うまでもない。




ギャギギィーーーーーーンッッッ!!!!!




 その瞬間、凄まじい衝撃音が森一杯に響き渡る。

 それは野鳥が、動物が、虫達が脅えて逃げ出す程に凄まじく。


 そう、勇はレンネィの三連撃を見事防ぎきったのだ。




 だが―――






 レンネィはそれでも止まらなかった。






 彼女の竜巻と言うべき動きはむしろ速度を上げていて。

 更なる追撃を敢行しようとしていたのである。


 しかしその狙いは、勇では無い。


―――残念だけど、こうするしかないのよ。 全ての元凶を取り除くしか―――


 その斬撃が向かう先は、あろう事か魔者。

 勇を飛び越え、背後に倒れた魔者へと更なる連撃を振り被っていたのだ。


 レンネィの言い放った事はブラフに過ぎない。


 彼女の限界は三連撃ではなく、実は四連撃。

 その最後の一撃を確実なものとする為に、勇を騙したのである。


 全ては、彼女なりのケリをつける為に。




 レンネィも決して勇の事を斬りたいと思っていた訳では無かった。

 曲がりなりにもまぐわおうとしていた相手でもあり、ここまでで語ったりもしてきて。

 それでいて勇が純粋で真っ直ぐで、話していてもからかっても面白い相手だったから。


 敵意を向ける相手としては相応しくない事くらいはわかっていたから。


 でもその元凶である魔者を殺せば、きっと勇もわかってくれるはず。

 先程までと一緒で仲直り出来て、また話が出来るはず。

 彼女の価値観がその答えを導き出し、この様な行動をさせるに至ったのだ。


 三連撃はあくまでも勇を完全に引き留める為。

 彼の持つ力を確かめ、その上で最大限に引き留めて動きを止めさせる。

 そして最後の四連撃目で魔者を殺せば全てが解決。


 それがレンネィの描いたシナリオだった。


 そう、仕組んだのだ。




 仕組んだつもりだったのだ。




ガクンッ!!


「なッ―――」


 その時突然、レンネィの体が大地へと向けて強く引き寄せられていく。

 それはまるで大地に吸い付かれると思わんばかりの勢いで。

 自慢の回転運動すらも完全に殺されてしまう程の。


 一体何が起きたのか。




 なんと勇がその手で彼女の胸甲の縁を掴み取っていたのである。




「にいっ!?」


 しかも視線一つ向ける事無く。

 ただただ力の限りに、腕を大地へと振り下ろしながら。


「おあああああーーーーーーッ!!!!」


 命力をふんだんに篭めたその力はレンネィすら抗う事は不可能。

 跳ねている時点でもはやそれ以上の力を得る事は出来ない。


 そうなればもはやこうなるのは必然だった。


ドッシャア!!!


「がはっ!?」


 たちまちレンネィが顔から汚泥へと飛び込み打ち付けられる。

 周囲に泥を激しく撒き散らす程に強く。


「これで終わりです、レンネィさん」


 打ち付ける為にその身も屈ませた勇がそっと囁く。

 泥の中でただじっと倒れたままのレンネィの耳元で。


 それでも勇はそのまま離すつもりも無い。

 もし離して再び攻撃されては敵わないから。


 ただレンネィももうここまでされて抵抗する気力も無かったのだろう。

 持ち上がっていた手足が途端に「バチャリ」と音を立てて落としていて。

 「ギブアップ」と言わんばかりに魔剣を落とした右手で「ぺたぺた」と泥を叩く様子が。


 どうやらレンネィは負けを認めた様だ。




 こうして二人の攻防は、勇の防衛成功という形で幕を閉じたのだった。




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