~告白 真実 解けせし誤解~
三人が聞く事を決め、福留もそう悟った以上は隠す理由も無い。
勇も事前にそう問う理由を聞いていたからこそ、福留の反応を前に安堵を見せる。
「いいでしょう。 では勇君、早速お話ししましょうか」
「はい、お願いします」
その説明も当然のこと福留から。
余計な説明で心輝達を混乱させない為に。
だが―――
「実はですね、勇君達には怪物退治に一役買って貰っているのです」
勇の予想にも反した、余りにもざっくりとした一言が待っていて。
それを耳にした心輝達もただ目を点にするばかりだ。
「怪物って……それって例の噂?」
「ええ、そうです。 巷で流行っている例の噂の怪物です」
そう、何故ならば心輝達も他ならぬ世間の認識と同じだったから。
彼等もまた怪物騒動を噂か都市伝説なのだとして信じていなかったのである。
「ま、待ってくださいよ、いきなり何言ってるんスか。 怪物ってそんな―――」
「おやぁ、そう言えば渋谷でも同様の話が出ていましたねぇ? 自衛隊まで駆り出して」
しかしその認識も福留によって即座に覆される事となる。
心輝達は変容事件が起きた当日、勇がどこに居たのかを知っていて。
そしてその場所でどんな悲劇が起きたのかも聞いている。
でもその原因は教えられていない。
勇が頑なに語る事を拒否したからだ。
そこでもしも怪物騒動が真実ならば。
悲劇の原因が怪物によるものだったら。
そう連想する事など容易い。
その事実を前に三人は揃って愕然としていて。
いや、厳密に言えば返す言葉も見失ったからか。
何が現実で、何が非現実なのか。
もはや彼等にはもう何もわからなくなっていたのだ。
「我々はその怪物を魔者と呼んでおりまして。 人間とは体型こそ似ているものの全く異なる生物と見ています。 ですが彼等は人間と違って通常兵器では倒すどころか傷一つ負わせる事が出来ないとても危険な生物だという事がわかったのです」
「そ、それってヤバいんじゃ……」
「ええ、非常に。 しかし彼等を退ける手段が無い訳ではありません。 そこで勇君達の出番という訳なのです。 実はお二人共、とある理由でその魔者達と戦う事が出来る様になりましてねぇ」
すると、勇とちゃなが福留の一言に合わせ、手元に魔剣を取り出す。
【エブレ】と【アメロプテ】……パッと見ただけでは武器と思うどころか玩具にしか見えない代物だ。
当然心輝達にはそれが何なのかがわかるはずも無く。
「何これ……」とただ絶句するのみ。
「彼等はこの魔剣と呼ばれる道具を得た事で魔者達と戦う事が出来る様になったのです。 まぁ詳しい話は省略させて頂きますがね」
そんな様子を見せる今の心輝達に詳細な説明はまだ必要無い。
余計な情報を与えれば混乱しかねないからだ。
「我々には勇君達の様な存在を別に育成する手段も時間もありません。 なので、偶然とはいえそういう力を手に入れたお二人に力添えを頂く事になったという訳なのです。 もちろん極秘裏にね」
「そうだったのか、それで……」
そこでようやく心輝と瀬玲も理解出来た様だ。
勇が何故頑なに真実を話す事を避けたのかを。
それはこの福留が身を置く〝謎の組織〟に強く口を止められていたからなのだと。
「実はですね、今日これからもその魔者が居る戦場へ向かおうとしています。 皆さんに勇君達がどの様な事をしているかを見てもらう為に」
「え、ちょ……」
「ですが安心してください。 皆さんの安全は我々が保証いたします。 勇君達も居るのできっと平気ですよ」
そんな事を言われようとも、心輝も瀬玲も不安は拭えない。
魔者の恐ろしさどころか、福留の保証の意味も勇の力さえも知らないのだから。
でもその不安など所詮は杞憂に過ぎない。
勇もちゃなも、そんな反応を前に笑みを浮かべていて。
きっとそう戸惑うのだろうと最初からわかっていた事だから。
「これもきっと福留の話遊びの一環なのだろう」と。
「ええ、我々日本政府及び自衛隊が皆さんの身柄を必ずお守り致しますので」
その唐突なネタばらしを前に、三人が揃って呆気にとられる。
遂にはキョトンとした目を向け合う程に。
それも束の間、そう聞いた途端に三人の緊張が解け。
たちまち緊張でせり上がっていた体が背もたれに「バタン」と倒れ込む。
「ファ~」という深い深い溜息と共に。
「ふぅ、罰とかなんとかいうから、てっきり秘密組織とか怪しい団体とかそんなのかと」
「ははは、驚かせて申し訳ありませんねぇ。 君達の本音を引き出すにはこうするしか無かったのです。 皆さんがこれから知る事実はそうしなければならない程に重要な情報なものでして」
そんな姿が妙におかしくて、勇もちゃなも「アッハハ」と笑わずにはいられない。
ずっと我慢していたという事もあったからだろう。
「勇君はこの件に関して相談出来る人が居なくて悩んでおりまして。 皆さんには是非とも日常面で彼を支えて頂きたいのです」
福留も勇と心輝の確執の事は聞かされて知っている。
それでもこうして責める事の無い言い回しをしたのは、この件に関して罪は誰にも無いと自負しているからだろう。
でも心輝自身の気持ちは別だ。
そんな勇達を前に貰い笑いを浮かべるも、その様子は苦笑に近い。
事情も知らずに勇を追い詰めた事に罪悪感を感じていたからだ。
例え仕方の無い事だったとしても、彼としては納得出来なかったのだろう。
勇へと眉の下がった細めた目を向け、「ズズッ」と鼻を啜らせる。
「すまねぇ、そこまで深い事情があったなんて考えもつかなくてよ」
「気にするなよ。 俺も信用してないって思わせたのは間違いないし、わかってくれただけで十分だよ。 セリもありがとな、色々心配してくれて助かった」
「フフッ、まぁそういう事なら仕方ないか。 事情自体はあんまり仕方ない事じゃないと思うけど」
「あたしは勇君のことずっと信じてたよ!!」
ちなみにあずーは勇と心輝の確執の一切を知らない。
途端に適当な事を言う彼女へと据わった目が一斉に向けられたのは言うまでも無く。
とはいえ、これで勇達の間に生まれていた蟠りも氷の様に溶けてなくなり。
車内では以前と同じ様に笑い合う姿が。
そんな彼等の様子は、これから死地へ向かうとは思えない程に―――嬉しそうだった。




