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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第五節 「交錯する想い 友よ知れ 命はそこにある」
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~暗雲 試行 意思尽きぬ限り~

 勇達の進攻は目下順調―――


 しかし戦いが繰り広げられているのはそこだけという訳ではない。

 戦地は広域であり、各所ではなお自衛隊と魔者との攻防が繰り広げられている。


 確かに勇達が攻め入った事でその勢いこそ衰えただろう。

 それでも自衛隊側の劣勢である事に変わりは無いのだ。


 




「E班は後退し、D・F班と合流して応戦せよ! 繰り返す―――」


 福留達が居る中央指令本部には通信機器が設置されており、各所の戦況が逐一報告として上がってくる。

 しかしいずれも芳しくない連絡ばかり。


 戦闘用装備や物資は有限だ。

 しかも余剰分を勇達支援の部隊に回していて、進攻を防ぐ外縁部隊には十分な装備が行き渡っていない。

 その中での長時間の防衛はほぼ不可能に等しく。

 既に幾つか後退を余儀なくされている箇所が出始めていた。


「指令! Dエリアの防衛網が突破されました!」

「敵を引き付けろ! 街への被害は絶対に食い止めるんだ!!」

「Jエリアにて均衡が崩れつつある模様! 支援要請が来ています!!」


 周辺住民は既に避難済み。

 例え流出しても民間人の被害が出る事はまだ無い。

 だが魔者達が流出してしまえば、街を潜伏場所として被害は更に広がっていくだろう。

 街は隠れるにはうってつけとも言える程に隠れる家が多いのだから。


 だからこそ食い止めねばならない。


 自衛隊員達も必死なのだ。

 今は命を賭して挑まねばならない時なのだと。


 


 司令官達のやり取りに聞き耳を立てていたからか、福留の心境は浮かない。


 戦況は明らかに劣勢。

 このまま長引いてしまえば、例え勇が統制者を倒したとしても事態は悪化しかねないからだ。


 それはつまり状況が刻一刻と変化し続けているという事。

 当初の予想よりもずっと敵の進攻が激しいが故に。


 そこから生まれた福留の焦りが冷や汗を呼び。

 先程までの微笑みを浮かべる様な余裕はもう残っていない。


 それでも今は勇とちゃなを信じるしかない。

 二人だけがこの状況を打破する事の出来る存在なのだから。

 

 そんな想いで坂の上を見上げ、心の内で二人に願う。

 〝願わくばどうか無事に帰ってきて欲しい〟と。




 だがその折、福留の目に奇妙な〝モノ〟が映り込む。




「ムッ……あれは!?」


 それは双眼鏡を降ろした時の事。

 今まで勇だけを注視していたから気付けなかったのだ。


 福留が見つけたのは勇の頭上、上空に浮かぶ灰色の暗雲。

 しかしそれは明らかに不自然なもの。


 何故なら、周囲は晴れ間なのにそこだけが曇っていて。

 目で見える程に気流の様な流れが生まれていたのだから。






 その暗雲はちゃな達にも見えていた。

 しかも近くでみるからこそ、その異様さは更に際立つばかりだ。


 勇の移動に合わせて雲もまた流れて動き、頭上から離れる事も無い。

 不自然なのは当然の事、その様子がどことなく作為的にすら見えていたのである。

 

「まさか!? 勇さん……ッ!!」


 そしてその暗雲を前に何かを気付いた時、ちゃなに焦りの表情が浮かび上がり。

 その足を、その身を、誰よりも早く前へと進ませる。




 この時彼女が感じ取ったものは果たして―――






◇◇◇






 坂の上、最前線。

 勇がなお駆け巡り、迫り来る魔者達との()()()()()を繰り広げていた。


「うおおーーーッ!!」


 勇が気力を振り絞って駆け巡り、斬撃を見舞う。

 しかしそれも持ちうる盾でいなされては引かれ、決定打には至らない。

 それだけには済まされず、他の相手からの攻撃が四方八方から繰り出され。

 それを勇が躱しても、反撃する頃には同様に離れて行く。


 そう、勇の攻撃がなかなか当たらない。

 消耗もさることながら、魔者達が勇の動きに馴れ始めていたのだ。


 確かに勇の回避能力は異常だが、攻撃に関してはまだ踏み込みが浅い。

 つまり戦闘経験の少なさを見抜かれていたのである。


 前線に出ていたのは言わば経験の薄い若輩者だったのだろう。

 しかし今勇の前に立ち塞がるのはいわゆる歴戦の猛者達。

 体に傷を幾つも持つ、戦闘経験の豊富な熟練者だ。


 そんな彼等を前に勇も決定打を欠き、快進撃に陰りが生まれる。

 先程までの勢いはもう既に無く、今は微速前進とすら言える程度でしかない。


 だがそれでも勇は諦めない。

 足を踏み出す事を、攻める事を辞めない。


 〝当たらなければ、もっと深く踏み込めばいいだけだ〟


 そんな想いが勇の心を突き動かし、動作の勢いをより増させる。

 相手が引くよりも速く鋭く。

 攻撃が届く程に深く重く。


 その動きから生まれた刺突が熟練兵の胸元すらをも貫き、一撃の名の下にその命を喰らう。


 それでも魔者達はその隙を狙って襲い来るだろう。

 だからこそ勇は既に行動していたのだ。


 突いた勢いを弾くが如く、大地を蹴って飛び跳ねて。

 トドメと言わんばかりの斬り上げと共に宙を舞う。


 身体全体を振り動かす程の宙返りを見せつけながら。


 その勢い、軽快さは魔者達を震撼させる。

 〝この魔剣使いの体力は無尽蔵なのか〟と錯覚してしまう程に。


 【ザサブ族】の誇るこの陣形が勇に対して大きな影響を及ぼしていたのは間違いないだろう。

 体力を奪い、攻め落とす事を目的がこうして意図通りに通用しているのだから。


 それでもこうして動けるのは彼等にとっては想定外。

 何故なら、熟練者達の居る場所へと辿り着く頃には大抵の魔剣使いが力尽きているからだ。

 それ故にただただ戸惑うしかなかったのである。




 そう……今、勇は体力を使っていない。




 先日考察していた方法を今、ぶっつけ本番で試しているのだ。


 体を自分で動かすのではなく、命力と精神力だけで体を動かしているのである。

 イメージだけに自分の体を委ねて。

 

 簡単に言えば、ただ妄想するだけ。

 「こう動かそう」ではなく「こう動いて欲しい」と思うだけだ。

 そこに命力の操作を付け加えただけに過ぎない。


 それも戦場で。

 しかも戦闘の真っただ中で。


 強敵を前にして、その体を動かそうとする意志を止めるという事。

 それが如何に恐ろしい行為かわかるだろうか。


 もし体が動かなかったら。

 もし思った通りに動けなかったら。

 普通はこう恐れて委縮するものだ。


 だが勇は違う。

 命力の操作には自信を持っていて。

 考察してきた事は間違っていないという確信があった。

 そして何より、今こうしなければ絶対に状況を打破する事が出来ないと思ったから。


 だから今、勇は意識だけで戦っている。

 体を動かそうとする意志も感覚も全てシャットアウトしているのだ。


 体力の代わりに命力で体を動かしながら、疲弊した体を休めているのである。


「これならいけるッ!! 戦う意思があるならッ!!」


 気力はまだまだ溢れんばかりに残っている。

 心はまだ戦う事を拒否してはいない。

 体は追従していて、敵を倒す事も可能。


 なら後は命力がいつ尽きるか、懸念はたったそれだけだ。




 新しい極致を得た勇が再び息を吹き返す。

 当初の動きを取り戻し、熟練者達にひけを取らない攻めを見せつけられる程に。


 勇もまた学習しているのだ。

 相手の動きとその特性を。

 相手の引き際が、攻め際が、如何に効率を求めて編み出された物なのかを。


 それを知った今、その動きを超えた戦法を繰り出せばいい。

 今の勇にはそれが出来るのだから。




「グガッ!?」


 勇の斬撃が魔者の体を切り裂き、赤い鮮血を撒き散らかせる。

 既に多くの熟練者達が地に伏せ、黒の大地に幾多もの紅溜まりを生んでいた。


 魔者達も既に防御一辺倒だ。

 下手に攻撃を仕掛ければ反撃(カウンター)の餌食となるばかりで。

 付け入る隙すら見つからぬ相手にただただ防具を構え、勇と一定距離を保ちながら付かず離れず動き続けるのみ。


 しかしその動きは先程までとどこか異なっている様にも見える。


 その姿はまるで何かを待っているかのよう。

 それと言うのも、相手からは一切の攻撃意思を感じなくなっているからだ。


 先程までは武器を勇に向けて殺意を露わとしていたのに。

 今は切っ先を大地に向け、地面に擦る様にしているのだから。


「なんだ、何をするつもりなんだ……?」


 勇にその意図まではわからない。

 ただ防御に徹するが故に当初よりもずっと強固で、堕としにくくなっていて。

 更に反撃の心配も無い程に、勇がいくら攻撃しても何もしてこない。

 その姿は自衛隊員達と同様、完全防備を決めているかの様だ。


 しかもいつの間にかに、である。


 勇達が到着した時には声を張り上げて陣形の維持を促していた。

 でも今はそういった声は全く聴こえない。


 熟練者だから号令など要らないのか?

 それともこれが彼等の戦法なのか?


 勇の疑念はこう募るばかりで。

 



 そんな折、勇の耳に聴こえないはずの声が届く。




「勇さぁーーーんッ!!!!」




 ちゃなの声である。

 それも勇の視界に入る程に近づいていて。

 今まで声も届かない様な場所で戦っていたはずなのに。

 

「追い付くくらい停滞していたのか、クソッ!」


 勇がそう思うのは自然だった。

 

 でも勇は気付いていない。

 先行してきたのはちゃなと護衛部隊だけで、分断隊列はまだ追い付けていない事を。

 ちゃなが何故こうして先行してまで勇の下へと駆けて来たのかを。


 何かを訴えようと腕を振り上げている事さえも。




 だがそれに気付こうとも、もう既に遅かった。




 その時、勇の頭上遥か上空で青い閃光が迸る。

 不思議な暗雲がその光を内より解き放っていたのだ。


 そして一帯を覆う程の強い光が瞬いた瞬間―――

 



ズシャアアーーーーーーッッッ!!!!




 ―――青白い閃光が光の筋となって空を(つんざ)く。




 それこそは稲妻。

 蒼の雷(あおのいかづち)


 それが今、あろう事か勇へと一直線に撃ち下ろされたのだった。




「があああーーーーーーーーーッッッ!!!!!」




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