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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第五節 「交錯する想い 友よ知れ 命はそこにある」
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~双杖 掃射 届け願いよ~

 ちゃな達前線部隊は本拠地での異変にも気付かないまま、なお攻防を繰り広げ続けていた。


 しかし迫り来る魔者達の勢いを抑える事しか叶わない。

 着実に前進を続け、死に物狂いで二人へと襲い掛かる。


 ちゃなの焦りは隠せない。

 もし少しでも手を緩めれば、その隙に勇が殺されてしまう。

 だからといって、この射撃速度では敵の猛攻を押し返す事は出来ない。

 更に、もしもこの力が力尽きたら―――


 どうしようも無いと思える状況が、彼女の心を激しく揺り動かす。


 もしかしたらそれは命力使用による精神力の消耗にも起因している事なのかもしれない。

 しかしそれも彼女にとっては与り知らぬ事。

 撃てば撃つほど不安が募り、嫌な予感だけが過るばかりだ。


「でも……そんなの嫌です!!」


 それでもちゃなの顔から強い意思は消えない。

 この様な危機を前にしても諦めようとはしなかったのだ。


 やっと居場所を見つけたから。

 その居場所に誘ってくれた勇を失いたくないから。


 もう二度と恩人を見捨てる様な事はしたくないから。


 そんな想いが彼女の心を繋ぎ留める。

 苦難に立ち向かう為に。


 力が無く、起きた事を見過ごすだけの少女はもう居ない。

 こうして抗う力を与えられ、誰よりも強く気高く在る事を許された戦士なのだ。




 そこから生まれた強い意思が今、彼女に新たなる可能性を呼び起こさせる。




 ちゃなはその時思考を巡らせた。


 〝敵の勢いが凄いなら、それを上回ればいい〟

 〝連射速度が遅いなら、速くすればいい〟―――と。

 

 その思考が、彼女にとんでもない行動を取らせる事となる。

 なんと【ドゥルムエーヴェ】を右手に備え、背中に携えていた【アメロプテ】を左手で引き抜いたのだ。




 その時見せるは―――魔剣二刀流。




 しかも命力を恐ろしいまでに消耗するはずの遠距離支援型魔剣を二本、である。


 〝もう消耗など気にしてはいられない

   全てを撃ち尽くしててでも勇さんを救ってみせる〟


 その一心で解き放つ。

 彼女に秘められた可能性を。


 二つの魔剣を同時に奮う事で叶う、その圧倒的攻撃能力を。

 










「一気に押し込めェ!! 奴さえ倒せば我々の勝ちだあッ!!」


 活気付いた魔者達が勇のトドメを刺さんと駆け抜ける。

 例え仲間が砲撃に晒されようとも怯む事無く。

 たった一刺、それだけで勝利が不動となる事を信じて。


「―――えっ?」


 だがこの時、彼等は自身の目を疑う事となる。

 何故なら―――




 今までの砲撃など比べ物にならない程に大量の炎弾が襲い掛かって来たのだから。




 その量、もはや驚異的。


 命中精度こそ以前と比べれば低くはなっているのだろう。

 しかしそれをも補って余りある量の炎弾が放射状に撃ち放たれていたのだ。

 その量はざっと見るに、先程までの三~四倍。


ドドドドドドドドッ!!!


 しかもそのどれもが一撃必殺。

 そして斜面に障害物が無い今、逃げ道などもうどこにも無い。

 射線上にて巻き込まれた者達が漏れなく爆破し弾け飛ぶ。


「な、なんだあの化け物はあーーーーーーッ!!! ギャボッ!?」


 それは危機を前にしてそう叫んでしまう程に異常だったのだ。




 それを可能にした者こそ当然、ちゃな。

 両手に携えた魔剣を正面に突き出し、イメージするままに砲撃を繰り返した結果がこれである。


 そのイメージする量に際限など微塵も無い。

 ただ速く、ただ多く。

 襲い来る魔者達を全て焼き尽くすつもりで撃ちまくる。


 その様は砲撃と言うよりももはや掃射。

 撃ち出す様子はまるでマシンガンかガトリング砲か。

 隙間無く発射し続け、射線上の魔者を片っ端から駆逐していく。


 その圧倒的な攻撃能力を前には、例え若輩者だろうが熟練者だろうが関係は無い。

 直撃しただけで即死、掠っただけで焼死、煽りを貰っただけで爆死。

 しかも回避が困難な程に掃射され続けていて。


 もう既に勇の下へと向かう者など皆無。

 近づけば自ら死にに行く様なものなのだ。

 誰しもが炎に焼かれまいと逃げ惑う。


 自衛隊員達ですらも慄く程に異常な光景。

 それ程の戦闘能力を、ちゃなは見せつけていたのである。






◇◇◇






 誰しもが駆ける心輝を目で追った矢先に、見上げた先の光景を視界に映す。

 その光景を目の当たりに時、福留が、瀬玲が、あずーが、自衛隊員達が―――驚愕する。


 ちゃなの凄まじいまでの掃射を。

 押し寄せていた軍勢をあっという間に駆逐していく様を。


「なんですかあれ……!?」


「わ、わかりません……」


 そう問い、そう答えるしかなかった。

 何も知らない福留が説明出来るはずも無かったのだ。

 目の前で繰り広げられる異常な光景の正体を。


 凄まじい攻撃の嵐は爆音となって麓にまで響き渡る。

 自衛隊の本部へ攻め入っていた魔者達が気付く程の音が。

 そしてその異常な光景が、彼等の勢いすらをもピタリと止める。


 敵地の中に居る事も忘れたかの様に、驚愕の顔を浮かべながら見上げていたのだ。


「魔法の杖を、二刀流!?」


 その時、双眼鏡を覗き込んだ福留がようやくその猛攻の正体に気付く。

 それで何故その連射が叶うのか、という不可解さも付け加えて。


 だがそれが福留に一縷の希望を抱かせた。


「これならなんとかなるかもしれません……!! 今は二人を信じるしか!!」


「でもシンはどうなるんですか!?」


「こうなった以上、心輝君は先行部隊に任せるしかありません。 後は彼が魔者に襲われない事を祈るばかりです……!!」


「お(にい)……」


 福留は愚か、瀬玲もあずーももはや心輝に追い付く事は不可能だ。

 体力に自信のある自衛隊員も、彼に構う余裕は無い。

 先行部隊に連絡を入れ、ただただ無事でいる事を祈る以外に道は無い。


「アイツが、勇達が戻ってくるまで私もここに居ます!」


「あたしも!!」


 心輝が覚悟を決めて走り込んだ以上、瀬玲もあずーも引き下がれはしない。

 あずーは愚か、瀬玲にとっても彼は小さな頃から一緒の家族の様なもの。

 人を想う事が出来る彼女が見捨てる事など出来るはずも無いのだ。


「―――わかりました。 ならば私も信じて待つ事にします。 賭けましょう、二人の力に!!」


 福留が言う通り、これは賭けである。


 もし勇が立ち上がらなかったら。

 ちゃなが力尽きたら。

 心輝は愚か、瀬玲達も戦渦に巻き込まれてしまうだろう。


 勝つか負けるか。

 生か死か。

 究極の二択を賭けた大博打を、福留達が打つ。


 全ては―――勇達の勝利を信じて。






◇◇◇






―――


 体力には自信があったんだ。

 例え部活を真面目に取り組まなくてもよ。

 たったこれだけの距離を駆け登るくらいならなんとかなるって。


 でもまだまだ遠いのに、脚が重くなっていく。

 声すら届かないかもしれない距離なのに、息が上がって体を止めたくなる。

 勇はずっと向こうまで戦いながら駆け登る事が出来たのによ。


 「知らぬ内に遠い人になったかのよう」なんて台詞は良く聞くけど。

 その台詞そのものがこうして現実的になってんだ。


 踏み込みが甘くなってんのがわかる。

 そんで走る勢いが弱まる度によ、悔しくなるんだよ。

 後悔が募りに募ってくんだよ。

 まるでその後悔が重しとなって足を引いているんじゃないかって思えるくらいに。


 これが俺と勇の差なんだって。

 アイツを焚き付けて見えた俺の弱さなんだって。


 こんな後悔残してまで生きたくねぇよ!!


 ずっと後悔して生きたくねぇよ!!


 だからよぉ……!!


――― 




「うおあーーーーーーッ!!!」


 心輝が叫びながら傾斜を駆け登り続ける。

 自衛隊員が、魔者が、その場不釣り合いな姿に呆気を取られる中で。


 例え脚が重くなっても。

 激痛が走っても。

 走る事を辞めない。

 止まる事を求めない。


 もうこれ以上の後悔はしたくないから。

 

 苦痛に足る後悔は些細な事でも抱いて生きたいとは思わない。

 それを受け入れるくらいなら恥を見せてでも解決した方がマシ。

 そう思う程に、その心は熱く煮え滾っているのだ。


 心輝という男は、そういう人間なのである。




 だがそんな真っ直ぐな気持ちを持つ人間だとしても、全てが上手く行くとは限らない。




ガッ!!


 その時、心輝の駆け出した足に強い衝撃が走る。

 土の中に埋もれた岩につま先を引っ掛けたのだ。

 加えて、重く痺れた脚では崩れ行く体を支える事も出来ず―――


「んがあ!!」


 たちまちその身を激しく黒の大地へと打ち付けた。


 とはいえ不幸中の幸いか、土面は戦いの最中に荒らされたお陰で柔らかく。

 倒れた拍子で負った傷は無い。


 ただ、疲弊した脚が動かない。

 無理が祟って、起き上がれない程に消耗しきっていたのである。


「くそぉ!! くっそおおお!!」


 まだまだ勇までの道は果てしなく遠い。

 けれどもう体が、言う事を聞いてくれない。


 自衛隊員が駆け寄る中で、心輝はただ伏せながら悔しさを体現する。

 黒土を握り締め、口惜しさを噛み締めて。

 血の混じった土の味が口の中に広がりながらも、ただただ先を見据えながら。


 それでも出来る事が無い訳ではない。

 だからこそ今解き放つ。


 心の内を、思うがままに、只一心に。




「起きろぉオオーーーーーー!! 勇ぅぅううーーーーーー!!!!!」




 たった一つの願いを。


 折れ曲がらんばかりに身を逸らせ。

 体に残された全ての力を叫びに換えて。

 天に、彼方に想いを乗せて駆け登らせる。


 その願いは風となって―――今、戦場を貫かん。




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