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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第五節 「交錯する想い 友よ知れ 命はそこにある」
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~勇猛 攻勢 不穏拭えず~

 戦場での活躍は勇とちゃなだけに限らない。


 二人の快進撃は【ザサブ族】の布陣を間も無く縦に分断する程の勢いで。

 自衛隊員達もが二人の切り拓いた道を閉じまいと進撃を開始していたのだ。


 相手が数ならこちらも数。

 新たに用意された盾を持ち寄り、魔者達の合流を必死に妨げ続ける。


 もちろんそれだけではない。


「投石だ!!」

「防御ーーーッ!!」


 ちゃなへと向けて苦し紛れの投石が放り上げられ。

 しかしそれも護衛の自衛隊員の必死の防御によって無為に消えていく。


 例え砲撃が正確無比と言えども、離れ過ぎれば精度の維持は難しい。

 その為にちゃなも前進する必要があるが、単身で乗り込めば当然命は無いだろう。

 故に自衛隊員達がこの様に身を挺して彼女を守っているのだ。




 これが福留の用意したちゃなの為のサポート。

 物理物量の壁という、軍隊だからこそ出来る最高の防備なのである。




 しかも自衛隊員達を押す事にまごついていれば、それだけ魔者達側のリスクも大きくなる。

 勇の進撃を防ぐ手が減る一方で、いつまでもその壁の相手をしている訳にもいかないからだ。


 それに加えて―――


ドッギャォォーーーンッ!!


 途端、自衛隊員の正面先で凄まじい爆発が巻き起こり。

 たちまち固まっていた魔者達が一斉に吹き飛んでいく。

 

 そう、ちゃなによる投石のお返しである。

 空に向けて速度の緩い炎弾を撃ち出しているのだ。


 例え命力による攻撃と言えど、物理現象の影響下にあるのだろう。

 撃ち出された炎弾はたちまち弧を描いて大地へ落ちて行く。

 そして自衛隊員達を押し返そうかと躊躇っている魔者達の下へと着弾を果たせば―――


ドッギャァーーーンッ!!


 こうして凄まじい爆炎が巻き起こり、魔者達を瞬時に焼くのである。

 自衛隊員達からは離れているので、盾で防ぐ事が充分可能だ。


 これには魔者達も堪ったものではない。


 彼等も兵士であり、陣形を維持しなければいけないという使命がある。

 だがその陣形ももはや体を成してはおらず、むしろ穴を突かれた様に掻き乱されていて。


 そうもなれば例え統率者がいようとも動きが崩れるのは必至。

 何せ分断されたのだ、例え指示があっても届くとは思い難い。


 その不安が、恐れが、魔者達の押し込む力を著しく低下させる。

 中には逃げる者さえもいた。

 うろうろしていればいつ炎に焼かれるかもわからないのだから、そんな者が居てもおかしくは無かったのだ。






 ―――とはいえ、全てが上手くいっているとは限らない。


 この進撃の影で、勇に僅かな変化が起きていたのである。


「フゥッ……フゥッ……!!」


 魔剣を持つ手が僅かに重みを感じさせ。

 手も足も、その動きを僅かに鈍らせる。

 一閃で放たれる瞬きも当初より大気に残る時間が短い。


 それはずっと抱いていた不安……体力の消耗だ。


 勇は自身の体力だけで戦いながら傾斜を登り切った。

 常人ではなかなか成し得ない事である。

 命力があるからこそ登り切る為の足腰も備えられ、そのお陰で消耗を抑える事が出来たからだろう。


 それでも登山と変わらぬ労力を前に、やはり疲労は否めない。

 しかもその消耗は魔者達が見てもわかる程に著しかったのだ。


「ウオオッ!!」

「ちいッ!?」


 その機を逃すまいと、魔者達が休む間を与える事無く襲い掛かる。

 四方八方からの一斉攻撃だ。


 それでも勇が躱せない程ではない。

 例え体力を消耗していても、雑兵程度の攻撃を躱すなど訳もないのだから。


ドドンッ!!


 間も無くその一斉攻撃は虚しく空を切り、大地へ向けて切っ先を落とすのみ。

 その間にも勇が素早い動きで回り込み、魔者達を一刀の名の下に斬り伏せていく。


「ッガア!!」

「何ッ!?」


 しかしその内の一人が攻撃を受けたのにも拘らずその身を捻り。

 あろう事か反撃を繰り出そうと剣を振り上げる。


 今の一撃で致命傷を与える事が出来なかったのだ。

 勇の消耗が切り込みに影響するまで至っていたが故に。


 魔者もこうなればもはや必死。

 死なばもろともと言わんばかりの決死の形相で勇へと襲い掛かる。

 殺意を乗せた刀剣を振り下ろす事で。




 だがその瞬間、魔者はその目を疑う事になる。




 その時勇が見せた姿はまさに竜巻が如く。


 凄まじい速度でその身を回転させ、魔者の斬撃を紙一重で躱したのである。

 しかも追撃をおまけに付けて。


ピュピュンッ!!


 魔者の体に刻まれたのは二重の傷。

 余りの回転速度が故に。


 これには相手も耐える事は叶わない。

 間も無く白目を剥き、大地へと倒れ込むのみ。


「ハァッ……ハァッ、今のはヤバかった……!!」


 でも勇自身は既に余裕が無い。

 今の動きは言わば想定外、必要以上の命力消耗とも言える事。

 こんな事が続けば力尽きるのも時間の問題なのだから。

 

 もし力尽きてその足が止まってしまえば、いつか恐れていた事が現実となってしまうだろう。


 しかしその様に想像する事も今は厳禁だ。

 気持ちが命力に影響するならば、そうマイナス的な思考も自分の力を消耗させてしまうかもしれないから。




―――もし危なくなったら逃げてください。 決して無理はしないでください―――




 そんな時、いつだかの福留の言葉が脳裏を過る。

 生きる事が優先という、政府の意向とも言える一言だ。


 ただ、それも今の勇には迷いを呼ぶ要素にしかなりはしない。


「んなことッ!! 言ったってえッ!!」


 震えた膝に再び力を籠め、己の気力で抑え込む。


 今は前に突き進むしかない。

 後ろを振り向けば、気持ちまでが退いてしまう気がしてならなかったから。


 今はちゃなの援護砲撃がある。

 自衛隊が後に続いている。

 だからもう、進んで来た道を振り返る必要は無い。


 今は真っ直ぐ切り拓き、統率者を見つけて打ち倒すのみ。

 力尽きるよりも先に。


「休むのはそれからだッ!!」


 そんな想いが、勇の疲弊した体をひたすら突き動かしていた。






 次第に自衛隊を囲む魔者達の手が緩み、進撃に軽快さを生む。

 例え魔者達を分断する事が出来ても、彼等の戦いはまだまだ終わった訳ではないのだ。

 二つに分かれた陣営それぞれに未だ大量の魔者達が控えているのだから。


 物量対物量……人類と魔者による戦いはこれからまだまだ熾烈さを増すだろう。

 



 だが勇達はまだ知らない。

 【ザサブ族】の持つ力がこれだけではないという事を。




「クフフ、そろそろ頃合いか……」


 とある者は影でほくそ笑む。

 その瞬間を捉える為に。


 ただ静かに―――機を伺うのみ。




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