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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第一節 「全て始まり 地に還れ 命を手に」
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~戦慄 の 裂断~

 予期せぬ大男との邂逅。

 それは勇と少女への感情の解放を促した。


 異形への恐れと。

 親友を見捨てた苦しみと。

 良き理解者を失った悲しみを。


 己の非力さを痛感させると共に。


 二人の昂りは涙を呼び、静かだった場に悲哀の声を響かせる。

 大男もここまで来れば困った様で、太い指で頭を掻き毟っていて。


「どうすりゃあいいんだぁってぇの……」


 どうやら話を聞いたは良いものの、扱い方がわからないらしい。

 遂には眉間にしわを寄せ、お手上げの様をも見せるという。

 もしかしたら子供の扱いは苦手なのかもしれない。


ザッザッ……


 しかし、そんな時だった。

 その場にふと、大地を擦る音が響く。

 しかもそれは人間とは違う、強靭な足腰が刻んだ足音で。




 なんと異形が現れたのだ。

 それも三人、勇達を挟む様にして。



 

 前に二人、後ろに一人。

 間隔はどちらもおおよそ五〇メートル程。

 駆け出せばすぐにでも届いてしまいそうな距離である。


 その存在感はもはや勇や少女にとって最悪そのものだ。

 今まで包んでいた悲しみが吹き飛ぶ程に。

 収まっていた恐怖心が奥底から噴き出す程に。


 当然だろう、その恐怖を植え付けた怪物が三度(みたび)現れたのだから。


「あ、あぁ……」


 もう逃げられない。

 そう悟るのに時間は掛からなかった。


 思いっきり走って、感情を出し切って、息も上がって。

 それでもこうして何度も現れて。

 今や足も手も震え、立つ事すらままならない。


 絶望が勇と少女に抵抗の意思さえ持つ事を許しはしなかったから。


「カッカカッ、ココニモイタゾォ」


 統也をやった奴とは服装も髪も違う。

 恐らくその個体とは別物なのだろう。

 でもそんな事は今の勇達には関係ない。


 異形達がゆっくりと歩を進めて近づいてくる。

 逃げられないと悟った二人の顔を見て、急ぐ事もないだろうと感じたのだろう。




 だが大男だけはその中において―――異質、だった。




「あぁ……んだってぇ、来ちまったのかよぉ。 そこぉ動くなガキ共ォ」


 この危機的状況にも拘らず、その口調は変わらない。

 それどころか、大男は笑みすら浮かべていたのだ。


 片笑窪を吊り上げ、歯を覗き見せる程の不敵な笑みを。


 それは困り果てていたとは思えぬ程に精悍な顔立ちで。

 先に佇む異形を前に臆する事無く睨み付けるという。


 対して、異形達もまた変わらず。

 醜い顔を更に歪ませながら歩を踏み出していて。


「イッタダキ、ダッ!! カカッ!!」

「キィヒッ!!」


 待ちきれんとばかりに、二人の異形が遂に走りを始める。

 殺意と、敵意をばらまきながら。

 鬼気と嬉々を混ぜ合わせたおぞましい顔を向けて。




 しかしその時、出遅れた後ろの一人が何かに気が付いた。




 途端その足を滑らせる様に止め。

 それどころか身体全体をも引かせて。

 引きつり上がった顔で叫びにも足る大声を張り上げる。


「ハッ!? コッ、コイツ!! ヤメローッ!! ソイツ【そーどますたー】ダアッ!!!」


 その叫びは先行する二人の仲間に届いたのだろうか。

 その一言が彼等に何をもたらしたのだろうか。

 でももはや彼等は止まらない。

 勢い付いた体を止める事は出来なかったのだ。




 いや、厳密に言えばこうか。

 〝止めようとする意志さえ抱く事は無かった〟と。




 それは大男の身体がふわりと輝いた時の事。

 それから全ては、一瞬だった。


 その一瞬で、二人の異形が同時に、幾多にも切り裂かれていたのである。


 余りにも速く。

 余りにも強引に。


 勇や少女が理解する間も無く。


 その時目の前で何が起きたのか、二人には全くわからなかった。

 でも異形だったモノは既に影も形も無くなっていて。

 たちまち周囲に鮮血を、肉片を撒き散らしていたという。




 大男がたった右腕一本薙ぎ払っただけで、だ。




 大男は今、異形が居た場所に立っている。

 今しがたまで勇の傍に居たはずなのに。

 それだけ、まさに瞬きしている間の出来事だったのだ。


 先程まで居た場所をつい確認してしまう程に。


「アッ―――」


 一方の一人残った異形はと言えば、呆けた声を漏らすだけで。

 無残な肉塊と化した仲間を前にして、ただただ愕然と顎を落とす。


 しかしそれが最後の一言だった。

 たったそれだけの間に、大男がその異形との距離を詰めていたのである。

 しかもその巨体でにわかに信じられない程の速度で。

 勇達の髪をも激しく巻き上げる程の凄まじい突風を伴って。


 そして巨体は瞬時に異形の背後へ。

 誰も認識する事さえ許さないまま。


 こうして重なる様に比較して初めてわかるのだろう。

 大男の強さと大きさが。

 巨大だと思っていた異形すらも凌駕する、迸る程に強靭な肉体が。


 間髪入れず、巨木の如き両腕が【マモノ】の首へと掛けられる。

 それはさながら(はさみ)の如く。


 なればその(いびつ)な首は千切れる事となるだろう。

 掛けられた両腕によって慈悲も無く。


 余りにも強い力だった。

 刎ねられた首が高く高く宙を舞う程に。

 それも、鮮血を螺旋状に撒き散らして。


 そして屑と化した頭部はそのまま景色の彼方へ。

 弧を描きながら路上遠くへと落ちていったのだった。


 勇と少女がただただ唖然とする中で……。




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