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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第六節 「人と獣 明と暗が 合間むる世にて」
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~細かい事は気にしないんです~

 勇達後部座席側の人間からは周りの景色を眺める事が出来ない。

 フロントガラスから景色を覗く事だけが唯一外の状況を確かめる方法となる。


 勇がふと、そこから覗く風景へと目を向けてみると―――


 いつの間にか高速道路からは降りていて。

 道を囲う木々の流れていく光景が映り込む。


「間も無く目的地に到着します。 お二人とも準備の方よろしくお願いいたします」


 そして運転席から隊員の一声が勇達に現実を取り戻させた。

 どうやら和気藹々とした会話が時間どころか目的を忘れさせていた様で。

 

 しかしその現実が勇達に再び引き締めさせ。

 自衛隊員達にも気付けば緊張感を露わとしていて。

 たちまち車内を先程の空気など嘘の様な静寂が覆い包む。


 もう既に噂の隠れ里とやらは目と鼻の先。

 何があるかわからない以上、こう走る道さえも戦場の一端と何ら変わらない。

 不測の事態に備え、誰しもが緊張で強張らせるのみ。


 ただ勇とレンネィだけはいつも通りで。


 互いに厳しい戦いを乗り越えて来ただけに心構えは出来ている模様。

 黙々と自分達の装備の点検を行い、不備が無いかをテキパキと確認する。


 それどころか、準備を整え終えると再び会話を交わす程に余裕はある様だ。

 当然、緊張感こそは纏ったままではあるが。


「レンネィさん、一つ訊いていいですか?」


「ええ、一つと言わず何でも訊いてちょうだいな。 これから長い道のりとなるのだし」


 緊張を露わとする勇に対し、レンネィは相変わらずのライトな雰囲気のままで。

 度胸もさることながら、歴戦の猛者というだけの事はあるのだろう。


 そんな堂々とした彼女に抱いた勇の疑問はとても些細なもので。


「レンネィさんは驚かないんですか? 世界の事とか、この車とか」


 そう、勇の疑問は些細だが最もな話。

 レンネィはここに至るまで、余りにも現実に対して冷静でいたのだから。


 車だけではない。

 二人に渡される道具や機器、弁当も、取り巻く環境全てが異質なはずで。

 これは彼女に限らず、剣聖やヴェイリにも言える事でもある。


 剣聖も転移初日には驚きこそあったがすぐに順応していて。

 ヴェイリも状況を知らされていなくとも環境を利用する程には冷静だった。


 そしてレンネィも今こうして、まるで普通の様に乗り込み落ち着いている。


 それが勇には不思議でしょうがなかったのだ。

 「この人達は異文化に興味が無いのだろうか」とさえ思う程に。


 ただその疑問も所詮は何も知らないからこそに過ぎないが。


「そうねぇ、驚かない訳では無いけれど。 驚く必要が無い、と言った方が正しいかしら」


「必要が無い?」


「ええ。 確かに私達にとってはこの世界の物は何もかもが驚きに満ちている。 でも、それは未知に対する驚きであって、現実に存在しているなら疑う必要も無いじゃない?」


 人は信じられない事を目の当たりにした時、そこで初めて驚きを露わとする。

 知らない知識を見た時、常識を覆す現象が起きた時、予想もしない行動を見掛けた時。

 その度合いこそ人それぞれだが、そこから導かれる原因はたった一つの答えしかない。


 それが関心と呼ばれるモノである。


 人は無関心であれば初めて見たモノでも「ふぅん」と受け流す。

 興味も無ければ目にすら付かない事も多い。

 これは『あちら側』の人間でも同じ事で。


 ではレンネィは無関心だという事なのだろうか?

 ―――それは違う。


「私達の世界にもまだ知らない事は多い。 旅をする上でも、戦う上でも。 でもそれにいちいち気に掛けていたら生き残れないから。 それで人は……特に戦う魔剣使いは細かい事を気にしない人が多いの。 皆、生き残る事で精一杯だから」


 そう、これがレンネィ達の適応能力が高い理由。

 現実に即適応出来るのは、『あちら側』の世界情勢がもたらした価値観ゆえ。


 全ては生き残る為に。


 その概念は現代社会とは全くの対極と言っても過言ではない。


 現代では人が関心を寄せ、疑問を感じ、それを解決する事で発展してきた。

 だから人は疑問を持つ事に抵抗も無ければ、それを受け入れて解決しようとするのだ。

 今こうして質問をした勇と同様に。


 二つの世界の異なる価値観。

 世界の在り方が異なる為に別れた考え方。

 人という存在はここまで似通っているのに、環境だけでこうも変わってしまう。

 それが勇には不条理に思えてならなくて。


 気付けば神妙な面持ちで腕を組む姿がそこにあった。


「フフ、でも貴方が心配する事じゃあないわ。 私達は私達でこの現実を受け止めているからこうして今があるのだから。 私達がこうして運命の下に巡り合えたのも、ね?」


「うーん、なんだかそれはそれで複雑ですね」


「なんでよぉ~……」


 ここまで話す事が出来る程には打ち解けたが、それでもまだ不信感は残ったままで。

 「最後の一言が無ければ綺麗に纏まったのになぁ」などと思ってならない勇なのであった。

 





 それから程なくして、車両がとうとう停車を果たす。

 目的地点に辿り着いたのだ。


 勇達も既に準備は万端。

 その肩には箱が背負われていて、今にも飛び出しそうな雰囲気だ。


 ここからの自衛隊員達の仕事は速いもので。

 運転席側から降りた二人が素早く後部扉を開いて二人を外へと導き。

 勇達と乗り合わせていた者達も、自分達の道具を引き出しながら続いて外へと躍り出ていく。


 無駄の無い動きはまさに訓練の賜物、彼等の本領発揮である。


「それでは御武運を!」


 そうして最後に見せたのは四人揃っての敬礼。

 鋭く刻む様に見せたその姿は不思議と勇に高揚感を与えていて。

 気付けば何故か勇も、真似した様に下手な敬礼を返す様子が。

 ここまでの話で彼等に感化されたというのもあったのだろう。


 隊員達の仕事はもちろんこれで終わりではない。

 早速降ろした荷物を解き始めていて。

 勇とレンネィが周囲へ視線を映している間に、あっという間にして何かの機器が一つ組み上がる。


 それはフェノーダラ城の周辺でも見掛けた、通信経由用の簡易アンテナ。

 勇達の持つ携帯電話の電波を経由する為に用意された機器である。


 それだけには留まらず、未だ何かを組み立てようとする動きは止まらない。

 このまま見ている事さえも憚れる程、ただただ無心に。


「私達も行きましょうか」


 そんな隊員達の姿を後目に、勇達はそっと踵を返す。

 そして見上げるのは、二人がこれから赴く事となる森。


 曇り空と相まって暗がりを作る、鬱蒼とした山林だ。


―――この森の中に隠れ里がある……!―――


 その想いが魔剣を握る勇の手を強く握らせる。


 今までとは全く異なる作戦での不安。

 何が起こるかもわからない恐怖。


 その負の感情の葛藤を抑え付けるかの様に。






 緊張を露わにする勇の背をレンネィがそっと押し。

 こうして二人はとうとう森へとその一歩を踏み出した。


 果たして、不穏渦巻くこの森にて二人を待つのは一体何なのだろうか……。




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