表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第六節 「人と獣 明と暗が 合間むる世にて」
152/426

~王様マジもう無理~

 福留から依頼を受けた日の翌日。


 朝八時頃、白代高校正門前。

 そこに勇達三人の姿があった。


 勇は戦闘服と称したスポーツウェアを纏い、インナーには魔剣ホルダーと【エブレ】をしっかりと備えている。

 対して心輝と瀬玲はいつも通りの私服のまま、ただしほんのちょっとお洒落気味に。

 やはり〝王国〟に向かうだけあって身なりはキチっとしておこうとでも思ったのだろう。


 彼等の立つ場所がいわゆる集合地点。

 ちゃな達に感付かれない様にと福留が選んだ場所である。


 とはいえ、ちゃなもあずーも現在愛希達とカラオケ店で熱唱中な訳で。

 感付かれるも何も、家にすら帰っていないので心配はもはや不要。

 体力の乏しいちゃなが今も歌えているかどうかは別として。


 これにはさすがの福留も読み切れなかった様だ。


「お、来た来た」


 三人が合流して数分も経たず内に、見た事のある車がその姿を現す。

 純白ボディに金縁フレーム、ボンネットに立ち上る海外製エンブレムとくればもう決まったもので。


「皆さんおはようございます。 早速ですがどうぞ車の中へ」


 訪れて早々、軽快な福留の声が車内から響く。


 勇としてはもう随分と乗り馴れていて、もはや抵抗も無く助手席へ。

 しかし心輝と瀬玲はやはり若干抵抗がある様で。

 金の装飾を誇るノブに触れる事すら憚れてならない。




 とはいえ乗らないと先に進めるはずも無く、二人もなんとか車内へと乗り込み。

 こうして、勇達を乗せた車はそのまま軽快にフェノーダラ王国への旅路へと乗り上げた。




 相変わらず福留の運転は丁寧なもので。

 今日はさすがに急ぎでは無いという事もあって他の乗用車の流れに乗っての移動となる。

 若干周囲の車が離れている様に見えるのはきっと気のせいだろう。


あちら(フェノーダラ)に着きましたら、勇君は詳細な話を聞いてから出発となります。 心輝君と瀬玲さんは勇君が戻るまで城で待機でお願いします。 あ、城には私も一緒に居ますので()()()平気でしょう」


「でも心輝達は話が通じないんじゃ……」


「その点は心配ありません。 エウリィ王女が話を通して頂きますから。 むしろ二人を連れて来たのは彼女が―――」


キュキュッ!!


 だがそんな時、突然車が僅かにぶれて車内がガタリと揺れる。

 思わず勇が運転席を振り向いて見れば、そこには若干体を強張らせる福留の姿が。


「し、失礼……」


 どうやらハンドルを切り損じた様だ。

 相当な歳の老人なだけに操作を誤ったのだろうか。


 ―――という様にしか三人には見えていないが真相は謎のまま。


「……エウリィさんが?」


「ま、まぁ行けばわかりますよ。 ハハハ……」


 そんな感じでいつもの笑いを上げる福留。


 しかし勇はなんとなくそこに違和感を感じてならない。

 何せいつもの余裕を見せる姿はそこには無く。

 明らかに何か動揺している様に見えてしょうがなかったからだ。


 あのポーカーフェイスの福留が、である。


 そうも感じてしまえば不安も過るだろう。

 「エウリィさんの身に何があったのだろうか」と。


 ただ、例え違和感があろうとも福留はこうして笑ったままだ。

 そこに意味が無いとは勇にはどうしても思えなくて。


 だからこそ今は福留同様に不安を押し殺す。

 「きっとフェノーダラの皆なら大丈夫、何も心配ないさ」と自分に言い聞かせて。




 そんな不穏な空気が車内に渦巻く中、高速道路を北へと突き進む。


 目指すは栃木、フェノーダラ王国。

 自分に与えられた任務を果たす為に。

 そして久しく会っていないエウリィと再会を果たす為に。




 だが勇は知らない。

 今まさにフェノーダラ王国にて、城内を揺るがさんばかりの暗雲が立ち込めている事を。


 まだ気付く由すらも無いのだ。






◇◇◇






 長い道のりを経て、勇達を乗せた車が遂に栃木の変容区域へと乗り上げ。

 間も無く見慣れた光景がフロントガラスに映り込む。


 目的地のフェノーダラ城である。


 勇にとってはしばらくぶりで、「わぁ」と懐かしさを露わにする姿が。

 初めて訪れた心輝達に至っては、その堂々たる規模を前に「おお……」などと堪らず唸りを上げていて。


「これってテレビでやってたやつよね!? 『森の中に西洋のお城の様な建造物が突如姿を現した!!』ってやつ!」


「あぁそうそう、それだよ。 これ『あちら側』の国の城なんだってさ」


「マ、マジかよ……ただのオブジェじゃなかったのかよ!?」


 心輝達もこうして聞いて初めて事実を理解した様子。


 発覚当時はテレビの特集などで散々挙げられ、色々な憶測が飛び交ったものだ。

 『怪物の住処』だの、『政府の秘密施設』だのなんだのと。


 結局、政府はこれを『東京同様の謎の現象で出現したただのオブジェ』と公式に発表。

 現在は東京と同じくして変容地区周辺をバリケードで囲い、一般人の立ち入りを禁じている。

 加えて、マスコミもどちらかと言えば東京変容区域の著しい変化の方が気になる様で。

 あちらは既に危険も無いと判断し、身代わり(スケープゴート)として敢えて警備を甘くしているのだそうな。

 立ち入り禁止である事には変わりは無いが。


 渋谷周辺に魔者がもう存在しない事はザサブ戦において証明済み。

 例え不法侵入しようとも得られる秘密は無い、という訳だ。


 心輝達も事実を知ってからというものの、この城の事は気になっていた様で。

 しかしこの反応だと、まさか早々に関係する事になろうとは思っても見なかったのだろう。


 すると、そんな話を交わしていた勇達の視界に何かが映り込む。


 それは城壁の上に見える一人の人影。

 青空の下で両手を大きく広げて振っては、ピョンピョンと跳ねる様子を見せていて。


 近づくにつれてその姿がハッキリした時、勇が思わず「おっ」と声を上げる。


 そこに居たのはあのエウリィ王女。

 自慢の青色の髪を振り上げながら、勇達を歓迎する様にはしゃいでいたのだ。


 思っても見ない熱烈な歓迎に四人揃って「おお~」と唸ってならない。


「まさかエウリィさんが迎えてくれるなんてなぁ……なはは」


 これには勇も喜びを禁じ得ない。

 やはり久しぶりという事もあって会いたいという気持ちが強くなっていて。

 心輝と瀬玲からは見えないのをいい事に鼻をグニャリと伸ばしっぱなしである。


 二人には雰囲気からしてまるバレの様であるが。


「にしても福留さん、エウリィさんに今日行くって事伝えてたんですね。 さすがです」


 予め待っていたかの様にエウリィが姿を現したともあれば考えられるのはただ一つ。

 さすがの福留、こう仕向ける用意周到さには感謝してもしきれない。


 ―――などと思う勇だったのだが。


「え?」


 そんな感謝とも言える一言を前に返って来たのは予想だにもしない反応で。

 ふと勇が運転席を振り向いて見ると、そこには丸くした目で返す福留の姿が。


「んん……ま、まぁフェノーダラ王には伝えていますから、きっと又聞きなのでしょう」


 更に、こんな煮え切らない反応が立て続けに返ってきたものだから。

 道中で抱いていた不安が再びその姿をチラッチラッとチラつかせていて。


 その不安の正体も何だかわからないままに、とうとう城門前へと辿り着く。

 目の前にあるのは以前と変わらない城の風景なのだが。






 しかしそんな勇達を待ち受けていたのは、予想を遥かに超えた状況であった。






「やっと……来てくれたか、ユウ殿……」


 王の間へと訪れた勇達の前に現れたのは、なんと弱りきったフェノーダラ王。

 椅子の上で項垂れ、その身体を小刻みに震えさせていたのだ。


 前回見た時の覇気溢れる肉体は跡形も無く、これまでという程にやつれ果てていて。

 今にも椅子から転がり落ちそうな雰囲気で、フラフラと頭が揺れ動いて止まらない。

 どうやら焦点も合っていないのか、気を抜けばそのまま意識を飛ばしてしまいそうだ。

 目元にはシワが目立つ程のクマが浮かび上がっており、疲労困憊をありありと見せつける。


 その尋常ではない有様は勇を動揺させるには十分過ぎた。


「王様!? 一体何があったんですかッ!?」


 堪らず跳び出さんばかりにその身を乗り出してしまう程に。


 しかし勇が来た事で安心したのだろうか。

 フェノーダラ王の青白い顔にほんのりとした微笑みが浮かぶ。

 それでも様相からか喜んでいる様には到底見えないが。


「あぁ、ほんの少し厄介な問題が起きてな……」


「ほんの少し……!?」


 勇達から見れば緊急事態もいい所だ。

 初めて会ったはずの心輝達ですらそう感じてしまうまでのただならぬ雰囲気なのだから。


「だが君達が来てくれたからにはもう安心、だな。 フクトメ殿には……感謝してもしきれぬ」


「い、いえ……」


 だが礼を言われたにも拘らず、何かを察した福留は目を逸らしていて。

 言葉はわからずとも雰囲気を察したからか、どうにも浮かない。

 顔も既に笑ってはいない。


 というよりも明らかに何か知っている様子。


 これには如何に鈍感であろうとも気付く訳で。

 言葉がわからなくともここまで通じてしまえばさすがに。

 いっそ福留に事情を聞いてしまおうかとすら思えてしまう。


 ただその元凶を一番よく知るであろうフェノーダラ王が目の前に居るのだ。

 彼を差し置いて第三者(福留)に語ってもらおうなどと勇にはどうにも思えなくて。


 恐れと戸惑いと不安を押し殺し、遂に勇がその一歩を踏み出した。


「王様一体何があっ―――」

「エウリィをなんとかしてくれ……!!」


 でもその一歩が刻まれる間すら与える事無くフェノーダラ王の苦悩が吐露される。

 たちまちその手が顔を覆い、体と共に震え出して止まらない。


「エウリィさんを? 一体何が、どういう……」


 さっきまであんなに元気良さそうに手を振っていたのに。


 でも城に入ったら王様がエウリィの事でこんなに苦しそうに震えていて。

 訴える様な呻き声まで溢れ出させている。


 勇にはもう何がなんだかわからなくなっていた。


 先程見たのは夢か幻だったのか。

 『あちら側』特有の不思議な現象なのか。

 命力が引き起こした幻覚だったのか。


 そうすら思えてならなかったのだ。


 そう連想した時、勇が思い立つのは―――彼女の不幸。


 あれほど娘の幸せを望んでいたフェノーダラ王の憔悴っぷり。

 福留の頑なに真実を語りたがらない態度。

 いずれもそう思わせるには十分過ぎたのだ。


「―――ならッ!!」


 そこから生まれた想いが勇の心を滾らせる。


 初めて会った時から優しい笑顔を振りまいて心を躍らさせてくれた。

 夢にまで見る程に愛おしいと思える可愛らしさを見せてくれた。


 そして、まだよく知らない彼女でもああして好意を寄せてくれたから。


「フェノーダラ王、俺に出来る事があるなら……俺に出来るならやらせてください!! なんでもしますッ!!」


 だから自信を持ってこう応える事が出来たのだ。


 今の一言はフェノーダラ王や福留に「おお……!!」という感心を引き出すまでに力強く。

 それ故に、フェノーダラ王がたちまちその目から涙を零す程に感銘を受ける様を見せつける。


「ありがとう、ありがとうユウ殿!! これでフェノーダラ王国は救われる……ッ!!」


 やはり国を揺るがす程の事態が起きているという事か。

 それにようやく気付いた勇も、今この途端にその身を引き締めていて。

 もはや戦いの時に見せた気迫を再びその身に宿さんと心を昂らせる。


 その体から命力が立ち昇る程に。


「こ、これ私達は逃げた方がいいやつじゃ……」


 一方その背後では、突然の雰囲気にビビる心輝と瀬玲の姿が。

 勇はやる気満々でも、一般人の二人にはそうもいかない訳で。


 何せ二人もフェノーダラ王の言ってる事がわからない。

 しかも勇は深刻な事態を前に翻訳すらしていない。

 こうなっては事情を知る余地も無いのだから。


「バッ、バカ野郎、俺達が逃げちまったら依頼どうすんだよ!! ―――あ、依頼……?」


 だがそんな折、心輝がふと何かに気付いた様で。

 たちまち顎に手を充て、「んん?」と顔を俯かせて何かを考え始める。

 もはや気が気ではない瀬玲などそっちのけで。


 でもそんな二人など気付く事無く、勇の盛り上がりは最高潮へ。


「それで王様、俺は何をすればいいのですかッ!?」


 その意気揚々とした問いを前に、ようやくフェノーダラ王が深い頷きを見せる。

 遂に語る時が訪れたのだ。


 こうなるにまで至った原因を。


「勇殿にして欲しい事、それはだな―――」


 そしてとうとうフェノーダラ王がその口を開いた時。


 勇が。

 福留が。

 心輝が。

 瀬玲が。

 周囲の兵士達もが。


 切実な願いをその耳に受け止める。






「エウリィが退屈で死にそうだというので遊んでやって欲しい……!!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ