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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第六節 「人と獣 明と暗が 合間むる世にて」
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~何とか間に合ったけども~

 あれから四日後、日曜。


 休みの日ともあって、この日は心輝達が昼間から勇の家に訪れていた。

 目的は当然、治癒の最終診断である。


 何せ今日この日がいわゆる猶予最後の日(ラストデイ)

 勇に与えられた治療期間はもう残されていないのだから。


 緊張包む日とあって心輝達も今日はさすがに静かだ。

 相変わらずベッドの上で座禅を組む勇を前に無言を貫く。


 対して勇はと言えば―――数日前とは打って変わり。

 それなりに馴れたのだろう、微動だにもせずにただじっと静かに佇むのみ。


 動きがあるとすれば、それは顔の表皮だけ。


 目を凝らして見るとわかる程度に傷の縁目が動きを見せていて。

 よれた皮膚が整っていき、血色で彩った元の肌色へと戻っていく。

 僅かづつ、だが確実に傷が小さくなっていた。


 先日までとは違って明らかに治癒速度が増していたのだ。

 勇が宣言した通り、コツを掴んだ事で効率が格段に増したのである。


 その甲斐あって今、心輝達の目前で治癒はとうとう終局へ。

 残す所は後一つの大きな傷跡のみ。

 それが消えるのも時間の問題だ。


 そしてちゃな達が見守る中で―――遂に火傷の後が全て消え去ったのだった。


「できたー!! 元の綺麗な勇君に戻ったー!!」


 その時、ギャラリーの歓声が勇の家中に響き渡る。

 あずーだけでなく、ちゃなや心輝や瀬玲の声も。


 やはり皆心配だった様で。

 何せ二日前は全く進捗を感じない状態だったのだから。

 本当に大丈夫なのかと不安でしょうがなかったのだ。


「ふぅ、なんとか戻ったかぁ」


「オイオイ、めっちゃギリギリじゃねぇか」


 勇当人も割と不安ではあったのだろう。

 やりきった事でその不安も消え、心輝のツッコミを前に「なはは」と余裕の笑みを浮かべていて。


 心配していた心輝も瀬玲もそんな様子の勇を前には呆れてならず。

 「やれやれ」とお手上げの様子を堪らず見せつける。


 とはいえ勇としてはこれも予定の内だ。


 本当はもっと早い段階で治癒も可能だったのだが。

 実は思った以上に勉強も捗ってしまい、そっちに時間を取られ過ぎたという所が本音。

 瀬玲の思いやりが仇となった訳だが、それを正直に打ち明けられるはずも無く。


 ただこうして結果的にどちらも上手くいった事は成果としては充分と言えるだろう。

 少なくとも福留に余計な言い訳をせずに済んだので。

 勇にとってはこれが一番大きいと言えるメリットだ。


「ん、どれどれ」


 するとそんな勇の顔へと向けて、瀬玲が覗き込む様に顔を近づける。


 この数日そんなシチュエーションが多かった所為か勇も馴れたもので。 

 もはや以前の慌てっぷりなどは微塵も見られず、自慢げのニタリとした笑みを浮かべるのみ。

 よほどやりきった事が嬉しかった様子。

 

「それにしても凄いね。 全く痕跡が無いし。 この命力って美容とかにも応用出来るのかな」


「さ、さぁ~……? セリまで魔剣欲しいとか言うなよな?」


 しかし瀬玲の追撃を前に、たちまちそんな笑みも消え失せる。

 堪らずその首をグイっと引き、嫌そうな顔へと変えながら。


 果たして瀬玲の言った事は本音か虚言か。

 そんな事もわからないままその身を引かせていて。


 いじらしそうに「フフッ」と鼻で笑う様子が勇の不安を煽り上げる。


「もしかしたらそういう意味で欲しいって思っちゃうかもねー?」


「あたしもほしい!! 『つようつくしい』亜月ちゃんを目指したい!!」


「俺はそう、漫画やアニメの主人公の様にチート三昧で戦う戦士を目指したいッ!!」


 瀬玲に続いて他も妙にノリノリだ。

 欲望を垂れ流しにする心輝達を前に、勇も「適当な事ばかり言って」と頭を抱えてならない。


 しかもそんな盛り上がりを見せる心輝達後ろから、遂にはちゃなまでが手を挙げていて。


「わ、私は勇さんの隣で戦えるくらいに強くなりたい、かな……」


 そして恥ずかしそうにモジモジとしながら放たれたのは謙遜とも言える一言。

 



―――君はもう隣どころか俺を置いて遥か先に行っているんだけどね―――




 これには勇もただただ呆れの据わった目を向けるばかりだ。

 当然、彼女の活躍を良く知る心輝達も同様にして。

 一騎当千とも言えるあれだけの戦果を叩き出した後なだけに。




 勇の気持ちなど露知らず、四人がそんなノリで自分勝手な夢を語り合う。

 そうして繰り出されたのは、はたから見れば冗談としか聞こえない絵空事ばかりで。

 でもこればかりは勇も冗談とは聞こえなかった様だ。


 戦いの凄惨さを知るからこそ、夢のままで終わって欲しいと願って止まない。


 和気藹々とした雰囲気が包む中、勇は項垂れる様にベッドへ倒れ込む。

 腕枕を押し付けながら見上げた先は青の空。


 今見える空の様に、早く穏やかな世界に戻って欲しい、と……。






 世界の出来事など知るはずも無く雲は流れて、やがては空の彼方へと還る。

 人の想いも思い出も、雲と変わらず同様にして。


 怒涛の日々はこうして勢いを失くし、勇達にそんな雲の様な穏やかな日常が遂にやってくる。


 季節は完全なる夏。

 気温と湿気が空気に混じり息苦しさを誘う様になった頃。




 勇が登校を再開してからというものの日にちはあっという間に流れ。


 そうして気付けば二週間もの時が過ぎ去っていた……。




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